炭酸鉄化学式と性質、菱鉄鉱の特徴

炭酸鉄の化学式FeCO3について、その基本的な性質から菱鉄鉱としての産出、工業的な用途まで詳しく解説します。鉄の炭酸塩はどのような特徴を持つのでしょうか?

炭酸鉄の化学式と基本的性質

炭酸鉄の重要なポイント
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化学式と構造

FeCO3で表される鉄(II)の炭酸塩、三方晶系の結晶構造を持つ

物理的特性

密度3.96g/cm³、200℃で分解開始、菱面体結晶が特徴

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天然産出

菱鉄鉱として産出、かつては重要な鉄鉱石として利用

炭酸鉄(II)の化学式と分子構造

 

炭酸鉄(II)は、化学式FeCO3で表される鉄の炭酸塩化合物です。この化合物は鉄イオン(Fe²⁺)と炭酸イオン(CO3²⁻)が1:1の比率で結合した構造を持ち、モル質量は115.854g/molとなっています。炭酸鉄には二価の炭酸鉄(II)と三価の炭酸鉄(III)が存在しますが、一般的に「炭酸鉄」と呼ばれるのは炭酸鉄(II)を指します。

 

参考)炭酸鉄(II) - Wikipedia

結晶構造は三方晶系(六方晶系)に分類され、方解石などと同様の菱面体を形成します。ただし、炭酸鉄の結晶面は方解石とは異なり湾曲する特徴があり、これが菱鉄鉱として識別される際の重要なポイントとなります。完全な劈開面{1011}を持ち、硬度は3.75~4.25、比重は3.96と比較的高い値を示します。

 

参考)炭酸鉄とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

無色から灰褐色の結晶として存在し、外観は菱面体、板状、柱状結晶、繊維状、魚卵状、球状など多様な形態で産出します。条痕は白色であり、真珠光沢を示すことが特徴的です。

 

参考)http://www.jiban-fluorite.com/mineral/siderite.html

炭酸鉄の物理化学的性質と安定性

炭酸鉄(II)の密度は3.8~4.0g/cm³(文献によっては3.96g/cm³)で、水への溶解度は極めて低く、18℃で7.2×10⁻²g/100cm³溶液です。ただし、二酸化炭素を飽和した水には約1g/Lが溶解することが報告されています。この性質は、炭酸鉄が炭酸ガスを含む水環境で生成しやすいことを示唆しています。

 

参考)炭酸鉄(タンサンテツ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

熱的安定性に関しては、200℃付近から分解が始まり、490℃で二酸化炭素の解離圧が1気圧に達します。この分解過程では二酸化炭素と酸化鉄(II)が生成しますが、同時に分解生成物である二酸化炭素と酸化鉄(II)の反応も進行し、最終的に四酸化三鉄(Fe3O4、マグネタイト)が生成されます。

 

参考)https://www.itc.pref.tokushima.jp/fs/9/0/8/1/_/H15-18.pdf

乾燥空気中では比較的安定ですが、湿った空気中では容易に酸化されて褐色の水酸化鉄(III)と二酸化炭素に変化します。冷時希塩酸には少しずつ溶解しますが、温時には容易に溶け、二酸化炭素を発生します。この性質は、菱鉄鉱の鑑別において重要な手がかりとなっています。

 

参考)菱鉄鉱

意外な性質として、炭酸鉄は光機能材料としての応用も期待されており、紫外光や可視光の照射により炭酸鉄ナノ粒子の生成が促進され、水素やメタンの生成も促進されることが研究で明らかになっています。

 

参考)https://zai-amano.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/022.chanri-fa.pdf

炭酸鉄の生成方法と合成反応

実験室レベルでは、鉄(II)塩の水溶液に空気を遮断して炭酸水素アルカリを加えることで炭酸鉄が生成されます。この反応では酸素による酸化を防ぐため、不活性雰囲気下で行うことが重要です。

 

参考)水酸化鉄(II)と炭酸鉄(II)の空気酸化によるX線的に非晶…

近年注目されているのは、鉄粉末と二酸化炭素、水から直接炭酸鉄を合成する方法です。この反応は以下の式で表されます:
参考)https://sumitomoelectric.com/jp/sites/japan/files/2025-01/download_documents/J206-13.pdf

Fe + H2O + CO2 → FeCO3 + H2↑
この反応は発熱反応であり、常温常圧でも進行することが確認されています。住友電工の研究では、密閉容器内で鉄粉末とCO2を接触させることで炭酸鉄の合成に成功しており、副産物として水素ガスが発生することから、CO2固定化と水素製造を同時に行える環境技術として期待されています。

 

参考)https://gakusyu.shizuoka-c.ed.jp/science/sonota/ronnbunshu/h30/183006.pdf

また、水熱条件下では鉄と水の反応および炭酸鉄の分解反応によってマグネタイト(Fe3O4)が結晶化し、水素が発生することも報告されています。紫外光照射下では炭酸鉄ナノ粒子の生成が促進され、水素およびメタンの生成も促進されるという光化学的な生成方法も研究されています。

工業的には、排出されるCO2を炭酸塩に変換した後、鉄と反応させて炭酸鉄を合成する方法が実用化に向けて検証されており、追加のエネルギー投入なしに炭酸塩と鉄から炭酸鉄を合成する方法が実証されています。

菱鉄鉱としての炭酸鉄の産出と地質学的特徴

天然の炭酸鉄は菱鉄鉱(Siderite)という鉱物名で知られ、鉄鉱石として歴史的に重要な役割を果たしてきました。菱鉄鉱は頁岩や粘土層中に層状の堆積物として産出するほか、熱水鉱床脈石鉱物、熱変成堆積岩中など多様な産状を示します。

石炭層中での菱鉄鉱の産出は特に興味深く、石炭化の過程や当時の堆積環境を知る上で重要な指標となっています。北海道の石狩炭田では菱鉄鉱質岩が多く産出し、その成因について詳しい研究が行われています。菱鉄鉱は硫酸塩還元終了後のような非常に低いpS2-条件でしか安定に存在できないため、その存在は古環境を復元するための重要な手がかりとなります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/70/4/70_129/_pdf

菱鉄鉱は鉄の含有量が高いことから鉄鉱石としての利用が考えられますが、他の主要な鉄鉱石(赤鉄鉱磁鉄鉱など)と比較すると、鉄の含有率や採掘・精錬の容易さで劣るため、現在では大規模な鉄鉱石としての利用は限定的です。

ドイツのジーゲルランド地方では、14~15世紀に高炉製鉄が発達し、一帯に産出する菱鉄鉱は多量のマンガンを含み、優れた鉄(鋼)の原料とされていました。菱鉄鉱中の鉄はマンガン、マグネシウムと置換することができ、菱マンガン鉱菱苦土鉱と連続して固溶体を形成します。

 

参考)菱鉄鉱 - Wikipedia

地質学的には、海底や湖底などの堆積環境における酸素濃度や硫化水素の有無を推定する指標鉱物として重要な役割を果たしており、菱鉄鉱の炭素同位体比が+10‰前後の高い値を示すことは、メタン発酵段階での形成を示唆しています。

炭酸鉄の工業的用途と医薬品応用

炭酸鉄は医薬品として鉄欠乏性貧血の治療に用いられており、日本では古くから使用されてきました。経口鉄剤としての炭酸鉄は、硫酸鉄などと比較して胃腸障害が少ないとされ、患者のコンプライアンス向上に寄与しています。透析患者においては、鉄含有リン吸着薬としてのクエン酸第二鉄水和物が使用されており、血清リン値の低下に加え、含有成分の鉄が体内で吸収されて貧血の改善にも寄与することが報告されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10305423/

工業的には、菱鉄鉱質鉱物が茶色の塗料顔料として利用されています。酸化鉄顔料は一般に優れた耐熱性、耐候性、紫外線吸収性などの利点を持ち、建築塗装や防食塗装に広く使用されますが、炭酸鉄を熱分解して得られる酸化鉄も同様の用途に応用できます。

 

参考)シデライト宝石:特性、意味、価値など

環境技術としての応用も注目されており、鉄スクラップと二酸化炭素から炭酸鉄を合成することで、CO2の固定化と水素製造を同時に行うプロセスが開発されています。住友電工では炭酸鉄を「metacol」という商標名で機能性素材として活用し、排出されたCO2を材料に変換する技術を実用化しています。

科学研究においては、水からヒ素やフッ化物を除去するための吸着材、農業管理の研究、リチウムイオン電池の製造のために合成菱鉄鉱が製造されています。また、炭酸鉄は光機能材料としての応用も期待されており、色素分解実験により光触媒としての可能性が示されています。

鉄鉱石の直接還元においても、炭酸鉄鉱石を水素雰囲気下で還元焙焼することで、CO2の部分放出とともに元素鉄を一段階で生成する環境配慮型の製鉄法が研究されており、従来の高炉法と比較してCO2排出量を90%削減できる可能性が示されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6686975/

 

 


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