陶磁器の原料となる陶土や陶石は、地球が長い時間をかけて作り出した限りある天然資源です。リサイクル陶器は、自治体などが回収した使用済み陶磁器を細かく粉砕し、陶土に混ぜて「リサイクル土」を作り、それを使って新しい器を製造します。この製造工程により、貴重な天然資源の使用を削減し、埋め立てゴミとして処理される廃棄物を減らすことができます。
参考)サステナブルな食器ブランド、いくつ知ってる?
リサイクル陶土の配合率は一般的に20%程度ですが、食器としての安定性を保ちながら、通常の陶器と同じように電子レンジにも対応可能です。美濃焼産地の有志企業が集まり立ち上げたブランド「トリップウェア-旅するうつわ-」は、不要な焼き物を細かく粉砕して新しい陶土に混ぜることで、一度焼成された器がふたたび原料となり、また器へとよみがえるサステナブルな仕組みを実現しています。
参考)リサイクル陶器|定番オリジナルグッズをサステナブル素材で
すでに一度焼かれて縮んだ陶器を混ぜた土を使用するため、焼成による収縮率の違いで生地が割れないように注意して焼かれています。加工時に出る細かな粉末も釉薬などの原料のひとつとして再利用され、ゴミゼロの工場を目指す取り組みが進んでいます。
参考)環境への取り組み - 信楽焼窯元・明山窯公式サイト
陶磁器製造には大量の熱エネルギーを必要とし、多量のCO2を排出しています。三重県工業研究所が開発した素焼き工程の省略化(素焼きレス化)と本焼成温度の低温化(低温焼成化)技術により、陶磁器の製造プロセスのCO2排出量を30.2〜41.7%削減できることが実証されました。
参考)https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/pdf/db/239.pdf
従来の製造工程では、素焼き(800℃)でプロパンガス40kg、本焼成(1200℃)で120kgを使用していましたが、新技術の導入により素焼きを省略し、本焼成温度を1150℃に下げることで、プロパンガス使用量を64kg削減できます。セルロースナノファイバー(CNF)などを活用することで陶磁器乾燥体の高強度化を実現し、素焼き工程を省略できるようになりました。
参考)https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000911420.pdf
土岐市では「脱炭素美濃焼SDGsプロジェクト」を始動し、焼成温度や雰囲気制御などの焼成条件を見直すことで、焼きへのこだわりと低炭素化の両立にチャレンジしています。製品重量あたりの燃料消費量という指標の低減率で評価し、その成果をステッカーやWebなどで発信しています。
参考)脱炭素美濃焼SDGsプロジェクトのご案内|土岐市公式ウェブサ…
石川県に本拠を置く1908年創業のニッコー株式会社は、2021年4月に陶磁器事業のサーキュラーエコノミー化を推進するプロジェクト「NIKKO Circular Lab」を立ち上げました。限られた資源を大切に活用し、普遍性のあるデザインと耐久性のある機能を兼ね備えた食器をつくり、使用後はその食器を回収し、再利用や修理、アップサイクルやリサイクル、土へ還すなどの取り組みを通じて循環を作り続けています。
参考)レストランのサステナビリティを支える。洋食器メーカー「ニッコ…
ニッコーは、コーヒーを飲む際に使っている紙コップの代わりに、使い捨てしない陶磁器でできたカップを利用することで無駄を削減したいという思いを込めた商品を開発しています。サーキュラーデザインによる製造とリユースの取り組みを進め、リニアエコノミー(直線経済)からの脱却を目指しています。
参考)https://www.nikko-tabletop.jp/pages/nikkos-sustainability
環境に配慮した陶磁器ブランド「Joyye」は、責任ある調達の粘土と環境に優しい鉛フリーの釉薬を用いて作られており、人と地球の両方にとって安全です。一つひとつの作品は環境に配慮した粘土で作られ、無毒で地球に優しい釉薬で仕上げられています。
参考)環境に優しい陶器の食器と花瓶
ニッコー株式会社のサステナブルな取り組み
陶磁器業界のサーキュラーエコノミー化の具体的な取り組み内容とプロジェクト詳細について紹介されています。
陶器は土を原料とし、長く使い続けられるという点において、耐久性と再利用性が高く、熱に強く、衛生的であるという特徴があり、繰り返し長く使えるという点で環境にやさしい選択です。環境に配慮した陶器を選ぶ際には、リサイクル素材を混ぜてつくられる「リサイクル陶器」を選択することが重要です。
参考)https://losszero.jp/blogs/column/col_412
規定の条件を満たすことで、リサイクル陶器製品もエコマークの認定を取得することができます。エコマークとは、製品の生産から廃棄まで、ライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた製品に付けられるラベルです。認知度も高いマークであることから、製品やパッケージに表示することで、一目で環境に配慮した製品であることが分かります。
参考)SDGsとリサイクル食器|岐阜県多治見市の株式会社小名田カン…
ブランド陶器を購入する際は、見た目のデザインだけでなく、普遍性のあるデザインと耐久性のある機能を兼ね備えた食器を選び、一枚一枚をできる限り長く使い続けることが環境負荷の軽減につながります。割れたり欠けたりしたらすぐに廃棄するのではなく、金継ぎなどの修復技術を活用して長く使う工夫も効果的です。
参考)サステナビリティ
SDGsとリサイクル食器の詳細情報
エコマーク認定を受けたリサイクル陶器の環境配慮型商品の開発と生産の促進について解説されています。
陶磁器製造業界では、2050年の脱炭素社会という極めて大きな課題に対して、「今できることから」を合言葉に、焼成温度や雰囲気制御などの焼成条件を見直すことで、二酸化炭素の排出を削減できるよう取り組みを始めています。窯元には「焼き」に対する強いこだわりがありますが、焼きへのこだわりと燃料削減という一見相反するテーマに対して、長い歴史の中で培われた焼成技術にさらに磨きをかけることで両立を目指しています。
生駒市では2006年から「もったいない陶器市」という取り組みを開始し、不要になった陶磁器を回収してリユース・リサイクルを行っています。回収され再利用にまわらなかった陶磁器は、リサイクル坏土を活用した陶磁器製造のためのリサイクル坏土となり、地域における陶磁器の循環システムが確立されています。
参考)https://kinki.env.go.jp/recycle/data/r_1/r_1_6.pdf
今後はリサイクル陶土の配合率を50%まであげた製品の開発が進んでおり、より環境負荷の少ない製造方法の実現が期待されています。陶磁器産業における環境負荷低減の取り組みは、製造工程の見直しだけでなく、回収・再利用システムの構築、エコマーク認定取得による消費者への情報発信など、多角的なアプローチが重要です。
陶磁器を作るのに用いる原料を練った状態の土である坏土のリサイクル技術が進むことで、限りある天然資源を永く使い続けることができ、最終処分場への持ち込み及び廃棄物の削減にもつながります。消費者一人ひとりが環境に配慮したブランド陶器を選び、長く大切に使うことが、持続可能な陶磁器産業の未来を支える鍵となります。
陶磁器製造プロセスの省エネルギー化によるCO2削減の実証データ
素焼きレス化技術と低温焼成化技術を統合した具体的なCO2削減効果の実証結果について詳しく記載されています。