削りかすがポロポロ落ちないタイミングだと失敗します
掻き落としは、成形した素地の上に化粧土を塗り、その表面を削ることで下地の色を見せる陶芸技法です。中国では剔花(てきか)と呼ばれ、「剔」は削ぎ落とす、「花」は模様を意味します。素地が赤土や黒土のときは白化粧を使い、掻き落とした部分の土の色が活きるようにするのが一般的です。
参考)掻き落としの技法
この技法は11~12世紀の中国北宋時代の磁州窯ですでに使われていました。日本では鼠志野(ねずみしの)という美濃焼の技法でよく知られています。白土の素地に鬼板(黒い鉄絵の材料)を塗り、模様を掻き落としてから志野釉をかけて焼成すると、掻き落とした部分は白く、鬼板と釉薬が混ざった部分は鼠色に発色します。
参考)掻き落としとは?
シンプルな技法だからこそ応用範囲が広いのが特徴です。化粧土や釉薬の組み合わせ次第で、まったく違う表情の作品が生まれます。
化粧土を掻き落とす最適なタイミングは、表面のベタつきがなくなり、削りかすがポロポロと落ちる状態です。削りや成形が終わった後、粘土がまだ湿っているうちに化粧土を刷毛で塗ります。素焼き前の生の状態で化粧掛けする方が、素焼き後よりも成功しやすい方法です。
参考)陶芸のプロが教える白化粧の使い方・調合する方法 | 陶芸家に…
乾燥の見極めが難しい理由は、粘土と化粧土の乾き具合のバランスにあります。タイミングが早すぎると化粧土が柔らかすぎて模様がぼやけ、遅すぎると削りかすがポロポロ落ちずに剥がれにくくなります。プロの陶芸家でも判断を見損なうことがあるほど繊細です。
作品全体を均一に乾燥させることも重要です。乾燥ムラがあると、一部だけ先に乾いて収縮の差が生じ、ひび割れや歪みの原因になります。成形直後は新聞紙やビニール袋をかけて湿度を保ち、ゆっくり乾燥させるのが基本です。
参考)陶芸の乾燥
季節によっても調整が必要です。夏は速乾によるひび割れが多いため、ビニールを2重にすることもあります。冬は意外と均一に乾きやすいものの、底が乾きにくいので返しながら進めます。梅雨時は風通しを確保して、カビのリスクを避けます。
掻き落としに使う道具は、釘などの尖ったものやカンナが代表的です。道具がやりにくいときは、グラインダーなどで研いでから使うとよいです。曲がりカンナは輪郭部を線彫りするのに適しており、様々な形のものを準備すると便利です。
参考)http://www.tougeishop.com/video/cat64.php
平線かきベラは表面を削ったり、粘土をくり抜いたりする道具で、形も多数あります。削る場所によって使い分けることで、掻き落としやすくなります。
値段は400円~2000円程度と手頃です。
自分に合った道具を作ることも、掻き落とし技法の大切な要素です。デザインによって全部落としたり、半分くらいにしたりと変化を付けるのも面白いです。
道具選びでは、削りたい模様の細かさや線の太さに合わせることがポイントです。尖った先端は細かい線に、幅広の刃は面を落とすのに向いています。陶芸用品店では様々な形状の掻きベラやカンナが販売されているので、実際に手に取って選ぶとよいでしょう。
陶芸道具むらかみ
削り道具の種類と価格が確認できる専門店です。
掻き落としは他の技法と併せて使われることが多い技法です。鼠志野は代表的な例で、素地に鉄化粧をした後、模様を掻き落として長石釉をかけて還元焼成します。模様は白に、鉄化粧は鼠色に発色するのが特徴です。
参考)[陶芸の専門店]陶芸.com 化粧泥装飾技法陶芸用品・陶芸機…
飛び鉋(とびかんな)も掻き落としの一例として知られています。黒い胎土に白化粧をかけ、鉄製の工具で連続した削り跡を施すと、削った跡は下地の黒色が出てきます。九州の小石原や小鹿田などで見られる技法です。
参考)陶芸技法
中国の磁州窯では三層以上の化粧がけをしたケースもあります。まず胎土に白化粧をし、その上に黒化粧を重ねてから掻き落とす方法です。黒い部分は黒釉を掛けて掻き落とし、削り落とした部分にさらに化粧土を塗り込む複雑な技法も見られます。
ピカソもこの掻き落としの技法を使って革新的な表現を成し、数々のセラミック作品を生み出しました。伝統的な技法でありながら、現代アートにも活用される柔軟性があります。
象嵌(三島手)技法では、印花→化粧土→ゴムべらで不要な化粧土を落とす→乾いたら掻きべらで落とす、という手順が一般的です。しかしこの方法は、粘土と化粧土の乾き具合の見極めが難しく、印花の模様が上手く出ないことがあります。スチールウールを使えば失敗が少なく、模様が奇麗に出ます。
参考)陶芸(化粧土、象嵌、掻き落とし作品): ノーマン趣味悠々
化粧土と素地土の相性も重要です。化粧土については数パターンの割合(例えば胎土5:化粧土5、胎土3:化粧土7など)で調合してテスト焼成するのが望ましいです。剥がれやすいものは胎土を何割か混ぜるとよいでしょう。
釉薬はテスト焼成して問題が無いか確認します。化粧土や釉薬は胎土と色の対比ができるものがよく使われています。白土の素地の場合は黒化粧や色化粧を使用することができます。
撥水剤を間違った部分に付けてしまった場合、一番やってはいけないのが強行突破して釉掛けすることです。付いてしまった部分を撥水剤の色が見えなくなるまでヤスリで磨きましょう。磨けない部分に付いたり、広範囲についてしまった場合は、もう一度素焼きするしかありません。
参考)【陶芸】撥水剤の注意点と使い方の応用|Nao🍎@陶芸主婦
模様を写し取る際は竹紙を使い、トレーシングペーパー等は使用できません。岩紫(がんし)を使って輪郭を写し取りますが、このときの岩紫の濃度に注意してください。
薄すぎると写し取りにくくなります。
掻き落としの技法
鼠志野や飛び鉋など、掻き落としの具体的な作例と技法解説が詳しく紹介されています。