炭酸マンガン作り方と釉薬への使い方

陶器や食器を作る際に重要な炭酸マンガンの製造方法と、釉薬への効果的な使い方を詳しく解説します。工業的製法から家庭での扱い方まで、陶芸に役立つ情報をお届けします。あなたの作品作りにどう活かせるでしょうか?

炭酸マンガン作り方と陶芸活用

炭酸マンガンの基礎知識
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化学式と性質

MnCO3で表される無機化合物で、陶器の釉薬や着色剤として広く使用される

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発色の特徴

茶色から黒色まで幅広い色調を表現でき、二酸化マンガンより柔らかい発色

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陶芸での用途

油滴天目釉などの特殊釉薬に添加し、釉調や発色を調整する重要な原料

炭酸マンガンの基本的な製造方法

 

炭酸マンガンの製造方法は、マンガン塩の水溶液とアルカリ金属の炭酸塩水溶液を混合することでピンク色の沈殿として得られます。工業的には、酸性マンガン溶液をアンモニア水でpHを7~8に調整し、その液に炭酸ガス(二酸化炭素)を吹き込むことで高純度の炭酸マンガンを製造します。この方法では、ナトリウムやカリウムの不純物含有量を100mass ppm以下に抑えることができ、高品質な製品が得られます。
参考)https://patents.google.com/patent/JP5106488B2/ja

具体的な製造例として、マンガン水溶液(pH0、マンガン濃度75g/L)250mlに対し、28%アンモニア水50mlを加えてpH7.1に調整します。このマンガン液に100ml/分の流量で二酸化炭素を吹き込み、3時間反応させることで、当初のマンガン水溶液に含まれるマンガンの約33%を炭酸マンガンとして回収できます。反応中は継続的にアンモニア水を添加し、pHを7~8に維持することで、より効率的な回収が可能になります。​
天然には菱マンガン鉱として存在し、2005年には約20,000トンが産出されました。炭酸マンガンは200℃で酸化マンガン(II)と二酸化炭素に分解する性質があり、この特性は乾電池やフェライトの原料となる二酸化マンガンの製造にも採用されています。
参考)炭酸マンガン(II) - Wikipedia

炭酸マンガン釉薬への配合と効果

炭酸マンガンは陶芸の釉薬において、茶色から黒色に至る幅広い色調を作り出す重要な着色剤です。透明釉薬に添加して色釉薬を作る際、二酸化マンガンに比べて粒子が細かく、炭酸塩のため還元用の色釉に特に適しています。添加量が増えるにつれて、色調は淡い黄色から茶色、そして濃い褐色へと規則的に変化する特徴があります。
参考)[陶芸の専門店]陶芸.com 炭酸マンガン 粉末 1kg:…

油滴天目釉の調合では、炭酸マンガンを1.95~3%程度添加することで、油滴が出来る温度周辺で粘性を下げる働きがあります。具体的な調合例として、福島長石55.3%、カオリン4.0%、珪石24.2%、タルク6.5%、酸化第二鉄5.4%、炭酸マンガン2.0%などの配合が報告されています。また、酸化コバルトを0.6%程度添加すると油滴が銀色になるなど、他の着色剤との組み合わせで多様な表現が可能です。
参考)https://blog.goo.ne.jp/meisogama-ita/e/f28670268b260d5b16d25ee59d1e7480

陶芸.com - 炭酸マンガンの詳細情報と使用方法
釉薬への添加量は、目指す色調によって調整します。少量では淡い発色、多量では濃い褐色から黒色まで表現できるため、テストピースを作成してデータを蓄積することが重要です。焼成温度は一般的に1230度前後の酸化焼成が多く、還元焼成では約1300度程度で異なる表情を見せます。
参考)酸化マンガンと陶磁器の釉薬における着色効果と活用法

炭酸マンガンと二酸化マンガンの使い分け

炭酸マンガンと二酸化マンガンは、どちらもマンガン系釉薬の着色剤として使用されますが、それぞれ異なる特性を持っています。炭酸マンガンはマンガン含有量が二酸化マンガンよりも少なく、約43.5%程度です。このため、発色が柔らかく、より繊細な色調表現に適しています。
参考)301 Moved Permanently

化学式で見ると、炭酸マンガンはMnCO3、二酸化マンガンはMnO2と表され、炭酸マンガンは焼成時に炭酸ガス(CO2)を放出します。この特性により、炭酸マンガンは還元焼成により適しており、粒子が細かいため釉薬への分散性も良好です。一方、二酸化マンガンはより強い発色を示し、酸化焼成に向いています。​
陶芸家の間でよくある質問として、「二酸化マンガンを炭酸マンガンに置き換えられるか」というものがあります。置き換えは可能ですが、マンガン含有量の違いにより配合比率の調整が必要です。黒マット釉などを作る際、二酸化マンガン15%を使用していた場合、炭酸マンガンではより多い量が必要になる可能性があります。長期間空気に触れると酸化して変色しますが、発色への影響はありません。
参考)陶芸の釉薬に添加するマンガンについて二酸化マンガンを炭酸マン…

炭酸マンガン保管上の注意点

炭酸マンガンを安全に取り扱うためには、適切な保管方法と注意事項を守る必要があります。保管の際は、直射日光を避け、容器を密閉して冷暗所に施錠して保管することが推奨されています。粉じんの発生や堆積を防止することが重要で、作業場には囲い式フードの局所排気装置またはプッシュプル型換気装置の設置が望ましいです。
参考)https://www.kohkin.co.jp/common/sds/ManganeseCarbonate.pdf

取り扱いの際は、すべての安全注意を読み理解するまで取扱わず、必ず保護具を着用することが必要です。容器を転倒させたり、落下させたり、衝撃を加えるなどの乱暴な取り扱いは避けなければなりません。また、この製品を使用する時には、飲食や喫煙をしないことが重要です。
参考)https://www.nichiku.co.jp/wp-content/uploads/2022/04/tansan_mangan.pdf

マンガンは必須元素であり、強い毒性は持ちませんが、粉塵の長期曝露によりマンガン中毒を引き起こす可能性があります。特に不溶性マンガンである二酸化マンガンや炭酸マンガンへの職業ばく露により、神経毒性の報告があるため、換気装置の使用とばく露の回避が重要です。排水溝や下水溝、地下室への流入を防ぐことも保管上の注意点として挙げられています。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/598-62-9.html

炭酸マンガンを使った釉薬レシピ集

炭酸マンガンを使った釉薬の配合には様々なレシピがあり、目的とする色調や質感によって調整が必要です。油滴天目釉(磁州窯系)の代表的な調合例として、福島長石65.3%、珪石24.0%、石灰石4.3%、焼滑石6.4%、酸化鉄7~9%という基礎釉に、炭酸マンガンを添加する配合があります。​
別の油滴天目釉のレシピでは、三雲長石32.5%、来待石67.5%、炭酸マンガン1.95%という配合も報告されています。より簡単な配合として、長石70%、土灰10%、藁灰20%、弁柄8%という組み合わせもあり、焼成温度は1250℃~1280℃が適しています。来待石60%、藁灰40%という極めてシンプルな配合でも、適切な焼成条件で油滴天目釉を得ることができます。​
ノーマン陶芸放浪記 - 油滴天目釉の詳細な調合と焼成方法
炭酸マンガンの添加量は、釉薬の粘性調整にも影響を与えます。油滴天目を作る際は、釉を葉書1~2枚程度の厚さに掛けることが推奨され、厚すぎると油滴が大きすぎて気泡の痕が残り、薄すぎると油滴が小さくなります。焼成は酸化焔で行い、冷却時間は長い方が良い結果が得られることが知られています。MgO成分を入れると粘性が下がり、油滴が出来やすくなるため、タルクなどのマグネシウム分を含む原料との組み合わせも効果的です。​

炭酸マンガン活用の意外なコツと応用

炭酸マンガンの活用において、意外に知られていないのが焼成雰囲気による発色の大きな変化です。酸化焼成と還元焼成では全く異なる色合いを楽しむことができ、同じ配合でも焼成方法を変えるだけで作品の表情が劇的に変わります。特に還元焼成では、炭酸マンガンは炭酸塩という性質上、二酸化マンガンよりも効果的に作用します。​
結晶釉を目指す場合、特定の温度帯でのゆっくりとした冷却過程が結晶の生成に重要な影響を与えます。炭酸マンガンを含む釉薬では、冷却過程での還元(炭化)も発色に影響するため、窯の端に赤土を少量入れて炭化の程度を確認する方法が実践されています。温度管理においては、昇温速度や保持時間も重要な要素となり、系統的なテストを行ってデータを蓄積することで、安定した発色を得るための知見を深めることができます。​
他の着色剤との組み合わせにより、さらに多様な表現が可能です。酸化コバルトとの組み合わせで銀色の油滴、弁柄との併用で深みのある茶色から黒色、酸化クロームとの組み合わせで独特の色調など、配合の工夫により無限の可能性が広がります。農作物のマンガン欠乏障害予防のための肥料添加や、医療分野での造血剤としての用途もあり、陶芸以外の分野でも重要な化合物として認識されています。​
炭酸マンガンを使いこなすには、基礎釉のアルカリ成分による発色の変化も理解しておく必要があります。石灰釉から石灰マグネシア釉に変えると色彩値に影響を与えることが研究で明らかになっており、釉薬の基本組成も発色に大きく関わっています。このような知識を積み重ねることで、自分だけのオリジナル釉薬を開発することも可能になります。​