糠白釉の調合と焼成で変わる乳白色の出し方

糠白釉(ぬかじろゆう)の調合方法を知りたい方へ。籾灰・藁灰・長石・土灰の割合から焼成雰囲気による色の違い、灰のアク抜きまで徹底解説。あなたの窯で再現するには何が必要?

糠白釉の調合と焼成で変わる美しい乳白色の世界

市販の糠白釉を使っているのに、思い通りの乳白色が出なくて材料費が1万円以上無駄になった経験はありませんか?


🎨 この記事でわかること
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糠白釉の基本と原料の役割

籾灰・藁灰・土灰・長石それぞれがどんな化学的役割を持ち、乳白色を生み出すかを解説します。

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具体的な調合レシピ3タイプ

強糠白釉・並糠白釉・弱糠白釉の配合比率を比較し、自分の窯に合ったタイプを選ぶヒントを紹介します。

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焼成雰囲気と色の関係

酸化と還元で乳白色か青白かが決まる仕組みと、失敗しないための施釉・焼成のポイントを押さえます。


糠白釉とは何か:益子焼が育てた「白いうわぐすり」の正体

糠白釉(ぬかじろゆう)は、お米の籾殻を焼いた灰(籾灰・モミ灰)を主原料のひとつとした白系の釉薬です。「白い益子のうわぐすり」とも呼ばれ、益子焼笠間焼を代表する伝統釉薬のひとつとして長く親しまれています。


「糠白釉」という名前は一見難しそうですが、読み方は「ぬかじろゆう」です。


焼成後の発色が特徴的で、酸化焼成では温かみのある乳白色に仕上がり、還元焼成では薄みを帯びた青乳白色(青白色)になります。同じ調合の釉薬でも、焼き方ひとつでまったく異なる表情を見せるのが糠白釉の大きな魅力です。


釉薬の主な原料は土灰(どばい)・籾灰(もみばい)・藁灰(わらばい)・長石の4種類です。これらを決められた比率で調合し、水に溶かして素焼きの器に施釉してから本焼きします。焼成温度の目安は1,250℃〜1,280℃で、ちょうど家庭の電気コンロの最高温度(約300℃)の4倍以上という超高温で釉薬が溶けることで、器の表面にガラス質のなめらかな白い層が形成されます。


陶器の仕上がりを大きく左右するのは粘土の種類との相性です。結論は粘土選びが先です。白土・赤土・鉄分の多い黒土では、糠白釉をかけたときの発色が微妙に異なります。白土では釉薬本来の乳白色が引き出されやすく、赤土では土の鉄分が釉薬と反応して深みのある色合いが生まれることがあります。


民芸の窯場で古くから受け継がれてきた糠白釉は、青磁釉の母体にもなる万能な釉薬です。糠白釉に酸化銅を少量加えると、独特の深みのある青色(益子青磁)に変身します。一種類の調合から複数の表情を引き出せる点も、陶芸愛好家に長く愛される理由のひとつです。



益子焼協同組合が販売する糠白釉の詳細(焼成温度・原料・価格)は以下で確認できます。


益子焼協同組合公式オンラインショップ「益子糠白釉」商品ページ(自社製造の糠白釉の原料・焼成方法・価格が確認できます)


糠白釉の調合レシピ3タイプを比較する:強・並・弱の選び方

糠白釉には、乳白色の出方の強さによって大きく「強糠白釉」「並糠白釉」「弱糠白釉」の3タイプがあります。これが基本です。


それぞれの調合は、民芸の窯「酒津堤窯」(武内晴二郎氏の窯)などに伝わる配合例として知られています。代表的な調合比率を以下にまとめます。
























タイプ 主な原料と配合比(重量比) 特徴
💪 強糠白釉 籾灰 6・天草陶石 4・土灰 10・珪石 2 乳白色が強く出る。籾灰の割合が最も多い
🟰 並糠白釉 籾灰 5・藁灰 1・福島長石 4・土灰 8・珪石 2 バランスが良い標準タイプ。藁灰を少量加える
🌿 弱糠白釉 籾灰 1・藁灰 5・平津長石 4・土灰 8・珪石 2 乳白が弱く透明感が残る。藁灰が主役になる


3タイプを見比べると、籾灰の比率が多いほど「乳白感」が強まり、逆に藁灰の比率が増えると白さは弱まって透明感が出やすくなる傾向があります。


また、強糠白釉では長石の代わりに天草陶石を使い、弱糠白釉では平津長石を採用している点も注目です。陶石と長石はどちらも「接着」と「ガラス化」の役割を担いますが、陶石(天草陶石)はアルミナ成分を多く含むため釉の流れを抑えやすく、長石(福島長石・平津長石)はカリウム成分が多くアルカリ度が高いため釉が溶けやすくなります。これが乳白感の違いにもつながるということですね。


笠間焼で使われる別の配合例として「福島長石 3.0・合成土灰 3.0・合成藁灰 4.0・酸化鉄 0.1」という組み合わせも記録されています(茨城県工業技術センター研究報告第37号より引用)。鉄分(酸化鉄)を極微量だけ加えることで、わずかに温色を帯びた白さになります。


これは使えそうです。鉄分0.1という微量の添加で色味がコントロールできるなら、調合の幅がぐっと広がります。


なお、調合比率は「重量比」が原則です。体積で量ると密度の異なる原料では誤差が大きくなりやすいため、デジタルスケールで1g単位まで正確に計量することが実践上の基本となります。



釉薬の種類と調合の考え方をさらに深掘りしたい場合は、以下のページが参考になります。


陶磁器情報サイト「陶磁器の釉薬の種類」ページ(灰釉・藁灰釉・青磁釉など各種釉薬の成分と調合の考え方が詳しく解説されています)


糠白釉の原料精製:アク抜きを怠ると釉薬が剥がれる理由

糠白釉を自作する場合、原料の「灰」を適切に精製することが最も重要な工程です。アク抜きが最優先です。


灰にはアルカリ性の灰汁(あく)が含まれており、この灰汁を取り除かないまま釉薬に使うと深刻な欠陥が発生します。具体的な欠陥としては、釉薬の剥がれ・縮れ、ブク(気泡が弾けた穴)、発色の悪さ、さらには素焼き粘土の強度低下などがあります。


精製の手順は以下のとおりです。



  • 🪣 ふるいにかける:25目→50目→60目の順に通して異物を除去する

  • 💧 水簸(すいひ)でアク抜き:大きなバケツ4個に水と灰を入れ、上澄みの茶色い灰汁を捨てる作業を2〜3週間繰り返す

  • ☀️ 天日干し:数日〜2週間かけて完全に乾燥させる


アク抜き前の灰のpH値はおよそ10.5(強アルカリ性)で、水簸後でも約9程度残ります。完全にアルカリ性がなくなることはありませんが、pH9以下まで下げることで釉薬の欠陥を大幅に抑えられます。作業中はゴム手袋とマスクを着用することを推奨します。


籾殻灰を自作する場合は、籾殻を屋外で山積みにして燃やし「白く燃え尽きさせる」ことが目標です。薫炭状(炭素が残った状態)のままだとポットミルがなければ60目のふるいに通すのが困難になるため、民芸の陶芸家たちは白灰になるまで完全燃焼させる方法を好むことが多いです。2日ほどかけてゆっくり燃やし、雨で自然消火させてから回収するというやり方も実践されています。


市販の精製済み籾殻灰・藁灰を使えばこの工程は省略できます。ただし、同じ「籾殻灰」でも自作品と市販品では灰汁の残量・粒子の細かさ・純度が異なるため、調合比率を変えずに使い回すと発色や釉調が変わってしまう場合があります。「以前は上手くいったのに今回は全然違う」という現象の原因がこれです。



灰の水簸(アク抜き)の具体的な手順を映像で確認したい場合は以下が参考になります。


陶磁器情報サイト「釉薬を自作する」ページ(土灰・長石・藁灰それぞれの精製手順と調合の考え方が写真付きで解説されています)


糠白釉の焼成:酸化と還元で色が変わる仕組みを理解する

糠白釉の最大の特徴のひとつが、焼成雰囲気によって発色が大きく変わる点です。酸化と還元で色が決まります。



  • 🟡 酸化焼成:窯内に酸素を十分供給した状態で焼く。糠白釉は温かみのある「乳白色」に発色する

  • 🔵 還元焼成:窯内の酸素を制限した不完全燃焼状態で焼く。糠白釉は薄みを帯びた「青乳白色(青白色)」に発色する


電気窯は基本的に酸化焼成のみ対応しており、乳白色を狙う場合は電気窯でも問題ありません。青白色を出したい場合はガス窯薪窯での還元焼成が必要になります。これは窯の種類で変わる問題です。


糠白釉に微量の銅(酸化銅)を外割で3〜5%加えると、還元焼成で「益子青磁釉」と呼ばれる深い青色になります。酸化焼成では同じ調合でも緑に近い青磁色になるため、同一調合で2種類の表情を楽しめます。


焼成温度は1,250℃〜1,280℃が目安です。コーヒーカップの内側を1,250℃で焼くと仮定した場合、その温度は鉄が赤く溶け始める温度(約1,200℃)を超えているイメージです。温度が低すぎると釉薬が十分に溶けず、乳白色の均一な釉調が出ません。逆に高すぎると釉薬が沸騰してブク(泡状の穴)が発生します。


施釉の厚みも重要な要素です。糠白釉は標準〜やや厚めに施釉するのが基本とされています。薄すぎると乳白色の発色が弱く透けてしまい、厚すぎると流れ落ちて窯台に付着する恐れがあります。浸し掛けの場合は5〜8秒を目安にして、施釉後の釉厚を確認しながら調整するとよいでしょう。


冷却速度も釉調に影響します。急冷すると貫入ひび状の模様)が入りやすく、ゆっくり冷やすと貫入が少ない仕上がりになります。この特性を活かして、意図的に貫入を出す「景色」の表現も可能です。厳しいところですね。糠白釉は、焼成条件のわずかな変化を如実に映し出す繊細な釉薬といえます。



酸化焼成と還元焼成の仕組みと違いについて、わかりやすい解説は以下で確認できます。


土岐市公式ウェブサイト「酸化焼成と還元焼成の違い」ページ(釉薬の発色が酸化・還元でどう変わるかを具体例で解説。陶芸の基礎知識として権威ある自治体サイトの情報です)


糠白釉の調合を応用する:重ね掛けと黄土下地による景色の作り方

糠白釉の応用として、よく知られているのが「下地に黄土を施してから糠白釉をかける」技法です。これが乳白色に奥行きと深みを生む鍵になります。


糠白釉は白色の単調な釉薬に見えますが、下地に鉄分の多い黄土泥を施しておくと、焼き上がり後の白色に独特の深みと濃淡が出ます。これは黄土に含まれる鉄分が高温で糠白釉と反応し、白一色ではない「景色」を生むためです。白色一辺倒にはなりません。


重ね掛けのパターンとしては以下が実践されています。



  • 🟤 黄土下地+糠白釉:乳白に茶色みが差し込み、温かみのある表情になる

  • 🖤 黒釉流し掛け+糠白釉:白地に黒の流れが生まれる重厚な表現(笠間焼の伝統技法)

  • 🟢 糠白釉+酸化銅(外割3〜5%):益子青磁釉として青緑色に変化する


重ね掛けは釉薬どうしの相性によって予想外の化学反応が起きることもあり、必ずテストピースで検証することが前提です。本番の器でいきなり試すと、失敗作が出る可能性が高くなります。


テストピースとは親指大ほどの小さな粘土板(はがきの半分サイズ程度)で、本番と同じ粘土・釉薬・焼成条件で焼いた色見本のことです。調合比率や施釉厚を変えた複数のテストピースを作り比べることで、使用している窯・粘土・釉薬の相性を事前に把握できます。


調合記録の管理も大切な作業です。テストピースには番号を振り、配合比率・施釉厚・焼成温度・焼成雰囲気(酸化/還元)を必ずメモしておきましょう。この記録があれば、気に入った釉調を再現しやすくなります。逆に記録をつけないと、同じ条件を再現できず「あの白さ、もう出せない」という状況に陥ります。意外ですね。陶芸の失敗原因の多くは技術よりも「記録をつけていないこと」にあるとも言われています。


テストピース用の粘土板として市販の「テストタイル」も活用できます。材料費は1枚あたり数十円程度で、シンリュウや陶芸ショップなどの陶芸材料店で購入可能です。釉薬テストを体系的に進めたい方は、専用のテストタイルを揃えてみると効率が上がります。



釉薬の重ね掛け技術と色見本の作り方については、以下のページが参考になります。


亀井俊哉氏note「釉薬の基本と応用|色の出方と重ね掛けのテクニック」ページ(白土・赤土との相性、重ね掛けの考え方が実践的にまとめられています)


糠白釉の調合で陶芸家が実は見落としがちな3つのポイント

糠白釉は調合さえ合っていれば上手くいく、と思いがちです。ところが経験ある陶芸家たちが口を揃えて言うのは「調合は入り口に過ぎない」という事実です。つまり調合後の管理が肝心です。


ポイント1:灰は産地・ロットで性質が変わる


天然の灰は産地や収穫時期によって成分が変動します。藁灰や籾殻灰を自作する場合はもちろん、市販の精製済み灰でもメーカーや製造ロットが変わると釉調が微妙に変わることがあります。長年使い慣れた調合で突然発色が変わった場合、灰の変更を疑いましょう。「市販品に替えたら調子がガラッと変わった」という経験は実際に報告されています。


ポイント2:釉薬の濃度(比重)を毎回測る


調合が正確でも、釉薬を水に溶かしたときの濃度が変わると施釉厚が変わり、発色も変化します。釉薬の濃度は比重計で管理するのが基本で、一般的には釉薬1kgに対して水800〜1,000mLが目安です。浸し掛け後に指で触れてみて釉薬が均一に乗っているか確認する習慣をつけると、再現性が上がります。


ポイント3:素焼き温度が高すぎると釉薬が薄くなる


素焼き温度が高すぎると素焼き後の素地吸水性が低下し、浸し掛けをしても釉薬が十分に乗りません。素焼きの標準温度は750℃〜900℃で、1,000℃以上では釉薬の厚みが著しく薄くなる場合があります。これは覚えておけばOKです。


上記3つは調合レシピには書かれていないことが多く、実際にやってみて初めて気づく落とし穴です。釉薬のトラブルシューティングとして知っておくと、原因究明の時間と材料費の節約につながります。



施釉の厚みや素焼き温度に関連した釉薬の欠陥と対策については、以下のページが参考になります。


愛陶工サイト「釉層が厚くならない」ページ(施釉トラブルの原因と対策が箇条書きで整理されており、実践的なデバッグに役立ちます)