備前焼の窯変は意図的に作り出せます。
窯変(ようへん)とは、陶磁器を焼く過程で窯の内部に生じる色相や質感の変化のことです。炎の性質や釉薬に含まれる鉱物、酸素の状態などが複雑に絡み合い、予測できない美しい模様や色彩を作り出します。
この現象は「火変わり」とも呼ばれます。薪を燃料にする窯では、燃焼時に発生する灰が作品に降り積もり、高温で溶けて釉薬と反応するためです。
窯変の結果は窯出しするまで分かりません。同じ条件で焼いても微妙な違いが作品ごとに生まれるため、窯変によって生まれる模様は世界に一つだけの個性となります。
つまり偶然の美ということですね。
参考)美の化身、窯変:陶器の個性を楽し…
中国の陶芸では、窯変は古くから神秘的な現象として珍重されてきました。特に建窯系の鉄質黒釉や均窯系の銅質紅釉に現れる窯変が有名で、曜変天目茶碗のような国宝級の作品も窯変によって生まれています。
参考)備前焼の魅力③ 備前焼の『窯変』の定義: 黒田草臣ブログ 『…
窯変は胎土や釉薬に含まれる鉱物の性質と、炎の酸化・還元の状態が相互作用して起こります。酸化焔は酸素が豊富な状態、還元焔は酸素が不足した状態を指し、それぞれ釉薬の発色に異なる影響を与えます。
参考)窯変 ようへん
鉄分を多く含む粘土や釉薬は、特に窯変を起こしやすい素材です。備前焼では鉄分の多い粘土を使い、赤松で一週間から一ヶ月以上焼成するため、器肌が変化しやすい環境が整っています。
窯の中の配置場所によっても窯変の現れ方は変わります。焚口に近い場所では薪の灰が多く降りかかり、奥の方では酸素の状態が異なるためです。
配置が結果を左右するということですね。
釉薬を施していない焼締の作品でも、灰が自然に降り積もることで窯変が生じます。備前焼の胡麻(ゴマ)は、器肌にゴマ粒のように斑点状に灰が溶けて付着したもので、色によって黄胡麻などと呼ばれます。
興味深いことに、窯変の定義は産地によって大きく異なります。これは各産地の焼成方法や文化的背景が反映された結果です。
備前焼の窯変
備前では意図的に窯変を作り出すことが可能です。登窯の間仕切りにある「素穴」や「巣穴」と呼ばれる小さな穴の近くに作品を配置すると、下の部屋から飛んできた胡麻が降りかかり、反対側は薪の焦げや灰に埋もれて黒・青・灰色などの変化が生まれます。
これを「桟を切った」と呼び、窯変のとれる場所でしか窯変は生まれてこないため、備前の窯変は偶然ではないとされます。
つまり計算された美なのです。
萩焼の窯変
萩では白萩釉を火前で焼成すると、燃料の自然降灰がかかり紫灰色などに変化したものを窯変と呼びます。備前とは異なり、降灰による色の変化に着目した定義です。
唐津焼の窯変
唐津では焚口に近い場所に置かれた作品に投げ入れた薪が当たり、偶然に熾きに転がって埋もれ、焦げてしまったものを窯変と呼びます。アクシデント的な変化を窯変とする考え方です。
窯変による模様を鑑賞する際は、作り手の意図を想像すると作品をより深く楽しめます。窯の中に無作為に置いて偶然できたのか、それとも一面に施釉と炭を配して狙った変化なのか、推測することで鑑賞の幅が広がります。
色の重なりや模様の境界線に注目してみましょう。窯変によって生まれた色彩は、釉薬の流れや灰の降り積もり方が立体的な模様を形成しています。
同じ窯で焼いた作品でも、配置場所によって全く異なる表情を見せます。備前焼の金重愫による窯変花入は、カセ胡麻と窯変による自然桟切の名作として知られ、一つの作品に複数の窯変が組み合わさった景色を楽しめます。
予測不可能な美しさこそが窯変の最大の魅力です。自然の力を感じさせる窯変は、陶器が持つ温もりと共鳴し、見る者を引き込みます。
これが窯変の本質ですね。
自分で窯変作品を作る場合、まず理解すべきは窯の特性です。電気窯とガス窯、薪窯では窯変の現れ方が根本的に異なります。薪窯は灰が自然に降り積もるため窯変が起こりやすく、電気窯では意図的に灰や釉薬を配置する必要があります。
釉薬や化粧土を作品の一部に塗ることで、窯変の効果を狙えます。全面に施釉するのではなく、部分的に塗ることで変化にメリハリが生まれ、より印象的な仕上がりになります。
ただし初心者が陥りやすい失敗があります。それは窯変を狙いすぎて、作品全体のバランスを崩してしまうことです。窯変はあくまで作品の一部として機能するものなので、造形美との調和を考えましょう。
焼成温度や焼成時間の管理も重要です。鉄分を多く含む粘土は高温で長時間焼くほど変化しやすくなりますが、焼きすぎると作品が変形したり、釉薬が流れすぎたりするリスクがあります。
温度管理が成功の鍵です。
陶芸教室で薪窯焼成の機会があれば、ぜひ参加してみてください。薪窯特有の窯変を体験することで、炎と灰がもたらす自然の造形美を実感できます。
窯変は中国陶芸の長い歴史の中で、常に芸術家やコレクターの注目を集めてきました。特に曜変天目茶碗は国宝三碗として知られ、それぞれ異なる焼き上がりを見せています。
しかし歴史的には、窯変は必ずしも肯定的に受け止められてきたわけではありません。予定と異なる結果が出ることから、かつては「失敗作」と見なされることもありました。現在でも窯は一回で焼いたものこそ正しいと信じている人が僅かながら残存しています。
現代の陶芸では、窯変を積極的に取り入れた作品制作が主流です。技術の進歩により人工的に窯変を再現できるようになり、意図的にこの現象を得ることに成功しています。
窯変の仕組みを理解することで、作陶や鑑賞の幅が大きく広がります。作品の個性と魅力は造形だけではなく、窯変によってより深みを増すという認識が、現代陶芸の基本になっています。
陶芸を趣味として楽しむ人にとって、窯変は自分の感性を表現する重要な要素です。想像力を働かせて一から土を形成し焼き上げ、予測できない窯変という自然の力と協働することで、唯一無二の作品が生まれます。
これこそが陶芸の醍醐味ですね。
参考)陶芸を作る魅力