若手作家の朝鮮唐津は古唐津より軽い
朝鮮唐津を手がける作家は、中里無庵を起点とする系譜と、独自路線で研究を重ねる作家の2つに大きく分かれます。中里無庵は唐津焼の復興に尽力した第一世代で、その後を継いだ逢庵、重利、隆といった第二世代は技術を確立しました。面白いのは、中堅世代が前衛的で新しい釉薬表現を追求したのに対し、30代の若手作家は再び古唐津の原点に回帰しているという点です。
これは単なる復古ではありません。若手作家は先輩世代すべての技術を吸収し、現代的に再構築しているのです。
例えば矢野直人氏は、父も陶芸家でしたが父の下で修業せず、弟子入りもしませんでした。有田の窯業学校で基礎を学び、古唐津研究会で諸先輩に教えを乞いながら独自の道を歩んだ作家です。1976年生まれの若手ながら、朝鮮唐津の花入、絵唐津の壺、斑唐津のぐい呑など桃山の古唐津を彷彿させる多彩な作品を生み出しています。
氏の作品には各世代の技法が見て取れますが、それは矢野氏なりに消化された「今の時代に合った唐津」なのです。荒々しい朝鮮唐津、繊細な山瀬の斑唐津、李朝を思わせる面取りされた黒唐津の壺など、作風の幅広さが特徴といえます。
個展初日には多くの人が列を作り、こぞって作品を選んでいます。現代人の好みに合う唐津が作れている証拠ですね。
朝鮮唐津は、鉄釉と藁灰釉を掛け分けた技法が特徴です。鉄釉の黒褐色と藁灰釉の白色が溶け合い、独特の景色を生み出します。桃山時代の朝鮮唐津は力強く荒々しい印象ですが、現代作家の作品は驚くほど軽量に仕上がっているものが多いのです。
どういうことでしょうか?
陶芸教室で作る作品は基本的に小さくて重たいのが一般的ですが、例えば鶴田先生の朝鮮唐津の樋口の水指は、結構大きくても500グラム程度しかありません。これは土作りと成形技術の違いによるもので、プロの作家は土の粒子を細かく調整し、轆轤の技術で薄く均一に成形することで軽量化を実現しています。
軽さは使い勝手に直結します。茶事で何度も持ち上げる茶碗や水指は、軽い方が扱いやすく疲れにくいのです。料理屋でも、配膳スタッフの負担を考えて軽量な作家ものが好まれる傾向があります。
作品の軽さを確認したい場合は、購入前に実際に手に取って重量感を比較することが基本です。同じサイズでも作家によって重さが100グラム以上違うこともあるため、複数の作品を持ち比べてみるとよいでしょう。
朝鮮唐津作家の作品は、ギャラリーでの個展や百貨店での唐津展で入手するのが一般的です。矢野直人氏の場合、毎年ほぼ例外なく東京での唐津展が開催され、これにより急速に名前が知られるようになりました。個展は作家と直接話せる貴重な機会でもあります。
価格帯はぐい呑で3万円台から、花入や水指で10万円以上が目安です。若手作家でも人気が出ると初日に完売することがあるため、事前に日程を確認し早めに会場へ足を運ぶ必要があります。
作品選びで迷ったら、使用目的を明確にすることが条件です。茶事用なら持ちやすさと軽さ、酒器なら口当たりと容量、花入なら安定感と花との相性を優先して選びます。
オンライン購入も可能ですが、実物を見ずに買うと釉薬の景色や質感が想像と異なる場合があります。初めて購入する作家の作品は、できるだけ実物を確認してから決めるのが無難です。ギャラリー一番館などの専門店では、作家の陶歴やプロフィールも詳しく教えてもらえるため、相談しながら選ぶとよいでしょう。
朝鮮唐津作家の中には、古唐津の復元に精力を傾ける研究者タイプの作家もいます。梶原靖元氏の朝鮮唐津花入には、古唐津の復元研究から生まれた不思議な魅力があると評価されています。古唐津がつくられた時代は、わずか20~30年間しかないという短期間です。
その短い期間に多様な技法が生まれた理由は、朝鮮陶工たちが各地で窯場をつくり競い合ったからです。豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に連れて帰られた陶工たちが、唐津焼の生産量拡大に貢献しました。現代作家は、この桃山期の古唐津を研究し、技法を解明して自分の作品に活かしています。
古唐津復元には、当時の土や釉薬の成分分析、焼成温度の推定、窯の構造研究など多岐にわたる知識が必要です。梶原氏のように古唐津に精通した作家の作品は、単なる模倣ではなく現代的解釈を加えた「新しい古唐津」として評価されています。
古唐津復元作品を購入する際は、作家がどの時代のどの窯跡を参考にしているか聞いてみるとよいでしょう。作家の研究姿勢や作品への理解が深まり、作品への愛着も増します。
朝鮮唐津作家の評価は、伝統技法の継承度と現代的表現のバランスで決まります。料理屋からの評価も重要な指標で、矢野直人氏のように料理屋から高い評価を得ている作家は、使い勝手と美しさを両立していることの証明です。唐津を代表する作家の仲間入りを果たすには、毎年安定した作品を発表し続ける持続力が求められます。
若手作家の中には、まだまだ成長を期待できる広い受け皿を持った作家が多数います。つまり、今後さらに技術が向上し作風が深まる可能性が高いということです。
投資目的で購入する場合は、作家の年齢と活動歴を確認しましょう。30代の若手作家で個展が毎年開催され、ギャラリーでの取り扱いが安定している作家は、将来的に価値が上がる可能性があります。ただし陶芸作品は株式投資とは異なり、すぐに換金できるわけではないため注意が必要です。
作品を楽しむなら、作家の成長を見守る姿勢が大切です。同じ作家の作品を数年ごとに購入していくと、技術の進化や作風の変化を肌で感じられます。これは陶芸コレクションの醍醐味の一つですね。
佐賀県では若手作家が唐津焼をどのようにブランディングできるかを模索する試みも行われており、行政のサポートを受けた作家は展覧会の機会が増え認知度が高まる傾向にあります。地域全体で唐津焼を盛り上げようとする動きは、作家にとっても購入者にとっても良い環境といえるでしょう。