オキシドールとマキロンは、どちらも家庭の救急箱に常備されている消毒薬ですが、主成分や効果、使い方には明確な違いがあります。オキシドールは過酸化水素2.5~3.5%を含む安価な消毒液で、傷口に塗布すると白い泡が発生して異物を除去する作用があります。一方、マキロンはベンゼトニウム塩化物を主成分とした消毒薬で、殺菌効果に加えてアラントインなど組織修復を助ける成分が含まれているため、オキシドールより高価ですが、傷の回復をサポートする機能があります。
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両者の最も大きな違いは、オキシドールが「消毒に特化」しているのに対し、マキロンは「消毒+組織修復」という複合的な効果を持つ点です。また、オキシドールは血液や粘膜に含まれるカタラーゼ酵素によって分解されてしまうため、カタラーゼを多く含む細菌への効果は限定的という特徴もあります。価格面では、オキシドールはドラッグストアで数百円程度で購入できる安価な製品ですが、マキロンは比較的高価な部類に入ります。
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オキシドールの主成分は過酸化水素(H₂O₂)で、日本薬局方では2.5~3.5w/v%の濃度と定められています。この成分が傷口の血液や粘膜に含まれるカタラーゼという酵素と反応すると、化学式2H₂O₂ → 2H₂O + O₂↑の通り、酸素が発生して白い泡となります。この発泡作用には、傷口の表面に付着した汚れや菌を物理的に浮かせて除去する効果があるため、異物除去に優れています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00011187.pdf
オキシドールの殺菌メカニズムは、過酸化水素が細胞内の鉄(Fe)と反応してヒドロキシラジカルという高エネルギー物質を生成し、細菌の細胞膜やDNAを破壊することで消毒効果を発揮します。ただし、カタラーゼを多く含む細菌に対しては効果が限定的であり、結核菌や大部分のウイルスには効果が期待できないという欠点があります。また、一般的な傷口消毒に使われるオキシドールの濃度3%は、ホワイトニング用の過酸化水素(35%以下)と比べてかなり低濃度ですが、それでも強い刺激性があるため取り扱いには注意が必要です。
参考)https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/260024_2616701Q4020_1_04.pdf
オキシドールは第3類医薬品に分類され、創傷・潰瘍の消毒や洗浄に使用されますが、原液のまま、あるいは2~3倍希釈して塗布・洗浄することが推奨されています。添加物としてフェナセチンやリン酸が含まれており、直射日光の当たらない冷所(30℃以下)に密栓して保管する必要があります。価格が非常に安価であることから、コストを抑えたい場合の消毒液として家庭で広く使用されています。
参考)オキシドール
マキロンの主成分はベンゼトニウム塩化物という陽イオン性界面活性剤で、細菌の細胞膜を破壊することで殺菌作用を発揮します。この成分は「逆性石鹸」とも呼ばれ、グラム陽性菌・陰性菌の両方に対して効果がありますが、結核菌や大部分のウイルスに対する効果は期待できません。医療現場でも手指や器具の消毒に使用されており、その優れた殺菌効果が認められています。
参考)塩化ベンゼトニウム - Wikipedia
マキロンSには、ベンゼトニウム塩化物(0.1g/100mL)に加えて、皮膚の組織修復を助けるアラントイン(0.2g/100mL)やクロルフェニラミンマレイン酸塩といった成分が配合されています。アラントインは傷の治癒を促進する作用があり、この点がオキシドールにはない大きな特徴です。また、マキロンには抗ヒスタミン成分も含まれているため、かゆみを抑える効果も期待できます。
参考)キズのトータルケアにマキロンs|第一三共ヘルスケア
マキロンの使用方法は、すり傷、切り傷、さし傷、かき傷、靴ずれ、やけどなどの患部に直接塗布するのが一般的です。オキシドールと異なり、傷口に塗布しても泡立つことはありませんが、複合的な成分により消毒と組織修復の両方の効果が得られます。ただし、ベンゼトニウム塩化物は石けんなどの陰イオン界面活性剤と併用すると作用が減弱するため、石けんで洗った後は十分に水で洗い流してから使用する必要があります。
オキシドールとマキロンの使い分けは、傷の状態や目的によって判断します。オキシドールは血が出ているような創傷部に使用すると、発泡作用によって傷口の汚れや異物を効果的に除去できるため、泥やゴミが付着した汚い傷の初期洗浄に適しています。特に、傷口に砂や土が入り込んでいる場合は、オキシドールの物理的な洗浄作用が有効です。
一方、マキロンは比較的きれいな切り傷やすり傷に適しており、消毒だけでなく傷の治癒を促進したい場合に選ぶべきです。組織修復成分のアラントインが配合されているため、治りを早めたい浅い傷や、やけど、靴ずれなどに向いています。また、マキロンは刺激が比較的少ないため、オキシドールの刺激が気になる方にも適しています。
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ただし、現代の創傷治療では「消毒をしない」という考え方が主流になりつつあります。イソジンやオキシドールなどの強めの消毒液は、細菌だけでなく傷の治癒に必要な正常細胞も破壊してしまうため、治りを遅らせる可能性があるとされています。マキロンのような弱めの消毒液であれば経験的に傷の治癒が劇的に変わるわけではありませんが、強い消毒液の使用は避けるべきだという意見が医療現場で広まっています。
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現在推奨されている「湿潤療法」では、傷を水道水でよく洗い流し、消毒せずに創傷被覆材(キズパッド)で覆って乾燥させない方法が採用されています。この方法は傷の治りが早く、痛みも少ないとされており、抗生物質も感染が実際に起こった場合にのみ使用します。したがって、軽い傷であればオキシドールやマキロンを使わず、水道水でよく洗って湿潤環境を保つ方が望ましいケースも多いのです。
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オキシドールの副作用として、口腔粘膜への刺激症状が報告されており、洗口に使用した際に口腔粘膜に潰瘍が生じた事例があります。また、3%前後の濃度でも悪心や嘔吐を引き起こすことがあり、口内炎、咽頭・喉頭炎、食道炎をはじめとした消化管の炎症を起こす可能性もあります。さらに、オキシドールを誤飲した場合、有機物との接触により分解して多量の酸素が発生し、消化管内で泡沫を形成する危険性があります。
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長期大量投与による発癌性についても研究されており、マウスに0.1%及び0.4%を74日間投与した実験では十二指腸癌の発生が認められています。ただし、ラットを用いた別の実験では腫瘍発生率に有意な差がなく、動物種によって結果が異なることが示されています。このため、通常の外用使用であれば問題ありませんが、長期間の大量使用は避けるべきです。
マキロンの主成分であるベンゼトニウム塩化物についても、副作用として発疹やそう痒感などの過敏症が報告されています。また、逆性石鹸の性質上、陰イオン界面活性剤と併用すると殺菌効果が減弱するため、石けんで洗浄した後は十分に水で洗い流してから使用する必要があります。さらに、使用濃度を守らないと症状の悪化や副作用が起こる可能性があり、オキシドールと同様に注意が必要です。
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両製品とも、保管方法には十分な注意が必要です。オキシドールは直射日光の当たらない冷所(30℃以下)に密栓して保管し、開封後も容器に記載の使用期限まで使用できますが、ふたが開いたままの状態が1日以上続いた場合は水分やエタノールが蒸発して成分濃度が変わるため、廃棄するべきです。消毒液は常に戸棚や薬箱など決まった場所に保管し、使用後は必ずふたが閉まっているか確認する習慣をつけることが大切です。
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陶器や食器を扱う趣味を持つ方は、作業中に手を切ったり擦りむいたりするリスクが高く、適切な消毒液の選択が重要です。陶器の破片による切り傷は比較的きれいな傷であることが多いため、まずは水道水でよく洗い流し、出血が止まったらマキロンのような組織修復成分を含む消毒液を使用するのが適しています。一方、陶器制作時に土や釉薬が傷口に入った場合は、オキシドールの発泡作用を利用して異物を除去するのが効果的です。
参考)「傷は乾かさない、消毒しない」キズを治す新しい考え方
ただし、現代の創傷治療の考え方では、軽い傷であれば消毒液を使わず、水道水でよく洗って湿潤環境を保つ「湿潤療法」が推奨されています。この方法は傷の治りが早く、痛みも少ないとされており、消毒液による正常細胞のダメージを避けられます。陶器制作や食器の手入れ中に軽い切り傷ができた場合は、まず水道水でしっかり洗い、出血が止まったら市販の創傷被覆材(キズパッド)を貼って乾燥させないようにするのが最良の選択です。
参考)擦り傷をきれいに治す、消毒しない・乾かさない・ガーゼを当てな…
陶器作業で深い傷や汚染が激しい傷を負った場合は、自己判断で消毒液を使用せず、速やかに医療機関を受診することが重要です。特に、錆びた道具や汚れた陶器の破片による傷、動物や人に噛まれた傷、ギザギザで汚い傷などは感染リスクが高く、専門的な処置が必要です。また、深い傷や大きな傷には消毒液よりも適切な洗浄と縫合が必要となるため、自己判断での処置は避けましょう。
参考)井上病院・井上クリニック|新創傷治療
家庭で陶器や食器を扱う際の傷予防策として、作業時には必ず手袋を着用し、割れた陶器の破片を扱う際は新聞紙に包んで処理するなどの工夫が必要です。万が一怪我をした場合に備えて、救急箱には水道水で洗浄できる環境、創傷被覆材、そして必要に応じてマキロンなどの軽度な消毒液を常備しておくと安心です。ただし、消毒液は開封後も適切に保管すれば使用期限まで使えますが、保管状態が悪いと効果が低下するため、直射日光を避け、涼しい場所に密栓して保管することが大切です。
参考)暮らしの薬学【局方品・消毒編】~③消毒剤の保管方法・使用上の…
<参考リンク>
オキシドールの成分と作用について詳しく解説
【薬剤師が解説】オキシドールにはどんな効果がある?似た消毒薬との違いは?
湿潤療法による最新の創傷治療法について
「傷は乾かさない、消毒しない」キズを治す新しい考え方
マキロンの成分であるベンゼトニウム塩化物の作用機序
マキロン アクネージュ 開発ストーリー