硫酸鉄(II)は化学式FeSO₄で表される無機化合物で、硫酸第一鉄とも呼ばれます。この化学式は、鉄が2価(Fe²⁺)のイオンと、硫酸イオン(SO₄²⁻)が1対1で結合していることを示しています。無水の硫酸鉄(II)は淡緑色から青緑色の結晶で、密度は3.346 g/cm³という比較的高い値を持ちます。
特に重要なのは七水和物(FeSO₄・7H₂O)で、これは緑礬(りょくばん)と呼ばれる天然鉱物として産出され、古くから知られていました。七水和物の密度は1.895 g/cm³で、無水物とは大きく異なります。この七水和物は、13世紀にはすでに利用されていた記録があり、化学産業において最も重要な鉄(II)塩です。
硫酸鉄(II)の水溶液は緑色を呈し、水に対する溶解度は20℃の水100gに対して26.6gとなります。ただし、エタノールにはほとんど溶けません。加熱すると段階的に結晶水を失い、80~123℃で1水和物に、300℃で無水和物となります。これらの水和物の多様性は、硫酸鉄(II)の工業的な応用を広げています。
硫酸鉄(III)は化学式Fe₂(SO₄)₃で表され、硫酸第二鉄とも呼ばれます。この化学式から明らかなように、鉄が3価(Fe³⁺)のイオンであり、硫酸イオン3個と結合しています。無水物の分子量は399.88で、硫酸鉄(II)の場合と大きく異なります。無水の硫酸鉄(III)は白色から微黄褐色の粉末で、注意深く加熱するとほとんど無色の状態になります。
硫酸鉄(III)には複数の水和物が存在し、市販品では様々なn水和物が流通しています。特に重要なのは3、6、7、7.5、9、10、12水和物で、これらの多くは自然界にもレーメライト石やビリナイトとして産出されます。硫酸鉄(III)の最大の特徴は強い潮解性を持つことで、特に無水塩がこの性質を顕著に示します。
興味深いことに、北海道で1992年に発見された三笠石は、硫酸鉄(III)の無水塩からなる日本産の新鉱物として登録されています。これは硫酸鉄(III)が自然界でも形成される化合物であることを示す重要な例です。硫酸鉄(III)の水溶液は褐色を呈し、加熱すると塩基性塩を生成する傾向があります。
硫酸鉄(II)と硫酸鉄(III)の相互変換は、酸化還元反応の重要な例となります。FeSO₄水溶液に硫酸と硝酸を加えると、褐色のFe₂(SO₄)₃溶液が生成されます。この反応では、Fe²⁺がFe³⁺に酸化されるプロセスが起こります。
逆方向の反応として、硫酸鉄(II)と酸性硫酸鉄(III)の混合物を空気に晒すと、複雑な混合物が形成されます。特に興味深いのは、鉄(II)と鉄(III)が混在した化合物FeFe₂(SO₄)₄が形成される場合があり、これは赤褐色の粉末として得られます。
空気中での酸化は自発的に進行し、硫酸鉄(II)の表面が徐々に黄褐色の塩基性硫酸鉄(III) Fe(OH)SO₄に変化します。この現象は、硫酸鉄(II)を扱う際に重要な考慮事項となります。湿った空気中ではこの酸化が加速され、乾燥空気中では風化して白色結晶性の粉末に変わることもあります。
硫酸鉄(II)は食品添加物として公式に認められており、表示では「硫酸鉄」または「硫酸第一鉄」と記載されます。これに対して硫酸鉄(III)は食品添加物として認められていません。この違いは化学式の構造と安全性評価の関連性を示しています。
工業分野での硫酸鉄(II)の用途は極めて多岐にわたります。インキや紺青(プルシアンブルー)の製造原料、色調調整剤、還元剤、媒染剤、安定剤として使用されます。加工食品の栄養強化剤、医薬品、木材防腐剤など、広範な産業で活用されています。農業分野では七水和物が速効性の鉄肥料として、微量元素の鉄供給源に使われます。
排水処理ではpH調整用や6価クロム還元用として活躍し、廃液処理では産業廃棄物の汚泥や汚染土壌の6価クロム還元、砒素やシアン、セレンなどの安定化に使用されます。発電所では、ボイラー熱交換器の保護膜形成に用いられ、貝殻などによる配管の摩擦傷を防ぐ役割を果たします。メッキ産業では浴中の鉄濃度調整に欠かせません。
一方、硫酸鉄(III)は主に媒染剤や鉄ミョウバンの原料として使用されます。その強い酸化力と潮解性は、特定の工業プロセスに適しており、化学式Fe₂(SO₄)₃という構造がこれらの性質を決定しています。
硫酸鉄の興味深い特性の一つは、その豊富な水和物の種類です。硫酸鉄(II)には1、4、5、7水和物が存在し、七水和物が最も安定で重要です。七水和物の分子式FeSO₄・7H₂Oは、青緑色の結晶形態を形成し、湿った空気中で無水物が自動的にこの形態に変化します。
硫酸鉄(III)の場合はさらに複雑で、3、6、7、7.5、9、10、12水和物が報告されています。結晶化の条件によって結晶水の数が異なり、加熱と脱水プロセスにより異なる水和物が得られます。この現象は、分子の水和構造が温度と相対湿度に強く依存することを示しています。
これらの水和物の違いは、単なる物理的な変化ではなく、化学式の表記に直接反映されます。無水物ではFeSO₄やFe₂(SO₄)₃と表記されますが、特定の水和物では化学式に・nH₂Oを付加します。この表記法の細微な違いが、実際の物質の性質の大きな差異を反映しているのです。
水和物の脱水は段階的に進行し、異なる温度域で異なる水和物が形成される点は、熱重量分析などの分析化学において重要な判別基準となります。特に医薬品や食品添加物の規格管理では、水和物の種類の正確な同定が品質管理に不可欠です。
参考情報:硫酸鉄(II)の詳細な物性や化学的性質に関しては、以下のWikipediaの記事に詳しく記載されています。
硫酸鉄(II) - Wikipedia
参考情報:硫酸鉄(III)の性質、用途、および新鉱物に関する情報は、以下の記事に詳しく説明されています。
硫酸鉄(III) - Wikipedia
参考情報:硫酸鉄の工業用途と農業利用については、以下のサイトで詳細な情報が提供されています。