土灰釉の作り方と調合・水簸・焼成の完全ガイド

土灰釉の作り方を基礎から解説。土灰の精製(水簸)から長石との調合比率、焼成温度まで詳しく紹介します。天然灰と合成灰の違いや失敗しないコツとは?

土灰釉の作り方と調合・水簸・焼成を徹底解説

素手で灰を混ぜると、手の皮がボロボロに剥けて数日間使い物にならなくなります。


この記事でわかること
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土灰釉とは何か

草木の灰と長石を調合した、日本で最も歴史の深い基礎釉薬。透明感と素朴な風合いが特徴です。

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水簸(すいひ)のやり方と注意点

灰のアク抜きを2〜3週間かけて行う工程。pH10.5超えの強アルカリで、ゴム手袋なしは厳禁です。

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調合比と焼成温度のポイント

長石6:土灰4が基本の土灰釉。酸化・還元焼成で発色がガラリと変わります。テストピース作成が成功の鍵です。


土灰釉の作り方の基本:土灰釉とは何か、どんな釉薬か


土灰釉(どばいゆう)とは、草木の灰(土灰)と長石を主原料として調合した釉薬のことです。釉薬の種類の中でも特に歴史が長く、日本の陶磁器文化と深く結びついています。


草木の灰を使った灰釉の歴史は古く、中国では夏時代(紀元前2000年頃)にすでに灰釉が作られていたとされています。日本でも須恵器の時代から、窯の中で薪の灰が器に降り積もり自然に釉薬化する「自然釉」が確認されており、これが灰釉の原点といえます。長い歴史を持つ釉薬というわけですね。


土灰とは、ナラ・クヌギ・クリ・サクラなど、雑木を燃やした灰のことを指します。厳密に木の種類が限定されているわけではなく、複数の樹種が混ざった灰であっても釉薬原料として使用できます。灰の種類が異なれば風合いも異なる——これが土灰釉の最大の魅力です。


土灰釉の焼き上がりの特徴としては、以下のような点が挙げられます。


- 酸化焼成電気窯など):やや黄みがかった透明〜半透明
- 還元焼成ガス窯薪窯など):不透明感のある青緑色
- 灰の比率が多いほど、表面がボコボコとした独特の釉調になる
- 素朴で飽きのこない風合いがあり、長く使い込んでも味わいが増す


土灰と長石の比率が長石80:土灰20程度であれば、ほぼ透明釉として機能します。土灰の比率を上げていくにつれて、灰釉らしい個性が出てきます。これが基本です。


市販の釉薬と自作土灰釉の最大の違いは「再現性」です。市販釉は安定した発色が得やすい反面、個性が出にくいという側面もあります。自作する場合は、使う灰の産地・樹種・精製方法によって焼き上がりが変わり、二つとして同じ結果が得られません。それを楽しむのが土灰釉の醍醐味といえるでしょう。


灰釉の原料となる草木灰には、大きく分けてイス灰・土灰・藁灰の3種類があります。イス灰は鉄分が少なく白系に近い発色、土灰は透明〜半透明、藁灰はガラス質(シリカ)が多く白濁した発色が得られます。目的の色調に合わせて原料を選ぶことが重要です。


美濃焼伝統工芸品協同組合のサイトには、灰釉の種類と特徴が詳しくまとめられています。


美濃焼伝統工芸品協同組合「灰釉(haiyu)」


土灰釉の作り方の第一歩:土灰の精製と水簸(すいひ)の手順

土灰を釉薬原料として使えるようにするためには、まず「水簸(すいひ)」と呼ばれるアク抜き・精製の工程が欠かせません。この工程を省略したり不十分にしたりすると、釉薬として使用した際に深刻な問題が発生します。


水簸とは、灰を大量の水に浸して灰汁(アク=強アルカリ成分)を取り除く作業です。精製前の灰のpH値は10.5前後にも達し、肌に直接触れると化学的なやけどを引き起こします。実際に素手でかき混ぜた作陶家が手の皮がボロボロになったという体験談も複数報告されており、ゴム手袋の着用は絶対条件です。水簸後であっても灰汁が完全に消えるわけではなく、pH9程度のアルカリ性が残るため、素手での作業は続けて避けるべきです。


水簸の具体的な手順は以下の通りです。


1. ふるいがけ:採取した灰を50目程度のふるいにかけ、木の破片・炭・大きなゴミを除去する
2. 浸水・攪拌:大きなバケツに灰と大量の水を入れてよく混ぜる
3. 沈殿・上水除去:数時間〜半日かけて灰を沈殿させ、アクが溶け出した上澄みを捨てる
4. 繰り返し:これを2〜3週間、毎日繰り返す(工房の陶芸家では1ヶ月以上かける場合もある)
5. 天日干し:十分にアクが抜けたら石膏鉢または素焼き鉢に移して水分を抜き、晴天が続いても数日〜2週間かけて完全乾燥させる


アク抜きが不十分な場合に発生するトラブルは具体的で深刻です。釉薬の発色が悪くなる、粘土素地の強度が下がる、焼成時にブク(気泡)が生じる、釉剥がれや縮れが起きる、といった問題が複合的に発生します。1点でもトラブルが出ると作品が台無しになるため、水簸には十分な時間をかけることが原則です。


灰汁を完全に抜くことが理想ですが、実は陶芸家の間では「アクをどこで止めるかが肝」とも言われています。意外ですね。アクが釉薬の独特な表情——白濁、緋色(火色)、釉調の荒れ——をつくる成分にもなるため、あえてアクを少し残すことで個性豊かな発色を狙う技法もあります。このさじ加減は経験を積むことでしか会得できません。


灰の水簸について実践的な解説をしている陶芸ブログの記事です。


作陶日記「灰の水簸」つぐみ製陶所だより


土灰釉の作り方の核心:長石との調合比と基本レシピ

水簸・乾燥が完了した土灰を使って、いよいよ土灰釉を調合します。調合の基本は「長石と土灰の比率」にあります。この比率次第で、透明釉に近い仕上がりにも、灰釉らしい個性的な発色にもなります。


代表的な調合比率は次の通りです。


| レシピ名 | 長石 | 土灰 | 特徴 |
|---------|------|------|------|
| 透明釉ベース | 80% | 20% | 無色透明に近い、汎用性が高い |
| 土灰釉(基本) | 60% | 40% | 灰釉らしい個性が出始める |
| 灰釉(個性重視) | 50% | 50% | 表面にボコツキが出て釉調が荒れる |
| 伊羅保釉系 | 30〜40% | 60〜70% | 光沢が消え結晶釉調になる |


まず試すなら「長石60:土灰40」が基本です。


長石には複数の種類がありますが、入手しやすくクセが少ない「福島長石」が初心者にも扱いやすくおすすめです。長石は自然界の鉱物で、釉薬の中で「溶かす・繋ぐ・ガラス化する」という3つの役割を同時に担っています。釉薬全体の骨格を形成する重要な原料と考えてください。


土灰の中に含まれる酸化カルシウム(CaO)が全体の約30%を占めており、これが釉薬を溶かす強力な媒溶剤として機能します。長石が多い配合ほど釉薬が安定し、熔融温度も低くなる傾向があります。調合は安定性の指標になります。


調合の実際の手順は次の通りです。


1. 乾燥重量で計量:土灰・長石をそれぞれ乾燥させた状態で重量比に従って計量
2. 乳鉢ですり混ぜ:乳鉢(または乳棒)で両者を丁寧にすり合わせながら均一に混合
3. 加水して調整:水を少量ずつ加え、施釉しやすい濃度に調整(泥水状になる目安)
4. テストピース作成:本番の前に必ずテストピース(小さな試験用の皿)で焼成テストを行う


調合したばかりの釉薬は必ずテストピースで確認することが鉄則です。焼成環境(酸化か還元か、温度は何度か)によって発色が大きく変わるため、データを記録しながら積み上げていくことが安定した釉薬作りへの近道になります。


釉薬の調合方法について詳しい解説ページです。釉薬の化学的な役割も丁寧にまとめられています。


逍山窯「できるだけゼーゲル式を使わない釉薬の作り方」


土灰釉の作り方で知っておきたい:天然灰と合成灰の違いと選び方

土灰釉に使う灰には「天然灰」と「合成灰」の2種類があります。どちらを使うかで、仕上がりの釉調や発色に明確な違いが生まれます。自分の目指す作風に合わせて選ぶことが重要です。


天然灰は文字通り草木を実際に燃やした灰で、水簸・精製されて販売されています。含まれる微量の鉄分や多様な成分が独特な表情を生み出します。産地や樹種によって成分が異なるため、二度と同じ発色が得られない一期一会の側面があります。これは使えそうです。


合成灰は必要な成分(主にカルシウム)を人工的に精製した灰で、品質が均一で安定しています。釉薬の発色が鮮明になりやすく、釉薬の流れやガラス質も安定します。発色の良さが際立ちます。


上野焼の窯元・庚申窯の事例では、「天然土灰より合成土灰の方が釉薬の発色が良い」とした上で、天然土灰の方が融点が高く、白化粧土が熔けずにしっかり残るといった独自の個性も生まれると報告しています。つまり「どちらが優れているか」という話ではなく、表現したい釉調によって使い分けるのが正解です。


| 比較項目 | 天然灰 | 合成灰 |
|---------|--------|--------|
| 発色 | 独特な個性が出る | 均一・鮮明 |
| 安定性 | 低い(ロットによる変化あり) | 高い |
| 入手・加工の手間 | 水簸・精製が必要 | そのまま使える |
| 価格 | やや高め(産地・品質による) | 比較的安価で安定 |
| 向いている場面 | 個性的な表情を出したい | 安定した再現が欲しい |


初めて土灰釉に挑戦する場合は、市販の合成土灰から始めると失敗が少なく、データを積み上げやすいです。合成灰から始めるのが安全な選択肢です。一方、「どこかの山で採れた灰から自分の釉薬を作る」というアプローチは、天然灰ならではの体験であり、陶芸の醍醐味の一つといえます。


長石と天然灰の組み合わせによるテストピースを多数公開している専門ショップの情報ページです。


梶田絵具店「店長の部屋(釉薬)」


土灰釉の作り方の応用:酸化・還元焼成と色釉への展開

基本的な土灰釉の調合ができたら、次は焼成方法と色釉への展開です。土灰釉は焼成雰囲気(酸化か還元か)によって発色が大きく異なるため、自分の窯の環境を把握しておくことが重要です。


酸化焼成とは、燃料を完全燃焼させる(または電気窯を使う)焼き方です。窯内に酸素が十分に供給された状態で焼かれるため、釉薬中の金属が酸化状態を保ちます。土灰釉の場合、やや黄みがかった温かみのある色合いになります。


還元焼成は、燃料を不完全燃焼させて窯内の一酸化炭素濃度を4%以上に保つ焼き方です。窯内の酸素が不足した状態になるため、釉薬中の金属が還元され、土灰釉は青みがかった緑色〜不透明な青緑色に発色します。これが还元焼成の特徴です。


土灰釉をベースにした色釉のバリエーションは広く、陶芸の楽しさが一気に広がります。代表的な展開を紹介します。


- 🟤 飴釉:土灰釉ベース+酸化鉄を4〜7%追加(還元では黒天目に近づく)
- 🟢 織部釉:土灰釉ベース+炭酸銅を6%追加(酸化で深い緑色)
- 🔵 コバルト釉:土灰釉ベース+炭酸コバルトを0.5〜1%追加(鮮やかな青)
- ⚪ 乳濁系:土灰釉ベース+藁灰を加えて藁灰釉へ展開(白濁した仕上がり)


金属の添加量はベース釉薬100に対する「外割(そとわり)」で計算するのが一般的です。例えばベース100gに対して酸化鉄を6g追加する場合、これが外割6%となります。内割(全体に占める割合)との混同がミスの原因になるため注意が必要です。計算方法の確認が条件です。


焼成温度は一般的な陶器の本焼きで1180〜1280℃の範囲ですが、土灰釉の場合は1230〜1250℃が標準的です。釉薬の熔融温度は調合によっても変わるため、最初のテストは5℃〜10℃刻みで温度を変えて複数のテストピースを焼くと、最適な温度帯が把握しやすくなります。


電気窯を使うユーザー向けに、酸化焼成での発色データが蓄積されているショップのページです。


陶芸ショップ.コム「陶芸用語集:土灰(どばい・つちばい)」


土灰釉の作り方の独自視点:薪ストーブや家庭の灰でオリジナル土灰を作る方法

市販の土灰を使うだけが土灰釉の楽しみ方ではありません。自宅の薪ストーブや庭の焚き火から出た灰を使って、完全なオリジナル土灰を自作するという選択肢があります。これは上級者向けの発展的な楽しみ方ですが、陶芸に深くハマっている方にとっては特別な体験です。


市販の天然灰(土灰)は1kgあたり数百円〜1000円程度で販売されていますが、薪ストーブのある家庭では、一冬分の灰がほぼゼロコストで確保できます。薪のほとんどはナラが中心のことが多く、土灰釉に適した原料になります。ゴミとして捨てていた灰が釉薬の原料になるわけですね。


自家製土灰を作る際に押さえておきたいポイントは3つあります。


まず、木の種類が発色に影響するという点です。楢(ナラ)・クヌギは透明感の高い発色になりやすく、松(マツ)は鉄分を多く含むため緑〜黄みがかった発色になります。リンゴの木を使った陶芸家の事例では、赤い果実からは想像もできない「青白い発色」が得られたとの報告もあります。意外ですね。薪の樹種を記録しておくことが後の釉薬データとして活きてきます。


次に、完全乾燥した薪を使うことです。生木や湿気のある薪を燃やした灰は成分が不安定で、水分が多く残っているため精製が難しくなります。十分に乾燥した薪から得た灰の方が、成分が安定しやすいという傾向があります。


最後に、複数の産地・ロットの灰は別々に保管することです。灰の成分は産地・樹種・燃やし方によって微妙に異なります。混ぜてしまうと後でデータを取り直せなくなるため、採取日や木の種類を書いたラベルを貼り、別々のバケツや袋で管理することを推奨します。データ管理が条件です。


自家製灰の活用に向いた水簸の実践記事と、実際に薪ストーブの灰から土灰釉を作った体験レポートです。


note「薪ストーブの灰で釉薬つくってみたよ!」by みずき薬局


薪ストーブで使った灰を使って釉薬を自作した場合、同じ調合(長石7:土灰3)でも産地・樹種の違う3種類の土灰で焼き上がりに差が出たという実験報告もあります。北海道産と福島県磐梯町産の灰では透明度に明確な違いが確認されており、これが自家製土灰の面白さといえます。自分だけの釉薬になるということです。


なお、灰を大量に自家精製する場合に注意したい点として、水簸後の廃水(灰汁)の処分があります。pH10.5以上の強アルカリ廃水をそのまま排水溝に流すと、環境への影響が懸念されます。適切に希釈するか、中和してから廃棄するように心がけましょう。廃水の扱いに注意が必要です。




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