硫黄の用途と工業利用と化学製造での役割

硫黄は工業界で硫酸製造やゴム加硫、肥料製造など多様な用途で活用される重要な資源です。石油精製の副産物としても大量に回収されており、現代産業を支える硫黄の工業用途にはどのような秘密があるのでしょうか?

硫黄の工業用途

硫黄の主要な工業用途
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硫酸製造

化学工業で最も重要な基礎薬品として、肥料や工業製品の製造に不可欠

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ゴム加硫

タイヤ製造において硫黄を添加することで、ゴムの弾性と耐久性を向上

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肥料製造

硫黄コーティング肥料として作物の収量向上と土壌改良に貢献

硫黄から製造される硫酸の化学工業での利用

 

硫黄から製造される硫酸は、化学工業において最も重要な基礎化学薬品として位置づけられています。日本国内では年間約660万トンの硫酸が製造されており、その原料別内訳では製錬ガスが77%を占め、残りが硫黄からの製造となっています。硫酸製造プロセスでは、硫黄を燃焼させて二酸化硫黄を生成し、これを触媒で酸化して三酸化硫黄とし、最終的に水と反応させて硫酸を得る3段階の工程が用いられています。

 

参考)硫黄 - Wikipedia

日本カーバイド工業の硫酸製造プラントでは、焙焼法によるダブルコンタクト方式を採用し、硫黄回収率を極限まで高めた画期的な製造方法を実現しています
硫酸は肥料製造、洗剤、各種化学品の合成に広く使用されており、一般的な酸としては希硫酸が、脱水剤や乾燥剤としては濃硫酸が用いられます。また、硫酸の需要は明治末期の肥料工業の発展に伴い増加し、その後レーヨンなどの化学繊維工業の伸長によってさらに拡大しました。現代では合成繊維、医薬品、農薬の原料として、さまざまな分野で硫黄を含む化合物が構成される重要な基礎物質となっています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/11/66_520/_pdf

硫酸製造における原料調達では、溶融硫黄を専用バースで受け入れることで安定的な供給体制を確立しており、硫黄を出発原料とする焙焼法では国内トップクラスの生産能力を誇る施設も存在します。このように硫黄は化学工業の基盤を支える不可欠な資源として機能しています。

 

参考)NC東京ベイ株式会社

硫黄によるゴム加硫とタイヤ製造での役割

ゴム製造において硫黄は加硫という重要なプロセスで使用され、ゴム製品の性能を決定する鍵となる要素です。天然ゴムに数パーセントの硫黄を加えて加熱することで、ゴム分子間に硫黄による架橋構造が形成され、弾性と耐久性が飛躍的に向上します。この加硫プロセスは1839年に発見されて以来、タイヤ製造の基礎技術として確立され、現代のタイヤ産業を支えています。

 

参考)加硫天然ゴム中の未知構造が明らかに

加硫天然ゴムの製造では、パラゴムノキの樹液を固めた生ゴムに硫黄や炭素などの加硫剤と加硫促進剤を混練し、高温・高圧下で処理することでタイヤが製造されます。硫黄添加量を調整することでゴムの硬さを制御でき、添加量を増やすと最終的にはエボナイトと呼ばれる硬質ゴムになります。この硫黄添加による性質の変化は、ゴム製タイヤの性質決定において極めて重要な要素となっています。​
住友ゴム工業と東京工業大学、理化学研究所の共同研究により、硫黄と天然ゴムの化学反応で生成される結合点の環状構造が初めて検出され、タイヤの基本性能に影響を与える可能性が明らかになりました
興味深いことに、タイヤゴムを構成する原材料のうち硫黄はわずか1%程度しか含まれていませんが、この微量な硫黄が性能を大きく左右する唯一の重要な原材料として機能しています。最近の研究では、硫黄と天然ゴムの結合点における環状構造の検出に成功し、この発見がタイヤの性能持続技術の開発を加速させることが期待されています。ゴム産業全体では、高性能タイヤ、医療用ゴム機器、産業用ゴム製品などの需要増加に伴い、液体硫黄の市場も拡大を続けています。

 

参考)住友ゴム工業硫黄と天然ゴムの結合点解明 - ゴム業界紙「ゴム…

硫黄の肥料製造と農業分野での活用

硫黄は農業分野において、肥料製造の重要な原料として多様な形態で活用されています。硫黄コーティング肥料は、基材肥料粒子の表面に溶融硫黄を噴霧して被膜層を形成したもので、硫黄とワックスの被覆量や処理条件を変化させることで肥料成分の溶出パターンを任意にコントロールできる緩効性肥料です。この技術により、作物の収量向上と土壌の肥沃度改善が実現されています。

 

参考)https://www.marketresearchintellect.com/ja/blog/liquid-sulfur-market-driving-industrial-growth-with-versatile-applications/

硫黄コーティング肥料の製造プロセスでは、回転ドラム式コーターや流動層型コーターなどの装置を使用し、60℃程度に予熱した基材肥料粒子に145℃に加熱した溶融硫黄を噴霧状態で添加します。その後、パラフィンワックスでコーティングすることで、硫黄被膜が経時的に劣化して割れ目が生成するメカニズムにより、肥料成分が徐々に溶出する緩効性を付与しています。

 

参考)https://patents.google.com/patent/JP5068926B2/ja

液体硫黄は硫黄ベースの肥料の重要な成分であり、作物の収量、土壌の肥沃度、植物の健康を高めるために不可欠な存在です。世界人口の増加と食料生産の需要増大に伴い、効率的な肥料の必要性が液体硫黄市場を前進させています。また、硫黄は肥料用途以外にも、農薬原料として利用されており、農業における多様な用途で重要な役割を果たしています。

 

参考)硫黄製品

硫黄の石油精製における回収と二次電池への応用

石油精製プロセスにおいて、硫黄は脱硫処理の副産物として大量に回収される重要な資源です。ナフサ、灯油、軽油、重油などの水素化脱硫装置で発生するガスや天然ガス、油田随伴ガスに含まれる硫化水素を元素硫黄として回収する工程が硫黄回収と呼ばれます。最も一般的な硫黄回収プロセスはクラウス法で、入ってくる酸性ガスを酸素で燃焼させ、燃焼したガスを冷却して硫黄を回収する方法です。

 

参考)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1000201/1000254.html

Clausプロセスの硫黄回収率は95-97%に達し、未回収の硫黄を含むテールガスはさらにTGT装置で処理されます
クラウス法による硫黄回収は、石油精製業における環境保護と経済的利益の両立を実現する技術として確立されています。硫化水素などの有毒な硫黄ガスを硫黄元素に変換することで、製油所の汚染を大幅に削減し、廃棄物を有用な材料に変える効果があります。この回収された硫黄は硫黄ピットに貯蔵され、その後様々な工業用途に利用されます。

 

参考)硫黄回収プロセス(Claus)

二次電池の分野では、硫黄が高い電位を示すため正極活物質として利用されています。代表的な例としてナトリウム・硫黄電池があり、ナトリウムを負極、硫黄を正極、βアルミナというセラミックを固体電解質として利用した蓄電池です。NAS電池とも呼ばれるこの二次電池は、鉛蓄電池に比べて電力貯蔵能力が約3倍と高く、コンパクトで長寿命という優れた性能を有しているため、風力発電所などで大規模な電力貯蔵用として広く利用されています。近年では全固体電池の固体電解質にも硫化物が利用されており、次世代エネルギー貯蔵技術の発展に硫黄が貢献しています。

 

参考)用語解説 第23回テーマ: ナトリウム-硫黄電池

硫黄の医薬品・化粧品・火薬製造での特殊用途

硫黄は医薬品や化粧品の分野で、特にニキビ治療薬として長い歴史を持つ成分です。硫黄には殺菌作用、角質柔軟作用、皮脂分泌抑制作用という3つの効果があり、ニキビの原因となるアクネ菌を減少させ、角質を柔軟にして毛穴の詰まりを防ぎます。市販のニキビ治療薬の多くに硫黄が配合されており、クレアラシル、メンソレータムのアクネスニキビ治療薬、ビフナイトなどの有名製品は100gあたり3gの硫黄を含んでいます。

 

参考)https://aizawa-hifuka.jp/acnecare/summary/summary-376/

化粧品における硫黄の利用では、皮膚表面で徐々に硫化水素などに変化して殺菌作用を発揮し、皮脂の分泌量を減らしてアクネ菌が繁殖しにくくすることでニキビの治療と予防効果をもたらします。また、脂性用の基礎化粧品や頭皮のフケを分解除去する脂性肌用のフケ取りシャンプーにも配合されていますが、皮膚を乾燥させる力が強いため、2006年には「粘膜に使用されない化粧品は100g中1.62g、粘膜に使用される場合は配合禁止」という使用制限が設けられました。

 

参考)イオウの成分解説と安全性、役割|白髪染め・カラートリートメン…

火薬製造の分野では、硫黄はマッチや花火の重要な原料として使用されています。マッチの頭薬には燃焼剤として硫黄が配合されており、マッチ棒の先端を側薬に擦りつけることで側薬に含まれる赤燐が燃え始め、頭薬の硫黄なども燃える仕組みとなっています。マッチの発火メカニズムにおいて、専門の分析センターで実験した結果、自然発火温度は187℃であることが確認されています。明治時代には純度の高い国産硫黄がマッチ製造に大量に用いられ、当時の主要輸出品目として各地の鉱山開発に拍車をかけました。1889年には知床硫黄山が噴火とともにほぼ純度100%の溶解硫黄を大量に産出し、未踏の地だった同地に鉱業関係者が殺到したという歴史的なエピソードも残されています。

 

参考)マッチの雑学

このように硫黄は化学品原料として、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄などの形態で医薬品、化粧品、花火、マッチなど多様な製品に利用されており、現代においても特殊用途における重要性を保っています。​

 


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