過酸化水素水二酸化マンガン化学反応式と触媒作用の仕組み

過酸化水素水に二酸化マンガンを加えると酸素が発生する化学反応について、反応式の詳細や触媒の働き、実験方法まで分かりやすく解説します。化学反応の仕組みを理解できていますか?

過酸化水素水二酸化マンガン化学反応式

この記事で分かる3つのポイント
⚗️
化学反応式の構造

過酸化水素の分解反応における正確な化学式と二酸化マンガンの役割を理解できます

🔬
触媒の働き方

活性化エネルギーを下げる触媒作用の原理と反応促進の仕組みが分かります

💡
実験での応用

水上置換法による酸素捕集と安全な実験手順を学べます

過酸化水素水の分解反応式とは

 

過酸化水素水に二酸化マンガンを加えたときの化学反応式は「2H₂O₂→2H₂O+O₂」となります。この反応では、過酸化水素(H₂O₂)が分解されて水(H₂O)と酸素(O₂)が生成されますが、重要なのは二酸化マンガンが反応式の中に表記されないという点です。
参考)二酸化マンガンに過酸化水素を入れた時の化学反応式がなぜあのよ…

二酸化マンガンは触媒として働くため、反応の前後で化学的に変化しません。触媒は自らは変化せず反応を促進させる物質であり、化学反応式には含まれないのが基本的なルールです。過酸化水素はゆっくりと自然分解しますが、二酸化マンガンの存在下では分解速度が劇的に速まり、勢いよく酸素が発生します。
参考)過酸化水素に二酸化マンガンを加えた時の反応式は?

この反応は中学校や高校の理科実験で頻繁に取り上げられる重要な化学反応の一つです。実験では通常3〜5%に希釈した過酸化水素水が使用され、市販の30〜35%濃度の過酸化水素水をそのまま使うと危険です。​

過酸化水素水と二酸化マンガンの触媒反応の仕組み

触媒が化学反応を加速させる仕組みは、活性化エネルギーの低下にあります。化学反応が起こるためには、反応物が活性化状態になる必要があり、そのために必要な最小限のエネルギーが活性化エネルギーです。
参考)触媒とはなに?触媒についてまとめて解説|受託試験|株式会社コ…

二酸化マンガンは過酸化水素と反応中間体を形成し、元の反応経路よりも活性化エネルギーが低い新しい反応経路を提供します。これにより、過酸化水素の分解反応が常温でも速やかに進行するようになるのです。触媒反応の詳しいメカニズムについては、いくつかの段階を経て進行すると考えられています。
参考)https://www.e-net.nara.jp/kyouka/index.cfm/20,436,c,html/436/20200604-190154.pdf

触媒は反応終了後も元の形のまま残るため、繰り返し使用することが可能です。実験後に二酸化マンガンを回収すれば、再び同じ実験に使うことができる点も触媒の大きな特徴といえます。
参考)二酸化マンガンに過酸化水素水を入れた化学式教えてください。 …

過酸化水素水分解実験における水上置換法

酸素の発生実験では、発生した気体を水上置換法で捕集するのが一般的です。水上置換法とは、水で満たした集気びんを逆さまにして水槽に入れ、発生した気体を水と置き換えて集める方法です。
参考)https://www.digirika.tym.ed.jp/wp-content/uploads/sansonohassei.pdf
​youtube​
実験装置は三角フラスコ、二球漏斗(またはガラス管付きゴム栓)、ゴム管、集気びん、水槽で構成されます。三角フラスコに二酸化マンガンを入れ、漏斗から過酸化水素水を少しずつ加えることで、反応速度をコントロールできます。酸素は水に溶けにくい性質があるため、水上置換法が適しています。
参考)酸素で試す(理科スタンダード)
​youtube​
実験開始直後は装置内の空気が押し出されるため、すぐに気体を集めず、しばらく待ってから捕集を始めることが重要です。集気びんに気体が十分に集まったら、水中でガラス板などで蓋をしてから取り出します。youtube+1​​

過酸化水素水と二酸化マンガン反応の応用と関連知識

この反応は単なる教材実験だけでなく、様々な応用例があります。生体内でも過酸化水素の分解は重要な反応であり、カタラーゼという酵素が触媒として働いています。傷口にオキシドール(過酸化水素水)を塗ると泡が出るのは、血液中のカタラーゼが過酸化水素を分解しているためです。
参考)ポストドクターコース(中学1~3年生)「触媒」 - 栄光サイ…

実験では二酸化マンガン以外にも、生レバーやジャガイモなど生物由来の物質を触媒として使用することができます。これらにはカタラーゼが含まれているため、同様に酸素を発生させることが可能です。ただし、生物由来の触媒は熱や酸・アルカリで変性しやすく、処理後は触媒能力を失います。
参考)触媒とは何か
​youtube​
過酸化水素水の保管には注意が必要で、直射日光や高温を避け、通風の良い冷暗所に保存する必要があります。濃度が高い過酸化水素は危険物に指定されており、取り扱いには十分な注意が求められます。
参考)https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-scie/jikken/pdf/1_001.pdf

Try ITによる酸素の製法に関する詳しい解説
こちらのページでは、過酸化水素と二酸化マンガンを使った酸素の製法について、映像授業で分かりやすく学ぶことができます。

 

発生した酸素の性質確認方法

水上置換法で集めた気体が酸素であることを確認するには、火のついた線香を使った助燃性の確認実験を行います。酸素には物質の燃焼を助ける性質(助燃性)があるため、通常の空気中では小さくなりかけた線香の火が、酸素中では激しく燃え上がります。youtube​
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-172.html

この助燃性は酸素の最も重要な性質の一つであり、日常生活でも様々な場面で利用されています。医療現場で使用される酸素吸入装置の近くでは火気厳禁とされるのも、高濃度酸素による燃焼拡大の危険性があるためです。実験では線香だけでなく、スチールウール(鉄)を燃焼させると明るい光を出して激しく燃える様子も観察できます。​youtube​
酸素濃度が高いほど燃焼は激しくなり、例えば純酸素中と空気中(酸素約21%)では燃え方に大きな差が生じます。集気びん中で線香を燃やすと、小さな音を立てて小爆発が起こることもあり、これも酸素の助燃性を示す現象です。youtube​​

陶器や食器製造における化学反応の意外な関係

陶器や食器の製造工程においても、過酸化水素や酸化マンガンを含む化学反応が関わる場合があります。陶磁器の釉薬には様々な金属酸化物が使用されており、マンガン化合物は茶色や紫色の発色に利用されることがあります。二酸化マンガンは酸化剤としての性質も持っており、陶芸の焼成過程での酸化還元反応に影響を与えます。
参考)二酸化マンガンについて

また、食器の洗浄や漂白には過酸化水素を主成分とする酸素系漂白剤が使われることがあります。酸素系漂白剤は湯を加えると過炭酸ナトリウムが分解して過酸化水素が生成され、さらに分解して酸素を発生させます。この酸素の酸化作用により、汚れや色素を分解して食器を清潔に保つことができるのです。
参考)過酸化水素って何?どうやって製造するの?何に使われるの?関係…

陶器の保管環境においても、湿度や温度管理が重要であり、これは過酸化水素の安定性が温度に大きく左右されることと似た化学的な原理が働いています。温度が高いほど化学反応は速く進むため、陶器の経年変化や食器の劣化も温度環境に影響を受けます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/9/6/9_360/_pdf/-char/ja