熱分解還元違いと陶器焼成

陶器や食器づくりで重要な熱分解と還元の違いを化学的観点から解説。酸化焼成と還元焼成の差異、熱分解による化学変化の仕組みを知ることで焼き物への理解が深まります。あなたの作品づくりに役立つ知識とは?

熱分解と還元の違い

熱分解と還元の基本的な違い
🔬
熱分解の定義

1つの物質が熱により2種類以上の別の物質に分かれる化学変化

⚗️
還元の定義

酸化物から酸素を取り除く化学変化、または物質に電子を与える反応

🎯
両者の関係性

還元は熱分解の一種だが、すべての熱分解が還元とは限らない

熱分解とは何か

 

熱分解は、化学変化の影響で1つの物質が2種類以上の異なる物質に分かれることを意味する化学用語です。例えば、水(H₂O)が水素(H₂)と酸素(O₂)に分かれるような化学変化のことを指します。熱分解の対義語として「化合」があり、これは2種類以上の物質が合わさって1つの物質になることを意味します。
参考)「分解」と「還元」の違いとは?分かりやすく解釈

陶磁器の製造においても熱分解は重要な役割を果たしており、焼成プロセスでは原料内部でさまざまな化学変化が進行します。鉱物の分解、再結晶化、ガラス相の形成などが起こり、特にシリカやアルミナを含む原料は高温で安定したクリスタルフェーズに変わります。
参考)焼成プロセスの理解と管理: 陶磁器製造と材料特性向上のための…

焼成の初期段階である脱成分では、低温での加熱により有機成分や不純物が除去されます。このプロセスは製品の内部構造に大きな影響を与え、950℃までの加熱では焼き物の素地や釉の中の水分、有機分、結晶水が十分に分解燃焼します。
参考)還元焼成とは? No.3

還元反応の化学的メカニズム

還元とは、酸化物から酸素だけを取り除く化学変化のことを意味する化学用語です。化学における還元は、酸化銅から酸素だけを取り除く化学変化や、酸化鉄から酸素だけを取り除く化学変化のことを指します。還元には「ある物質に水素(電子)を与えること」という解釈もできます。​
陶器の還元焼成では、950℃から1250℃になるまで還元炎で焼成を続けて、焼き物の中の酸素を奪い、還元反応を起こさせます。還元反応が起こると焼き物の中の鉄分と反応して、鉄分の多い赤土は酸化焼成よりも赤褐色になるのです。​
還元焼成は窯内の酸素の供給を制限する焼成プロセスであり、窯内の酸素が不足するため、炎は酸素を求めて陶器や釉薬に含まれる酸化物から酸素を奪います。酸化第二鉄(Fe₂O₃)は酸化第一鉄(FeO)に還元され、粘土体の色が赤味から灰色や黒色に変化します。
参考)還元雰囲気は、陶磁器の焼成中にどのような効果をもたらしますか…

熱分解と還元の化学的相違点

熱分解と還元の最も大きな違いは、その化学変化の範囲です。熱分解は1種類の物質が2種類以上の異なる物質に分かれる変化すべてを意味しますが、還元は酸化物から酸素を取り除く化学変化という特定の反応を指します。​
酸化銀の熱分解を例に考えると、炭素を加えずに強熱すれば銀と酸素に分解します。この場合、酸化銀が銀になった視点から考えると還元と言えそうですが、酸化と還元は同時に起こるという視点から考えると、この反応では片方の反応しか起こっていないため、厳密には還元とは呼べません。
参考)化学の質問です。 酸化還元反応に就いてです。 酸化銀の熱分解…

還元と呼ばれるためには、酸化も同時に起こっていないといけません。例えば酸化銅に炭素を加えて加熱すると、酸化物の酸素が炭素にうばわれて、炭素が代わりに酸化します。このように酸化・還元が同時に起きる反応は「酸化還元反応」と呼ばれます。
参考)http://www.max.hi-ho.ne.jp/lylle/sanka3.html

熱分解と還元が陶器製作に与える影響

陶器や磁器の焼成では、温度によって様々な化学変化が起こります。一般に磁器を焼く温度は1250℃から1410℃位が多く、粘土と長石の混合比率によって磁器化する温度や透光性を示す温度が異なります。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/6369d00c5d20a3e21c301566316850d8

還元焼成では特定の酸化物の融点を下げることでガラス化を促進し、密度を向上させる可能性がありますが、やり過ぎると反りが生じる危険性があります。還元反応は金属酸化物を変化させ、より深い色合いを作り出します。例えば酸化銅の釉薬は還元反応でメタリックレッドに変化します。​
織部の釉薬を酸化焼成で焼き上げると緑色となり、還元焼成で焼き上げると赤色(辰砂)に変化します。このように焼き方によって作品が大きく変わってくるため、焼成方法の選択は陶器製作において極めて重要な要素となっています。
参考)焼成とは 「酸化焼成」と「還元焼成」 - HatsuZan …

陶磁器焼成における酸化と還元の実践的知識

酸化焼成とは、窯で焼く時に酸素を十分に吸わせて焼く方法です。作品はクリアーに焼きあがり、酸素を十分に吸っているため、色合いがキリッとしてきます。電気窯では基本的に酸化焼成しかできません。
参考)陶芸の酸化焼成と還元焼成の違い

還元焼成は窯で焼く時に酸素を制限しながら焼いていく方法で、酸素を制限しているため渋く焼きあがります。年代物の陶磁器のように色合いに変化が出て、釉薬の掛け方によって微妙な変化が出ます。通常の釉薬を使っての高級感でいえば、還元で焼いた方が高そうな焼き物になる傾向があります。​
焼成プロセスは一般的に乾燥、脱成分、焼成、冷却のステージに分かれており、焼成温度と時間は製品の特性を決定づける重要なパラメータです。高温での焼成時間が長いほど、製品は均一で高密度になりますが、エネルギーコストも増加します。逆に短時間での焼成ではコストは低く抑えられますが、製品の品質が低下する可能性があります。​