火襷の備前焼は藁を巻かないと作れません。
火襷(ひだすき)は、備前焼の中でも特に人気の高い焼成技法の一つです。作品の表面に現れる鮮やかな赤色や緋色の模様が最大の特徴となります。
この模様は、焼成前に器に藁(わら)を巻き付けて焼くことで生まれます。藁に含まれるナトリウムやカリウムが、1200度を超える高温で器の鉄分と化学反応を起こし、美しい赤い線状の模様を描き出すのです。
火襷という名前は、この赤い模様が襷(たすき)に似ていることに由来しています。
つまり、模様の見た目が名前の由来ですね。
備前焼は釉薬を使わない焼き物として知られていますが、火襷はその中でも藁という天然素材を使った伝統技法です。1000年以上の歴史を持つ備前焼の中で、火襷は江戸時代から特に珍重されてきました。
現代でも茶道具や花器、酒器として高い人気を誇ります。作家の技術と窯の中での偶然性が生み出す一点物の美しさが、多くの愛好家を魅了し続けているのです。
火襷の赤い模様は、藁と粘土の化学反応によって生まれます。
具体的なプロセスを見ていきましょう。
まず、成形した器に稲藁を巻き付けます。藁の巻き方や密度によって、出来上がる模様が変わってきます。
これが作家の個性が出る部分です。
次に、藁を巻いた器を窯に詰めます。備前焼の窯は登り窯や穴窯が使われ、松割木を燃料として10日から2週間かけてゆっくり焼成します。
焼成温度が1200度を超えると、藁に含まれるアルカリ成分(ナトリウムやカリウム)が気化します。この気化した成分が、備前の土に含まれる鉄分と反応し、赤い酸化鉄の層を形成するのです。
反応が起きるのは藁が接触している部分だけ。
だから線状の模様になりますね。
温度や窯の中の位置、酸素の量によって、同じ藁を巻いても全く異なる発色になります。鮮やかな緋色になることもあれば、落ち着いた茶褐色になることもあるのです。
この偶然性こそが火襷の魅力といえます。作家でさえ焼き上がりを完全にコントロールすることはできません。窯を開ける瞬間まで、どんな作品が生まれるか分からないという緊張感が、火襷制作の醍醐味となっています。
火襷の備前焼は、作家や作品の大きさによって価格が大きく異なります。
市場での一般的な相場を見ていきましょう。
無名作家や若手作家の小品(ぐい呑みや小鉢)なら、3,000円から1万円程度で購入できます。日常使いの器として手に取りやすい価格帯です。
中堅作家の茶碗や花入れになると、3万円から10万円の範囲が多くなります。作家の個性がはっきり出ている作品や、火襷の発色が美しいものは、この価格帯でも高めの設定になります。
人間国宝や著名作家の作品は、小品でも10万円以上、大作になると数十万円から100万円を超えることも珍しくありません。例えば、人間国宝だった藤原啓や山本陶秀の火襷作品は、オークションで高値がつきます。
価格を決める要素は主に4つあります。
1つ目は作家の知名度と実績。
2つ目は火襷の発色の美しさです。鮮やかで均一な緋色や、変化に富んだ表情のあるものは高評価を受けます。
3つ目は作品の状態。ひび割れや欠けがないこと、窯傷が少ないことが重要です。4つ目は作品の形や大きさで、使いやすさや存在感が価格に影響します。
投資目的で購入する場合は注意が必要です。備前焼市場は比較的安定していますが、流行や経済状況で変動します。鑑賞や使用を楽しむことを第一に考えた方が、後悔のない買い物になりますね。
購入時は、作家の箱書きや陶歴が確認できる共箱付きの作品を選ぶと安心です。贋作のリスクを避けられるだけでなく、将来的な資産価値も保ちやすくなります。
日本工芸会
こちらのサイトでは、人間国宝を含む備前焼作家の最新情報や展覧会情報が確認できます。
作家の実績を調べる際の参考になります。
本物の火襷を見分けるには、いくつかの重要なチェックポイントがあります。
購入前に確認しておくべき項目を紹介します。
まず、模様の入り方を観察してください。本物の火襷は、藁を巻いた部分に沿って線状の模様が入ります。線の幅は藁の太さによって変わりますが、自然な揺らぎがあるのが特徴です。
模様が直線的すぎたり、機械的に均一すぎる場合は注意が必要ですね。
色合いも重要な判断材料です。火襷特有の赤色は、鮮やかな緋色から茶褐色まで幅があります。ただし、土の鉄分との反応で生まれる色なので、絵の具のような人工的な発色ではありません。
表面に藁の跡が残っていることも確認ポイントです。藁が焼けて灰になった部分には、わずかな凹凸や質感の変化が見られます。指で触れると、微妙な段差を感じることがあります。
裏側や高台(こうだい)も必ずチェックしましょう。備前焼独特の土の質感や色、焼き締まった感じが全体に統一されているかを見ます。部分的に質感が異なる場合、後から着色した可能性があります。
共箱の有無は真贋判定の大きな手がかりです。作家本人が書いた箱書きには、作品名、作家印、制作年などが記されています。箱書きの筆跡や印章も、作家の真作かどうかを判断する材料になります。
重さも参考になります。備前焼は釉薬を使わず、高温でしっかり焼き締めるため、見た目より重く感じることが多いです。軽すぎる場合は、別の産地の焼き物や模造品の可能性があります。
不安な場合は、信頼できる専門店や百貨店の美術画廊で購入するのが確実です。鑑定書や保証書を発行してくれる店舗なら、より安心して購入できます。
火襷の備前焼は、日常使いでこそ真価を発揮する器です。使い込むほどに味わいが深まる特性を活かす方法を紹介します。
使い始める前に、一晩水に浸けておくと良いでしょう。備前焼は吸水性があるため、最初に水を吸わせることで、茶渋や汚れが染み込みにくくなります。
これを「目止め」といいます。
酒器として使う場合、備前焼は酒の味をまろやかにすると言われています。特に火襷の表面は細かい凹凸があり、酒の角が取れて口当たりが柔らかくなるのです。
日本酒好きの間では定番の組み合わせですね。
お茶を飲む茶碗としても優れています。保温性が高く、手になじむ質感が心地よいと評判です。毎日使うことで、手の油が器に馴染み、独特の艶が出てきます。
花器として使えば、火襷の赤い模様が花を引き立てます。水が腐りにくいという特性もあるため、長持ちする生け花を楽しめます。
使用後の手入れは、基本的に水洗いで十分です。洗剤を使う場合は、中性洗剤を少量つけて柔らかいスポンジで優しく洗います。研磨剤入りのスポンジは表面を傷つけるので避けてください。
洗った後はしっかり乾かすことが大切です。水分が残ったまま収納すると、カビやシミの原因になります。
風通しの良い場所で自然乾燥させましょう。
長期間使わない場合も、時々水に浸けて乾燥させると良いコンディションを保てます。備前焼は「生きている器」と呼ばれ、定期的に水を与えることで状態が維持されるのです。
落として欠けたり割れたりした場合も、諦める必要はありません。金継ぎという伝統的な修復技法で、新たな美しさを加えることができます。修復の跡さえも作品の一部として楽しむ文化が、日本の陶芸にはあります。
複数の火襷作品を持っている場合、日替わりで使うことをおすすめします。同じ器ばかり使うと一部だけが育ってしまうため、均等に使うことでバランスよく味わいが深まります。
備前焼伝統産業会館
備前焼の使い方や手入れ方法について、より詳しい情報が掲載されています。初心者向けの取り扱いガイドが充実しているので、購入後の参考にできます。