酸化カルシウム(CaO)は生石灰とも呼ばれ、水と反応すると水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)を生成します。この反応は化学式で「CaO + H₂O → Ca(OH)₂」と表され、陶器や食器製造における重要な化学プロセスの一つです。
参考)石灰水の反応のしくみ
反応時には大きな発熱を伴い、数百℃にまで温度が上昇することがあります。1リットルの水に約3.1キログラムの生石灰を投入すると、おおよそ3.54メガジュールのエネルギーが得られるほどの激しい反応です。この発熱反応のエンタルピー変化は−63.7 kJ/molで、反応が進行すると熱平衡の状態となり発熱は止まります。
参考)酸化カルシウム - Wikipedia
この反応式は、乾燥剤として機能する際も同様に起こります。酸化カルシウムが空気中の水蒸気を吸収することで、この化学反応が進行し、水分を化学的に吸着するため、吸湿後に水蒸気を再放出することはありません。
参考)乾燥剤ドライカル|株式会社鳥繁産業
酸化カルシウムは、石灰石(炭酸カルシウム:CaCO₃)を1000~2000℃の高温で焼成することで製造されます。この熱分解反応は「CaCO₃ → CaO + CO₂」という化学式で表され、二酸化炭素を放出しながら酸化カルシウムが生成されます。
参考)「生石灰」と「消石灰」とは? 化学式、別名、IUPAC名、C…
生石灰は強いアルカリ性物質で、水分を吸収する力が非常に強く、低湿度環境では長時間使用できる特性を持ちます。エネルギー含量が高く「生きの良い状態」であることから生石灰と呼ばれており、水と反応してエネルギーを失うと消石灰(水酸化カルシウム)になります。
参考)3分でわかる 生石灰と消石灰の違いと覚え方
この物質は食品用乾燥剤として広く利用されており、自重の30%もの吸湿能力を示し、外気の湿度に影響されず一定の性能を発揮します。吸湿すると粒状から粉末へと形状が変化し、袋が膨らむことで吸湿状態を確認できます。
参考)https://bbnet.shop/products/2640
生石灰に水を加えると発熱しながら消石灰(水酸化カルシウム)へと変化します。この反応は「CaO + H₂O → Ca(OH)₂」と表され、エネルギー放出を伴う激しい化学変化です。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/esa-15.html
水酸化カルシウムは化学式Ca(OH)₂で表され、白色粉末で水に少し溶ける性質があります。その水溶液は石灰水と呼ばれ、二酸化炭素と反応すると炭酸カルシウムが析出して白く濁ります。反応式は「Ca(OH)₂ + CO₂ → CaCO₃ + H₂O」となり、生成する炭酸カルシウムが水に難溶性であるため沈殿します。
参考)https://www1.kiui.jp/pc/bunkazai/kiyo10/04_os_pp45_48.pdf
さらに過剰に二酸化炭素を吹き込むと、炭酸カルシウムが炭酸水素カルシウムに変化して水に溶解し、濁りが消えます。この一連の反応サイクルは「CaCO₃ + CO₂ + H₂O ⇌ Ca²⁺ + 2HCO₃⁻」という可逆反応として表現されます。
参考)水酸化カルシウム - Wikipedia
陶器や磁器の製造において、酸化カルシウムは釉薬の重要な原料成分として機能します。釉薬とは陶磁器の表面に形成されるガラス質の層で、美しさだけでなく強度向上や防汚効果も持つ重要な要素です。
石灰(酸化カルシウム)は高温域で最も有効かつ安定した融剤としての働きを持ち、アルミナ成分と硅酸成分と反応してガラス化を促進します。石灰石であれば50%以上の酸化カルシウムを含み、土灰では約30~40%ものCaOが含まれます。
参考)釉薬原料|陶芸機材の総合メーカー【丸二陶料株式会社】
釉薬の三大要素の一つであるアルカリ性物質として、石灰は「釉薬を熔かす」役割を担います。量を増やせば釉薬の融点が下がり、釉薬の粘りが少なく流れやすくなる特性があります。透明釉の調合では、石灰が「強力に熔かす」役割を果たし、長石や陶石が「熔かす・素地に接着・ガラスになる」役割を担います。
参考)釉薬(ゆうやく)とは|種類や特徴を写真で解説
酸化カルシウムは強いアルカリ性物質であり、取り扱いには十分な注意が必要です。水と激しく反応して可燃物を発火させるのに十分な熱を発生させるため、急に大量に吸湿したり水に濡れると発熱して火傷の危険があります。
参考)乾燥剤に使用されるシリカゲルとは?毒性や使い方、活用方法を解…
生石灰が入っている袋に「禁水」と書かれているのは、この発熱によるやけどや火事を防ぐためです。眼の中で水分やたんぱく質と反応して生成した酸化カルシウムの塊は、水洗浄では除去が困難で医師による処置が必要となります。
参考)http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/72011731.pdf
一方で、この発熱特性を利用した応用製品も存在します。缶入の清酒や弁当を温めるために、水と生石灰を袋詰めし紐を引くと両者が混合して発熱する自己加熱缶が開発されています。火も使わず煙も出ないため、火を使えない状況での加温に適しています。
使用後は消石灰に変化し、乾燥剤として再利用することはできません。廃棄時には水分の出るゴミと一緒に捨てないよう注意が必要です。小さなお子様がいる家庭では、特に取り扱いに注意を払う必要があります。
酸化カルシウムは古くから建築材料の漆喰の主成分としても利用されてきました。漆喰は水酸化カルシウムを主成分とし、空気中の二酸化炭素と反応することで再び炭酸カルシウムに変化して硬化する性質を持ちます。
参考)カルシウムを含む物質とその利用 ~身の回りにあふれているカル…
この硬化プロセスは、陶器製造における釉薬の反応とは異なるメカニズムですが、カルシウム化合物の化学変化を利用している点で共通しています。水酸化カルシウムは除湿効果やアルカリ性による酸化防止効果があり、お城や蔵の壁材として長年使用されてきました。
参考)私達の食品添加物とは
興味深いことに、廃棄カキ殻を陶器釉薬として利用する研究も行われています。カキ殻は約800℃から熱分解が始まり、CO₂が放出されて酸化カルシウムへと変化します。この性質を活かして、廃棄物を有効活用した持続可能な陶器製造の可能性が探られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsmcwm/30/0/30_29/_pdf
また、フレスコ画技法から着想を得た「焼かない透明釉薬」の開発研究では、炭酸カルシウム粉末を加熱加圧法(250℃、250 MPa)で固化体生地を作製し、その表面に彩色する手法が検討されています。これは従来の高温焼成とは異なるアプローチで、エネルギー効率の良い陶磁器製造技術として注目されています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-16K05932/16K05932seika.pdf