研磨材とは加工対象物を切削・研削・研磨する際に使用される微細な粒子、つまり砥粒のことです。古代では天然の鉱物を粉砕したものが使われていましたが、現代では炭化ケイ素やアルミナなどの人工研磨材が主流となっています。日常生活では浴室やキッチンのクリーナーに含まれる研磨剤としても身近な存在です。
参考)研磨材とは?さまざまな研磨材を比較
研磨材の性能を決める要素は硬度だけではありません。「割れ方」「割れやすさ」「砕けやすさ」といった特性も研磨効果に大きく影響します。例えば人工砥石は研磨力が強すぎて刃返り(バリ)が取れにくい一方、天然砥石は研磨力が控えめで刃先を鋭利に仕上げやすいという違いがあります。
参考)https://www.toishi.info/kenma/a3.html
研磨材を選定する際には、加工対象物の材質・硬度・求める仕上がり品質に応じて適切な種類と粒度を選ぶ必要があります。金属加工では素材特性に合わせた研磨材を選ぶことで加工時間の短縮と品質向上を同時に実現できます。
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研磨材は化学組成によって複数の種類に分類され、それぞれ異なる特性を持っています。以下は主要な研磨材の化学式と特徴をまとめたものです。
ダイヤモンド(C)
モース硬度10で最も硬い研磨材です。天然と人造があり工業用では形状が安定している人造ダイヤモンドが好まれます。ただし高温で化学反応が起こるため、ニッケル・コバルト・鉄などの材料には適していません。ダイヤモンド自体の研磨にも同じくダイヤモンドパウダーが使用されます。
立方窒化ホウ素・cBN(CBN)
ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ人工砥粒で、鉄鋼材料の加工に最適です。ダイヤモンドが苦手とする鉄系材料に対して優れた研磨性能を発揮します。
アルミナ(Al₂O₃)
酸化アルミニウムを主成分とする研磨材で、モース硬度8〜9前後です。褐色アルミナ・白色アルミナ・淡紅色アルミナなど製法によって種類があり、最も広く流通している研磨材の一つです。ダイヤモンドと異なり鉄鋼材料の研磨にも適しており、各種金属や木工に幅広く使用されます。
参考)研磨材の種類と選び方 【通販モノタロウ】
炭化ケイ素(SiC)
緑色と黒色の2種類があり、モース硬度9.5前後でダイヤモンドの次に高い硬度を持ちます。アルミニウム合金・黄銅・ガラスなどの非鉄金属の研磨に適しています。粉砕製造されるため鋭い研磨性を持つのが特徴です。耐摩耗性と耐熱性に優れており、高温環境での作業にも対応できます。
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炭化ホウ素(B₄C)
炭化ケイ素よりもさらに高いモース硬度9前後の研磨材です。セラミックス系の基板や部材など高硬度材料用の研磨材として活躍しています。
ジルコニアアルミナ(ZrO₂含有)
模造ダイヤとも呼ばれ、鋭く尖った構造を持っています。ステンレスや硬度の高い金属の研磨に利用され、鉄鋼の重研磨に適した高い耐久性を持ちます。研磨時の発熱を抑える効果があり連続使用にも適しています。
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セラミック系研磨材
耐衝撃性と耐摩擦性に特化しており、切削力が高くステンレス・チタン・ニッケルなど幅広い鋼材に対応できます。超高硬度の素材向けで耐摩耗性が非常に高く長寿命で効率的な研磨が可能です。
その他の酸化物系研磨材
ベンガラ(Fe₂O₃)は硬度が低く主に仕上げに使用される赤褐色の酸化鉄です。酸化チタン(TiO₂)・酸化セリウム(CeO₂)・酸化クロム(Cr₂O₃)などは研磨力が控えめで、最終工程での艶出しや光沢出しに用いられます。特に酸化セリウムはガラスや光学ガラスの研磨に欠かせない材料です。
研磨材の硬度を表す指標として、モース硬度とビッカース硬度があります。モース硬度は10種類の鉱物の硬さを基準とした相対的な比較尺度で、ダイヤモンドを10とした1〜10の段階で表されます。ただしこれは相対硬度であり、硬度6が硬度2の3倍硬いわけではない点に注意が必要です。
参考)研磨材|株式会社 大和製砥所
以下は主要な研磨材のモース硬度とビッカース硬度の比較です。
| 研磨材 | モース硬度 | ビッカース硬度(HV) |
|---|---|---|
| ダイヤモンド | 10 | 10,000程度 |
| 立方窒化ホウ素(cBN) | 9〜10相当 | 4,500〜5,000 |
| 炭化ケイ素 | 9.5前後 | 2,500〜3,000 |
| 炭化ホウ素 | 9前後 | 2,800〜3,200 |
| アルミナ | 8〜9前後 | 2,000〜2,300 |
| 二酸化ケイ素 | 7前後 | 1,000前後 |
| 酸化ジルコニウム | 6〜7前後 | 1,200前後 |
| 酸化クロム | 6〜7前後 | - |
| 酸化マグネシウム | 6.5前後 | - |
| ベンガラ・酸化セリウム | 6前後 | - |
| 酸化チタン | 5.5〜6前後 | - |
ビッカース硬度で見ると、ダイヤモンドが圧倒的に硬いことが分かります。ダイヤモンドとcBN、炭化ケイ素の硬度差はモース硬度では分かりにくいですが、ビッカース硬度では明確な差があります。
ただし研磨材選定において重要なのは、硬ければ何でも適切に磨けるわけではないという点です。研磨材の硬度は対象物への切り込み深さを決める重要な指標ですが、これだけで性能が決まるわけではありません。靭性(割れにくさ)や砕けやすさといった特性も研磨効果に大きく影響します。
粒度とは砥粒の粒子サイズのことで、番手または「♯」記号で表記されます。数字が大きいほど粒子が細かく、例えば♯300は♯100よりも細かい粒子を意味します。粒度は最終的な仕上がり品質に直接影響するため、加工目的に応じた適切な選定が必要です。
研磨シートの粒度分類と用途
研磨シートは粗さによって粗目・中目・細目に分類されます。
加工対象別の粒度選定
金属加工では以下のような粒度の使い分けが推奨されます。
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木工・家具加工では成形加工に♯80〜♯150、仕上げ研磨に♯180〜♯400が使われます。プラスチックや樹脂加工では粗削りに♯60〜♯120、最終仕上げに♯240〜♯600が適しています。
ガラスやセラミック加工では荒研磨に♯36〜♯80、仕上げ研磨に♯400〜♯1000の超微粒子が使用されます。特に光学ガラスなどの精密研磨では♯1000以上の極めて細かい粒度が必要になる場合もあります。
段階的粒度選定の重要性
研磨作業では目標とする仕上がり粗さよりも小さい粒度で磨いても、目標の粗さには到達できません。例えば♯300の仕上がりを目指す場合、♯240以下の粗い番手から始めて段階的に♯300に近づける必要があります。
研磨材を選定する際は、加工対象物の材質・硬度・求める仕上がり品質の3点を考慮する必要があります。同じ研磨材でも用途によって最適な種類と粒度が大きく異なるため、目的に合った選定が重要です。
金属加工における研磨材選定
鉄鋼材料の研磨には、アルミナ系やジルコニアアルミナが適しています。特にステンレスや硬度の高い金属には鋭い構造を持つジルコニアが効果的で、研磨時の発熱を抑えながら連続使用できます。鋼材の黒皮除去や塗装の密着性向上を目指す場合には、硬くて切削力の高いアルミナやスチールグリットが推奨されます。
参考)ブラスト研磨材の種類と選び方
非鉄金属(アルミニウム合金・黄銅・銅など)の研磨には炭化ケイ素が最適です。炭化ケイ素は鋭い研磨性を持ち、非鉄金属特有の柔らかさに対応した加工が可能です。
セラミックス・ガラス加工
ガラスや石材など欠損しやすい材料には、シリコンカーバイド(炭化ケイ素)が多用されます。ダイヤモンドの次に高い硬度を持ち、耐熱衝撃性にも強くデリケートな作業でも力を発揮します。光学ガラスの仕上げには酸化セリウムが欠かせない研磨材として知られています。
セラミックス系の基板や高硬度部材には炭化ホウ素が使用されます。炭化ケイ素よりも高い硬度を持ち、超硬材料の精密研磨に対応できます。
木工・樹脂加工
木材やプラスチックの研磨には、適応力が高いアルミナタイプの研磨材が広く使われています。木工では成形加工段階で粗めの番手を使い、仕上げには細かい番手や不織布タイプの研磨材を使用します。
樹脂加工では粗削りにシリコンカーバイド、最終仕上げに微細なアルミナ砥粒を使い分けることで、滑らかで美しい表面を実現できます。
仕上げ・艶出し用途
切削や研削ではなく艶出しを目的とする場合には、研磨力が控えめな酸化物系研磨材が適しています。酸化チタン・酸化クロム・酸化マグネシウムなどは、すでに研磨された表面につやを出す最終工程で使用されます。ベンガラも硬度が低く主に仕上げに使用される古典的な研磨材です。
金型を傷つけずに汚れを洗浄したい場合には、硬度の低い研磨材やガラスビーズなどが推奨されます。研磨力よりも対象物の保護を優先する場合には、柔らかい研磨材を選定することが重要です。
研磨材には天然と人工があり、それぞれ異なる特性を持っています。古代から天然の鉱物を粉砕したものが研磨材として使われてきましたが、現代では高価な天然石の代わりに人工の研磨材が主流となっています。
人工研磨材の特徴
人工研磨材は均一な粒度と安定した品質を持つことが最大の利点です。形状が安定しているため工業用途では人造ダイヤモンドのような人工研磨材が好まれます。コストパフォーマンスも良好で、大量生産に適しています。
参考)どれを選べばいい?砥粒の種類と加工目的別のおすすめ紹介
ただし人工砥石は研磨力が強すぎるため、刃返り(バリ)ができやすく取れにくいという欠点があります。そのため刃先を鋭利に仕上げにくい場合があります。また研ぎ味がやや硬く、仕上がりの風合いに深みが出にくいという指摘もあります。
参考)天然砥石と人造砥石
天然研磨材の特徴
天然砥石は研磨力が控えめなため研ぎに時間がかかりますが、刃返りが出にくく刃先を鋭利に仕上げやすいという利点があります。金属表面に自然な丸みや滑らかさを与える"微妙な当たり"があり、独特の仕上がりを実現できます。
参考)【5選】天然砥石の見分け方!人造砥石との違いやメリット・デメ…
天然砥石の欠点は品質のばらつきと入手の難しさです。同じ産地でも個体差があり、価格も高価になる傾向があります。また天然鉱物の供給には限りがあり、酸化セリウムのように供給ルートが限られて供給不安になったケースもあります。
安全な使用のために
研磨材使用時には適切な保護具の着用が不可欠です。研磨作業では微細な粉塵が発生するため、防塵マスクや保護メガネを着用し、十分な換気を確保する必要があります。また高速回転する研磨工具を使用する場合には、研磨材の破損や飛散に備えて作業環境を整えることが重要です。
研磨材の保管においては、湿気を避け乾燥した場所で管理することが推奨されます。紙基材の研磨材は特に湿気に弱く、吸湿すると性能が低下します。布基材やポリエステル基材は耐水性に優れており、湿式研磨にも使用できます。
研磨材の詳しい種類と選び方についてはモノタロウの技術情報ページで確認できます
研磨材の硬度に関する詳細な比較データは砥石の情報サイトで参照できます