調合した長石釉を素焼きに塗ると溶けません。
長石釉は長石を主成分とする透明釉で、陶芸作品に美しいガラス質の表面を作ります。基本の配合比率は長石60%、石灰石20%、カオリン20%が最も安定しています。
この比率は1200℃前後の還元焼成で透明感のある仕上がりになります。長石は融剤として働き、石灰石は釉薬の溶け具合を調整し、カオリンは釉薬に粘りを与える役割です。
配合を変えると発色や質感が変わります。長石の割合を70%に増やすと、より透明度が高くなります。逆に長石を50%に減らすと、マットな質感になりますね。
初心者は基本配合から始めることをおすすめします。配合を変える場合は、一度に変更する成分を1種類に限定すると、結果の原因が分かりやすくなります。
記録を必ず残しましょう。配合比率、焼成温度、焼成時間、使用した長石の産地をノートに書いておくと、再現性が高まります。
長石には複数の種類があり、産地によって化学組成が異なります。代表的なのはカリ長石、曹長石、灰長石の3種類です。
それぞれ焼成後の色調が変わります。
カリ長石は日本国内では福島県石川町産が有名で、透明感が高く淡い青みを帯びた仕上がりになります。価格は1kg あたり200円から300円程度です。
曹長石は白色度が高く、純白に近い透明釉を作れます。茨城県八溝山系で産出されるものが品質が良いとされています。カリ長石より若干高価で、1kgあたり300円から400円程度です。
灰長石はカルシウム成分を多く含み、やや乳白色がかった仕上がりになります。他の長石より安価で、1kgあたり150円から200円程度で入手できますね。
産地による違いを知ると作品の表現が広がります。同じ配合でも長石を変えるだけで色調が変化するため、複数の産地の長石を試すことをおすすめします。テストピースを作って焼成記録を残すと、好みの発色を再現しやすくなります。
全国陶芸材料協同組合の長石比較表では各産地の長石の化学組成と焼成見本が確認できます。
石灰石は釉薬の溶融温度を下げる重要な材料です。長石だけでは1300℃以上の高温が必要ですが、石灰石を20%加えることで1200℃前後で溶けるようになります。
石灰石の量を増やすと釉薬の光沢が強くなります。25%まで増量すると、ガラス質の強い光沢が出ますが、釉薬が流れやすくなるリスクがあります。
逆に石灰石を15%に減らすと、マットな質感に近づきます。ただし溶融温度が上がるため、焼成温度を1230℃程度まで上げる必要があります。
石灰石の粒度も重要です。200メッシュ以下の細かい粒子を使うと、釉薬が均一に溶けます。粗い粒子を使うと斑点状の模様ができることがあります。
意外なことに、石灰石の産地による違いはほとんどありません。化学的にはどの産地も炭酸カルシウムが主成分だからです。
価格と入手しやすさで選んで問題ありません。
カオリンは釉薬に粘りを与え、素焼き生地への付着を良くします。基本配合の20%は、釉薬が適度な粘度を保つための最低限の量です。
釉薬が垂れる場合は、カオリンを25%から30%に増やすと改善します。カオリンは釉薬の流動性を抑える働きがあるからです。
ただし増やしすぎると透明度が下がります。
カオリンの種類も選べます。朝鮮カオリンは粒子が細かく、釉薬の透明度を保ちやすい特徴があります。ニュージーランドカオリンは粘りが強く、垂れ防止に効果的です。
施釉の厚さとカオリン量には関係があります。厚掛けする場合はカオリンを25%に増やし、薄掛けなら20%で十分です。
施釉方法に合わせて調整しましょう。
カオリンだけが高価な材料です。1kgあたり400円から600円程度で、長石や石灰石の2倍から3倍の価格になります。コスト削減のため木節粘土で代用する方法もありますが、透明度が若干落ちます。
調合した材料に加える水の量で、施釉のしやすさが変わります。材料100gに対して水80mlから100mlが標準的な濃度です。
濃度の目安は、釉薬をすくって落としたときに、筋が3秒程度残る程度です。すぐに消えるなら水が多く、筋が残り続けるなら水が少ない状態ですね。
浸し掛けする場合は、やや薄めの濃度にします。材料100gに対して水100mlから120mlが適切です。薄すぎると釉薬が薄く付きすぎるため注意が必要です。
流し掛けや吹き掛けの場合は、さらに薄い濃度にします。材料100gに対して水150mlから200mlで、霧吹きやスプレーガンで均一に施釉できます。
水を加えた直後は釉薬をよく攪拌しましょう。沈殿した材料が底に残ると、濃度にムラができます。使用直前にも必ず攪拌することで、均一な施釉ができます。
濃度が変わったら補正可能です。濃すぎる場合は水を少しずつ足し、薄すぎる場合は調合した材料を追加します。一度に大量に調整すると失敗するため、少量ずつ調整してください。
長石釉は焼成温度と雰囲気で仕上がりが大きく変わります。還元焼成では1200℃から1230℃、酸化焼成では1220℃から1250℃が適正温度です。
還元焼成は窯内の酸素を少なくする方法で、青みがかった透明感のある仕上がりになります。電気窯では実現が難しく、ガス窯や灯油窯が必要です。
酸化焼成は通常の電気窯で可能で、黄色みを帯びた透明感になります。還元焼成より発色が穏やかですが、扱いやすさがメリットです。
温度が低すぎると釉薬が溶けきらず、表面がざらざらになります。逆に高すぎると釉薬が流れて、作品の底に溜まってしまいます。
温度計の精度も重要です。窯の温度計が±20℃程度ずれていることは珍しくありません。ゼーゲルコーンを併用して、実際の焼成温度を確認することをおすすめします。
日本セラミックス協会の焼成ガイドで、温度と雰囲気による発色の違いが写真付きで解説されています。
釉薬が流れる失敗は、石灰石が多すぎることが原因です。配合を見直して石灰石を5%減らし、その分カオリンを増やすと改善します。
釉薬が溶けきらない場合は、焼成温度が低いか長石の量が少ない可能性があります。温度を20℃上げるか、長石を5%増やして再テストしましょう。
ピンホールができる原因は、素焼きの温度が低すぎることです。素焼きを800℃以上で行うと、釉薬の密着が良くなってピンホールが減ります。
釉薬が剥がれる場合は、カオリンが少なすぎます。カオリンを5%増量すると、素焼き生地への付着力が高まります。施釉前に生地を十分に乾燥させることも重要です。
色ムラができる原因は、攪拌不足です。使用直前に必ず釉薬を底からすくい上げて混ぜると、均一な発色になります。
釉薬が厚すぎると流れやすく、薄すぎると発色が弱くなります。浸し掛けの場合は3秒から5秒程度、素早く引き上げることで適切な厚さになりますね。
失敗の記録を残すことが上達の近道です。どの配合でどんな失敗が起きたかをメモしておくと、次回から失敗を避けられます。
正確な調合記録は、同じ釉薬を再現するために不可欠です。配合比率、使用材料の銘柄と産地、水の量、焼成温度と時間を必ず記録しましょう。
デジタルスケールで0.1g単位まで計量すると、再現性が高まります。家庭用のキッチンスケールでも十分ですが、最大計量3kg以上のものを選ぶと便利です。
材料の保管方法も重要です。長石、石灰石、カオリンは湿気を吸うと固まります。密閉容器に入れて、乾燥した場所で保管してください。
テストピースを必ず作りましょう。新しい配合を試すときは、小さな試験片を複数作って焼成します。本番の作品に使う前に、発色と釉調を確認できます。
写真撮影も記録の一部です。焼成後のテストピースを自然光の下で撮影すると、色調の変化が分かりやすくなります。
ノートアプリやスプレッドシートで記録すると検索しやすくなります。日付、配合、焼成条件、結果をデータベース化すれば、過去の試作を簡単に見返せます。
経験を積むほど、微調整のコツが分かってきます。最初は基本配合を忠実に守り、慣れてから自分なりのアレンジを加えていくことをおすすめします。