白いマット釉でも下地の色が透けるものがあります。
不透明釉は、焼成後に下地の素地が透けて見えない釉薬のことを指します。陶芸では「失透釉(しっとうゆう)」とも呼ばれ、ガラス質の中に微細な結晶が無数に分散することで光を乱反射させる仕組みです。
透明釉との最大の違いは、光の透過性にあります。透明釉は窓ガラスのように下地の色や模様がそのまま見えますが、不透明釉は壁のように下地を覆い隠します。つまり素地の色が作品の仕上がりに影響しにくいということですね。
不透明になる原理は、釉薬に含まれる成分が焼成中に細かい結晶を形成するためです。代表的な成分は酸化錫、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどで、これらが0.1~1ミクロン(1ミクロン=0.001mm、髪の毛の太さの約100分の1)程度の微結晶を作り出します。
この微結晶が光を散乱させることで、人間の目には白く見えたり、着色剤の発色が鮮やかに見えたりするわけです。乳白色のマット釉や色鮮やかな色釉の多くが、この不透明釉に分類されます。
初心者の作品でも、不透明釉を使えば素地の焼きムラや色の不均一さを隠せます。
不透明釉は大きく分けて「乳白釉」「マット釉」「色釉」の3種類に分類できます。それぞれ異なる成分配合と焼成条件で、独特の質感を生み出しているのです。
乳白釉は、酸化錫や酸化ジルコニウムを5~15%程度配合した釉薬で、真っ白な仕上がりが特徴です。磁器の白さに近い発色が得られるため、食器類によく使われます。焼成温度は1200~1280℃と高めで、還元焼成すると青みがかった白になることがあります。
マット釉は表面に光沢がなく、しっとりとした質感の釉薬です。酸化カルシウムやマグネシウムを多く含み、釉薬表面に微細な凹凸を作ることで光の反射を抑えます。焼成温度は1180~1250℃程度で、触るとわずかにざらつく感触があるのが特徴ですね。
色釉は、乳白釉やマット釉に金属酸化物を加えて発色させたものです。
以下が代表的な着色剤と発色の関係です。
同じ着色剤でも、焼成雰囲気(酸化か還元か)で色が劇的に変わるのが陶芸の面白さです。例えば酸化銅は、酸化焼成では青緑色になりますが、還元焼成では辰砂(しんしゃ)と呼ばれる美しい紅色に変化します。
不透明釉の発色は、素地との相性も重要です。白い磁器素地に施釉すると色が鮮やかに出ますが、鉄分の多い赤土に施釉すると、素地の色が釉薬層を通して影響を与え、くすんだ発色になることがあります。素地の鉄分が0.5%以上含まれていると、白釉でもわずかにクリーム色がかって見えるというデータもあります。
日本陶磁協会の技術用語集に、釉薬の成分と発色に関する詳しい情報が掲載されています。
不透明釉の仕上がりは、施釉の厚みで大きく変わります。薄すぎると下地が透けて見え、厚すぎると釉薬が流れたり剥がれたりするリスクが高まるからです。
適切な釉薬の厚みは0.5~1.0mm程度とされています。これは1円玉1枚分(厚さ約1.5mm)より薄く、名刺1枚分(厚さ約0.2mm)の2~5倍という感覚ですね。実際の施釉では、この厚みを目で確認するのは難しいため、「浸し掛け3秒」「筆塗り3回」といった経験則で判断します。
浸し掛けは最も一般的な施釉方法です。作品を釉薬の中に3~5秒間浸して引き上げると、ちょうど良い厚みになります。小さな湯呑なら3秒、大きな皿なら5秒が目安です。引き上げた直後は釉薬が水っぽく見えますが、30秒~1分で素地が水分を吸収し、粉っぽい質感に変わります。
筆塗りは、浸し掛けができない大きな作品や、部分的に釉薬を変えたい場合に使います。平筆で釉薬を均一に塗り、乾いたら2~3回重ね塗りします。1回塗りだと透明感が残り、4回以上塗ると厚すぎて釉切れ(焼成中に釉薬が流れ落ちる現象)を起こす可能性があります。
スプレー施釉は、エアブラシや霧吹きで釉薬を吹き付ける方法です。薄く均一に仕上がるため、グラデーションや多色使いに適していますが、施釉室が必要なため個人工房では設備面のハードルが高いですね。
施釉の失敗を防ぐには、以下の3点に注意します。
特に重要なのが、素地の乾燥です。水分が残っていると釉薬の吸収が不均一になり、部分的に厚みが変わってしまいます。結果として焼成後にムラや剥がれが発生するため、必ず素焼き後に数日間乾燥させてください。
不透明釉は焼成温度と焼成雰囲気(酸化・還元)によって、まったく違う表情を見せます。同じ釉薬でも条件次第で成功と失敗が分かれるため、温度管理は最重要ポイントです。
焼成温度は釉薬の種類によって異なりますが、一般的な不透明釉の適正温度は以下の通りです。
温度が10℃変わるだけで釉薬の溶け方が変わります。例えば1230℃で完成する釉薬を1250℃で焼くと、釉薬が流れすぎてガラス質が薄くなり、不透明度が下がって下地が透けて見えることがあります。逆に1210℃で焼くと、釉薬が十分に溶けず、表面がザラザラして色が濁ります。
温度管理には、ゼーゲルコーンという三角錐状の指標を使います。これは特定の温度で曲がる性質を持ち、窯の中の実際の熱量を目視で確認できる道具です。電気窯の温度計だけでは炉内の温度ムラを把握できないため、コーンとの併用が推奨されます。
松風陶歯製作所のゼーゲルコーン解説ページに、温度とコーン番号の対応表が掲載されています。
酸化焼成と還元焼成の違いも理解しておく必要があります。酸化焼成は窯内に酸素を十分に供給して焼く方法で、電気窯やガス窯で蓋を開けた状態が該当します。発色は鮮やかで安定しますが、金属的な光沢は出にくいです。
還元焼成は、窯内の酸素を減らして焼く方法です。ガス窯でダンパーを閉じ、不完全燃焼状態を作ることで実現します。釉薬中の金属酸化物から酸素が奪われるため、酸化焼成とは異なる発色になります。辰砂釉や油滴天目など、還元焼成でしか出せない色もあるんですね。
ただし還元焼成は温度管理が難しく、失敗率も高くなります。還元が強すぎると釉薬が黒ずんだり、炭素が素地に入り込んで作品が脆くなったりします。
初心者は酸化焼成から始めるのが無難です。
市販の不透明釉を選ぶとき、多くの陶芸愛好家が見落としがちなポイントがあります。それは「釉薬の保存状態」と「ロット差」です。
釉薬は時間が経つと成分が沈殿・分離し、性質が変化します。特に顔料を含む色釉は、開封後3ヶ月を過ぎると発色が不安定になることがあります。陶芸材料店で1年以上在庫されていた釉薬を使って、想定と違う色が出たという報告は珍しくありません。
購入時は製造年月を確認し、できるだけ新しいものを選んでください。パッケージに記載がない場合は、店員に直接確認するのが確実です。
ロット差も無視できない要素です。同じ商品名の釉薬でも、製造時期によって微妙に成分比率が異なることがあります。特に天然原料(長石、珪石など)を使った釉薬は、採掘場所や時期で鉱物組成が変わるため、ロットごとに発色が変わる可能性があります。
大量生産する作家は、同じロット番号の釉薬をまとめて購入してストックします。個人でそこまでするのは難しいですが、重要な作品を作る前には、必ずテストピースで発色を確認する習慣をつけましょう。
環境面での配慮も、現代の陶芸では重要なテーマです。従来の不透明釉には鉛やカドミウムといった有害金属が含まれることがあり、食器に使うと溶出リスクがあります。特に酸性の食品(酢、レモン汁など)と接触すると、釉薬から微量の金属が溶け出す可能性が指摘されています。
食器用の釉薬を選ぶ際は「無鉛釉」「食品衛生法適合」といった表示を確認してください。これらの釉薬は、厚生労働省が定める溶出試験基準をクリアしており、安全性が保証されています。価格は通常の釉薬より2~3割高くなりますが、健康リスクを考えれば必要な投資ですね。
コスト面では、調合釉(自分で原料を調合して作る釉薬)と市販釉の違いも知っておくと役立ちます。市販の1kg入り不透明釉は2000~4000円程度ですが、原料から調合すれば1kg当たり500~1000円程度に抑えられます。ただし調合には知識と経験が必要で、失敗すると材料費が無駄になるリスクもあります。
初心者は市販釉で経験を積み、中級者になったら調合に挑戦するのが効率的です。
釉薬メーカー各社の特徴も押さえておきましょう。日本国内では、やきもの産地ごとに特色ある釉薬メーカーが存在します。
地域性を理解すると、自分の作風に合った釉薬を見つけやすくなります。
最後に、不透明釉の保管方法についても触れておきます。未使用の釉薬は密閉容器に入れ、直射日光を避けた冷暗所で保管してください。高温多湿の場所に置くと、カビが生えたり成分が変質したりします。一度開封した釉薬は、使う前に必ずよく攪拌し、固まった部分がないか確認することが基本です。
購入時の注意点を押さえておけば、作品の失敗を大幅に減らせます。