菱マンガン鉱 日本の産地と鉱山の特徴

バラ色の美しい結晶で知られる菱マンガン鉱は、かつて日本の複数の鉱山で採掘されてきました。北海道と青森県の産地、それぞれの鉱山の歴史や特徴、そして現在の状況はどのようになっているのでしょうか?

菱マンガン鉱 日本の産地

菱マンガン鉱の基本情報
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鉱物の性質と特徴

菱マンガン鉱はマンガンの炭酸塩鉱物で、化学組成はMnCO₃です

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世界の主要産地

中南米、アメリカ、南アフリカ、ルーマニアなどが有名です

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色と外観

インカローズ、ロードクロサイトとも呼ばれる美しいピンク~紅色の結晶

菱マンガン鉱の結晶構造と物理的特性

 

菱マンガン鉱は三方晶系に属する鉱物で、「菱型」の結晶形状が日本名の由来となっています。硬度はモース硬度で3.5~4と軟らかく、ナイフで傷がつく程度の脆さが特徴です。比重は3.7で、結晶系は六方晶系に分類されます。方解石カルサイト)と類似した結晶構造を持ち、類質同像鉱物として固溶体を形成します。

 

劈開は完全で{1011}方向に沿って割れやすく、条痕は白色です。屈折率はω1.816、ε1.597で、ガラス光沢を持つものが多いものの、稀に真珠光沢を示すものも見られます。最も注目すべき特徴は、菱マンガン鉱は空気や湿気で酸化しやすいという点です。屋外に放置したり雨に打たれると、褐色の皮膜が形成されたり黒色化しやすくなります。

 

菱マンガン鉱の色は含有する不純物によって大きく異なります。鉄、マグネシウム、カルシウムなどの不純物が少ないと鮮やかなピンク色から暗赤色となり、不純物が多いと白色、黄灰色、黄褐色、褐色をとります。日本の銀山では昔から不純物が多い黄灰色から白褐色のものが産出し、「かつぶし鉱(鰹節鉱)」と呼ばれていました。

 

菱マンガン鉱 日本の産地の歴史的背景

日本における菱マンガン鉱の産出は1891年に遡り、北海道の遊楽部鉱山での記載が最も古いとされています。1894年には石川県の倉谷鉱山、秋田県の院内鉱山、北海道のポンシカリベツ鉱山、稲倉石鉱山など複数の鉱山で菱マンガン鉱が報告されました。1895年には新潟県の相川鉱山(佐渡)、1899年には秋田県の大石鉱山や愛知県の鳥羽鉱山で記載が続き、1900年には北海道の大江鉱山(然別鉱山)が登録されています。

 

日本全国で1,001ヶ所以上もの産地が記録されているほど、菱マンガン鉱は広く分布していた鉱物です。特に北海道、秋田県、青森県が重要な産地として知られており、20世紀を通じて日本のマンガン鉱産業の中心でした。これらの鉱山は銀鉱山や銅鉱山の副産物として菱マンガン鉱を産出し、日本の工業発展に貢献してきました。

 

菱マンガン鉱がマンガン鉱床の中で副産物として産出されるという特性から、日本では銀行・銅鉱の採掘活動と連動して菱マンガン鉱も産出される傾向がありました。戦前から昭和初期にかけて、これらの鉱山は日本経済の重要な資源供給地として機能していたのです。

 

菱マンガン鉱 北海道稲倉石鉱山の代表性

北海道古平町に位置した稲倉石鉱山は、近代日本で最大のマンガン鉱山であり、日本における菱マンガン鉱の代表産地として知られています。この鉱山から産出された菱マンガン鉱は、ぶどう状や球状の塊が連続する形状が特徴で、単一結晶だけでなく多様な鉱物形態を示します。

 

稲倉石鉱山産の菱マンガン鉱は特に深い赤色を呈しており、この色合いはこの鉱山固有の特徴として高く評価されています。透明感のある紅色と独特の色調は、日本国内や国際的な鉱物収集家から珍重されてきました。標本としての価値も高く、鉱物博物館や私的なコレクションに数多く保存されています。

 

見事に成長した稲倉石鉱山の菱マンガン鉱は、裏側が元々あった地面で、そこからだんだん手前に向かって徐々に成長している過程が観察できます。表面全体がかつて磨かれていたものの、周りを赤く濃く彫り出して真ん中の部分だけ残されたものも存在します。深い部分が粒々状にタイルのようになっているその隙間に白い筋が入り、それがアクセントになって見栄えを引き立てています。稲倉石鉱山は1950年代の最盛期を経て閉山してから長い時間が経っているため、今ではもう採掘されていない貴重な産地となっています。

 

菱マンガン鉱 青森県尾太鉱山の特徴と産出形態

青森県の白神山地中に位置する尾太鉱山は、菱マンガン鉱のぶどう状(腎臓状とも呼ばれる)鉱石を産することで特に知られています。近世には銀や銅の採掘が行われ、昭和期には鉛や亜鉛の採掘で栄えた属鉱山として重要な役割を果たしていました。この鉱山は1979年(昭和54年)に閉山しましたが、操業時代の産出品が現在も取引されています。

 

尾太鉱山産の菱マンガン鉱は、ぶどう状の塊状結晶が特徴的で、複数の球状集合体が連続している独特の形態を示します。この形状は熱水鉱脈での結晶成長過程を示す重要な標本として、鉱物学的価値が高く評価されています。良質なロードクロサイトの産地として国内外の収集家から認識されており、操業終了後も標本としての需要が継続しています。

 

尾太鉱山産の菱マンガン鉱は、黄鉄鉱や他のマンガン鉱物を伴って産出することがあり、これらの共生関係は熱水鉱脈型鉱床の成因を理解する上で重要な証拠となっています。

 

菱マンガン鉱 秋田県の産地と鉱山資源

秋田県は日本を代表するマンガン鉱山地域の一つで、複数の重要な産地を擁しています。院内鉱山、大石鉱山(西明寺)、尾去沢鉱山などが菱マンガン鉱の主要産地として記録されています。特に尾去沢鉱山は近代日本の重要な金属鉱山で、鉛や亜鉛と共に菱マンガン鉱を産出してきました。

 

秋田県内の各鉱山から産出した菱マンガン鉱は、地域による色合いや形態の違いが観察でき、鉱物学的な研究対象としても価値があります。これらの鉱山で採掘された菱マンガン鉱は工業用マンガンとしてだけでなく、標本としても学術的に重要な資料として保存されています。

 

秋田県の菱マンガン鉱産地は、日本全国1,001ヶ所の産地の中でも特に重要な位置を占めており、菱マンガン鉱の産業史や鉱物学的研究において中心的な役割を果たしてきたのです。

 

日本の菱マンガン鉱産地に関する詳細情報。
TrekGeo - 日本の菱マンガン鉱の産地(1,001ヶ所以上のデータベース)
このサイトには日本全国で記載された菱マンガン鉱の産地が年号別に整理されており、各鉱山の位置、別名、採掘に関する詳細な情報が網羅されています。

 

Wikipedia - 菱マンガン鉱
世界の主要産地との比較や、菱マンガン鉱の結晶特性、宝石としての評価、および日本産地の特徴についての詳細な解説が記載されています。

 

日本の菱マンガン鉱に関する独自視点:かつて菱マンガン鉱が日本で「かつぶし鉱」と呼ばれていた事実は、この鉱物が日本の鉱業史の中でどのような位置付けにあったかを物語っています。不純物が多く工業用には適しているものの、宝飾価値は低かった日本産の菱マンガン鉱は、大量生産型のマンガン資源として利用されていたという背景があります。これは世界の美しい結晶を産出するアルゼンチンやアメリカの産地との対比で、日本の鉱業が実用性を重視していたことを示す興味深い事例です。また、稲倉石鉱山の現在の采掘不可能な状況は、日本の鉱物標本の希少性を示すとともに、鉱山閉山後の環境問題や資源枯渇という現代的課題をも象徴しています。

 

 


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