目止めをきちんとしても、半年~1年で効果が切れて臭いが再び染み込みます。
陶器における「扱い」という言葉は、一般的な食器の洗い方や保管方法よりも、ずっと深い意味を持っています。陶器は磁器とは根本的に素材の構造が異なるため、それを理解することが正しい扱いの第一歩です。
陶器の原料は「陶土」と呼ばれる粘土質の土です。この土を約1000〜1300℃で焼き上げると、内部に無数の細かな気孔(気泡・小穴)が残ります。この気孔こそが、陶器の扱いを複雑にする要因です。磁器が「コツ」と鈍い音を立てるのに対し、陶器は叩くと「コン」とやわらかい音がします。これは内部の密度が低く、気泡が多い証拠です。
気孔があるということは、陶器は常に水分・油分・においを吸い続けているということです。目には見えませんが、1枚の陶器のお皿には数百〜数千の小さな穴が空いており、そこに醤油・カレー・コーヒーが染み込んでいきます。つまり、「扱い」の意味とは、この吸水性をコントロールすることに他なりません。
吸水性が重要です。
また、陶器には「貫入(かんにゅう)」という特有の現象があります。これは窯出し後に冷却される際、陶器本体と上からかけた釉薬の収縮率の差によって、釉薬の層に細かなヒビ模様が入ることです。「ひび割れ?」と不安になる方もいますが、これは破損ではなく、陶器が持つ景色のひとつです。ただし、貫入部分はとくに汚れや色素が染み込みやすいため、扱いに一層の注意が必要です。
磁器との違いを簡単な表にまとめると、次のようになります。
| 項目 | 陶器 | 磁器 |
|------|------|------|
| 原料 | 陶土(粘土) | 陶石(石) |
| 焼成温度 | 約1000〜1300℃ | 約1300〜1400℃ |
| 吸水性 | 高い(要注意) | ほぼなし |
| 音 | 「コン」と鈍い音 | 「キン」と高い音 |
| 目止め | 基本的に必要 | 不要 |
結論は「吸水性の理解が扱いの第一歩」です。
陶器の吸水性と貫入についての詳細な解説(ITOGA POTTERY)
目止めとは何か、その言葉の意味から確認しましょう。「目」とは陶器の表面に無数に存在する気孔(小穴)のことで、「目止め」はその穴を塞ぐ(止める)処理のことです。この作業こそが、陶器の扱いにおいてもっとも重要な最初のひと手間です。
目止めをせずに陶器をそのまま使い始めると、最初の使用から料理の油分・においの強い食材の成分・水道水のカルキなどが気孔に侵入します。一度染み込んだ汚れは内部に定着し、通常の洗い方では取り除けなくなります。数千円で購入した陶器のお皿が、わずか数回の使用で臭いのする器になってしまうのは、多くの場合この目止めをしていないことが原因です。
目止めの手順は以下のとおりです。
- 🪣 準備するもの:器がすっぽり入る大きさの鍋・お米のとぎ汁(なければ水1リットルに片栗粉大さじ5杯程度を溶かしたもの)
- ① 冷たい状態の鍋にとぎ汁と器を一緒に入れる(熱湯に入れると熱ショックで割れる危険あり)
- ② 弱火でゆっくり温度を上げながら、15〜20分ほど加熱する
- ③ 火を止め、鍋ごと自然に冷ます(急冷もNG)
- ④ 器を取り出し、ぬめりをよく洗い流す
- ⑤ 完全に乾燥させてから収納する(この乾燥が不十分だとカビの原因に)
ポイントは「急加熱・急冷を避けること」です。
目止めの効果は永続的ではありません。使い続けるうちに徐々に効果が薄れるため、中川政七商店をはじめ複数の器専門店が「半年〜1年に1度の定期的な目止め」を推奨しています。年に1回、お米を研ぐついでに実施する習慣をつけると管理しやすくなります。
また、目止めが「すべての陶器に必要か」という点も確認が必要です。土の種類・釉薬の種類・焼成温度によっては、目止め不要の陶器も存在します。陶器を購入した際は、まず添付の取扱説明書を確認する姿勢が大切です。
これが基本です。
陶器を日常使いする中で多くの方が迷うのが、電子レンジと食洗機の使用可否です。「なんとなくNG」と思い込んでいる方も多いですが、実際にはもう少し細かい判断基準があります。ここを正確に知っておくことで、誤った扱いによる器の破損を防ぐことができます。
電子レンジの扱い方について
基本的に陶器は急激な温度変化に弱い素材です。陶器が水分を吸い込んだ状態で電子レンジにかけると、内部の水分が急激に膨張し、器が割れるリスクがあります。そのため、「レンジ対応」と明記されていない陶器への電子レンジ使用は推奨されません。
ただし、磁器・半磁器・耐熱陶器の多くは電子レンジ対応です。また、金・銀・プラチナなどの金属系の装飾が施された器は、陶器・磁器を問わず電子レンジで火花が出る可能性があるため使用NGです。これは共通のルールです。
食洗機の扱い方について
磁器や半磁器は基本的に食洗機使用可能ですが、陶器は原則NGとされています。理由は2点あります。第1に、食洗機の高温・高圧の水流が陶器に急激な温度変化をもたらし、ひび割れのリスクがあること。第2に、陶器の高い吸水性によって、食洗機用洗剤の成分が器の内部に染み込み、完全に洗い流せなくなる恐れがあることです。
食洗機の使用判断チェックポイントをまとめると次のようになります。
- 🔴 NG:吸水性の高い陶器全般、貫入のある器、金彩・銀彩の装飾がある器、上絵付けの器
- 🟡 要確認:耐熱陶器(商品の表記による)
- 🟢 基本OK:磁器、半磁器(ただし薄手・尖った形は衝撃に注意)
食洗機での使用判断は1つで終わります。購入時の商品表記を確認し、「食洗機対応」の記載がない陶器は手洗い一択と覚えておきましょう。
日々の使用において、陶器には「使う前」と「使った後」にそれぞれひと手間が必要です。この習慣を知っているかどうかで、同じ器を使っても数年後の状態が大きく変わってきます。
使う前のひと手間
吸水性の高い陶器は、使用前に水分を含ませることで料理の汚れや臭いが染み込みにくくなります。具体的には、料理を盛り付ける直前に器をさっと水にくぐらせるか、濡れた布巾で表面を軽く拭くだけで十分です。これは名器の使い方として、複数の専門家や窯元が共通して推奨している方法です。
温かい料理を盛るなら事前にぬるま湯にくぐらせ、冷たい料理なら冷水に通すとより効果的です。これだけで料理の温度が安定し、油や調味料の染み込みも軽減されます。
使った後の扱い方
使用後はなるべく早く中性洗剤と柔らかいスポンジで洗うことが基本です。硬いスポンジや金タワシ・クレンザーの使用は表面に傷をつけ、そこから汚れが入り込みやすくなるだけでなく、電子レンジ使用時の破損リスクも高まるため絶対に避けましょう。
長時間のつけ置き洗いも要注意です。陶器の吸水性によって、汚れた水が器の内部に染み込んでカビ・シミの原因になります。倉敷意匠や4th-marketなど複数の専門店が「長時間のつけ置きはNG」と明示しています。
いちばん大切なのは乾燥です。
洗った後の乾燥は、陶器の扱いで最も見落とされがちな工程です。表面が乾いたように見えても、吸水性の高い陶器は内部にまだ水分を含んでいます。完全に乾燥させないうちに収納すると、湿気が溜まってカビが生えます。とくに無釉の高台(器の底の台座部分)は水分が残りやすいため、高台を上向きにして風通しの良い場所で十分に乾かすことが重要です。乾いたタオルの上にお箸などを置き、その上に器を斜めに立てかけると全体に空気が当たり、乾燥が早まります。
乾燥が条件です。
正しい扱いをしていても、長く使っていると臭い・シミ・カビが発生することはあります。しかし、多くの方が「もう使えない」と諦めてしまいますが、実は適切な対処法を知っていれば、ほとんどのケースは改善できます。
臭いが染み込んでしまったとき
水1リットルに重曹を大さじ4杯ほど溶かし、陶器を半日〜1日浸けておきます。その後しっかり洗い流し、完全乾燥させる方法が効果的です。効果が不十分なときは、重曹に少量のお酢を加えると発泡作用で臭い成分が浮き上がりやすくなります。また、水にレモン汁を絞り入れて15〜20分煮沸する方法も、酸の力で臭いをリセットできます。これは使えそうです。
シミができてしまったとき
まず天日干しを試みてください。「水が染み込んでシミに見えていることがある」と複数の窯元が指摘しており、十分に乾燥させると解消するケースがあります。茶渋やコーヒーのシミには、大さじ1杯の塩をスポンジに乗せて水を含ませて磨く方法が効果的です。それでも取れない頑固なシミには、食器用漂白剤を使用します。ただし陶器は吸水性が高いため、長時間浸けすぎは禁物で、数十分以内を目安に取り出し、十分なすすぎが必要です。
カビが生えてしまったとき
陶器にカビが生える原因の8割以上は「乾燥不足」です。まずよく洗って目に見えるカビを取り除き、鍋でたっぷりの水に酢(大さじ2〜3杯)を加えて10分ほど煮沸殺菌します。その後天日干しで完全乾燥させてください。根深く黒くなったカビは完全には取れない場合もありますが、煮沸によって菌の繁殖を防ぐことは可能です。食器用漂白剤も有効ですが、陶器の場合は薬剤が内部に染み込むため、すすぎは特に丁寧に行いましょう。
対処法の優先順位。
| トラブル | 軽度の対処 | 中程度の対処 | 最終手段 |
|----------|------------|--------------|----------|
| 臭い | レモン煮沸 | 重曹浸け | 食器用漂白剤 |
| シミ | 天日干し | 塩で磨く | 食器用漂白剤 |
| カビ | 煮沸殺菌+天日干し | 漂白剤短時間 | 買い替えを検討 |
陶器の扱いに関して、多くの解説サイトではトラブル防止ばかりが強調されがちです。しかし本来、陶器の扱いには「器を育てる」という、磁器にはない独自の楽しみがあります。この視点を知っているかどうかで、陶器との付き合い方が大きく変わってきます。
陶器は使えば使うほど変化します。釉薬の表情が落ち着き、使い込んだ艶が出てきます。貫入に茶の色素がほんのりと入って、白い器が少しずつ「自分の色」になっていく。この変化を「シミ」と見るか「景色」と見るかで、陶器への接し方が180度変わってきます。意外ですね。
これが陶器の扱いにおける最も重要な「意味」の再解釈です。正しい扱いの目的は「完璧な状態を保つこと」ではなく、「自分の使い方に合った形で器を育てていくこと」にあります。
具体的に育てる扱いとして実践できることを挙げると、毎回使う前に5分ほど水に浸してから使う習慣は、汚れを防ぎながら器を徐々に均一に育てる効果があります。また、陶器の産地ごとの土の性質を知って選ぶことも、扱い方の理解を深めます。例えば波佐見焼のように石物に近い磁器陶器は扱いが比較的容易で、信楽焼のような土物は吸水性が高く、より丁寧な扱いが求められます。
割れや欠けが生じた際も、「金継ぎ(きんつぎ)」という修復技法を使うことで、欠けた部分を漆でつなぎ金や銀を蒔いて仕上げることができます。金継ぎを施した器は、欠ける前よりも美しいと称えられることもあります。自分で教室に通って習う方も増えており、費用は教室によって1回あたり2,000〜5,000円程度が目安です。
いい考え方ですね。
陶器の扱いの意味を深く理解するほど、日常の器との時間が豊かになります。洗うとき・水にくぐらせるとき・乾かすとき。その一つひとつが、器との関係を積み重ねる時間です。陶器は消耗品ではなく、正しく扱えば一生ものの道具になります。使い捨ての食器文化が広まる中で、一枚の器を丁寧に扱い育てていくことには、経済的なメリットだけでなく、暮らしの質そのものを高める意味があります。
器の育て方・長期保管を含む総合的な扱い方ガイド(cotogoto)