磁鉄鉱の用途(工業)と製鉄・触媒・磁性材料の応用

磁鉄鉱は古くから鉄の原料として利用されてきましたが、現代工業ではどのような用途で活躍しているのでしょうか?製鉄から触媒、磁性材料まで、その多彩な工業利用の実態を詳しく解説します。最先端の応用分野も含めて、磁鉄鉱の工業的価値を知りたくありませんか?

磁鉄鉱の工業用途

磁鉄鉱の主な工業用途
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製鉄原料としての利用

高炉製鉄法における主要な鉄鉱石として、鉄の工業生産に不可欠な原料

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化学工業での触媒応用

アンモニア合成反応など、重要な化学プロセスにおける触媒として機能

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磁性材料・記録媒体

磁気特性を活かした磁気記録媒体や磁性流体、医療用ナノ粒子への展開

磁鉄鉱の製鉄原料としての工業利用

 

磁鉄鉱(Fe₃O₄)は鉄の重要な鉱石鉱物として、世界の鉄鋼生産を支える基幹原料です。現代の製鉄工業では、主に高炉法による還元製鉄の原料として使用されており、2021年の世界鉄鋼生産の72%が高炉-転炉法によって生産されています。

 

参考)磁鉄鉱 - Wikipedia

磁鉄鉱は赤鉄鉱ヘマタイト、Fe₂O₃)と比較して、鉄含有率が高く磁性を持つという特徴があります。高炉内では、コークスによる還元反応により鉄鉱石から鉄分が取り出され、炉内で還元ガスや溶融鉄の通路を確保する役割も果たします。特にオーストラリアなどの主要産地では、磁鉄鉱を磨鉱・磁選という選鉱プロセスを経て高品位化し、ペレット化してから製鉄原料として供給しています。

 

参考)脱炭素の潮流の中での豪州鉄鉱石と磁鉄鉱プロジェクト|JOGM…

近年では、脱炭素化の潮流の中で直接還元鉄(DRI)向けフィードとして磁鉄鉱が再注目されています。磁鉄鉱プロジェクトは選鉱により高品位・低不純物化が可能であり、水素還元製鉄などのグリーン製鉄技術への適用が期待されています。オーストラリアの南オーストラリア州では2017年に「Magnetite Strategy」を策定し、磁鉄鉱資源の活用を推進しています。

 

参考)https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2023/05/mr202305_03.pdf

磁鉄鉱の化学工業における触媒用途

磁鉄鉱は化学工業において、重要な触媒原料として長年利用されてきました。最も著名な応用例は、アンモニア合成反応(ハーバー・ボッシュ法)における触媒です。

 

参考)https://www.hyomen.org/wp-content/uploads/papers/vol1_no3/tamaru/tamaru_16.pdf

1900年代初頭、BASF社の化学者アルヴィン・ミタッシュは約2万種類もの触媒を試験した結果、スウェーデン産の磁鉄鉱が非常に高い活性を示すことを発見しました。純鉄では触媒活性が低いものの、磁鉄鉱に微量のアルミナ(Al₂O₃)と酸化カリウム(K₂O)を添加することで、触媒性能が格段に向上することが明らかになりました。この発見により、窒素と水素からアンモニアを合成する工業プロセスが確立され、人類の食糧問題解決に大きく貢献しました。

 

参考)ハーバー・ボッシュ法 - Wikipedia

現代でも、アルミナとカリウムを添加した磁鉄鉱系触媒は、アンモニア合成プロセスで広く使用されています。ハーバー法の成功は高圧化学工業という新分野を開拓し、尿素、メタノール、石炭液化、ガソリン合成といった重要な化学工業の発展につながりました。​
また、磁鉄鉱は環境浄化の分野でも触媒的な役割を果たしています。重金属を含む土壌の浄化プロセスでは、鉄粉が砒素や鉛などの重金属を吸着する特性を利用し、磁力による分離回収が行われています。

 

参考)https://jcmanet.or.jp/bunken/kikanshi/2019/02/063.pdf

磁鉄鉱の磁性材料としての工業応用

磁鉄鉱は天然に磁性を示す唯一の酸化物であり、磁性材料として多様な工業応用があります。その磁気特性は、記録媒体、磁性流体、センサーなど幅広い分野で活用されています。

 

参考)マグネタイト(Fe3O4, 磁鉄鉱):最古の磁石の結晶構造と…

磁気記録媒体への応用
磁鉄鉱は、磁気記録技術の原点となった材料です。19世紀末に開発された鋼線式録音機では、鉄を主成分とした鋼線に情報を記録していましたが、その後、磁鉄鉱を含む磁性粉末を塗布した磁気テープが開発されました。天然磁石となる磁赤鉄鉱は、磁鉄鉱が赤鉄鉱へと風化・酸化する過程で生成される中間物で、カセットテープやビデオテープの磁性粉として使用されてきました。

 

参考)磁気記録材料:磁石を用いて情報を記憶する - はじめよう固体…

現代のハードディスクドライブ(HDD)においても、磁鉄鉱の磁気特性を応用した技術が使われています。初期の面内磁気記録方式から、現在では垂直磁気記録方式が採用され、記録密度の向上が図られています。2024年には、ナノ磁石を積み上げて3次元化することで多値記録を可能にする技術も実証されており、さらなる高密度化が進んでいます。

 

参考)ナノ磁石を積み上げて磁気記録を高密度化 ~多値磁気...

磁性流体と工業プロセス
磁鉄鉱ナノ粒子は磁性流体として、産業プロセスにおける分離・精製技術に利用されています。石炭、セメント、鋼鉄産業などで、磁性を利用した効率的な分離プロセスが導入されています。製鋼工程で発生するミルスケール廃棄物から磁鉄鉱を抽出し、マイクロ波吸収材として再利用する技術も開発されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8621786/

高機能磁性材料の開発
磁鉄鉱を基にした新規高機能材料の研究も進んでいます。微細な針状のε-Fe₂O₃粒子は、一般的な酸化鉄フェライト磁石に比べ3倍以上の磁気保磁力を持ち、磁気テープなどへの応用が検討されています。高密度化が求められる現代のニーズに応える材料として期待されています。

 

参考)第93回  金属酸化物に学ぶ機能性材料開発

磁鉄鉱の医療・環境分野での先進的用途

磁鉄鉱は、医療や環境保全といった新しい分野でも注目される工業材料となっています。特にナノサイズの磁鉄鉱粒子は、その磁気特性と生体適合性を活かした応用が進んでいます。

 

参考)がん医療への応用に向けた磁性ナノ粒子の開発

医療分野への応用
磁鉄鉱ナノ粒子(マグネタイトナノ粒子)は、磁性流体として医薬品のドラッグデリバリーシステムに使用されています。薬物分子と結合した粒子を磁力によって体内の目的部位まで運ぶことで、体全体ではなく特定範囲だけの治療が可能となり、特にがん治療において高い有用性が期待されています。​
粒径10~40nmに制御された磁性酸化鉄ナノ粒子は、細胞への効率的な取り込みが可能で、細胞生存率と細胞機能を維持しながら医療応用できます。がん温熱療法では、腫瘍組織に送達した磁性ナノ粒子に体外から交流磁場を照射することで発熱させ、がん細胞だけを選択的に加温して殺すことが可能です。この技術は、がんの診断と治療を同時に実現する画期的なアプローチとして研究が進んでいます。

 

参考)研究内容

再生医療分野でも、磁性ナノ粒子を細胞に結合させることで、磁力による細胞の分離、遺伝子導入、細胞パターニングなど、様々な操作が可能になります。​
環境浄化技術への応用
磁鉄鉱の磁気特性を利用した環境浄化技術も実用化されています。DME工法(乾式磁力選別処理工法)では、低濃度の重金属含有土壌に鉄粉を混合し、砒素や鉛などの重金属を鉄粉に吸着させた後、磁石で回収することで土壌を浄化します。この工法は水を使用しないため排水処理設備が不要で、従来の土壌洗浄法と比較して処理コストが大幅に削減できます。

 

参考)DME|製品・サービス|一般社団法人日本汚染土壌処理業協会

シールド工事などの建設現場でも、磁気分離装置により鉄粉を回収・再利用する技術が導入されており、最大150m³/hの泥水連続処理を実現しています。使用後の鉄粉は再利用され、産業廃棄物の発生量は浄化対象土壌の乾燥重量に対して1wt%以下と極めて少なく、環境負荷の低い処理方法となっています。​

磁鉄鉱の選鉱・精製技術と品質管理

磁鉄鉱の工業利用において、選鉱・精製技術は製品品質を左右する重要なプロセスです。天然に産出する磁鉄鉱の多くは低品位であり、商業利用には不純物除去が不可欠です。

 

参考)「磁鉄鉱」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

磁気選鉱プロセス
磁鉄鉱の最大の特徴である強い磁性を利用した磁気選鉱は、最も効率的な精製方法です。オーストラリアの磁鉄鉱プロジェクトでは、採掘された鉱石に対してHPGR(高圧粉砕ロール)による磨鉱、一次磁選、ボールミルによる磨鉱、二次磁選という多段階プロセスを経て精鉱を生産しています。この方法により、鉄品位を大幅に向上させ、低不純物の高品質製品を得ることができます。​
低品位鉄鉱石の利用技術として、磁化焙焼プロセスも開発されています。赤鉄鉱(ヘマタイト)を含む低品位鉱石を、還元雰囲気下で加熱することで磁鉄鉱に転換し、その後の磁気選別で高品位の鉄精鉱を回収する方法です。最適条件下では、鉄品位を62.17%から65.22%に向上させ、回収率を84.02%から92.02%に改善できることが報告されています。

 

参考)Document Moved

品質管理と用途別要求
用途によって磁鉄鉱に求められる品質は異なります。製鉄用途では鉄含有率と不純物(特にリンや硫黄)の管理が重要ですが、直接還元鉄向けフィードとしては、さらに高品位・低不純物の仕様が要求されます。一方、触媒用途では微量の助触媒成分(アルミナ、カリウムなど)の存在が活性向上に不可欠です。​
窯業原料の精製では、着色の原因となる鉄成分やチタン成分の除去が主目的となり、分級、磁力選鉱、浮遊選鉱、比重選鉱、化学処理などが組み合わされます。磁鉄鉱自体が不純物として扱われる場合もあり、用途に応じた適切な精製技術の選択が重要です。

 

参考)302 Found

脱炭素の潮流の中での豪州鉄鉱石と磁鉄鉱プロジェクト - 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
磁鉄鉱プロジェクトの最新動向と脱炭素製鉄における役割について詳しく解説されています。

 

マグネタイト(Fe₃O₄, 磁鉄鉱):最古の磁石の結晶構造と機能 - はじめよう固体の科学
磁鉄鉱の結晶構造から現代の工業応用まで、材料科学的な視点で包括的に説明されています。

 

鉄鋼の原料 - 一般社団法人日本鉄鋼連盟
製鉄プロセスにおける鉄鉱石の役割と還元反応のメカニズムについて、業界団体による公式情報が掲載されています。

 


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