安い三島手茶碗は5千円で買えても使うと損します。
三島手茶碗の名前は、静岡県三島市の三嶋大社の暦に押された文字に似ていることが由来です。茶人たちが「三島暦手」と呼んだことから、三島手という名称が定着しました。
この技法は15世紀から16世紀の李朝時代に朝鮮半島で生まれました。当時の朝鮮では象嵌(ぞうがん)という技法で陶器に文様を入れる技術が発達していたんです。
豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄・慶長の役、1592-1598年)の際、多くの朝鮮人陶工が日本に連れてこられました。この時期に三島手茶碗も日本にもたらされ、茶人たちの間で高い評価を受けるようになります。
つまり三島手は朝鮮由来の技法です。
特に千利休をはじめとする茶人たちが、素朴で静謐な美しさを持つ三島手茶碗を茶道具として珍重しました。現在でも李朝時代の古い三島手茶碗は「古三島」と呼ばれ、骨董品として数十万円から数百万円の価値があります。
東洋陶磁美術館 - 朝鮮陶磁コレクション
(朝鮮陶磁の歴史的背景と三島手を含む代表的な技法について詳しい解説があります)
三島手の最大の特徴は象嵌技法です。
象嵌とは、陶器の表面に文様を彫り込んだり押し型で模様をつけたりした後、その凹部に白い化粧土を埋め込む技法を指します。乾燥後に余分な化粧土を削り取ると、白い文様が浮かび上がる仕組みです。
三島手で使われる文様には大きく分けて2種類あります。
印花文(いんかもん)
線彫り文
白化粧土は粉引という技法で全体に塗られることもあります。この場合、彫り込んだ部分だけでなく全体が白っぽい仕上がりになるんです。
印花文が基本です。
生地の粘土は灰色や茶色系の色をしているため、白い化粧土とのコントラストで文様がくっきり見えます。この対比が三島手独特の美しさを生み出しているわけです。
文様の密度も重要なポイントで、細かく詰まった印花文は「総三島」、まばらな配置は「絵三島」と呼び分けられます。総三島は暦の文字が密集している様子に似ているため、より三島暦に近い印象を与えます。
三島手茶碗の形状は時代や産地によって異なりますが、いくつかの典型的な特徴があります。
李朝時代の古三島は比較的浅めの碗形が多く、口径が12〜14cm程度です。高さは6〜8cmほどで、現代の飯茶碗より少し大きめのサイズ感になります。
高台(こうだい)は茶碗の底部にある輪状の台です。三島手では高台にも特徴的な作りが見られます。
古三島の高台。
高台を見れば年代がわかります。
現代作家による三島手茶碗では、古三島を手本にしながらも高台の削りがより丁寧で均一です。また、火襷(ひだすき)という焼成時の藁の跡が意図的につけられることもあります。
茶碗を手に取った際の重量感も重要で、古三島は意外と軽く感じるものが多いです。これは粘土の精製度や焼成温度の違いによるもので、現代の作品より軽量に仕上がっているケースが見られます。
口縁部の形状にも注目しましょう。わずかに外反しているもの、直線的なもの、やや内側に傾くものなど、微妙な違いがあります。この違いが茶を飲む際の口当たりに影響するため、茶人は細かくチェックするんです。
三島手茶碗の表面を覆う釉薬は、作品全体の印象を大きく左右します。
李朝時代の古三島では灰釉(かいゆう)が使われることが一般的でした。灰釉は木や藁の灰を主原料とした釉薬で、透明から薄い青みがかった色合いを呈します。
釉薬の厚さと流れ具合。
梅花皮は偶然の産物です。
焼成温度は1200〜1250度程度で、現代の磁器より低めです。この温度帯で焼くことで、粘土と釉薬が程よく溶け合い、柔らかな質感が生まれます。
窯の種類も影響を与えます。李朝時代は登り窯で焼成されていましたが、窯の中の位置によって焼き上がりが変わるんです。炎が直接当たる部分は焼きが強く、陰になる部分は柔らかい仕上がりになります。
現代の作家は電気窯やガス窯を使うことも多く、より均一な焼成が可能です。ただし、古三島特有の「窯変(ようへん)」と呼ばれる予期せぬ色の変化は再現しにくいという課題があります。
窯変を意図的に起こすため、薪窯で焼成する作家もいます。薪の灰が作品に降りかかり、自然な景色を作り出すことができるためです。
陶芸の釉薬の種類と特徴
(灰釉をはじめとする各種釉薬の成分と焼成温度について専門的な情報が掲載されています)
自宅やカルチャーセンターの陶芸教室で三島手茶碗を作ることも可能です。
必要な材料と道具。
制作の基本手順は次のとおりです。
まず茶碗の形を作ります。ろくろを使う場合は中心を出してから、内側と外側を同時に成形していきます。手びねりの場合は、紐状の粘土を積み上げて形を整える方法が一般的です。
形ができたら半乾燥の状態まで待ちます。この「半乾き」の見極めが三島手制作の最重要ポイントです。
半乾燥の判断基準。
この状態が適切です。
半乾燥の生地に印花を押し付けて文様をつけます。力加減は体重の10%程度の圧力、つまり体重60kgの人なら約6kg程度の力で押すイメージです。深すぎると生地が割れ、浅すぎると文様が見えにくくなります。
印花を押した凹部に白化粧土を塗り込みます。スポンジや筆を使って、文様の中にしっかり入れ込むのがコツです。余分な化粧土は生地の表面が乾いてから、カンナや金属ヘラで削り取ります。
完全に乾燥させたら素焼きを行います。素焼きは800度程度で、この工程で生地を安定させます。
素焼き後に釉薬をかけます。浸し掛け、流し掛け、筆塗りなど方法はいくつかありますが、初心者は浸し掛けが失敗しにくいです。高台内と高台脇の釉薬は布で拭き取っておきましょう。
本焼きは1230度前後で行います。電気窯の場合、温度設定と保持時間をプログラムできるため、安定した焼成が可能です。
失敗しやすいポイント。
これらは経験を積むことで回避できます。
三島手茶碗をコレクションする際、または購入する際には注意すべきポイントがいくつかあります。
古三島の真贋を見極めるには専門知識が必要です。李朝時代の本物は希少で、骨董市や古美術商で見かけるものの中には近代以降の写しも混ざっています。
価格帯の目安。
5千円以下の作品にも注意が必要です。
安価な三島手茶碗は、印花が浅く不鮮明だったり、白化粧が雑に塗られていたりすることがあります。また、釉薬のムラや焼成不足による吸水性の高さが問題になる場合も。
吸水性が高い茶碗は使っているうちにカビやシミが発生しやすく、衛生面でリスクがあります。特に日本茶を淹れると茶渋が染み込み、洗っても取れなくなることがあるんです。
購入時のチェックポイント。
実物を手に取って確認するのが基本です。
オンラインショップで購入する場合、返品ポリシーを確認しておきましょう。画像では分からない細かな傷や釉薬のムラが届いてから判明することもあります。
信頼できる販売元としては、以下があります。
百貨店なら保証が手厚いです。
現代作家の作品を購入する場合、作家の経歴や展覧会の受賞歴を確認することも重要です。人間国宝や伝統工芸士の作品は価格が高めですが、資産価値も期待できます。
使用目的に応じて選ぶことも大切で、実際に茶を飲むための実用品なのか、鑑賞用のコレクションなのかで選択基準が変わります。実用品なら多少の傷や不均一さは気にせず、手に馴染むかどうかを優先しましょう。
保管方法にも気を配る必要があります。陶器は温度変化や湿度に敏感なため、直射日光を避け、風通しの良い場所に保管します。長期間使わない場合は、定期的に取り出して乾燥させることでカビの発生を防げます。
三越銀座店 茶道具売場
(百貨店での三島手茶碗を含む茶道具の取り扱いと、購入時の相談サービスについて確認できます)