白萩釉の調合で知るべき原料と焼成の全知識

白萩釉の調合はただ原料を混ぜるだけでは美しい白が出ない。長石・藁灰・土灰の割合から天然灰の精製まで、失敗しないための正しい知識を知っていますか?

白萩釉の調合で押さえるべき原料・手順・焼成の全知識

焼く前は真っ黒な釉薬が、窯の中で雪のような白に変わります。


この記事でわかること
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白萩釉の基本と特徴

藁灰・長石・土灰の3原料が「分相」という現象を起こすことで、あの乳白色が生まれる仕組みを解説します。

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調合レシピと原料の選び方

代表的な調合比(長石20:土灰30:藁灰50など)と、長石の種類によって配合を変えるべき理由を具体的に紹介します。

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施釉・焼成の失敗しないポイント

厚さ0.7〜0.8mmの施釉厚・焼成温度1220〜1260℃など、実践で役立つ数値と天然藁灰の灰汁抜き手順まで網羅します。


白萩釉の調合で知っておきたい「分相」の仕組み


白萩釉の白さは、「白い顔料を混ぜているから」ではありません。実はこれ、意外と知られていない事実です。


釉薬の中で起きる「分相(ぶんそう)」という物理現象が、あの独特の乳白色を生み出しています。分相とは、高温で溶けたガラス質の釉が冷却される過程で、性質の異なる2つ以上のガラス相に分離することです。まるでドレッシングのように水と油が分かれるイメージで、片方が流れるガラス質、もう片方が粒状のガラス質という構造になります。


この複数のガラス相が光を乱反射・屈折させることで、白く濁ったように見えるのです。つまり白萩釉が白いのは「白にするための物質」を加えた結果ではなく、自然現象の産物です。これは乳濁釉(にゅうだくゆう)と呼ばれる釉薬のカテゴリに属します。


分相を起こす鍵を握るのが藁灰です。藁灰(稲藁を燃やした灰)には約70〜80%のシリカ(珪酸分)が含まれており、これが非晶質なガラスになりやすい性質を持っています。さらに藁灰に含まれる数パーセントのリン酸分が、分相を促進する乳濁剤として働きます。


つまり「分相が白萩釉の要」が原則です。


失透釉(しっとうゆう)やマット釉との違いも整理しておくと理解が深まります。失透釉やマット釉は「結晶性」の不透明感であるのに対し、白萩釉のような乳濁釉は「非晶質性」の不透明感です。見た目の白さは似ていても、その原理はまったく別物というわけです。


乳濁釉の仕組みと調合例について詳しく解説(陶磁器お役立ち情報)


分相が安定して起きるかどうかは、原料の配合比・焼成温度冷却速度にも左右されます。そのため白萩釉は「毎回まったく同じ仕上がりにはならない」釉薬でもあります。この不安定さこそが陶芸家を魅了する要素でもあり、同時に初心者を悩ませる要因でもあります。


白萩釉の調合レシピと長石の種類による使い分け

白萩釉の基本的な調合比として、最も広く知られているのは以下のような構成です。


原料名 配合比(%) 役割
長石(三雲・福島など) 20〜40 熔かす・接着・ガラス化
土灰(どばい) 30〜40 熔かす(CaO主成分)
藁灰(わらばい) 40〜50 ガラス化・乳濁促進


代表的な調合例として「三雲長石20:土灰30:藁灰50」があります。この割合は萩焼の伝統に近い白萩釉の基本形とされており、グレーズマスターなどの調合ソフトでも参照されています。


ただし、これは「長石理論値に近いカリ長石」を前提にした数値です。長石の種類によって釉の化学組成が変わるため、使う長石に合わせて配合比を調整する必要があります。長石には多くの種類があり、主なものを整理すると次のようになります。


  • 🪨 三雲長石・福島長石:カリ長石系。白萩釉の標準的な基礎になりやすい。長石40:藁灰40:石灰20が目安。
  • 🪨 戸長石(かまどちょうせき):ソーダ系長石で珪酸分が多め。藁灰の割合を少し減らし石灰を増やして調整する。目安は釜戸長石40:藁灰30:石灰30。
  • 🪨 藁灰なし・珪石で代替:藁灰が入手困難な場合は珪石に置き換え可能。長石50:珪石30:石灰20、外割で骨灰3%が一例。


「長石の種類で調合が変わる」が基本です。


骨灰(こつばい)を外割で3%程度添加すると、リン酸カルシウムが分相をさらに促進し、乳濁の深みが増すとされています。強制的に白い発色を出したい場合は、酸化チタン・ジルコン・酸化錫を加えることで、白萩釉に近い「白萩もどき」を作ることもできます。ただしこれらは天然灰を使う場合の灰釉特有の奥深い表情は出にくくなります。


なお、酸化亜鉛(亜鉛華)を2割ほど加えた調合でも乳濁釉を作れます。この場合は透明釉ベース(長石5:石灰石1:カオリン1:硅石3)に亜鉛華2を加えて珪石を1〜2割増やす形が一例です。


石灰白萩釉の調合比に関する専門的な回答(Yahoo!知恵袋)


白萩釉の調合に欠かせない天然藁灰の精製手順

天然藁灰を使って白萩釉を自作しようとすると、最初の壁になるのが灰の精製作業です。これを省略すると、釉薬のちぢれ・ブク(泡状の吹き)・釉剥がれ・濁りなどのトラブルが発生しやすくなります。


灰汁抜きが必要です。


灰汁(あく)とは灰に含まれるアルカリ性の水溶性成分のことで、そのまま釉薬にしてしまうと焼成時に問題を起こします。精製前のpH値は約10.5にのぼります。水簸後でもpH9前後に留まるため完全には中和されませんが、この工程を経るかどうかで釉薬の品質は大きく変わります。


精製の手順は次の3ステップです。


  • 🔸 ステップ①:篩い(ふるい)がけ…50目のフルイでゴミ・大きな不純物を除去する。
  • 🔸 ステップ②:水簸(すいひ)でアク抜き…水に浸し、毎日上澄みを捨てて新しい水に替える。これを2〜3週間繰り返す。
  • 🔸 ステップ③:天日干し…水簸後の灰を数日〜2週間かけてしっかり乾燥させる。


水簸にかける期間が2〜3週間というのは、決して誇張ではありません。師楽(陶shiraku)の資料でも「3週間かけてアクと不純物を取り除きやっと釉薬ができあがります」とされており、このプロセスを端折ることは仕上がりの失敗に直結します。


市販の精製済み藁灰を使えばこの工程はすべてスキップできます。これは使えそうです。


ただし精製済み品は天然藁灰に比べて成分が均一化されているため、「偶然の景色」や「個体差のある味わい」は出にくくなります。手間と表情の深みはトレードオフの関係にあります。


土灰(どばい)についても同様に水簸が必要です。土灰はナラ・クヌギ・樫などの雑木灰で、釉を熔かすための酸化カルシウム(CaO)を約30%含んでいます。土灰のpH値は水簸前が約10.5、水簸後が約9で、灰汁抜き後もアルカリ性が残ります。そのため素手での作業を避け、必ずゴム手袋を着用することが重要です。


釉薬を自作する際の原料精製の手順と注意点(陶磁器お役立ち情報)


白萩釉の調合後に失敗しない施釉・焼成の実践ポイント

調合が正しくても、施釉の厚みや焼成温度が合っていなければ白萩釉の白は出ません。


白萩釉の推奨施釉厚は0.7〜0.8mmを基準として、やや厚めに掛けることが必要です。薄く掛けすぎると乳濁が起こらず透明に近い釉になりやすく、厚く掛けすぎると垂れ・流れが生じて底板に貼りつくリスクがあります。釉の重さと表面張力のバランスが仕上がりを左右します。


焼成温度の目安は1220〜1260℃です。推奨焼成温度は1230℃とされることが多く、この温度帯で酸化焼成還元焼成いずれにも対応します。ただし同じ1230℃でも「ほんの少しの温度の違い」で溶けて透明になってしまうケースも報告されており(横浜・妙蓮寺の陶芸教室の記録より)、実際の焼成環境に合わせた微調整が欠かせません。


焼成雰囲気によって発色が変わります。酸化焼成では柔らかな乳白色に発色しやすく、還元焼成では白の中に青みが出ることがあります。天然藁灰を使った場合、還元焼成にするとツヤ消しの灰色がかった仕上がりになる場合もあります。


素地との相性も重要なポイントです。白萩釉は鉄分を含む赤土との相性が特に良く、赤土の鉄分が透けて見えることで白の乳濁感がより映える効果があります。白土に掛けると純白に近くなりますが、赤土との組み合わせのほうが萩焼らしい奥深い表情が出やすいとされています。


貫入(かんにゅう)が入るかどうかは、素地と釉薬の熱膨張係数の差によって決まります。白萩釉は比較的貫入が入りやすい釉薬ですが、これを「萩焼の七変化」と呼んで楽しむ文化もあります。使い込むうちにお茶などが染み込んで色が変化するのも、萩焼の醍醐味のひとつです。


チェックポイント 目安・推奨値
施釉厚 0.7〜0.8mm(やや厚め)
焼成温度 1220〜1260℃(推奨1230℃)
焼成雰囲気 酸化◎ 還元◎(発色が変わる)
相性の良い素地 赤土(鉄分入り)が特におすすめ
釉薬1kgに対する水の量 800〜1000mL(濃度を調整)


初めて自作する場合は、本番作品に掛ける前にテストピースを焼いて発色を確認することが原則です。調合比・施釉厚・焼成温度の3変数を記録しながら試験を重ねることで、再現性が高まります。


白萩釉の手作りから施釉・焼成までの実例紹介(陶shiraku)


白萩釉の調合を独自に深化させる「アレンジ調合」の視点

基本の白萩釉が一通りできるようになったら、次のステップとして調合のアレンジに挑戦する陶芸家も多くいます。これは検索上位ではあまり語られていない、実践者の視点からの知識です。


代表的なアレンジの方向性を整理すると、以下のような軸があります。


  • 🎨 石灰白萩釉(せっかいしろはぎゆう):長石40:藁灰40:石灰20が基本形。骨灰を外割3%追加すると乳濁感が増す。肉厚で流れやすい表情を作りやすい。
  • 🎨 藁灰白萩釉(わらばいしろはぎゆう):天然藁灰の比率を高め(50%前後)た伝統に近い調合。不安定だが窯変の景色が豊か。
  • 🎨 乳白萩釉(にゅうはくゆう):窯変をより強調したタイプ。酸化チタンや酸化錫を数%加え、安定した白濁を出しやすくしたもの。
  • 🎨 雪白萩釉(ゆきしろはぎゆう):三輪家の「休雪白」に代表されるような、極めて純白に近い発色を目指した調合。見島土(鉄分の多い化粧土)を素地に施して下地を黒くし、その上に白萩釉を掛けることで白さのコントラストを最大限に引き出す技法。


アレンジは記録が命です。


調合比を少しでも変えた場合は必ず記録を残し、焼成後の発色と対応づけておく習慣をつけることが重要です。天然灰は採取場所・季節・精製具合によって成分が微妙に異なるため、同じレシピでも結果が変わることがあります。


グレーズマスター(showzangama.com提供の調合変換ツール)のようなソフトウェアを使うと、手持ちの原料で同一のゼーゲル式(化学組成)を再現するための換算ができます。これにより「いつもの長石がなくても似た釉薬を作る」「雑誌や書籍のレシピを自分の材料に変換する」といった応用が可能になります。


白萩釉の調合比を別の原料に変換する「グレーズマスター」の使い方(松山窯)


もうひとつ見落とされがちな視点が、「市販の白萩釉と自作白萩釉の乳濁メカニズムの違い」です。市販品の多くは不安定な天然藁灰を使わずに、化学的に安定した原料(酸化チタン・珪酸ジルコニウムなど)で乳濁を再現しています。安定した発色は得やすい反面、天然灰特有の自然な濃淡・窯変の面白さは出にくくなります。


市販品か自作かを選ぶ基準は「再現性を取るか、偶然性を楽しむか」という個人の価値観次第です。どちらが正解というわけではありません。つまり目的次第です。


初心者には市販の調合済み液体釉薬(ワラ灰白萩釉など2リットル入り・1,000〜2,000円前後)から始め、慣れたら天然灰を使った自作に移行するルートが、失敗コストを最小化しながら白萩釉の奥深さを体験できる現実的な道筋といえます。




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