熱伝導 熱伝達 違いと陶器の保温性

陶器をお使いの際、熱の伝わり方が気になったことはありませんか?熱伝導と熱伝達の違いを知れば、陶器の保温性の秘密がわかります。あなたの器選びにどう活かせるでしょうか?

熱伝導と熱伝達の違い

この記事でわかる3つのポイント
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熱伝導と熱伝達の基本

物質移動の有無で熱の伝わり方が変わる仕組みを理解できます

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熱伝導率と温度勾配の関係

フーリエの法則により熱の移動量を数値で把握する方法がわかります

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陶器の保温性のメカニズム

多孔質構造が生み出す断熱効果と実用例を知ることができます

熱伝導とは物質内部での熱の移動

熱伝導は、物体内部に温度差が存在するときに熱が移動する現象です。物質そのものは移動せず、物体の自由電子の移動や原子・分子の格子振動によって熱が運ばれていきます。熱は必ず高温から低温へと移動し、最終的には熱のつり合いが取れて熱の移動が終わります。
参考)熱伝導の基礎知識│熱伝達との違いや金属における熱伝導について…

 

日常生活における熱伝導の身近な例としては、凍ったアイスクリームに金属製のスプーンを入れると手の熱が金属製スプーンを介してアイスに伝わって溶ける現象や、やかんを火にかけると火の熱さが底から側面へと伝わりやかん全体が熱くなることなどが挙げられます。熱伝導は同一物体内だけでなく、温度が異なる2つの物体間においても起こります。
参考)熱応用技術の基礎 ③熱の伝わり方

 

熱の伝わりやすさを数値で表したものを熱伝導率または熱伝導度といい、単位はW/(m·K)で表されます。数値が大きいほど熱が伝わりやすい材料といえ、固体>液体>気体の順で熱伝導率は高くなります。

熱伝達は流体の移動による熱の運搬

熱伝達(対流熱伝達)は、物質(流体)の移動によって熱が伝わる現象のことをさします。熱伝導との違いは、「物質」自体が移動するかどうかの違いです。主に流体の対流によって熱が運ばれるため、対流熱伝達や熱対流と表現されることもあります。
熱伝達を利用した身近なものとして、エアコンが挙げられます。エアコンで部屋を暖めると、温かい空気は上に、冷たい空気は下に流れていきます。その流れを繰り返しながら空気が循環し、部屋全体が暖かくなるのは、風(流体)の移動による熱伝達の現象によるものです。
扇風機も熱伝達の身近な現象です。扇風機で風を当てると、風があたったところは冷やされます。これは空気が物体の表面から熱を運んでいるためで、まさに熱伝達の現象です。熱伝達は表面間で熱が移動するため、接触する面積を大きくすることで熱の移動速度が上がります。
参考)https://d-engineer.com/netsuriki/netsudendou.html

 

熱伝導率とフーリエの法則の関係

熱伝導によって伝えられる熱量は温度の勾配に比例し、これをフーリエの法則といいます。物体中に温度勾配が存在するときに、現象が時間的に十分緩和した状態(定常状態)において、物体中を流れる熱流束が温度勾配に比例する法則です。このときの比例係数が熱伝導率です。
参考)フーリエの法則|CAE・Ansysの活用推進、解析に関するご…

 

1次元のフーリエの法則は、熱流束J = −λ(grad T)で表されます。右辺の負号は温度勾配と熱流の方向が反対であることを示し、物体内の温度勾配が負であるとき、正の方向に熱が流れます。これは熱が高温から低温へ流れるためです。
参考)熱伝導 - Wikipedia

 

例えば厚さdの板の片面を温度T1に、もう一方の面を温度T2(>T1)としたとき、板の中の温度勾配は(T2−T1)/dとなります。この時、1秒間(単位時間)に板の面積1cm²(単位面積)を通してT2側からT1側に流れる熱量Qは、Q=κ(T2−T1)/dとなり、この比例係数κを熱伝導率といいます。この熱伝導率が熱の伝わりやすさを表します。

熱伝導における比熱と熱容量の役割

比熱は物質1gの温度を1℃(1K)上昇させるのに必要な熱量のことで、単位はJ/(kg・K)で表されます。比熱が大きければ温度を上げるためにはより多くの熱量を与える必要があり、温度を下げるためにはより多くの熱量を放出する必要があります。したがって比熱が大きいということは温まりにくく冷めにくい性質を持っているということになります。
参考)アルミの比熱・熱伝導率について解説!EBINAXの技術もご紹…

 

熱容量とは、ある一定量の物質の温度を1℃上昇させるときに必要な熱量のことです。比熱は物質に固有の値で物質「1gあたり」を対象としているのに対し、熱容量は質量を含むため、同じ"温度変化のしにくさ"を表していても対象物質によっては数値が大きく異なる場合があります。
参考)熱対策の基礎知識(1) ~熱の基礎知識~ - パナソニック

 

鉄のフライパンと土鍋をそれぞれ火にかけた場合、鉄のフライパンはすぐに温まりますが土鍋はなかなか温まりません。また火を消すと鉄のフライパンは比較的すぐに冷えますが、土鍋はなかなか冷えません。これらの違いは鉄よりも土鍋の比熱が大きいことによるものです。
参考)https://www.cradle.co.jp/media/column/a288

 

陶器の多孔質構造がもたらす保温性

陶器は素地に細かい穴があいている多孔質の構造を持つため、素地のなかの空気が断熱材の役割をして熱が伝わりにくく、保温性が高いという性質があります。陶器は温まりにくく冷めにくい、つまり保温性が高い特徴を持ちます。
参考)陶器の保温性がよい理由

 

陶器と磁器の保温性の違いは、素地の緻密性によるものです。緻密性とは素地内部の小さな隙間(空気)が多いか少ないかの度合いのことです。陶器は焼き締まりが弱く(緻密性が低い)目に見えない小さな空気が内部にたくさんある一方で、磁器は焼き締まりが強く(緻密性が高い)ガラス化が進むため内部に空気がほとんどない状態です。
陶器内部の「閉じ込められた」空気が暖かい状態を保ってくれるのです。これは羽毛布団やダウンジャケットの内部にある空気の層が熱をキープする仕組みと同じです。また、寒冷地の2枚重ねの窓ガラスの間にできる「閉じ込められた」空気の層が外気の寒さを和らげるのと同様のメカニズムです。
陶器は900~1,200℃程度の温度で焼成されます。比較的低い温度で焼かれるため、原料の粘土が完全にガラス化せず、内部に微細な穴が多い多孔質な状態になります。
参考)焼き物を科学する⑨:化学で読み解く磁器と陶器の違い(市川しょ…

 

ブランド陶器における熱特性の実用的活用法

陶器の保温性がよい=「熱をより長く保つ」ということは、逆にいえば温まりにくいともいえます。つまり陶器は温まるまで時間を要するが、その後は冷めにくいということです。こうした利点は抹茶椀や土鍋などで活かされています。
抹茶椀は直接手に取りますが、熱い茶を点てて手に取った時、ゆっくりと熱が伝わるため心地よい温かさでいただけます。樂茶碗や萩、唐津などの陶器が茶碗に使われるのは、このゆっくり温まり冷めにくい特性のためです。仮にガラスの茶碗であれば熱湯を注ぐとすぐさま熱くなって持っていられません。
土鍋で煮込んだ料理はなかなか冷めず、火を止めても加熱作用が続くのが土鍋の利点です。いったん加熱されれば食材にじっくりと火が通り、空気の層のおかげで熱を外に逃がしにくくなります。鍋料理を食べている間に短時間で冷めてしまっては困りますが、陶器の保温性がこれを防ぎます。一方、鉄やステンレスの鍋だと加熱は早いのですが冷めるのも早くなり、熱伝導はよくても保温性に欠けます。
ブランド陶器を選ぶ際には、用途に応じて熱特性を考慮することが重要です。湯のみや煮物の器など温かさを保ちたい用途には陶器が適しており、素早く温度変化させたい用途には磁器やステンレスなど熱伝導率の高い素材が適しています。陶器の多孔質構造による保温性を理解すれば、より快適な食事体験を得られるでしょう。
参考)陶器と磁器に違いはある?陶磁器の特徴やお気に入りの器を見つけ…

 

高品質なブランド陶器は焼成温度や素材の配合が適切に管理されており、素地の緻密性と多孔質のバランスが絶妙に調整されています。このため、温まりやすさと保温性の両立が実現され、長時間にわたって心地よい温度で料理を楽しむことができます。

🔥 主な熱伝導性の高い金属の比較

ブランド陶器の熱特性を理解する上で、他の素材との比較も参考になります。以下は熱伝導率の高い金属の一覧です。

金属 熱伝導率 (W/m·K) 特徴
約418 最も高い熱伝導率を持つが高価
約386 工業用途で広く使用される
約295 高価だが安定性が高い
アルミニウム 約204 軽量で放熱器具に最適
ステンレス鋼 約16-26 熱伝導率が低く保温に適する

これに対して陶器の熱伝導率は一般的に2~3W/m·K程度と非常に低く、金属とは全く異なる熱特性を持ちます。この低い熱伝導率こそが陶器の優れた保温性の源泉です。
参考)https://ggsceramic.com/ja/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%86%B1%E4%BC%9D%E9%81%94%E6%80%A7%E8%83%BD%E3%81%AB%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%82%92%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%82%8B%E8%A6%81%E5%9B%A0%E3%82%92%E6%98%8E

 

☕ セラミックと陶器の熱伝導率の違い

セラミック材料の中でも熱伝導率には大きな差があります。窒化アルミニウム(AlN)は140~180W/mKという優れた熱伝導性を持ち、電子パッケージング分野で利用されています。一方、アルミナセラミックスは20~41W/m·K程度です。
参考)熱伝導率で比較する

 

通常の陶器はこれらの工業用セラミックとは異なり、熱伝導率が非常に低い素材です。セラミックスは自由電子を持たないため金属のような高い熱伝導性はなく、主な熱伝達機構はフォノン(格子振動)です。陶器の場合はさらに多孔質構造により熱伝導率が低下し、優れた保温性を発揮します。

🍲 陶器と磁器の焼成温度と性質の関係

焼成温度の違いは陶器と磁器の熱特性に大きな影響を与えます。以下は焼成温度による違いの比較です。

種類 焼成温度 構造 熱特性 主な用途
陶器 900~1,200℃ 多孔質で空気を含む 保温性が高い 抹茶椀、土鍋、湯のみ
磁器 1,200~1,400℃ ガラス化して緻密 熱伝導性が高い 普段使いの食器、茶器

陶器は比較的低い温度で焼かれるため原料の粘土が完全にガラス化せず、内部に微細な穴が多い多孔質な状態になります。一方、磁器は高温により原料の長石が溶けてガラス化し、硬く緻密な質感を生み出します。この構造の違いが保温性の差を生み出します。

🎯 温度変化と物質の原子・分子運動

物体を加熱するとそのエネルギーにより物体の原子・分子が活発に運動することで高温になります。一方で物体を冷却すると物体の原子・分子の運動が小さくなるため低温になります。
高温の物体と低温の物体同士をくっつけると、高温の物体から低温の物体に熱エネルギーが移動します。これにより高温の物体側の原子・分子の動きは徐々に鈍くなり、一方で低温の物体側の原子・分子の動きは徐々に活発になります。最終的には熱のつり合いが取れ、熱の移動が終わります。
陶器の場合、多孔質構造に閉じ込められた空気の層がこの熱エネルギーの移動を妨げる役割を果たすため、温度変化がゆっくりと進行します。この特性により、ブランド陶器は長時間にわたって快適な温度を維持することができるのです。
熱応用技術の基礎(熱伝導と熱伝達の詳しい解説、計算式、実用例が掲載)
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