酸化マンガン塩素酸カリウムと触媒反応釉薬着色

酸化マンガンと塩素酸カリウムの化学反応は陶器釉薬の着色だけでなく酸素発生実験でも重要な役割を果たします。触媒作用や焼成条件で変化する発色の秘密をご存知ですか?

酸化マンガンと塩素酸カリウムの関係

酸化マンガンと塩素酸カリウムの主な特徴
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触媒反応の実用性

二酸化マンガンが塩素酸カリウムの分解を促進し、効率的な酸素発生を実現する化学反応

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陶芸における着色効果

釉薬に添加することで茶色から黒色まで多彩な発色を生み出す着色原料としての機能

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焼成条件による色変化

酸化焼成と還元焼成で異なる発色を示し、作品の表現幅を広げる化学的特性

酸化マンガンが塩素酸カリウムに与える触媒作用

二酸化マンガン(MnO₂)は塩素酸カリウム(KClO₃)の熱分解反応において重要な触媒として機能します。この反応は化学式で2KClO₃→2KCl+3O₂と表され、塩素酸カリウムが加熱されると塩化カリウムと酸素に分解されます。
参考)酸化マンガン(IV)に塩素酸カリウムを加えて加熱したときの反…

 

触媒とは反応の速度を上げながら、反応前後で自身の質量が変化しない物質を指します。二酸化マンガンの添加により、塩素酸カリウムは通常よりも低い温度で効率的に分解され、酸素ガスが発生します。この反応は過酸化水素水にオキシドールを加える実験と同様の原理で、中学・高校の化学実験で頻繁に利用されています。
参考)【高校化学】「酸素の製法」

 

意外な事実として、この反応は2段階で進行しており、まず塩素酸カリウムの自己酸化還元反応によって過塩素酸カリウムが生成され、その後に酸素が発生するという複雑なメカニズムを持っています。触媒である二酸化マンガンは反応式の矢印の上に記載されることが一般的です。
参考)無機化学 第19回 酸素

 

酸化マンガンを用いた釉薬の着色技法

陶芸の世界では、二酸化マンガンや炭酸マンガンが釉薬の重要な着色原料として使用されています。マンガン化合物は添加量によって白色、淡黄色、茶色、褐色から茶系黒色まで幅広い色調を生み出すことができます。
参考)釉薬着色剤 (金属類)|陶芸.com|陶芸の専門店 陶芸用品…

 

基礎釉に1%(外割り)の二酸化マンガンを添加すると、還元焼成では白色、酸化焼成では淡い黄色に発色します。5%の添加では還元焼成で黄色、酸化焼成で薄茶色から赤紫に変化し、特に強い酸化雰囲気では三価のマンガンが発生して紫色を呈します。さらに10~30%と添加量を増やすと、酸化・還元に関係なく濃い褐色になっていきます。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/9c1e5cf67fc53329f3602121520ebc0e

 

炭酸マンガンは二酸化マンガンに比べて粒子が細かく、発色が柔らかいという特徴があります。使用量によってピンク系から茶色、黒系まで発色し、梅染交趾、紫硝子、アメ釉などの伝統的な釉薬に活用されています。飴釉など鉄を用いる釉薬の色合い調整にも使われ、添加量が多いと黒茶マットとなり金属質の光沢が現れます。
参考)https://www.georhizome.co.jp/soil_contamination/opportunity/glaze/

 

酸化マンガン釉薬の焼成条件と発色変化

マンガン釉薬の発色は焼成温度、焼成雰囲気、昇温速度、冷却速度など細かな条件によって大きく左右されます。焼成雰囲気における酸化と還元の違いが、特に重要な要素となります。
参考)焼き物を科学する③:美しさを追求した釉薬(市川しょうこ/化学…

 

酸化焼成とは窯の中に酸素が豊富にある状態で、通常の空気をそのまま取り込んだ環境を指します。この状態では金属イオンが酸素と結びつきやすく、マンガン釉薬は酸化焼成の方が還元焼成より透明感が出やすい傾向があります。一方、還元焼成では窯内の酸素供給を減らすことで、釉薬中の金属イオンが酸素を失い、酸化状態とは異なる色合いを示します。
参考)酸化焼成と還元焼成の違いは何ですか?

 

興味深いことに、アルミナと硼酸を含む釉薬に酸化マンガンを添加すると、濃い赤紫系の褐色になるという特殊な発色も知られています。また、マンガンの添加量を30%まで増やすと「マンガンラスター」と呼ばれる、表面にキラキラしたマンガンの結晶が現れる効果も得られます。マンガン結晶釉は茶褐色地に黄色の斑点が現れ、還元よりも酸化焼成の方が出やすいという特性があります。

酸化マンガンと他の金属酸化物の併用効果

陶芸釉薬において、酸化マンガンは単独使用だけでなく、他の金属酸化物と併用することでさらに多彩な表現が可能になります。実験例として、基礎釉3号8.0g、フリット2.0g、CMC薬さじ半分を混ぜた後、純水30gを加え、酸化マンガン0.9gまたは塩化コバルト0.9gをそれぞれ添加する方法があります。
参考)https://school.gifu-net.ed.jp/ena-hs/ssh/H30ssh/sc2/21836.pdf

 

酸化マンガンを使用した場合、酸化銅の時よりも多くの艶が見られますが、塗布方法に注意が必要です。筆で一回しか塗らないと中心部分だけに艶が現れ、端がざらざらする傾向があるため、浸透しなくなるまで複数回塗ることで全体に均一な艶を得ることができます。
鉄と併用することでゴスの色合い調整にも効果を発揮します。また、二酸化マンガン約20%に酸化銅3%、酸化クロム0.5%程度を含ませることで金色ラスター釉を作ることも可能ですが、発色は不安定という特徴があります。このように複数の金属酸化物を組み合わせることで、単独では得られない独特の色彩や質感を生み出すことができます。
参考)陶器原料の特徴 href="https://monofactory31.com/raw-material/" target="_blank">https://monofactory31.com/raw-material/amp;#045; MONO FACTORY

 

酸化マンガン使用時の安全性と保管方法

陶芸で使用する酸化マンガン(二酸化マンガン)や炭酸マンガンは、適切な取り扱いと保管が重要です。炭酸マンガンはベージュ色や黄土色の粉末状で提供されており、長期間空気に触れて酸化すると変色する性質がありますが、発色自体には影響しません。
参考)301 Moved Permanently

 

二酸化マンガンは黒色顔料として樹脂添加や陶磁器の釉薬に使用される一方、触媒としても機能する多用途な化合物です。保管時には湿気や直射日光を避け、密閉容器で保存することが推奨されます。作業時には粉塵を吸い込まないよう、マスクの着用や換気の良い場所での作業が望ましいです。
参考)二酸化マンガン - Wikipedia

 

実際の使用では、二酸化マンガンと炭酸マンガンは置き換え可能ですが、炭酸マンガンの方が粒子が細かく発色が柔らかいため、還元用の色釉に適しているという違いがあります。黒マット釉を作る場合、基礎釉に二酸化マンガン15%、ベンガラ3%を添加し、1230度で電気窯の酸化焼成を行う配合例も報告されています。陶芸原料を扱う際は、各原料の特性を理解し、目的に応じた適切な選択と安全な取り扱いを心がけることが、美しい作品づくりの基本となります。
参考)陶芸の釉薬に添加するマンガンについて二酸化マンガンを炭酸マン…

 

釉薬の基礎研究と実験データ(岐阜県立高校SSH研究)
塩化コバルトと酸化マンガンを用いた釉薬の詳細な実験方法と焼成結果が記載されています。

 

酸素の製法(高校化学教材)
塩素酸カリウムと二酸化マンガンを使った酸素発生反応の化学式と触媒作用について分かりやすく解説されています。

 

焼き物を科学する:釉薬の化学
金属酸化物が生む色彩のメカニズムと酸化・還元焼成の違いについて詳しく説明されています。