離型剤は成形工程において型から製品を円滑に取り出すために使用する重要な薬剤です。製造業における成形作業では、素材が型に癒着すると正しい成形品にならず、生産性が著しく低下するため、離型剤の選定が製品品質を左右します。主な種類として、フッ素系、シリコーン系、ワックス系、界面活性剤系の4つがあり、それぞれ異なる特性を持っています。
参考)https://bbnet.shop/blogs/column/%E9%9B%A2%E5%9E%8B%E5%89%A4%E3%81%A8%E3%81%AF-%E3%81%9D%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%82%84%E7%94%A8%E9%80%94-%E5%89%A5%E9%9B%A2%E5%89%A4%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%A9%B3%E3%81%97%E3%81%8F%E8%A7%A3%E8%AA%AC
成形品の品質や作業効率を高めるには、材質や成形条件に応じた適切な離型剤を選ぶことが不可欠です。選択を誤ると、部品が固着したり、サイクルタイムが長くなったり、製造コストが増大する可能性があります。離型剤は形態も多様で、スプレータイプ、焼付型タイプ、水型、溶剤型、オイル型、ペースト型、エマルジョン型などがあり、使用シーンに応じた選定が求められます。
参考)離型剤とは?その種類や特徴をご紹介!使用用途も確認|岡畑興産…
フッ素系離型剤はフッ素の非粘着性を活用した高性能な離型剤です。薄く塗るだけで優れた離型効果を発揮するため、使用量が少なくて済み、型汚れも少ないことから連続成形が可能で、型の洗浄回数も低減できます。耐熱性と耐薬品性が高く、特に高温環境下での成形に適しており、連続離型性にも優れています。
参考)【離型剤とは】種類ごとの成分やメリット・使用例を紹介
一方で、他の離型剤と比べて潤滑性が少ない点がデメリットとして挙げられます。フッ素系離型剤は、塗装やメッキなど二次加工をする成形品の離型に使用できるシリコーンを含まないタイプも存在します。また、非粘着性の特徴から、塗装や接着が必要な場面では採用できないことにも注意が必要です。
参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E9%9B%A2%E5%9E%8B%E5%89%A4/
シリコーン系離型剤はシリコーンオイルを主成分とした離型剤で、優れた潤滑性と離型性、作業性を持っています。液状から水あめ状まで粘度の種類があり、金型離型や軽潤滑、ツヤ出しなどさまざまな使用用途に対応します。耐熱性が高く、樹脂やゴムの成形に適しており、プラスチックやゴム、陶磁器成型時の離型にも利用されています。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td06/x0216.html
シリコーン系離型剤は表面張力が小さいため、ぬれ性が良く、少量でも金型のすみずみまで均一に塗布できます。このため、複雑な成形品も容易に離型できる利点があります。ただし、成形物への転写が多い傾向にあり、塗装や接着不良が起こる可能性がある点、洗浄に手間がかかる点には注意が必要です。また、鉱物油やワックス系と比べて安全性も高く、食品包装容器の成型時にも使われます。
参考)https://www.silicone.jp/catalog/pdf/mold_release_j.pdf
ワックス系離型剤は溶剤やエマルジョンにワックス成分を含ませたもので、金属加工やコンクリート成形で使用されます。塗りやすく安価な離型剤で、オイル状またはワックス状なので広範囲に簡単に塗布できる特徴があります。汎用性が高く、さまざまな材質の成形に適用可能です。
ただし、厚く塗布する必要があるので使用量が多くなる点、金型汚れが発生する点がデメリットとして挙げられます。また、溶剤型離型剤を使用する際は、プラスチックやゴムに直接触れないようにする配慮が必要です。ストレスクラックを生じやすいプラスチックやゴムについては、事前にサンプルでテストを行うことが推奨されています。
界面活性剤系離型剤は主にシリコーンゴムやタイヤの内側に使われる離型剤です。安価なのがメリットですが、離型性は良くないため、簡単に外しやすい用途の場合に使用されています。また、水性離型剤は環境にやさしく、揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑えられるため、食品加工や医療機器の製造にも利用されています。
エマルジョン型離型剤は使用前に必ず攪拌またはよく振ってから使用する必要があります。また、低温で凍結することがあるので、特に寒冷地での保管については十分に注意が必要です。外観が牛乳に似ているため、誤って飲まないよう食品を入れた家庭用冷蔵庫には入れないよう注意喚起されています。
陶器や食器の製造においても離型剤は重要な役割を果たしています。石膏型を用いた陶磁器製造では、カリ石鹸が離型剤として広く使用されており、石膏型の原型より使用型を作るときに用いられます。カリ石鹸は水で薄めて刷毛塗りを行い、一般的には1kgに対して水1Lの割合で希釈します。
参考)カリ石けん 離型剤 陶芸用
youtube
シリコンスプレーも石膏型を作るときの剥離剤として使用されています。陶磁器製造では、予め離型剤を多量に型に塗布しておくことで成形体が型表面に強固に固着するのを防止し、剥離欠陥を生じさせないようにしています。プラスチックやゴム、陶磁器成型時の離型にシリコーン系離型剤が使われており、-40~200℃の耐熱・耐寒性があり、温度粘度変化が少ない特性が活かされています。
参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E9%9B%A2%20%E5%9E%8B%20%E5%89%A4%20%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%BC/
離型剤を選択する際には、表面のタイプ、成形プロセス、金型や成形品の種類、生産能力、環境や安全への配慮など、複数の要素を慎重に考慮する必要があります。表面が滑らかな金型とテクスチャーや多孔質テクスチャーを特徴とする金型では、異なる離型剤が必要になる場合があります。また、射出成形プロセスも重要な要因で、高温や高圧の場合には、よりヘビーデューティな離型剤が必要になることがあります。
参考)シリコーンゴム用離型剤の正しい選び方。
成形品の形状や素材、ゲート位置、抜き勾配、成形品の高さ、スライドコアや傾斜ピンの配置、成形品の肉厚などを十分に検討し、離型不良がおきそうな場所を事前に把握することが重要です。外部塗布タイプの離型剤は、安易に「量で解決」しようとすると、塗布ムラによる白化や転写不良、金型汚染など、別の問題を引き起こします。製品の材質や形状に適合した種類を選定することが不可欠です。
参考)https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/plastic_mold_design/pl07/c0895.html
高温成形プロセス用に設計された離型剤には、低温用とは異なる特性が要求されます。例えば、温度が60°Fを超える場合は、離型剤に耐熱性が求められます。一般的に離型剤の多くは有機化合物であり、300℃以上では分解してしまうことが多いため、素材が金属であれば離型剤を使うこと自体が難しくなります。
一方、素材が樹脂であれば、オイルやワックス系、シリコーン系、フッ素系の離型剤があり、成形条件に合わせて使い分けられます。複雑な金型では、最適に機能させるために、優れた被覆性と潤滑性を持つ離型剤が必要になる場合があります。処理液の濃度は使用条件により異なるため、標準濃度を基準として、最適な濃度を決定する必要があります。
離型剤の塗布方法は製品品質に直結するため、適切な手順を守ることが重要です。スプレー容器と金型の距離は約20~30cmが適切で、近すぎると過剰に塗布され、遠すぎると膜が薄くなります。スプレーガンは金型に対して垂直に近い角度で均等に動かし、一定の速度で動かすことで均一に離型剤が塗布されます。
参考)ゴム製品の品質向上を目指す!離型剤の塗布方法と不良原因、対策…
過剰に塗布せず、薄く何度もスプレーすることで、均等な膜厚を実現することができます。離型剤は塗布後に十分に乾燥させることが必要で、乾燥不良を防ぐため、温度や湿度が管理された環境で乾燥を行うようにします。乾燥時間は使用する離型剤により異なるため、製造元の推奨に従うことが大切です。完全に塗布されていることが最も重要な要件で、そのため複数工程に分けて塗布されます。
参考)離型剤の塗布の順序は?塗布で重要なことは?
離型剤による不良を防ぐためには、適量を使用し、均等に塗布することが重要です。過剰塗布を避けることで型汚れを防ぎ、スプレーガンの距離や角度、動きに注意して離型剤を均一に塗布します。金型表面に残った離型剤や汚れを定期的に除去し、金型の状態が良好でないと製品に不良が発生します。
型合わせの確認も重要で、金型が適切に合わせられているか、摩耗や損傷がないかを確認する必要があります。離型剤が完全に乾燥したことを確認してから成形を開始し、乾燥時間が足りないと型に残留物が残り、不良を引き起こします。温度や湿度が適切な環境で乾燥を行うことで、離型剤の膜厚を均等に保つことができます。非粘着性に優れる表面処理を金型に実施することで、成形トラブルを改善でき、離型剤の使用低減や金型のメンテナンス頻度を減らすことも可能です。
参考)離型不良とは?改善方法や離型剤の使用を軽減する方法まで
食品加工における離型剤は、安全性が最も重要な選定基準となります。食品加工向けの離型剤としての安全性評価は、製品の信頼性を確保するために不可欠で、特に食品衛生法に基づいた試験や、国際基準に準拠した試験が求められます。パン、おにぎり、回転寿司、各種お菓子類など、多くの食品製造において離型剤が使用されています。
参考)食品加工向け非シリコーン系離型剤の開発と安全性評価
非シリコーン系離型剤の開発も進められており、食品加工向けに特化した製品も登場しています。水性離型剤は環境にやさしく、揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑えられるため、食品加工や医療機器の製造に適しています。製品は必ず密栓して冷暗所(好ましくは1~25℃)に保管し、適切な管理を行うことが求められます。
離型剤は自動車産業、金型製造、ウレタン製造など、さまざまな業界で活用されています。自動車産業では、インテリア部品の成形やエンジン部品の製造、鋳造部品の離型に使用されています。金型製造では、射出成形時の離型やゴム成形時の離型に利用され、プラスチック製品やシール材、パッキンなどの生産に貢献します。
ウレタン製造では、クッション材の発泡成形やスポンジ、断熱材の加工に使われています。最近では、グラブ浚渫工事においても土砂の付着を抑える離型剤が使用され始めており、工事の効率向上や河川・海の汚濁防止に貢献しています。また、樹脂の場合は「滑剤」を使用し、樹脂の流動性を上げることで離型性を向上させる方法もあり、離型剤は型に使用しますが、滑剤は樹脂に使用するため樹脂の性能に影響を与える場合があります。