炭酸銅 酸化銅 違いと陶芸釉薬の発色

炭酸銅と酸化銅は化学組成が異なる銅化合物です。陶芸の釉薬として使う際、どちらを選ぶべきか、発色はどう変わるのか、気になりませんか?

炭酸銅と酸化銅の違い

炭酸銅と酸化銅の主な違い
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化学組成の差異

炭酸銅は塩基性炭酸銅(CuCO₃・Cu(OH)₂)、酸化銅には酸化銅(I)と酸化銅(II)の2種類がある

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陶芸での発色特性

炭酸銅は還元焼成で揮発しやすく、酸化銅は酸化焼成で緑色、還元焼成で赤色に発色

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熱分解温度

炭酸銅は200~300℃で分解して酸化銅(II)に変化する

炭酸銅の化学的特徴と性質

炭酸銅は正式には塩基性炭酸銅と呼ばれ、化学式CuCO₃・Cu(OH)₂で表される緑色の化合物です。自然界では孔雀石(マラカイト)として産出し、銅の錆である緑青の主成分の一つとして知られています。水や一般的な溶媒には溶けにくく、水性酸にわずかに溶解する性質があります。
参考)塩基性炭酸銅 - Wikipedia

 

塩基性炭酸銅は200℃以上に加熱すると熱分解が始まり、200~300℃の温度範囲で黒色の酸化銅(II)に変化します。この熱分解反応では、水と二酸化炭素が放出され、最終的にCuOという酸化銅(II)が生成されます。熱分解によって生成した酸化銅(II)の結晶子サイズは、加熱温度によって制御できることが研究で明らかになっています。
参考)http://www.showa-chem.com/MSDS/03406350.pdf

 

陶芸釉薬の原料として使用する場合、炭酸銅は劇物に指定されているため、取り扱いに注意が必要です。飲み込むと有害で、水生生物に対しても毒性があるとされています。保管時は涼しく乾燥した換気の良い場所で、火気や熱源から離して保管する必要があります。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/891c74a7d6bc2b53b6a6e09ad1cbdb0b

 

酸化銅の種類と用途の違い

酸化銅には価数の異なる2種類が存在し、それぞれ酸化銅(I)(Cu₂O)と酸化銅(II)(CuO)と呼ばれます。酸化銅(I)は赤色の粉末で、別名を亜酸化銅とも呼び、天然には赤銅鉱として産出します。一方、酸化銅(II)は黒色の粉末で、銅を空気中で加熱すると生成され、天然には黒銅鉱として産出します。
参考)織部釉の銅はどう(銅)しよう? : クラフト 蛙来川

 

酸化銅(I)の用途は、整流器、赤色顔料、殺菌剤や農薬の原料、船底用・海水用塗料、漁網防汚塗料、ガラス用赤色顔料など多岐にわたります。特に船底塗料としての用途では、従来使われていた毒性の強い有機すず化合物に代わって、環境に優しい酸化銅(I)主体の塗料が使用されるようになっています。
参考)酸化銅 メーカー17社 注目ランキング【2025年】

 

酸化銅(II)は強力な酸化剤として有機元素分析やガス分析用試薬、触媒、顔料として利用されます。窯業の緑青色顔料、塗料、ガラス用緑青色着色剤としても使われ、特に鮮明で着色力の強い青顔料のフタロシアニンブルーの原料として有名です。陶芸では一般的に黒色の酸化銅(II)が着色剤として使用されています。
参考)織部釉

 

陶芸釉薬における炭酸銅と酸化銅の使い分け

陶芸の釉薬として炭酸銅と酸化銅を使用する際、最も重要な違いは焼成雰囲気による発色の変化です。銅を含む釉薬は、酸化焼成では酸化銅(II)(CuO)の緑色に発色し、還元焼成では酸化銅(I)(Cu₂O)となって美しい赤色に発色します。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/c698a8469d65f230dee10891c44d0e32

 

織部釉として知られる緑色の釉薬は、灰釉をベースに酸化銅を3~5%程度加え、酸化焼成で仕上げます。代表的な調合例として、土灰50:平津長石50に酸化銅5%を外割で加える方法があります。炭酸銅を使う場合は8%程度の添加が一般的ですが、釉薬が流れやすくなる特性があります。
参考)きれいな緑色の釉薬をつくる銅・陶芸でよく使う金属 | 陶芸家…

 

還元焼成で赤色に発色させる辰砂釉では、基礎釉に酸化銅を0.5~2%程度添加します。銅は高温で揮発しやすい性質があるため、実際には2%程度の添加が推奨されています。炭酸銅と酸化銅のどちらを使っても基本的な発色は同じですが、陶芸家の中には炭酸銅ではなく酸化銅を選ぶ方もいます。
参考)https://ameblo.jp/gtr9885/entry-12070761397.html

 

項目 炭酸銅 酸化銅
緑色 酸化銅(I):赤色、酸化銅(II):黒色
化学式 CuCO₃・Cu(OH)₂ Cu₂O / CuO
分解温度 200~300℃ -
織部釉添加量 8%程度 3~5%
安全性 劇物指定 有毒性あり

炭酸銅から酸化銅への変化プロセス

炭酸銅が酸化銅に変化する熱分解プロセスは、陶芸の焼成過程で重要な役割を果たします。塩基性炭酸銅を昇温していくと、室温から200℃までは孔雀石(マラカイト)の結晶構造が維持されますが、200℃を超えると熱分解が始まります。
参考)https://tc-kyoto.or.jp/app/uploads/2023/08/2018_01.pdf

 

高温X線回折分析による研究では、300℃以上に昇温すると塩基性炭酸銅のピークが消失し、酸化銅(II)のピークが出現することが確認されています。この熱分解反応は、CuCO₃・Cu(OH)₂ → 2CuO + 2H₂O + CO₂という化学式で表され、水と二酸化炭素が放出されて黒色の酸化銅(II)が生成します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/9/66_432/_pdf

 

興味深いことに、熱分解温度を制御することで、生成される酸化銅の結晶子サイズを調整できます。300℃で生成した酸化銅の結晶子サイズは約50Åですが、1000℃まで昇温すると約250Åまで増大します。この特性を利用すれば、陶芸作品の発色や質感をより細かくコントロールすることが可能になります。
塩基性炭酸銅を酸化銅に変換する工業的プロセスでは、200~300℃で大気焼成することで、高純度の酸化銅を製造できます。この方法は、陶芸釉薬の原料製造においても応用されています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP5266477B2/ja

 

炭酸銅と酸化銅の保管と安全性

炭酸銅と酸化銅の保管や取り扱いには、それぞれ注意が必要です。塩基性炭酸銅は劇物に指定されており、飲み込むと有害で、水生生物に対して強い毒性を示します。保管時は涼しく乾燥した換気の良い場所で、火気や熱源から離し、直射日光を避ける必要があります。
参考)https://www.cupricoxide.com/ja/cas12069-69-1-copperii-carbonate-basic-product/

 

緑青の主成分である塩基性炭酸銅については、かつて有毒とされていましたが、現代の研究では急性毒性や慢性毒性に関する詳細なデータが蓄積されています。実際には、緑青は水に不溶で銅表面に固く付着するため、体内に取り込まれにくい性質があります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f5deceb6cf45884a62120b7ead16566102c64915

 

酸化銅も銅化合物として毒性があり、取り扱いには注意が必要です。特に粉塵を吸入しないよう、換気が不十分な場合は適切な呼吸器を着用する必要があります。皮膚、目、粘膜との接触を避け、取り扱い後はよく手を洗うことが推奨されています。
参考)https://www.yone-yama.co.jp/shiyaku/msds/pdfdata/AD0871.pdf

 

陶芸で使用する際は、炭酸銅も酸化銅も粉末状態で扱うことが多いため、粉塵やエアロゾルの生成を避けることが重要です。保管容器はポリプロピレンやポリエチレン製のものを使用し、使用するまでしっかりと密閉しておく必要があります。酸化剤や酸、食用化学物質とは別に保管し、混合保管は避けるべきです。
銅化合物を扱う作業場では、局所排気や全体換気を行い、適切な保護具を着用することが安全管理の基本となります。万が一、飲み込んだり目や皮膚に付着したりした場合は、直ちに医師の診断を受けることが必要です。
参考)https://direct.hpc-j.co.jp/sds/jpn/E3-15.pdf

 

塩基性炭酸銅(II)の熱分解過程における結晶構造変化に関する詳細な研究データ
塩基性炭酸銅を用いた化学反応の量的関係の実験方法
緑青(塩基性炭酸銅)の毒性に関する専門的な資料