元素鉱物とは、単一の元素または合金から構成される鉱物の総称です。現在30種類以上の元素鉱物が知られており、化学組成による鉱物分類の中で最も基礎的なグループを形成しています。元素鉱物は金属元素鉱物、半金属元素鉱物、非金属元素鉱物の3つの亜類に分類され、それぞれ異なる性質と産出環境を持っています。
参考)https://www.istone.org/mineral-class.html
元素鉱物の特徴は、単体で存在する点にあります。ただし例外的に、炭化物・ケイ化物・窒化物・リン化物といった化合物も、元素としての性質に近い化学的性質を持つため元素鉱物に含まれます。
参考)「元素鉱物」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞…
金属元素鉱物は元素鉱物の中で最も多様なグループです。代表的な種類として、自然金(Au)、自然銀(Ag)、自然銅(Cu)、自然鉄(Fe)、自然白金(Pt)などが挙げられます。これらは金属光沢を持ち、延性や展性に富む性質を示します。
参考)元素鉱物(ゲンソコウブツ)とは? 意味や使い方 - コトバン…
自然金は各種金銀鉱床において、主に石英に伴われて産出します。熱水鉱脈鉱床や接触交代鉱床が主な産地で、砂金鉱床としても産出することが知られています。天然の自然金は純粋な金ではなく、銀・銅・水銀などの不純物を含むのが一般的です。特に銀とは連続的に組成が変化し、金と銀の割合によって自然金とエレクトラム、自然銀に分類されます。
参考)元素別鉱石(金銀鉱):山口大学工学部 学術資料展示館
自然銀は各種銀鉱床の酸化帯に産出し、針条やヒゲ状、鱗片状など美しい結晶形態を示します。コレクターにも人気が高い鉱物で、塊状や脈状でも産出します。自然銅は銅鉱床の酸化帯にシダ状や樹枝状の結晶として産出し、特徴的な銅赤色を呈します。
参考)http://dp18017030.lolipop.jp/Silver.html
自然鉄や自然ニッケル鉄は隕石中に普遍的に認められる鉱物です。地上での産出は稀ですが、玄武岩中に自然鉄が産することがあります。カマサイトやテーナイトといった鉄-ニッケル合金も元素鉱物として分類されています。
参考)元素鉱物 - Wikipedia
自然白金、イリドスミン、オスミリジウムなどの白金族元素鉱物は、ロシアのウラル地方、南アフリカのラステンバーグ、カナダのサドベリーなどの超塩基性火成岩中に産出します。これらは漂砂鉱床からも産出し、極めて高い比重(自然白金は比重21)を持つことが特徴です。
自然ルテニウムは北海道幌加内の漂砂白金粒中から1974年に初めて発見され、新鉱物として命名された日本ゆかりの元素鉱物です。
参考)自分の新鉱物(一覧) href="https://mdcl.issp.u-tokyo.ac.jp/denken/?page_id=20" target="_blank">https://mdcl.issp.u-tokyo.ac.jp/denken/?page_id=20amp;#8211; 電子顕微鏡室/Elec…
半金属元素鉱物は金属と非金属の中間的性質を持つ元素から成る鉱物群です。主な種類には自然砒(As)、自然アンチモン(Sb)、自然ビスマス(Bi)、自然テルル(Te)などがあります。これらは金属光沢を持ちますが、電気伝導性や延性は金属元素鉱物より劣ります。
参考)https://www.istone.org/elements.html
自然砒(自然ヒ素)は粒状や同心円状で産出します。福井県赤谷鉱山から産出した金平糖状の結晶は極めて珍しく、世界的に知られています。この独特な結晶形態は日本の鉱物学における重要な発見として評価されています。
自然ビスマス(自然蒼鉛)は銀白色の金属光沢を持ち、比較的低い融点が特徴です。自然テルルも希少な半金属元素鉱物として知られています。
参考)https://star-minerals.jp/item-list?sortKind=3amp;categoryId=54211
半金属元素鉱物は産出量が少なく、特定の地質環境でのみ形成されるため、希少性が高い傾向にあります。圧力・温度・組成空間において極めて限定的な条件下でのみ生成されることが、その希少性の主な理由です。
参考)https://pubs.geoscienceworld.org/ammin/article-pdf/101/6/1245/3601083/1_5601HazenOA.pdf
非金属元素鉱物は炭素や硫黄から成る鉱物で、金属光沢を持たない特徴があります。代表的なものに石墨(グラファイト)、ダイヤモンド、自然硫黄があります。
石墨とダイヤモンドは同じ炭素(C)から成りながら、結晶構造の違いにより全く異なる性質を示します。石墨は六方晶系で柔らかく、黒色の金属光沢を持ち、電気伝導性があります。一方ダイヤモンドは等軸晶系で地球上で最も硬い鉱物であり、無色透明で絶縁体です。シュンガ石も炭素を主成分とする非金属元素鉱物として知られています。
参考)鉱物について
自然硫黄は火山噴気性硫黄鉱床や温泉沈殿物として産出します。腎臓状から鍾乳状の形態を示し、特徴的な黄色を呈します。火山地帯では比較的容易に観察できる元素鉱物です。
元素鉱物には例外的に、金属元素の炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物が含まれます。これらは化合物でありながら、元素としての性質に近い化学的性質を持つため、元素鉱物に分類されています。
炭化物には、コーヘナイト、イソフ鉱、ハクソン鉱、トンバイ鉱などがあります。これらは主に隕石中に見られる鉱物で、鉄やニッケルの炭化物として存在します。自然炭化ニオブや自然炭化タンタルといった希少な炭化物も知られています。
ケイ化物はケイ素と金属の化合物で、ザングボ鉱、マヴリアノヴ鉱、スエッス鉱、ペリー鉱などが代表的です。ルオブサ鉱やハプケ鉱は特に希少なケイ化物として知られています。
窒化物にはロアルド鉱、カールスベルグ鉱、オスボーン鉱などがあり、リン化物にはシュライベルス鉱、自然リン化ニッケル、バリンジャー鉱などがあります。これらの鉱物は極めて特殊な環境下で形成されるため、産出例が限られています。
炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物は、セラミックス材料として工業的に重要な化合物でもあります。天然に産出する鉱物としては希少ですが、人工的に合成されて高温材料や電子材料として広く利用されています。
参考)https://www.ims.tsukuba.ac.jp/~suzuki_lab/20170207_text_all.pdf
元素鉱物の希少性は種類によって大きく異なります。現在承認されている5000種類以上の鉱物のうち、半数以上は5か所以下の産地からしか発見されていない希少鉱物です。元素鉱物においても、自然金や自然硫黄のように比較的産出の多いものから、自然ルテニウムのように極めて稀なものまで幅広い希少性を示します。
鉱物の希少性は4つの基準で説明されます。第一に、圧力・温度・組成空間において極めて限定的な条件下でのみ形成される鉱物があります。第二に、地球の表層環境では稀な元素を含むか、極端な条件下でのみ形成される鉱物があります。第三に、常温常圧下で急速に分解する短命な鉱物が存在します。第四に、認識や採取が困難な鉱物があります。
元素鉱物の産出状態は種類によって多様です。自然金は鉱脈中に石英と共存するほか、砂金として河川堆積物からも産出します。自然銀や自然銅は酸化帯で二次的に形成されることが多く、樹枝状や針状の美しい結晶を示します。自然白金やイリドスミンは超塩基性岩中に産出し、風化・侵食により漂砂鉱床を形成します。
レアアース元素を含む鉱物は160種類以上知られていますが、主として採掘されるのはバストネス石、ラテライト粘土、モナズ石、ロパライトの4種類です。元素鉱物そのものではありませんが、元素資源として重要な位置を占めています。レアアース元素は厳密には「レア」ではありませんが、金のように大きな塊や鉱脈では通常見つからないため、材料の特定と採鉱が困難です。
参考)希土類元素(レアアース)とは
日本国内でも元素鉱物の産出が報告されています。岐阜県中津川市の苗木地方は鉱物産地として知られ、トパーズなどの希少鉱物が産出します。北海道では自然ルテニウムが世界で初めて発見され、日本の鉱物学に貢献しました。
参考)日本で採れる宝石は16種類|採掘スポットも紹介 - RITZ…
東京大学総合研究博物館の元素鉱物標本リストには、国内外の様々な元素鉱物標本の詳細情報が掲載されており、元素鉱物の研究や学習に有用です。
ウィキペディアの元素鉱物ページでは、各元素鉱物の化学式や結晶系、産出情報などが体系的にまとめられています。
元素鉱物は単純な組成ながら、地球科学、資源工学、材料科学において重要な研究対象です。金・銀・銅・白金などの貴金属元素鉱物は経済的価値が高く、人類の歴史を通じて貨幣や宝飾品として利用されてきました。現代では電子材料や触媒としても重要な役割を果たしています。
参考)私たちの身のまわりに使われる「鉱物資源」 ~ベースメタル編~…