飴釉の調合と基本レシピで理想の飴色を出す方法

飴釉の調合は「ベンガラを増やせば深まる」と思っていませんか?実は鉄分が8%を超えると一気に黒釉へ転じます。本記事では失敗しない配合レシピと焼成のポイントを解説します。

飴釉の調合を理解して理想の発色を手に入れる方法

鉄分を8%超えると、作品が全部黒くなって無駄になります。


この記事でわかること
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飴釉とは何か

鉄釉の一種で、酸化焼成により褐色(飴色)に発色する釉薬。酸化鉄の量が発色の鍵で、5〜8%が飴色の適正範囲です。

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基本の調合レシピ

長石・土灰・ベンガラの3つを軸に、産地ごとの伝統調合も含めて具体的な配合比を紹介します。

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失敗しない焼成のコツ

素地の色・焼成温度・重ね掛けの順番など、発色を左右するポイントを整理して解説します。


飴釉の調合の基本:長石・土灰・着色剤の役割を理解する


飴釉を自分で調合する場合、まず「基釉(きぐすり)」と「着色剤」の2つを分けて考えることが大切です。基釉とは、高温で溶けてガラス質になるベースのことで、ここに鉄系の着色剤を加えることで初めて飴色が生まれます。


基釉の代表的な組み合わせは、福島長石と合成土灰の2種構成です。最もシンプルな透明釉の場合、長石80%・土灰20%が基準とされます。この状態に着色剤を加えていくことで、色釉へと変化します。


着色剤として最もよく使われるのが、ベンガラ(酸化第二鉄)です。一般的な飴釉の調合例として、器楽工房(岡山県)では次の配合を公開しています。


材料 割合
福島長石 50%
合成土灰 42%
ベンガラ 8%


この調合は酸化焼成1240℃に適しており、流れやすい艶のある飴釉として安定した評価があります。流れやすいという特性上、高台(こうだい)近くまで掛けると窯底に溶け落ちる危険があるため、高台から2〜3cm上で掛け止めるのが原則です。


もうひとつよく参照される配合として、以下のものがあります。


材料 割合
福島長石 35%
石灰石 15%
炭酸カルシウム 10%
カオリン 5%
珪石 28%
鬼板 7%


この配合は1200〜1230℃に向いており、やや低温帯での焼成に対応しています。鬼板は鉄分を多く含む天然原料で、ベンガラよりも深みのある発色が出やすい傾向があります。


長石の割合が多いほど基釉が硬くなり、流れにくい釉になります。逆に土灰の割合が増えると熔融しやすくなり、溜まりや流れが生まれやすくなります。つまり「流れの景色」を狙うなら土灰を増やし、安定した均一な発色を求めるなら長石を多めにするのが基本です。


着色剤の選び方が発色の鍵です。


飴釉の基本解説と調合例(陶磁器お役立ち情報・touroji.com)


飴釉の調合で最も重要な「鉄分の量」と黒釉への変化の境界線

飴釉を調合するうえで、見落とされがちながら最も重要な数値が「釉中の鉄分量(酸化鉄の比率)」です。この比率が飴色か黒釉かを決定します。驚くほどわずかな差が仕上がりを左右します。


研究データと複数の陶芸家の実証をまとめると、鉄分量と発色の関係はおおよそ次の通りです。


釉中の鉄分量 発色の傾向
1〜3%未満 黄釉(淡い黄色)
4〜7% 飴釉(褐色〜茶褐色)
8〜10% 天目釉・黒釉(黒褐色〜黒)
10%以上 黒釉・黒天目(真黒)


ベンガラ8%という数字は、鉄分量の境界線ギリギリです。基釉の組成によっては黒みが強く出ることもあります。特に「アルカリ分の少ない釉」に多量の鉄を加えると黒化しやすいため、長石多めの配合でベンガラ8%を使う場合は焼成テストが必須です。


逆に面白いことがあります。アルカリ分の強い釉(石灰分が多い釉)の場合、鉄分が10〜12%と多くても真黒にならず飴釉のような褐色に留まることがあります。これは「アルカリの強い釉では鉄分が懸濁せずに透明性を保つ」という化学的な理由によるものです。


飴釉の発色には「基釉のアルカリ組成」と「鉄分量」の両方が影響しているということですね。


また、ベンガラとマンガン(二酸化マンガン)を併用することで、より深みのある飴色になることが梶田絵具店の検証で報告されています。ベンガラ単独では赤みを帯びた橙褐色に、マンガンを加えると落ち着いた黒褐色のニュアンスが加わります。マンガン添加量の目安は2〜3%(外割)程度で、この組み合わせが「飴色にしたいがもう少し深みが欲しい」という場合に有効です。


鬼板5%・ベンガラ不使用という調合もあります。これは長石6:土灰4をベースに外割で鬼板5%を加えるもので、鬼板特有の柔らかな褐色と釉ムラが特徴です。鬼板は産地ごとに鉄分量が異なるため、初めて使う場合は小ロットでテストを行う慎重さが必要です。


失敗を防ぐには「テストピースを必ず先に焼く」が原則です。


釉薬の作り方・鉄分と発色の関係についての詳細解説(逍山窯)


飴釉の調合で知っておきたい「素地の色」と発色への影響

飴釉を調合して同じ配合で焼いても、使う素地陶土)によって仕上がりの色が大きく変わります。この事実を知らずに調合だけ合わせていると、「テストピースと本番が全然違う色になった」という失敗につながります。


素地と飴釉の発色の関係を整理すると、次の点が重要です。


- 白系の素地(磁器土・白粘土):飴釉本来の透明感が引き立ち、褐色から飴色がきれいに発色する。最も飴色らしい仕上がりになる。


- 赤系・鉄分含有の土(唐津土・信楽赤土など):素地の鉄分と釉の鉄分が重なり、全体的に黒みが増す。意図せず天目調の黒褐色になることがある。


- 黒系の土(鉄分が非常に多い土):飴釉の色が素地の色に負け、ほとんど判別できないほど暗くなる場合がある。


常滑(とこなめ)の資料には「素地が白いと飴釉らしい透明感が得られるが、有色の場合には黒っぽく見える」と明記されています。


この現象を意図的に活かすことも可能です。同じ飴釉配合であっても、白土と赤土で同時焼成すれば、2種類の表情の器が1回の焼成で生まれます。経験を積んだ陶芸家はこの差を「景色の違い」として楽しみながら、意図的に素地選びをしています。


素地の選択が発色を左右します。


さらに、施釉の厚みも発色に直結します。飴釉を薄く掛けると淡い黄褐色に、厚く掛けると深い茶褐色〜黒褐色に変化します。特にベンガラを使った調合は、厚く掛けすぎると天目釉と見分けがつかなくなることがあります。目安として、施釉後に釉薬がはがれた部分の厚みが0.7〜1mm程度になるよう調整するのが適切です。はがき(0.2mm)を4〜5枚重ねた程度の厚みが1mm弱のイメージです。


施釉の均一さを保つためには、比重計(ボーメ計)の使用をおすすめします。釉薬1kgに対して水800〜1000mL程度が標準の濃度で、このバランスがずれると焼成後の厚みムラが顕著になります。施釉前に毎回濃度を確認する習慣をつけることで、仕上がりの再現性が大幅に上がります。


常滑の飴釉配合例と素地の影響についての解説(常滑市陶芸関連資料)


益子伝統の飴釉調合:芦沼石と土灰による天然素材の配合法

飴釉には市販のベンガラを使う現代的な調合とは別に、産地ごとの天然原料を使った伝統的な調合が存在します。その代表格が、栃木県・益子の「芦沼石(あしぬまいし)+土灰」による飴釉です。


芦沼石は益子北部で採掘される含鉄砂岩で、この石を粉末にして単味で使うと「柿釉(かきゆう)」という赤茶の釉薬になります。これに土灰を加えて鉄分を薄めることで、飴釉の発色帯に入ります。益子の某窯元で実際に使われている配合比は次の通りです。


材料 割合
芦沼石 50%
土灰 50%


この調合は非常にシンプルです。材料が2種類だけという点が驚きかもしれません。ただし、土灰の量が2割(20%)程度になると鉄分の希釈が不十分になり、黒釉になります。土灰の割合が飴色の発色を左右しているということですね。


益子以外の産地で飴釉を作る場合は、芦沼石は現地調達が難しいため、代わりに鬼板や来待石(島根県)、賀茂川石(京都府)といった含鉄砂岩が代用候補になります。来待石や賀茂川石も、芦沼石と似た性質を持ち、単味または土灰と組み合わせて鉄釉として使われてきた実績があります。


益子の伝統飴釉の特徴は「透明感のある茶色」にあります。合成釉ではやや平坦な均一色になりやすいのに対し、天然芦沼石由来の飴釉は、見る角度や光の当たり方で表情が変わる複雑な景色を持ちます。益子焼の魅力のひとつがこの深みある釉調で、現代でも道祖土和田窯をはじめ多くの窯元が伝統調合を引き継いでいます。


天然原料は産地や採取時期で成分が変わります。同じ「芦沼石」でも採掘場所が数十メートル違うだけで鉄分量に差が出ることがあり、使うたびにテスト焼成を行うのが天然素材を使う際の常識です。この不確実性こそが、手作業による陶芸の醍醐味でもあります。


天然釉には再現性の難しさもあります。


益子伝統釉の種類と芦沼石の解説(道祖土和田窯・益子)


飴釉の調合と重ね掛けで広がる表現:失敗しない施釉の実践ポイント

飴釉は単独でも十分な表現力を持ちますが、他の釉薬と重ね掛けすることで景色が一気に豊かになります。一方で、飴釉はもともと流れやすい性質を持つため、重ね掛けの際には特有の注意が必要です。


重ね掛けの基本は「溶けにくい釉を下に、溶けやすい釉を上に」という原則です。飴釉は石灰分が多く流れやすい釉に分類されるため、下掛けよりも上掛けに向いています。逆に飴釉を下に掛けて志野釉白萩釉を上に重ねると、互いの流れ方の差で剥離や流れ落ちが起きやすくなります。


具体的に有効な組み合わせをいくつか挙げます。


- 🎨 飴釉(上)+藁灰釉(下):境界部分に窯変が起きやすく、緑〜茶色のグラデーションが生まれる。朝鮮唐津的な表情に近づく。


- 🎨 飴釉(上)+並白釉(下):白地の上に流れた飴釉が「景色」として残り、焼締め土との相性も良い。


- 🎨 飴釉(単独)+マンガン添加量を部分的に変える:同じ器の内側と外側で鉄分量を変えることで、色の濃淡を意図的に作れる。


重ね掛け時の施釉厚は要注意です。2種の釉を重ねた部分は実質的に厚みが倍になります。合計で1.5mm以上になると流れ落ちのリスクが急上昇します。釉薬を重ねる際は、それぞれを通常の7割程度の厚みで掛けるのが実践的な目安です。


また、飴釉の流れやすさを逆手に取る方法もあります。器の口から飴釉を半分だけ掛け、下半分は別の釉薬を掛けるとすることで、焼成中に飴釉が流れ下りながら下釉と融合し、独特の窯変模様が生まれます。これは「二重掛け」の中でも技術的に少し難しい手法ですが、飴釉の「流れる性質」を最大限に活かす表現です。


焼成後の確認作業も大切です。窯出し後すぐに高台の状態を確認し、次回の施釉時に高台から掛け止める位置を微調整します。数回の焼成記録を手元にメモしておくと、再現性が大幅に上がります。


記録を残すことが上達の近道です。


釉薬調合のテストや施釉作業をもっと体系的に進めたい場合は、ゼーゲル式(釉薬の化学式)を学ぶことで、配合の意図が数値として見えるようになります。入門書としては月刊『陶工房』(誠文堂新光社)の釉薬特集号が参考になります。


飴釉を含む複数の釉薬配合例と実際の焼成結果写真(陶磁器工房 器楽)




櫛目 11皿 アメ釉 M06902