鉄砂とは|陶芸釉薬の発色原理と使い方

鉄砂は陶芸で使われる鉄分を含んだ釉薬の一種で、独特の黒褐色や茶色の発色が特徴です。焼成温度や施釉方法により表情が大きく変わり、初心者でも扱いやすい反面、知らないと失敗するポイントも。鉄砂の特性を正しく理解していますか?

鉄砂とは釉薬の種類と特徴

市販の鉄砂釉を薄く塗ると透明になって下地が見えます。


この記事の要点
🔍
鉄砂の基本

鉄分を含む釉薬で、酸化焼成で黒褐色・茶色に発色する陶芸の基本釉

🎨
発色の仕組み

酸化鉄の含有率と焼成温度で色が変化し、濃度調整が重要

⚠️
失敗を防ぐコツ

施釉の厚さと焼成雰囲気の管理が作品の仕上がりを左右する

鉄砂釉の成分と歴史的背景


鉄砂とは、酸化鉄(Fe₂O₃)を主な着色成分とする釉薬の総称です。日本では古くから使われてきた伝統的な釉薬で、特に茶陶の世界で重宝されてきました。


鉄砂釉の酸化鉄含有量は一般的に3~10%程度で、この数値によって発色が大きく変わります。3%程度なら薄茶色、7%を超えると濃い黒褐色になるのが基本です。


歴史的には、中国の宋代(960~1279年)に発展した天目釉が鉄砂系釉薬の代表例として知られています。日本では室町時代以降、瀬戸や美濃で鉄釉の技術が発達しました。


現代の陶芸では、市販の鉄砂釉が多数販売されており、初心者でも安定した発色を得やすくなっています。ただし、メーカーによって成分配合が異なるため、同じ「鉄砂」でも色調に差が出ることがあります。


購入時は必ず焼成見本を確認するのが賢明です。


鉄砂の発色メカニズムと温度依存性

鉄砂の発色は、酸化鉄が焼成時に化学変化を起こすことで生まれます。具体的には、酸化焼成(酸素が十分にある状態)では赤褐色から黒褐色に、還元焼成(酸素が不足する状態)では青黒色に変化します。


焼成温度によっても色が変わるのが鉄砂の特徴です。


  • 1200℃以下:茶色~赤褐色(酸化鉄が完全に溶けきらない)
  • 1230~1250℃:深い黒褐色(最も安定した発色域)
  • 1280℃以上:光沢が強くなり、場合によっては流れやすくなる

温度が高すぎると釉薬が溶けすぎて、作品の底部に流れ落ちるリスクがあります。初めて使う鉄砂釉は、まず1230℃前後でテストピースを焼いて様子を見るのが安全です。


また、焼成時の昇温速度も影響します。急激に温度を上げると気泡が残りやすく、表面にピンホール(小さな穴)ができる原因になります。


ゆっくり昇温させるのが基本です。


鉄砂釉の施釉方法と厚みの調整

鉄砂釉の施釉では、釉薬の厚みが仕上がりを大きく左右します。薄すぎると透明感が出すぎて下地の素地が見え、厚すぎると黒く重たい印象になったり、釉薬が流れ落ちたりします。


適正な厚みは0.5~1.0mm程度です。これは名刺1枚分(約0.2mm)を5枚重ねた程度の厚さをイメージしてください。


施釉方法は主に3つあります。


  • 浸し掛け:作品全体を釉薬に浸す方法で、均一に施釉できる
  • 柄杓掛け:柄杓で釉薬をすくって流しかける方法で、部分的な濃淡をつけやすい
  • 刷毛塗り:刷毛で塗る方法で、細かい部分の調整に向いている

初心者には浸し掛けがおすすめです。作品を3~5秒程度浸すだけで適正な厚みになります。


ただし、浸す時間が長すぎると釉薬が厚くなりすぎるので注意が必要です。釉薬の比重(濃度)も重要で、ボーメ度で45~50度が標準的です。


濃度が薄いと何度も施釉する手間が増えます。


比重計は1000円程度で購入できるので、本格的に陶芸をするなら用意しておくと便利です。


鉄砂と他の鉄系釉薬との違い

鉄系釉薬には鉄砂以外にも複数の種類があり、それぞれ特徴が異なります。混同しやすいので、違いを明確にしておきましょう。


天目釉は鉄砂と同じく酸化鉄を含みますが、より高い温度(1280℃以上)で焼成し、黒色の光沢が強いのが特徴です。茶碗などで「曜変天目」「油滴天目」といった名品が有名ですね。
柿釉は酸化鉄の含有量が少なく(1~3%程度)、赤みがかった柿色に発色します。


鉄砂よりも明るく軽やかな印象になります。


飴釉は鉄分と木灰を組み合わせた釉薬で、透明感のある飴色が特徴です。


鉄砂よりもやや黄色みが強く出ます。


違いを整理するとこうなります。


釉薬名 酸化鉄含有量 焼成温度 主な発色
鉄砂 3~10% 1230~1250℃ 黒褐色・茶色
天目 8~12% 1280℃以上 黒色(強い光沢)
柿釉 1~3% 1200~1230℃ 赤褐色・柿色
飴釉 2~5% 1200~1250℃ 黄褐色・飴色

初めて鉄系釉薬を使うなら、扱いやすい鉄砂から試すのが無難です。


鉄砂釉を使った作品制作の実践テクニック

鉄砂釉を使った作品制作では、いくつかの実践的なテクニックを知っておくと表現の幅が広がります。


二重施釉は、鉄砂の上にさらに別の釉薬を重ねる技法です。例えば、鉄砂の上に透明釉を薄く掛けると、深みのある光沢が出ます。逆に、白マット釉の上に鉄砂を部分的に掛けると、コントラストの効いた表情になります。
掻き落とし技法も効果的です。素地に白化粧土を塗り、乾燥後に模様を掻き落としてから鉄砂を施釉すると、白と黒褐色のはっきりした模様が現れます。
失敗を避けるための注意点もあります。


鉄砂は素地との相性が重要です。鉄分の多い赤土に鉄砂を掛けると、素地の鉄分と反応して予想外の発色になることがあります。白土や半磁器土との組み合わせが安定しています。


また、釉薬の乾燥不足は致命的です。施釉後は最低でも24時間乾燥させてから焼成しないと、水分が急激に蒸発してピンホールや剥離の原因になります。


急いでいるときほど要注意ですね。


焼成時の窯詰めでは、鉄砂を掛けた作品同士が接触しないように配置します。高温で釉薬が溶けたときに、作品同士がくっついてしまうリスクがあるためです。最低でも5mm以上の間隔を空けるのが原則です。


鉄砂釉のトラブルシューティングと対処法

鉄砂釉を使っていると、いくつかのトラブルに遭遇することがあります。原因と対処法を知っておけば、失敗を最小限に抑えられます。


ピンホール(針穴)は、釉薬表面に小さな穴が開く現象です。主な原因は素地の乾燥不足か、焼成時の急激な温度上昇です。対策として、素焼きをしっかり行い(800~900℃)、本焼成では600℃までゆっくり昇温させます。


釉切れ(釉薬が剥がれる)は、施釉前の素地が汚れていたり、釉薬の濃度が濃すぎたりすると起こります。施釉前に素地の表面をきれいに拭き、釉薬のボーメ度を確認することで防げます。


流れ(釉薬が垂れる)は、釉薬が厚すぎるか焼成温度が高すぎると発生します。


どういうことでしょうか?
鉄砂は1250℃を超えると流動性が高まります。特に縦長の作品では、釉薬が底部に溜まって高台(底の部分)と棚板がくっつく事故につながります。これを防ぐには、高台の内側1cmほどは釉薬を掛けないようにします。


色ムラが出る場合は、施釉時の手つきが原因かもしれません。浸し掛けなら一定のリズムで引き上げ、柄杓掛けなら同じ高さから均等に流します。


練習あるのみです。


もし焼成後に不満な仕上がりになっても、諦める必要はありません。


鉄砂は再施釉・再焼成が可能な釉薬です。


表面を軽く研磨してから、もう一度薄く釉薬を掛けて焼き直すと、色が濃くなったり光沢が増したりします。


ただし、3回以上の再焼成は釉薬が厚くなりすぎるリスクがあるので避けた方が無難です。


陶芸教室では、講師に焼成記録を見せてもらうと、同じ釉薬でも温度やスピードで結果が変わることが分かります。自分でも簡単な焼成メモ(温度・時間・結果)をつけておくと、次回の改善に役立ちます。スマホのメモアプリで写真と一緒に記録しておくだけでOKです。




鉄砂窯変釉 焼成温度1,230~1,250℃ 粉末 酸化釉薬 うわぐすり 陶芸 窯変 1kg