釉裏紅 辰砂の発色と焼成の秘密

釉裏紅と辰砂は銅を使った美しい紅色の技法ですが、焼成条件次第で緑や茶色に変わってしまう難しさがあります。なぜこれほど発色が不安定なのでしょうか?

釉裏紅 辰砂とは

還元焼成しても緑色になることがあります。


この記事のポイント
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釉裏紅と辰砂の違い

釉裏紅は透明釉の下に銅絵具で文様を描く技法、辰砂は透明釉に銅を混ぜた赤い釉薬のこと

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発色の難しさ

温度や還元状態で赤・緑・茶色に変化し、高温では銅が揮発して消えてしまう

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歴史的価値

中国の元時代から続く伝統技法で、日本では初期伊万里で盛んに製作された

釉裏紅と辰砂釉の基本的な違い


釉裏紅と辰砂はどちらも銅を使って紅色を出す技法ですが、実は製作方法が異なります。釉裏紅は透明釉の下に銅を含む絵具で文様を描く技法で、下絵付けの一種です。一方、辰砂釉は透明釉の中に銅を混ぜ込んで赤い釉薬として用いるものです。


つまり別物ということですね。


本来「辰砂」は硫化水銀の俗称で朱色をしているため、その色になぞらえて紅色のものを辰砂と呼ぶようになりました。中国では釉裏紅を「紅釉」と呼び、北宋時代の定窯で作られた「紅定」がその起源とされています。元時代後期(14世紀)になって景徳鎮窯で本格的に製作されるようになりました。


日本の肥前磁器では、磁器創始期の清六の辻1号窯や小溝上窯などで陶片が出土しており、染付作品の一部分に辰砂釉を施したり、青磁壷の口縁部に辰砂釉を塗り巡らす例が見られます。初期伊万里の時期には釉裏紅が盛んに製作されましたが、17世紀後半以降は例外を除いて行われなくなりました。


釉裏紅 辰砂の発色メカニズム

銅は酸化炎焼成では緑色に、還元炎焼成では赤く発色する性質を持っています。この性質を利用して美しい紅色を出すのが釉裏紅と辰砂の技法です。


銅の性質が基本です。


しかし、発色は非常に不安定です。火力が弱い場合は緑色になったり、温度が高すぎると銅が揮発して文様が消えてしまったりします。焼成時の還元の強さ、温度分布、窯内の酸素量によって、くすんだ赤や茶色に寄った発色になることもあります。同じ窯の中でも器ごとに異なる表情を見せることがあり、これが「窯変」の魅力でもあります。


理想的な焼成条件が整ったときは、釉薬の表面が艶やかな深紅となり、光の当たり方によっては紫がかって見えることもあります。この美しさを引き出すには、窯元や陶芸家の高度な技術と経験が必要です。


うまか陶の釉裏紅・辰砂の詳細解説(焼成方法と発色の原理について)

釉裏紅 辰砂の歴史的背景

釉裏紅の初源的なものは晩唐の五代時代(9〜10世紀)に見られ、元時代後期(14世紀)に景徳鎮窯で本格的に製作されました。明時代の洪武年間(1368〜98)には宮廷磁器に紅釉が作られ、以後「牛血紅」「桃花紅」などさまざまな作風が生まれました。


中国では「紅釉」といいます。


明朝の宣徳年間(1426-35)に舞紅(祭紅・宝石紅)が発明されました。これは鮮やかで落ち着いた紅色調で、非常に上品な釉調でしたが、明末万暦(1573-1620)の中頃から中絶しました。その後、景徳鎮では「積紅手」という技法が開発され、現在も盛んに焼造されています。


朝鮮半島では高麗時代後期(12世紀後半〜13世紀)に青磁釉下に銅で文様が筆描きで表わされ、朝鮮時代後期(18世紀)には民窯の白磁で釉裏紅が流行しました。日本では初期伊万里の時期(17世紀前半)に猿川窯や広瀬窯などで製作されましたが、銅が高温で揮発しやすく文様が安定しないため、17世紀後半以降はほとんど行われなくなりました。


釉裏紅 辰砂の製作技法と種類

辰砂釉の製作には大きく分けて二つの工程があります。一つは生素地に直接釉を施して本焼する「生掛け」で、舞紅手や郎窯手がこの方法です。もう一つは一度本焼した後に辰砂釉を掛けて再度本焼する方法で、これを「積紅手」といいます。


生掛けは焼成が難しいです。


生掛けの場合、焼成の温度管理に非常に苦心を要し、辰砂釉の見事な呈色を得るには相当の困難を伴います。一方、積紅手の工程であれば比較的容易に見事な紅色を得ることができます。


景徳鎮などでは積紅手が主流となっています。


辰砂手の窯変も真紅に劣らず賞翫されます。緑変したものは「頚果緑」または「アップルグリーン」と呼ばれ、極めて価値が高いとされています。このように意図しない発色も、陶芸作品としての魅力の一つとなっています。


信楽焼京焼清水焼の作品にも辰砂釉が見られますが、近年では独自の辰砂釉を開発する作家もおり、それぞれに微妙な差異と個性が光っています。


鶴田商店の辰砂釉解説(舞紅・郎窯・積紅などの種類について)

釉裏紅 辰砂の鑑賞ポイント

辰砂釉の作品を鑑賞する際は、まず色の深みと艶を見てください。理想的な発色の作品は、深紅でありながら透明感があり、光の当たり方で紫や朱色のニュアンスが変化します。


色の変化が鑑賞の醍醐味です。


窯変による色のムラや濃淡も重要な鑑賞ポイントです。完全に均一な赤よりも、微妙な色の変化がある方が味わい深いとされることもあります。釉裏紅の場合は、透明釉の下に描かれた文様の鮮明さと、銅が揮発せずにきちんと残っているかどうかが品質を左右します。


また、作品の形状と釉薬の調和も見逃せません。器の曲線に沿って釉薬が流れる様子や、口縁部や高台付近での釉薬の厚みの変化によって生まれる色の濃淡は、一つとして同じものがない個性となります。


近代の模作であっても、その焼成の過程を知っていれば、作家の苦労と技術を理解することができます。真贋だけでなく、技術的な難易度や美的価値を総合的に評価することが、辰砂釉の作品を楽しむコツです。


釉裏紅 辰砂を学ぶための実践アプローチ

釉裏紅や辰砂の技法を実際に学びたい場合、まず還元焼成ができる窯を持つ陶芸教室を探すことが重要です。電気窯でも還元焼成は可能ですが、ガス窯薪窯の方が伝統的な発色を得やすいとされています。


還元焼成できる窯が条件です。


銅を含む釉薬や絵具の調合を学ぶには、専門書や窯元の技法書を参考にしてください。一般的には酸化銅炭酸銅を使用しますが、配合比率や他の成分との組み合わせによって発色が大きく変わります。初心者の場合は、市販の辰砂釉を使って焼成の感覚をつかむのが良いでしょう。


焼成温度と還元のタイミングを記録することも大切です。何度でどのくらいの時間還元したか、窯の中のどの位置に置いたかなどを詳細にメモしておくと、次回以降の参考になります。失敗作からも多くを学べるのが辰砂の面白さです。


実物を見る機会も積極的に作ってください。博物館や美術館で中国や朝鮮、日本の古陶磁を鑑賞したり、現代作家の個展を訪れたりすることで、理想とする発色のイメージが具体的になります。特に明代の宣徳年間の舞紅や、清代の郎窯手などは、辰砂釉の最高峰とされる作品です。


三池焼の辰砂釉についての解説(実践的な製作のヒント)




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