市販のマット釉を使えば初心者でも簡単と思っていませんか?
マット釉の調合には3つの主要材料が必要です。
長石は釉薬のベースとなる材料で、全体の40~50%を占めます。カリ長石とソーダ長石があり、カリ長石の方がマット感を出しやすい特徴があります。釉薬の溶け具合を調整する役割も担っているため、配合比率の微調整が重要です。
石灰石はマット感を生み出す最重要材料です。
全体の15~25%程度配合します。
炭酸カルシウムとして釉薬に加えることで、焼成時に結晶を形成してマットな質感を作り出します。多すぎると釉薬が白濁しすぎたり、剥がれやすくなるので注意が必要です。
珪石は釉薬の硬度と安定性を高める材料です。
全体の25~35%を目安に配合します。
マット釉では珪石の比率を透明釉より少なめにすることで、結晶化を促進してマット感を強調できます。粒度の細かい珪石を使うと、より均一な質感が得られます。
これが基本です。
焼成温度によって最適な配合比率は大きく変わります。1230℃での酸化焼成を基準に考えると、長石45%、石灰石20%、珪石30%、カオリン5%が標準的な配合です。
1250℃以上の高温焼成では、石灰石の比率を17~18%に減らす必要があります。高温になるほど釉薬の流動性が増すため、マット感を維持しながら適度な光沢を残すバランスが重要です。長石の比率を48%程度に増やし、珪石を28%に調整することで、高温でも安定したマット感が得られます。
1200℃以下の中温焼成では、逆に石灰石を22~25%に増やします。低温では結晶化が進みにくいため、石灰石の比率を上げることでマット効果を補います。ただし、25%を超えると釉薬の密着性が低下するリスクがあります。長石を42%、珪石を28%程度に調整すると良いでしょう。
温度が10℃変わるだけで仕上がりは変わります。
還元焼成の場合は、酸化焼成より石灰石を2~3%減らすのが基本です。還元雰囲気では釉薬の流動性が増すため、やや控えめの配合で十分なマット感が得られます。
陶芸三昧の釉薬調合技法ページでは、温度別の詳細な配合表と焼成時の注意点が解説されています
材料の品質と粒度が仕上がりを大きく左右します。
特に長石と石灰石の選択が重要です。
長石は産地によって成分が異なります。国産のカリ長石は韓国産や中国産に比べてカリウム含有量が高く、マット感が強く出る傾向があります。価格は国産が1kg あたり200円前後、輸入品が150円前後です。初めて調合する場合は、成分が安定している国産の福島長石や三石長石がおすすめです。
石灰石の粒度は200メッシュ以下を選びましょう。粒度が粗いと釉薬の表面に凹凸ができ、ムラの原因になります。工業用の炭酸カルシウムでも代用できますが、陶芸用に精製された石灰石の方が不純物が少なく安定した結果が得られます。1kg あたり100~150円程度で入手できます。
粒度で仕上がりが変わります。
珪石は325メッシュ程度の細かさが理想的です。粗い珪石を使うと、釉薬の透明度が下がりすぎてマット感というより濁った印象になります。珪砂ではなく珪石粉を選ぶことで、より滑らかな質感のマット釉が作れます。
3~7%程度の少量配合で十分です。
多すぎると釉薬が厚塗りになり、剥がれやすくなります。水簸カオリンより焼成カオリンの方が、マット釉には適しています。
マット釉に色をつける場合、着色材の添加量は透明釉の1.5~2倍必要です。マット釉は表面の結晶構造が光を拡散するため、同じ量の着色材でも発色が弱くなるからです。
酸化銅を使った緑色のマット釉では、2~4%の添加が標準です。透明釉なら1~2%で十分な緑色が出ますが、マット釉では倍量必要になります。3%を超えると深い青緑色になり、4%で濃い緑色が得られます。還元焼成では銅赤になるため、酸化焼成専用の着色材として扱いましょう。
酸化鉄は茶色から黒色まで幅広い色を作れます。2~3%で淡い茶色、5~8%で濃い茶色、10%以上で黒に近い色になります。酸化鉄は釉薬の流動性を高める作用があるため、5%以上添加する場合は石灰石を1~2%減らして調整します。ベンガラ(酸化第二鉄)の方が発色が安定しています。
倍量が必要です。
酸化コバルトは青色を出す強力な着色材です。0.5~1%という少量でも鮮やかな青色が得られます。マット釉でも1~2%で十分な発色があります。ただし高価な材料なので、まずは0.5%から試して徐々に増やすのが経済的です。
酸化マンガンは紫から茶色の中間色を作ります。2~4%で紫がかった茶色、5~7%で濃い紫褐色になります。単独では地味な色ですが、酸化鉄や酸化コバルトと組み合わせることで、深みのある複雑な色調が生まれます。
実際に調合する際の具体的なレシピを紹介します。1230℃酸化焼成用の基本レシピは以下の通りです。
基本マット釉レシピ(100g換算)
このレシピで作った釉薬は、白色から淡いクリーム色の柔らかなマット質感になります。初めて調合する方は、まずこのレシピで試してみるのがおすすめです。
マット感が強すぎる場合は、石灰石を2~3g減らして長石を同量増やします。逆にマット感が弱い場合は、石灰石を2g増やして珪石を2g減らしましょう。1回の調整は2~3%以内にとどめることが重要です。大きく変更すると、予想外の結果になるリスクがあります。
2~3%の調整が基本です。
釉薬の流れが悪い場合は、長石を3~5g増やします。逆に流れすぎる場合は、カオリンを1~2g追加して粘性を上げます。カオリンは少量で効果が大きいため、1g単位で慎重に調整してください。
水の量は粉末100gに対して70~80mlが標準です。マット釉は透明釉より少し濃いめに調整すると、均一な厚みで塗れます。筆で塗る場合は75ml、浸し掛けなら80ml程度が目安です。
色付きマット釉のレシピ例(1230℃酸化焼成)
青マット釉。
緑マット釉。
茶マット釉。
これらのレシピは出発点として使い、自分の窯の特性に合わせて微調整していきます。同じレシピでも窯によって結果が変わるため、テストピースで必ず確認しましょう。10cm角程度のタイルに釉薬をかけ、本焼成と同じ条件で焼いて評価します。
調合した釉薬は、必ず200メッシュの篩で濾してください。ダマや不純物を取り除くことで、均一な仕上がりが得られます。篩に残った粗い粒子は乳鉢で再度すりつぶし、もう一度濾すと無駄がありません。
日本陶芸技術協会のデータベースでは、500種類以上の釉薬レシピと調整方法が公開されています
保存する際は、釉薬を密閉容器に入れて日付とレシピをラベルに記録します。1週間以上保管する場合は、使用前によく攪拌してください。沈殿した成分を均一に混ぜ直さないと、施釉時にムラができます。
調合記録を残すことも重要です。配合比率、焼成温度、窯の種類、仕上がりの写真をノートに記録しておくと、次回以降の調整がスムーズになります。デジタルカメラで撮影する際は、自然光の下で撮ると実物に近い色が記録できます。
記録が次の成功を作ります。