石墨の用途工業における電極耐火物潤滑剤製鉄電池

石墨は工業分野で多彩な用途を持つ重要な鉱物資源です。電極材料、耐火物、潤滑剤、製鉄、リチウム電池など、その特性を活かした幅広い産業利用が進んでいます。現代産業に欠かせない石墨の工業用途、その可能性をご存じですか?

石墨の用途工業

石墨の主要工業用途
電極材料として

電気炉やアーク炉での製錬に使用され、優れた導電性と耐熱性を発揮します

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耐火物として

3500度まで安定した性質を持ち、金属用坩堝や鋳型に利用されています

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電池材料として

リチウムイオン電池の負極材として、電気自動車や電子機器に不可欠です

石墨の電極材料としての工業用途

 

石墨(グラファイト)は、優れた導電性と耐熱性を持つため、電極材料として工業分野で広く活用されています。特に製鉄工場のアーク炉では、電極として鉄スクラップを溶解する際に重要な役割を果たしており、電流を導入してジュール熱で原料を溶かす仕組みに使用されます。不純物が少なく硬度が高い人工黒鉛が電極用途では好まれ、属電気精錬炉の電極棒として耐熱性と導電性の両方の特性が活かされています。

 

参考)単体セラミックスと化合物セラミックス|セラミックスの基礎知識…

電気鉄道車両のパンタグラフ摺り板や、電動機の電極ブラシ、車軸接地電極ブラシなど、複数の特性を同時に活かした用途も多数存在します。これらの部品では、導電性に加えて潤滑性と耐熱性が求められるため、石墨の特性が最適に機能しています。カーボンブラシとして利用される場合、黒鉛の導電性と摺動性を同時に活かした設計となっており、長期間にわたる安定した性能が実現されています。

 

参考)グラファイト - Wikipedia

産業機械や工作機械においても、石墨を含むカーボン摺動部品はポンプやコンプレッサーのシールやベアリングとして使用され、漏れ防止と高耐久性を実現しています。高温環境や化学腐食に対する耐性が要求される場合にも、石墨系の複合材料が適応され、多岐にわたる産業で信頼性の高い選択肢となっています。

 

参考)【徹底解説】摺動部品とは? カーボン摺動部品の特性と応用例に…

石墨の耐火物としての工業応用

石墨は、耐火性に優れた特性を持つため、高温環境下で使用される耐火物の材料として重要な役割を果たしています。天然黒鉛は耐熱性に優れており、非酸化雰囲気においては3500度まで安定であるため、金属用坩堝、鋳型、電気炉などに広く使用されています。特に結晶構造の発達した大片状黒鉛は、耐火物の製造に最適な材料とされており、熱伝導率が高く、熱衝撃に強いという優れた熱機械特性を示します。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/08/material_flow2021_CGr.pdf

黒鉛を用いた耐火物は、急速な加熱・冷却サイクルに耐えることができるため、冶金産業における合金工具鋼および非鉄金属の製錬に使用される黒鉛るつぼとして活用されています。これらのるつぼは、鋳造、実験室での試験、宝飾品製造などにも広く使用されており、非鉄金属や新素材を溶解・保持するための耐熱容器として、黒鉛が高温プロセスに適していることを示しています。

 

参考)黒鉛は耐火物として使用されますか?その比類のない高温性能を発…

ガラスおよび耐火物産業においても、高い耐熱性と耐久性が要求される部品に石墨が使用されており、高温炉では過酷な条件下でも性能を維持することができます。また、耐火物やゴム、樹脂などに石墨を添加することで、熱伝導性の向上を図る応用も進んでいます。このように石墨は、単独で耐火材料として機能するだけでなく、他の材料と組み合わせることでさらなる性能向上を実現しています。

 

参考)黒鉛について(性質・分類)

石墨のリチウム電池負極材としての工業利用

石墨は現代のリチウムイオン電池技術において中心的な役割を果たしており、負極材料の最大95%がこの材料で作られています。鉛筆の芯にも用いられる安価な炭素材料であるグラファイト(黒鉛)は、リチウムイオンを貯蔵・放出する能力に優れているため、電気自動車(EV)や携帯電子機器のバッテリーに不可欠な材料となっています。世界のグラファイト消費量は現在年間350万トンで、電気自動車の普及に伴い増加傾向にあります。

 

参考)リチウム電池: 貯蔵容量を増大させる電極|AIMR

天然黒鉛はリチウムイオン電池の正極材料および負極材料としての主要材料であり、その優れた導電性と加工の容易さから、電池用電極として広く使用されています。近年では、窒素ドープナノ多孔質グラフェンを用いた新しいアノード設計により、通常のグラファイトアノードの約10倍の比容量を実現し、700回以上の充放電サイクルを達成できることが明らかになっています。この技術革新により、モバイルデバイスの充電間隔を長くすることが可能になりました。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2019/03/material_flow2018_C_Gr.pdf

中国は2019年時点でグラファイト生産量が125万トンと世界全体の74.6%を占め、輸出量も28.89万トンで世界の総輸出量の52.7%を占めています。電池材料としての需要急増により、天然グラファイトの生産量は年平均5.4%の速さで成長を続け、2025年には約108万トンに達すると見込まれています。スリランカなどの黒鉛産出国にも海外企業が注目しており、米中対立を背景としたサプライチェーンの多様化が進んでいます。

 

参考)スリランカの黒鉛に海外企業が注目、背景に米中対立(インド、ス…

石墨の潤滑剤としての工業適用

石墨は、その層状構造により優れた潤滑性を持つため、固体潤滑剤として工業分野で幅広く活用されています。黒鉛は柔らかく、粉末に粉砕されると動きに対する抵抗がほとんどないため、2つの表面間の摩擦を減らすドライ潤滑剤として理想的な材料です。特に高温環境や液体潤滑剤が使用できない環境において、石墨系潤滑剤は効果を発揮します。

 

参考)用途例|日本黒鉛グループ

機械部品の組立時の回転・摺動部の摩擦面、ピンやネジの固着防止、高荷重ですべり速度が小さい箇所の潤滑など、多様な用途に対応しています。リチウム石鹸でゲル化させたペースト状の製品にモリブデンとグラファイトを高濃度に配合したペーストは、部品組立時のかじり防止や組立後の磨耗、焼き付きを防ぐ効果があります。減速機の組立時に歯面や軸受に使用されるほか、クレーンの摺動部やOリングの摩耗防止にも適用されています。

 

参考)https://www.monotaro.com/s/q-%E9%BB%92%E9%89%9B%E6%BD%A4%E6%BB%91%E5%89%A4/

車両用ブレーキパッドでは、黒鉛の潤滑特性を活かした減摩材用途として使用されており、温度上昇時の性能低下が少ないという特長があります。錠前の潤滑にもグラファイト潤滑剤が効果的で、摩擦を改善し、機構や鍵の磨耗を減らす役割を果たしています。このように石墨は、様々な種類の歯車や可動部品、ボールベアリング、線路の継ぎ目などに使用され、産業機械の円滑な動作を支えています。

 

参考)極限環境用黒鉛系ドライ潤滑剤|ConRo

石墨の製鉄および粉末冶金における工業展開

石墨は製鉄工業において複数の重要な役割を担っており、特に浸炭剤としての利用が注目されています。浸炭剤として使用される場合、溶鋼の炭素含有量を正確に調整することができ、鉄の品質管理において不可欠な材料となっています。歴史的には16世紀前半にイギリスの湖水地方で発見された石墨鉱床が産業利用の始まりとされ、製鉄においてスペイン無敵艦隊との戦いにも耐火物質として活用されました。

 

参考)黒鉛とは何か、黒鉛は何でできているのか?- 金順炭素

粉末冶金の分野では、石墨を少量添加することで鉄の強度や硬度を高めることができるという重要な特性が活用されています。この技術により、従来の鉄製品よりも優れた機械的特性を持つ部品の製造が可能となり、自動車部品や機械部品の性能向上に貢献しています。石墨の添加は、材料の微細構造を改善し、耐摩耗性や耐久性を向上させる効果があるため、工業製品の品質向上に直接的な影響を与えています。​
中国では黒龍江省の北山鉱山をはじめとする大規模な鉱床が開発されており、2006年創業の中国石墨集団のような企業が鱗状黒鉛精鉱や球状黒鉛への加工・販売を行っています。北山鉱山のグラファイトの概測資源量は約1万4000キロトンに達し、製鉄をはじめとする工業用途に安定供給されています。膨脹黒鉛、可撓性黒鉛、黒鉛増強パネルなどの高度加工製品の開発も進んでおり、バリューチェーンの拡大により中国黒鉛産業のリーダーを目指す動きが活発化しています。

 

参考)グラファイト大手の「中国石墨集団」が香港上場申請 EVなどか…

石墨の採掘と鉱物資源としての工業的価値

石墨は世界各地で採掘される重要な鉱物資源であり、中国が圧倒的な生産量を誇っています。中国の天然グラファイト生産量は2017年に約62.5万トンでしたが、2019年には約70万トンに増加しており、今後も年平均5.4%の速さで成長を続けると予測されています。この成長の背景には、新エネルギー車の動力電池や電気炉製鋼でのグラファイト需要の急増があり、耐火材料や潤滑油への使用も伸びています。​
青島海正石墨有限公司のような企業は、面積2.98平方キロメートルの黒鉛鉱山を有し、黒鉛鉱石資源の埋蔵量が2540.79万トン、黒鉛鉱物換算で80.96万トンという豊富な資源を保有しています。この鉱山は鉱石の埋蔵が浅く、露地採掘の機械化、粉砕と選別に向いており、集落から離れた立地条件も相まって、めったにない優良黒鉛鉱山と評価されています。中高級炭素黒鉛製品の製造技術を基盤に、国内外の研究機関との連携協力による高度加工製品の開発も進められています。

 

参考):: HIKING GROUP 新华锦首页(国际贸易)(房地…

近年では、スリランカの黒鉛産地にも海外企業が注目しており、米中対立を背景としたサプライチェーンの多様化が進んでいます。石墨の導電性や潤滑性といった優れた特性は、電池用電極や鉛筆の芯だけでなく、電気自動車に使われるリチウムイオン電池負極材としての需要を急速に拡大させています。ブラジル連邦共和国でも鉱物資源の開発が進んでおり、国際的な石墨市場における競争が激化しています。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/public/report/2006-12/brazil_all.pdf

資源の安定供給を確保するため、鉱山の寿命予測や採掘権の管理が重要視されており、中国石墨集団が取得した北山鉱山は2020年12月31日時点で21年の寿命が予測されています。採掘した石墨は未加工の状態から鱗状黒鉛精鉱や球状黒鉛へと加工され、主力業務以外でも加工の副産物である微細黒鉛粉末や高純度黒鉛粉末の販売により収益を上げています。このように石墨は、採掘から加工、最終製品への応用まで、一貫した工業的価値チェーンを形成しています。​
石独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が公開する「鉱物資源マテリアルフロー2021 グラファイト」では、天然黒鉛の生産・消費動向や主要用途に関する詳細な統計データが掲載されています。
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の「南西アジアグローバル展開可能性調査」では、電極用途と耐火物用途における黒鉛の品質要件の違いについて解説されています。

 


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