返しがある釣り針を使うと、管理釣り場で罰則対象になり即日退場させられることがあります。
釣り針には、針先からわずかに後ろへ向かって突き出た小さな突起があります。これを「返し」と呼び、英語では「バーブ(Barb)」、日本では「カエシ」「イケ」「モドリ」とも呼ばれます。大きさはわずか1〜2mm程度ですが、この小さな構造が釣りの成否を大きく左右します。
返しの最大の目的は「魚が針から外れにくくする」ことです。魚が針に掛かった後、暴れたり首を振ったり水面でジャンプしたりしても、返しが組織に引っかかることで針が抜けにくくなります。特に青物やGT(ジャイアントトレバリー)のような引きの強い大型魚では、返しがあるかないかでキャッチ率が大きく変わると言われています。
もう一つの重要な役割が「エサの固定」です。遠投釣りや船釣りなど、仕掛けを勢いよく投げる場面では、遠心力や水の抵抗でエサがずれやすくなります。返しがあることでエサが針にしっかり留まり、実釣でのストレスを大幅に減らせます。
つまり、返しには「バラシ防止」と「エサ保持」という2つの機能があります。
この返しの構造は実はかなり古くからあります。日本では縄文時代の遺跡から出土する骨製や角製の釣り針にも、すでに返しに相当する突起が確認されています。興味深いのは、縄文時代の釣り針の返しは「外側」についていたのに対し、現代の釣り針の返しはほとんどが「内側」についている点です。陶器や工芸品の形状に歴史的変遷があるように、釣り針の形状も数千年かけて進化を遂げてきました。
茅ヶ崎市博物館:縄文時代の釣り針と返しの歴史的変遷について(外側返しの記述あり)
現代の釣り針は、返しの有無と大きさによって大きく3種類に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、釣りのスタイルや釣り場のルールに合った針を選べるようになります。
① 返しあり(通常の針)
最もスタンダードなタイプです。針先の後ろにしっかりとした返しがあり、魚が掛かった後のバラシを大幅に抑えます。エサ釣りや遠投釣り、大型魚を狙う釣りでは今もこのタイプが主流です。デメリットとして、魚の口へのダメージが大きく、万が一人の皮膚に刺さった場合は自分では抜けないため病院行きになります。
② バーブレスフック(返しなし)
返しを完全になくしたタイプです。「バーブレス(Barb-less)」と呼ばれ、エリアトラウト(管理釣り場のトラウト釣り)ではほぼ100%このタイプが義務付けられています。返しがない分、針先がスムーズに貫通しやすく、フッキング(針掛かり)が決まりやすいという意外なメリットもあります。魚へのダメージが少ない点や、誤って皮膚に刺さってもすぐ抜けるという安全面でも優れています。これは使えそうです。
③ 半スレ(ハンスレ)
通常の返しより極めて小さい返しを持つタイプです。貫通力と魚へのダメージ軽減のバランスを取りたい場合に選ばれます。渓流釣りや繊細な釣りを楽しむ方に人気で、特にアマゴ・ヤマメなど口の柔らかい渓流魚に向いています。「半スレ」が条件です。
| タイプ | バラシにくさ | 貫通力 | 魚へのダメージ | 管理釣り場使用 |
|---|---|---|---|---|
| 返しあり | ◎ | △ | 大きい | × 禁止が多い |
| 半スレ | ○ | ○ | 中程度 | △ 要確認 |
| バーブレス | △ | ◎ | 小さい | ◎ |
釣太郎ブログ:返し(バーブ)の役割・バーブレスとの使い分けについて詳しく解説
返しつき釣り針は、管理釣り場(特にエリアトラウト)では原則として使用が禁止されています。知らずに持ち込むと即日退場・料金返還なしというルールを定めているフィールドも少なくありません。これは重要なポイントです。
なぜ禁止されているのかには、主に3つの理由があります。まず「魚へのダメージ軽減」です。エリアトラウトはキャッチ&リリースが基本のため、何度もリリースされる魚の口の傷を最小限にするため、返しなし針が求められます。あるデータによれば、返しつき針を使ったリリース後の魚の死亡率は、バーブレス使用時と比べて2.5倍にもなるという報告もあります。
次に「安全面」です。子どもや初心者が多い管理釣り場では、誤って返しつき針が服や皮膚に刺さる事故が起きやすく、返しがあると自力での除去が非常に困難です。最後に「手返し効率」の向上もあります。バーブレスはリリーサー(針外し)との相性が良く、次のキャストまでのテンポが上がります。
返しつき針を持ってきてしまった場合の対処法は、ラジオペンチで返しを根元から潰すことです。ポイントは「一気に力をかけず、じわーっとゆっくり潰す」こと。一気に力を入れると針が折れやすくなります。また、ペンチはギザギザのない「スムースジョープライヤー」タイプが針を傷つけにくくおすすめです。
釣り場に行く前に必ずレギュレーション(ルール)を確認しておく、これが原則です。
釣りキャンプ最適化ラボ:エリアトラウトでバーブレスが義務の理由を初心者向けに整理
釣り針の返しが皮膚に刺さってしまった場合、自力で引き抜こうとするのは厳禁です。返しがある針を無理に引き抜くと、皮膚や組織が大きく裂けてしまい、傷跡が残るリスクが高まります。痛みがなくても、です。
病院での処置の流れはおおよそ次の通りです。まず局所麻酔で痛みを取り、メスで返しが引っかからないよう切開し、そのまま針を取り出して消毒して終了です。処置時間は短く、5〜10分程度で終わるケースが多いです。
費用については、平日の診療時間内であれば3,000円前後が目安です。一方、休日・夜間など時間外の受診では時間外加算が加わり、5,000〜8,000円程度になることがあります。実際に時間外で病院を受診した釣り人のレポートでは「時間外料金含めて8,000円だった」という体験が報告されています。
何科を受診すればよいかというと、外科または皮膚科が適切です。迷ったときは「♯7119(救急安心センター)」に電話すると、症状に応じた受診先を案内してもらえます。
痛いですね。ただ、自己処置で化膿してしまうと治療期間が延びるため、おとなしく病院に行くのが賢明です。処置後は48時間ほど傷口を清潔に保ち、医師の指示に従って消毒を続けましょう。
| 受診タイミング | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 平日・診療時間内 | 約3,000円 | 外科・皮膚科推奨 |
| 休日・夜間(時間外) | 約5,000〜8,000円 | 時間外加算あり |
| 自己処置(推奨しない) | 0円 → 化膿で追加費用も | 傷跡・感染リスク大 |
釣り馬:釣り針が刺さったときの体験レポートと病院費用(時間外8,000円の実例)
陶器や工芸品に興味を持つ方の多くは、ものの「かたち」や「機能美」に敏感です。実は、釣り針の「返し」はその視点からも非常に興味深い構造を持っています。
釣り針全体の形状は、チモト(糸を結ぶ部分)・軸・腰曲がり・先曲がり・カエシ・針先という複数のパーツが1本の金属線から作られており、どこか陶器のフォルムに通じる有機的な曲線美があります。その中で「返し」は1〜2mmほどの極めて小さな突起でありながら、針全体の性能を根本から変える重要な要素です。陶器の釉薬の「ちょっとした厚み」が質感を左右するのと構造的に似ています。
返しの選び方を機能美の観点でまとめると、次のようになります。「エサ釣り・大型魚・海釣り」では返しあり針のがっしりとしたバランスが安心感をもたらします。「渓流・繊細な釣り・リリース重視」では半スレの控えめな突起が調和のとれた選択です。「管理釣り場・フライフィッシング・安全重視」ではバーブレスのシンプルな直線美が本領を発揮します。
一点、陶器作品に釣り針モチーフを取り入れている作家も国内に存在します。返しの部分がS字カーブと逆向き突起を組み合わせた独特のシルエットになるため、装飾的な意匠として成立しやすい形状です。工芸的な目で釣り針を眺めてみると、道具の先にある美意識が見えてきます。
釣り針を購入する際は、がまかつ・オーナーばり・ハヤブサなどの国内メーカーが品質の安定した選択肢です。各メーカーは針先の硬さ・鋭さ・返しのサイズを細かく設計しており、同じ号数でもメーカーによって刺さり感が異なります。まずは目的の釣りスタイルを決めてから、タイプ(返しあり/半スレ/バーブレス)→号数→メーカーの順で絞り込むのが確実です。
Futtsu.blog:釣り針の各部名称・種類・加工の基礎知識を図解入りで解説