呉須を重ね塗りすると色が濃くなるは間違いです。
呉須は陶磁器に青色を発色させるための顔料です。主成分は酸化コバルトで、古くは中国から伝わった天然の鉱物が使われていました。現在では合成された呉須も広く流通しています。
釉薬は陶磁器の表面にガラス質の層を作る素材です。透明釉や白釉など様々な種類があり、呉須と組み合わせることで美しい青色の装飾が可能になります。呉須単体では発色せず、釉薬をかけて焼成することで初めて青色が現れます。
つまり呉須と釉薬はセットです。
陶芸では呉須を素焼き後の器に筆で描き、その上から釉薬をかけて本焼きします。この技法を「染付」と呼び、日本では江戸時代から盛んに行われてきました。有田焼や波佐見焼の青い文様は、この呉須釉薬の技法による代表例です。
天然呉須は中国産の鉱物を粉砕したもので、コバルト以外にマンガンや鉄などの不純物を含みます。この不純物が独特の深みのある青色を生み出し、高価ですが味わい深い発色が得られます。価格は100gあたり3,000円から10,000円程度と幅があります。
合成呉須は酸化コバルトを主成分とした人工顔料です。不純物が少ないため、鮮やかで均一な青色が出ます。価格は100gあたり500円から2,000円程度と手頃で、初心者でも扱いやすいのが特徴です。発色が安定しているため、量産品に向いています。
半合成呉須は天然と合成の中間です。天然呉須に合成顔料を混ぜたもので、価格と発色のバランスが取れています。100gあたり1,500円から4,000円程度で、作家活動をする方に人気があります。
呉須は粉末状と液体状があります。粉末は水で溶いて使用濃度を自分で調整でき、液体は開封後すぐに使えて便利です。保存は密閉容器に入れ、湿気を避ければ数年間使用可能です。
呉須は中国で紀元前から使われてきました。「呉須」という名前は中国の呉地方と蘇州に由来するという説があります。日本には室町時代に伝わり、江戸時代初期に有田で磁器生産が始まると、染付技法が急速に発展しました。
有田焼の初期伊万里では、輸入された天然呉須を使用していました。当時の呉須は「スマルト」とも呼ばれ、オランダ東インド会社を通じて海外にも輸出されました。ヨーロッパの貴族たちは日本の青い磁器を「ジャパンブルー」として珍重したのです。
明治時代になると化学技術の発展で合成呉須が登場しました。これにより安定した品質と低価格が実現し、陶磁器生産の大衆化が進みました。現在では世界中で呉須釉薬の技法が使われ、各地域で独自の表現が生まれています。
現代陶芸では呉須を伝統的な染付だけでなく、抽象的な表現や立体作品にも応用します。作家によっては呉須に他の顔料を混ぜたり、焼成方法を工夫したりして、独自の青色を追求しています。
呉須釉薬の最大の魅力は、深い青色の美しさです。焼成温度や釉薬の種類によって、淡い水色から濃紺まで幅広い表現ができます。筆のタッチがそのまま残るため、書や絵画のような芸術性を器に表現できます。
失敗が少ないのも呉須の特徴です。他の顔料と比べて発色が安定しており、焼成後の色味が予測しやすいため、初心者でも扱いやすい素材といえます。練習すれば誰でも美しい染付作品が作れるようになります。
呉須は日常使いの器に適しています。食器に使用しても安全で、電子レンジや食洗機にも対応できます。実用性と装飾性を兼ね備えた器作りが可能です。
和食器との相性が抜群なのも見逃せません。白い磁器に青い文様という組み合わせは、日本料理を引き立てます。自分で作った染付の器で食事をする喜びは格別です。
多くの初心者が「呉須を濃く塗れば濃い青が出る」と思い込んでいます。実際には呉須を厚く塗りすぎると、焼成時に釉薬が弾かれたり、黒ずんだりする失敗が起こります。
適切な濃度と薄塗りの重ね方が重要です。
素焼き前に呉須を塗ってしまう方もいますが、これは間違いです。呉須は素焼き後に塗るのが基本で、生地の段階で塗ると焼成時に消えてしまったり、ムラになったりします。
正しい工程を守ることが成功への近道です。
「どんな釉薬でも青く発色する」という誤解も多く見られます。呉須は釉薬の種類によって発色が大きく変わり、透明釉では鮮やかな青、乳白釉では淡い青になります。
釉薬との相性を理解する必要があります。
焼成温度を軽視する初心者も少なくありません。呉須の発色は温度に敏感で、低すぎると薄く、高すぎると黒ずみます。使用する呉須と釉薬に適した焼成温度を守ることが、美しい青色を出すコツです。
天然呉須は有田焼や九谷焼のような伝統工芸品を目指す方に向いています。発色に深みがあり、わずかな紫がかった青色が特徴です。ただし価格が高く、ロットによって色味が変わることがあるため、大量生産には不向きです。
作家作品や一点物に使うと価値が高まります。
合成呉須は安定した発色を求める方や初心者におすすめです。色ムラが少なく、同じ青色を再現しやすいため、シリーズで器を作る場合に適しています。コストも抑えられるので、練習用としても最適です。
半合成呉須は両者の良いところを取った選択肢です。天然呉須の味わいを残しつつ、価格と安定性のバランスが取れています。教室で使う場合や、販売用の器作りに向いています。
液体呉須は手軽さが魅力です。水で溶く手間がなく、開封後すぐに筆で描けます。濃度調整の必要がないため、初めて呉須を使う方に適しています。ただし保管中に沈殿することがあるので、使用前によく振ることが大切です。
粉末呉須は自分で濃度を調整したい上級者向けです。水の量を変えることで、淡い色から濃い色まで自由に表現できます。長期保存にも適しており、コストパフォーマンスも良好です。
透明釉は呉須の発色を最も鮮やかに見せる釉薬です。下絵がそのまま透けて見えるため、筆のタッチや濃淡がくっきりと現れます。焼成温度は1230度から1250度が適温で、温度が高すぎると呉須が流れることがあります。
白釉は呉須の青色を柔らかく見せます。透明釉ほど鮮やかではありませんが、上品な淡い青色になり、和食器に適した落ち着いた雰囲気になります。白釉の厚さで発色の濃さが変わるため、テストピースで確認するのが基本です。
青磁釉と呉須の組み合わせは高度な技法です。青磁釉自体が青緑色を持つため、呉須の青と混ざり合い、独特の深い青色が生まれます。焼成温度は1250度から1280度とやや高めで、還元焼成が必要です。
乳白釉を使うと呉須は淡いパステルブルーになります。モダンな印象の器を作りたい場合に適しています。ただし発色が弱いため、呉須の濃度を通常より濃いめにする必要があります。
マット釉との組み合わせは現代陶芸で人気です。光沢を抑えた質感と呉須の青が調和し、シックな作品になります。マット釉は厚めにかけると呉須が見えにくくなるので、薄めの施釉がコツです。
呉須の発色は焼成温度に大きく左右されます。一般的な磁器の場合、1230度から1250度が最適温度です。
この温度帯では鮮やかな青色が出ます。
温度が低いと薄い青になり、高すぎると黒ずんだり流れたりします。
電気窯は温度管理が正確で、初心者に向いています。プログラムで設定した温度まで自動で焼成でき、呉須の発色も安定します。ただし還元焼成ができないため、青磁釉との組み合わせには不向きです。
ガス窯は還元焼成が可能です。還元焼成では窯内の酸素を減らすことで、呉須がより深い青色に発色します。伝統的な染付の色味を出したい場合はガス窯が適していますが、温度管理には経験が必要です。
薪窯での呉須焼成は難易度が高いものの、独特の景色が生まれます。灰がかぶったり、炎の当たり方で色が変化したりするため、一点物の作品作りに向いています。焼成には数日かかり、経験豊富な指導者のもとで行うことが大切です。
温度計やゼーゲルコーンで焼成温度を確認します。ゼーゲルコーンは特定の温度で曲がるセラミック製の棒で、焼成が適温に達したかを視覚的に判断できます。番号によって曲がる温度が決まっており、呉須釉薬には7番(1230度)から8番(1250度)が適しています。
粉末呉須を水で溶く場合、基本的な濃度は水100ccに対して呉須粉末10gから15gです。
これは牛乳程度のとろみが目安となります。
濃すぎると筆が進まず、薄すぎると発色が弱くなります。
濃度調整にはスポイトと計量カップが便利です。毎回同じ濃度で使いたい場合は、水と呉須の量を記録しておきます。使用前に茶こしで濾すと、ダマがなくなり滑らかな描き心地になります。
呉須を溶いた液は密閉容器で保管します。プラスチック容器よりもガラス瓶の方が長持ちします。使用後は蓋をしっかり閉め、直射日光を避けた冷暗所に置けば半年から1年は使用可能です。
粉末呉須の保管も重要です。湿気を吸うと固まってしまうため、シリカゲルを入れた密閉容器で保管します。冷蔵庫に入れる必要はありませんが、温度変化の少ない場所を選びます。
未開封なら5年以上保管できます。
液体呉須は開封後3ヶ月以内に使い切るのが理想です。長期間放置すると沈殿が固まり、使いにくくなります。
使用前は必ず容器を振って均一にします。
固まってしまった場合は、少量の水を加えて混ぜれば復活することもあります。
合成呉須の粉末は100gで500円から1,000円程度です。初心者なら100gで湯呑み10個から15個分の絵付けができます。液体呉須は200mlで1,500円から2,500円が相場で、手軽さを考えると割高感は少ないです。
天然呉須は100gで3,000円から10,000円と高価です。中国産の最高級品になると、100gで20,000円を超えるものもあります。味わい深い発色が魅力ですが、初心者の練習用には不向きです。作品として仕上げる段階で使用を検討しましょう。
陶芸材料店での購入が一般的です。実店舗では実物を見て選べるメリットがあり、店員に相談もできます。東京なら浅草橋や日暮里、大阪なら心斎橋周辺に専門店が集まっています。
オンラインショップは品揃えが豊富です。価格比較もしやすく、地方在住でも入手できます。ただし送料がかかるため、まとめ買いが経済的です。大手の陶芸材料店ではポイント制度もあり、継続購入するとお得になります。
山田貴金属工業株式会社
釉薬は1kgで800円から2,000円程度です。呉須用の透明釉や白釉は比較的安価で、特殊な釉薬は高価になります。1kgあれば湯呑み20個から30個に施釉できるため、コストパフォーマンスは良好です。
素焼きの器を用意します。素焼き温度は800度前後が標準で、これにより器が適度な吸水性を持ちます。吸水性が高すぎると呉須を吸い込みすぎて濃くなり、低すぎるとはじいてムラになります。
素焼きが基本です。
器の表面の汚れや油分を取り除きます。素手で触ると皮脂がつくため、乾いた布で拭くか、水洗いして完全に乾燥させます。油分が残っていると呉須が弾かれて、きれいに描けません。
下絵のデザインを決めます。
いきなり本番の器に描くのは失敗のもとです。
紙に図案を描いてイメージを固めるか、練習用の素焼き片で試し描きをします。
初心者は単純な文様から始めるのがコツです。
呉須の濃度を確認します。素焼き片に少量塗って乾燥させ、理想の濃さか見ます。焼成後は描いた時より濃く発色することを考慮して、やや薄めに調整します。濃すぎる場合は水を足し、薄すぎる場合は呉須粉末を足します。
筆と道具を準備します。面相筆や削用筆など、描く文様に合わせた筆を選びます。筆は使用前に水で濡らし、ティッシュで余分な水分を取ります。呉須皿、水入れ、ティッシュペーパーも手元に置いておきます。
筆に呉須を含ませます。筆先を呉須液に浸し、皿の縁で余分な液を落とします。含ませすぎると垂れてしまうため、筆先の3分の1程度が目安です。
適量を守れば失敗が減ります。
線を引く場合は筆を立てて描きます。筆先だけを使い、細い線から太い線まで筆圧で調整します。手首を固定して、腕全体を動かすと安定した線が引けます。
一筆で引き切るのがコツです。
面を塗る場合は筆を寝かせます。
筆の腹を使って、均一に塗り広げます。
同じ場所を何度も塗ると濃くなりすぎるため、一度塗りで仕上げます。ムラが気になる場合は、乾いてから薄く重ね塗りします。
重ね塗りは完全に乾いてから行います。濡れた状態で重ねると、下の層が溶けて汚くなります。自然乾燥で20分から30分、ドライヤーを使えば5分程度で乾きます。
急ぐときはドライヤーが便利です。
失敗した部分は濡れたスポンジで拭き取れます。素焼きの吸水性を利用して、描き直しが可能です。ただし完全には消えないため、最初から慎重に描くことが大切です。
消しゴムは使えません。
染付は呉須で絵や文様を描く最も基本的な技法です。白磁に青い文様という組み合わせで、日本では江戸時代から盛んに行われてきました。花鳥風月や幾何学文様など、多様なデザインが可能です。
初心者でも挑戦しやすい技法です。
だみ技法は輪郭線を引いてから内側を塗りつぶす方法です。
線を引く筆と塗る筆を使い分けます。
濃淡をつけることで立体感が出ます。
熟練すると絵画のような表現ができます。
いっちん技法は呉須をクリーム状にして、注射器のような道具で盛り上げる技法です。立体的な文様が作れ、独特の存在感があります。現代陶芸でも人気の技法で、モダンな器作りに適しています。
墨はじき技法は和紙を型紙として使います。型紙を器に貼り付け、その上から呉須を塗ります。型紙を剥がすと、白抜きの文様が浮かび上がります。幾何学模様やレース模様の表現に向いています。
吹き付け技法はスプレーガンで呉須を霧状に吹き付けます。グラデーション表現や、型紙と組み合わせたステンシル技法が可能です。現代的なデザインに挑戦したい方におすすめです。
呉須が弾かれる失敗は油分が原因です。素焼き前に器を素手で触ったり、筆に油がついていたりすると起こります。対処法は器を中性洗剤で洗い、完全に乾燥させることです。
筆も石鹸で洗って油を落とします。
呉須が流れる失敗は濃度が高すぎることが原因です。
粘度が低く、塗った後に垂れてしまいます。
対処法は水を加えて薄めることですが、塗り直しが必要になります。
適切な濃度管理が予防につながります。
焼成後に黒ずむ失敗は呉須を厚塗りしたか、焼成温度が高すぎた場合に起こります。呉須は薄く塗り重ねるのが基本で、一度に厚く塗らないことが大切です。
焼成温度も推奨範囲を守ります。
発色が薄い失敗は呉須の濃度が薄すぎるか、焼成温度が低すぎることが原因です。
濃度を見直し、素焼き片でテストします。
焼成温度も温度計で確認し、適温で焼くことが解決策です。
釉薬のムラで呉須が見えにくくなる失敗もあります。釉薬を厚くかけすぎると、呉須の青が白っぽくなります。
釉薬は均一に、適量をかけることが重要です。
釉薬の厚さは1mm程度が目安となります。
焼成後の作品は窯から出して冷まします。急激に冷やすとヒビが入るため、自然に冷めるまで待ちます。窯から出した直後は触ると火傷するので、数時間は放置が基本です。
器の底を確認します。釉薬が底まで流れて窯板にくっついていないかチェックします。もしくっついていたら、ダイヤモンドやすりで削り取ります。底の処理が甘いとテーブルを傷つけるため、必ず確認します。
呉須の発色を確認します。光の当たり具合で青色の見え方が変わるため、自然光と室内灯の両方で見ます。
意図した色が出ていれば成功です。
思った色と違う場合は、次回の参考にします。
作品の使い心地をチェックします。実際に手に持ち、口当たりや重さを確認します。
飲み物を入れて、使用感を試します。
実用性と美しさの両立が良い作品の条件です。
作品を撮影して記録します。光の角度を工夫すると、呉須の青色が美しく撮れます。制作日、使用した呉須の種類、釉薬、焼成温度をメモしておくと、次回の制作に役立ちます。
データを残すことが上達の近道です。