定窯白磁は純白ではなく象牙色です。
定窯白磁の最大の特徴は、その独特の象牙色(アイボリーホワイト)です。この色は、胎土に含まれる鉄分や、釉薬の成分(長石や石灰など)、焼成温度、還元焼成による影響など、様々な要因が複雑に絡み合って生まれます。
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純白を目指しているのではありません。
実は、定窯白磁は懐中電灯程度の光であれば通さないことが多く、一般的な「白磁=透光性がある」というイメージとは異なります。胎土が磁器化が進み、純白で硬く焼きしまった素地の上に、やや黄みの帯びた釉薬が施されるため、あたたかみのある牙白色の釉調になるのです。
この独特の色合いこそが定窯白磁の魅力です。
定窯白磁には「刻花(こくか)」と「印花(いんか)」という2種類の装飾技法が使われます。刻花は道具を使って模様を彫る技法で、印花は型を使って模様を押す技法です。
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これらの技法により、花文・蓮池水禽などの精緻な文様が器面に施されました。彫刻や捺染で華やかな模様を施すことで、実用性と装飾性を両立させたのです。
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装飾が薄い胎を引き立てます。
定窯は薄くて軽い胎に白く透明な釉が施され、他の四大名窯(汝、官、哥、鈞)の青磁とは一線を画す存在でした。碗、皿、鉢、瓶、枕などの器形に精巧な刻花や印花装飾が施されたものが多く、高い技術力を示しています。
定窯は中国の華北、現在の河北省定県にあった宋時代の有名な民間窯場です。唐代初期には黄釉や褐釉なども生産していましたが、次第に白磁生産に特化していきます。
参考)定窯 ていよう
北宋時代に最盛期を迎えました。
参考)中国の定窯(ていよう)
晩唐から五代にかけて、原料の精製技術や焼成技術の向上により、胎土の磁器化が進み、純白で硬く焼き締まった白磁が作られるようになりました。この時代の定窯白磁は、朝廷への貢納品としても用いられ、高い地位を誇っていました。
定窯はその美しさから汝窯・官窯・哥窯・鈞窯とともに五大名窯と称えられます。五大名窯の中で唯一の白磁であり、他の四大名窯が青磁であることを考えると、定窯白磁の独自性と重要性がわかります。
興味深いことに、定窯を支配下に置いたことは、遼にとって特別な出来事でした。定窯はほどなくして漢族に奪取されてしまいますが、それでも遼は定窯のような製品を求め、主要都市の近くに窯を築いて白磁の生産を行ったのです。
定窯白磁には「覆焼(ふくしょう)」という特殊な焼成方法が用いられました。これは器を伏せた状態で焼く技法で、生産効率を高めるために開発されたものです。
この技法には副産物がありました。
覆焼により、碗や鉢の類では口縁部分に釉薬がかからない「芒口(ぼうこう)」という特徴が生まれます。芒口は定窯白磁を見分ける重要なポイントの一つで、口縁に金属や銅の縁を巻いて補強することもありました。
10〜20客揃いの数物が大量に焼かれていましたが、小さくても手を抜かずにクオリティーを保つというこだわりが感じ取れます。この大量生産と高品質の両立こそが、定窯が民間窯でありながら五大名窯に数えられた理由の一つです。
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現代の白磁づくりにおいても、作家はまず原土を探すことから始めます。器の形も装飾も原料次第となり、土の性質を生かすために後から決められるのです。
意外な工夫がされています。
現代の精製された原料は画一化されており、一定の手順を踏めば誰が焼いても同じような、テカテカと光るだけの味気のない冷たい白磁が出来上がってしまいます。そこで現在の作陶家は、この精製され過ぎた原料に、鉄分を含む粘土などの不純物をわざと混ぜるなどして、白のあたたかさを出そうとしているのです。
つまり逆の発想が必要なのです。
出来る限り白い原土を求めた昔とは逆に、新たな「あたたかさ」のある原土を求めて、作陶家は創意工夫しています。定窯白磁の象牙色のあたたかみは、現代の白磁制作においても理想とされる色合いなのです。
白磁を作る時には、使いやすい器・持ちやすい器・洗いやすい器・食器棚に入りやすい器を常に考えながら作ることが重要です。面白い形ではなくてきちんとした形を作り続けるのは難しく、最初の土を練る工程から完成具合が決まってきます。
定窯白磁と言っても、実は様々な種類が存在します。基本的な白磁である「白定」のほかに、紅定・紫定・黒定といった高温色釉を施した特別な品種もありました。
色のバリエーションがあります。
これらの色釉の進化により、定窯は単なる白磁の窯ではなく、多様な色彩を持つ陶磁器を生産する窯へと発展していきました。特に紅定や紫定は希少価値が高く、コレクターの間で珍重されています。
白という色は無限であるという言葉は過言ではありません。というのも透明釉のため、使用している土の色により白と言ってもそれぞれまったく違う表情だからです。
そのため、骨董市や骨董屋、またインターネットなどでとにかく多くの白磁を見てみることが重要です。古いものになるほど、表情も各々異なり焼きが良かったり、甘かったりで現在の既製品にはない暖かみも感じます。
参考)白磁
「焼物好きが最後に行き着くのは白磁と青磁」と言われます。白い器は長年人々が手に入れたいと願った貴重なもので、それ程白い色を出すのは難しかったのです。
参考)最後の晩餐にはまだ早い 出光美術館「東洋の白いやきものー純な…
料理を惹き立てる器です。
磁器が発明される前は陶器の表面に白い化粧土を上掛けして焼成する方法が取られました。日本の志野焼や中国・磁州窯の白釉陶器もこの技法によるものです。
料理は器があって完成するもので、その料理を惹き立てるのは、白磁、白釉陶に優る物はないと考えられています。白磁は使ってこそ面白く、そのものを飾って鑑賞するだけではなく、何を組み合わせて、どこに使うかその範囲が広いから魅力を感じるのです。
日用品として愛される理由がここにあります。
白磁は陶磁器の歴史としてとても長く、現代においても人気の高い種類の一つで、日用品として愛されています。定窯白磁の伝統を受け継ぐ現代の白磁も、日常の食卓を豊かに彩る器として活躍しているのです。
| 項目 | 定窯白磁の特徴 | 現代白磁との違い |
|---|---|---|
| 色調 | 象牙色(アイボリーホワイト) | 純白(精製された原料による) |
| 胎土 | 鉄分を含む自然な土 | 精製され過ぎた画一的な土 |
| 装飾 | 刻花・印花による精緻な文様 | シンプルなデザインが主流 |
| 焼成方法 | 覆焼による芒口 | 通常の焼成方法 |
| あたたかみ | 自然な不純物によるあたたかさ | わざと不純物を混ぜて再現 |
定窯白磁を代表する現代の陶芸家の作品も展示されており、伝統的な美しさを活かしながら新しい表現を模索する作家の姿勢を見ることができます。定窯白磁の技術と美意識は、現代の陶芸家にも大きな影響を与え続けているのです。