鉛蓄電池 反応式と化学原理と構造

鉛蓄電池は日常生活で最も使われる二次電池ですが、その内部で起きている化学反応や構造について、正しく理解していますか?正極と負極の反応式から充放電のメカニズムまで、専門的な視点から解説します。
鉛蓄電池 反応式と化学原理と構造
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鉛蓄電池の基本構造

正極板、負極板、電解液、セパレーターから構成されています

放電時の化学反応式

負極と正極での酸化還元反応を詳しく説明します

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充電時の反応メカニズム

放電反応が逆向きになる電気化学反応過程

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電解液の役割と変化

硫酸濃度変化と電池性能の関係を解説

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作り方と実験的構築方法

実験室での鉛蓄電池製作のポイント

鉛蓄電池 反応式と作り方

鉛蓄電池の基本構造と材料構成

 

鉛蓄電池は、正極板に二酸化鉛(PbO₂)、負極板に多孔質の鉛(Pb)を使用した二次電池です。これらの極板が希硫酸(H₂SO₄)からなる電解液に浸されており、セパレーターが正極と負極の直接接触を防止しています。このシンプルながら効果的な構造が、100年以上にわたって自動車用電源として使用されている理由です。

 

希硫酸は単なる電解質ではなく、放電・充電時の化学反応に直接参加する重要な成分です。電解液の濃度は通常12~18 mol/L程度に調整され、この濃度が電池の出力特性と寿命を大きく左右します。正極板と負極板の表面積を大きくするために多孔質構造が採用されており、これにより電極反応が効率的に進行します。

 

参考:充放電反応とメカニズムについて詳しく解説しているサイト
理系ラボ「鉛蓄電池の原理・仕組み」

鉛蓄電池 放電時の負極反応式

放電時の負極では、鉛(Pb)が酸化されて鉛イオン(Pb²⁺)となり、電子を放出します。この過程は段階的に進行します。まず、Pb板が溶け出してPb²⁺ + 2e⁻の形で電子を放出する半反応式は以下の通りです。
PbPb2++2ePb → Pb^{2+} + 2e^-Pb→Pb2++2e−
しかし、この反応は電解液内で即座に進行します。発生したPb²⁺イオンは、溶液中に存在するSO₄²⁻イオンと反応して硫酸鉛(PbSO₄)を生成します。これが放電時の負極での完全な反応式となります。
Pb+SO42PbSO4+2ePb + SO_4^{2-} → PbSO_4 + 2e^-Pb+SO42−→PbSO4+2e−
負極の反応速度は温度に強く依存します。低温環境では反応が遅くなるため、冬季に自動車のバッテリー性能が低下する理由はここにあります。また、負極板の多孔質構造は硫酸鉛結晶の成長を制御し、充放電サイクルの繰り返しに耐える設計になっています。

鉛蓄電池 放電時の正極反応式


放電時の正極では、二酸化鉛(PbO₂)が負極から流れてきた電子を受け取ります。この還元反応も複数段階で進行し、最終的には硫酸鉛となります。正極での半反応式の段階的な過程は以下の通りです。
PbO2+4H++2ePb2++2H2OPbO_2 + 4H^+ + 2e^- → Pb^{2+} + 2H_2OPbO2+4H++2e−→Pb2++2H2O
ここで発生したPb²⁺イオンは、負極と同様にSO₄²⁻と反応して硫酸鉛になります。したがって、正極での完全な反応式は次のようになります。
PbO2+4H++SO42+2ePbSO4+2H2OPbO_2 + 4H^+ + SO_4^{2-} + 2e^- → PbSO_4 + 2H_2OPbO2+4H++SO42−+2e−→PbSO4+2H2O
正極反応の特徴は、酸性環境(H⁺イオン)が必要であることです。希硫酸がPbO₂の還元に不可欠な理由はここにあります。正極板の表面は多孔質で、酸化鉛の還元がより多くの活性面で進行するよう最適化されています。また、充放電を繰り返すと硫酸鉛層が増加して反応面積が減少するため、定期的な充電が寿命を延ばすポイントになります。

鉛蓄電池 全体の放電反応式と起電力


負極の反応式と正極の反応式を足し合わせることで、鉛蓄電池全体の化学反応が得られます。負極の電子放出と正極の電子受取をバランスさせるため、電子を相殺して全体の反応式を導きます。
Pb+PbO2+2H2SO42PbSO4+2H2OPb + PbO_2 + 2H_2SO_4 → 2PbSO_4 + 2H_2OPb+PbO2+2H2SO4→2PbSO4+2H2O
この反応式は、鉛0個、二酸化鉛1個、硫酸2分子が反応して、硫酸鉛2個と水2分子を生成することを示しています。左辺では鉛の酸化数が0と+4であるのに対し、右辺では両者ともに+2に統一されます。これが酸化還元反応である証拠です。

 

鉛蓄電池の起電力は1セル当たり約2.0V(理論値)ですが、実際の電池は6個のセルを直列に接続しており、公称電圧は12V(正確には10.5~12.6V)となります。この起電力は電解液の濃度、温度、電流値などの要因で変動します。放電が進むにつれて硫酸濃度が低下し、起電力も低下していくメカニズムになっています。

 

鉛蓄電池 充電時の反応式と逆反応メカニズム

充電時には、放電時の反応がすべて逆向きに進行します。外部電源から電流を供給すると、硫酸鉛(PbSO₄)が再び分解されて、鉛と二酸化鉛に戻ります。充電時の負極反応式は以下の通りです。
PbSO4+2H2OPb+SO42+2H++2ePbSO_4 + 2H_2O → Pb + SO_4^{2-} + 2H^+ + 2e^-PbSO4+2H2O→Pb+SO42−+2H++2e−
これは放電時の負極反応の逆反応です。電流が逆向きに流れることで、硫酸鉛が還元されて鉛に戻ります。同時に、充電時の正極では次の反応が起こります。
PbSO4+2H2OPbO2+4H++SO42+2ePbSO_4 + 2H_2O → PbO_2 + 4H^+ + SO_4^{2-} + 2e^-PbSO4+2H2O→PbO2+4H++SO42−+2e−
充電終期に興味深い現象が起きます。正極から酸素ガス(O₂)が発生し、このO₂は負極の海綿状鉛(Pb)と反応して、再び硫酸鉛と水を生成します。
Pb+12O2+SO42+2H+PbSO4+H2OPb + \frac{1}{2}O_2 + SO_4^{2-} + 2H^+ → PbSO_4 + H_2OPb+21O2+SO42−+2H+→PbSO4+H2O
この反応により、正極での酸素発生によって失われた水が負極で再生されるため、電池内の水分が大幅に損失されません。これは鉛蓄電池が長寿命である理由の一つです。充電時の水素ガス発生も、この再合成反応により液式電池に比べて大幅に削減されています。

鉛蓄電池 電解液の濃度変化と性能


鉛蓄電池の性能評価において、電解液の硫酸濃度変化は最も重要なパラメータです。放電により硫酸(H₂SO₄)が消費され、水が生成されるため、電解液の濃度は放電に伴って低下します。この濃度低下が起電力の減少を招くため、電池電圧で残量を推定できるのです。

一般的に新品の鉛蓄電池の硫酸濃度は約1.28 kg/L(36 wt%)ですが、完全放電状態では約1.11 kg/L(18 wt%)まで低下します。逆に充電を完了すると濃度は約1.28 kg/L程度に戻ります。この濃度差は電位差を生み出し、起電力を決定する重要な要素になっています。

高温環境では硫酸の電離が促進されるため電池性能が向上しますが、低温環境では反応速度の低下に加えて、硫酸の粘度上昇により電子移動が困難になります。冬季のバッテリー不調はこれらの物理化学的要因が複合的に作用した結果です。また、繰り返しの充放電により硫酸鉛の結晶化が進行すると、電解液の有効性が低下し、電池の内部抵抗が増加します。

参考:化学反応式と電解液の詳細について
「鉛蓄電池の原理・特徴と化学反応式」

鉛蓄電池 実験的な作り方と構築のポイント

実験室で鉛蓄電池を製作する場合、以下の主要な手順と注意点があります。まず、純度の高い鉛板と酸化鉛板を準備し、これらを希硫酸溶液に浸します。最初の充電プロセスが重要で、正極板の酸化鉛をさらに酸化させ、負極板の表面を海綿状構造に形成させます。

 

材料選定の段階では、鉛板の厚さ(通常1~2mm)、表面積(反応効率に影響)、多孔質度の調整が重要です。酸化鉛の品質も起電力に大きく影響するため、化学的に合成したものより工業用の高純度品を使用することが推奨されます。希硫酸の濃度設定は電池の用途に応じて調整され、高容量が必要な場合は濃度を高めに、高出力が必要な場合は中濃度に設定されます。

 

セパレーターの選択も見落とされやすい重要ポイントです。多孔質のポリエチレン膜や木製セパレーターが使用されており、これにより正極と負極の物理的接触を防ぎながら、イオン移動を許可します。正極板と負極板の配置も同等の表面積を持つ必要があり、不均衡があると局所的な高電流が流れて劣化が加速されます。

 

充電開始時は低電流値(C/20程度:容量を20時間かけて充電する電流値)から始めることが重要です。高い初期電流は電解液の過度な加熱と水の電解を招き、電池性能を著しく低下させます。最初の充電完了後、数回の充放電サイクルを経ることで、正極板と負極板の表面構造が最適化され、初めて正常な性能を発揮するようになります。

 

実験的な鉛蓄電池製作では、安全管理も重要です。硫酸は強い腐食性を持ち、充電時に水素ガスが発生するため、通風設備が必須です。また、引火性のある水素が正極からの酸素と混在すると爆発的な反応を起こす可能性があるため、適切な換気環境下での作業が必要です。完成後の動作確認では、開路電圧(電流を流さない状態の電圧)を測定し、2V程度あることで正常な製作が確認できます。

 

産業用鉛蓄電池の製造では、負極板の海綿状鉛形成プロセス、正極板の酸化鉛の結晶構造制御、電解液中の不純物除去、セパレーターの孔径最適化など、多数の精密な工程が組み合わされています。これらの工程管理が厳格に行われることで、数千回の充放電に耐える信頼性の高い電池が実現されているのです。

 

 


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