磁選で鉱物を分離する際の物理原理は、鉱物が磁界に対してどのように反応するかの違いにあります。強磁性物質は外部磁界に強く引き寄せられ、常磁性物質はわずかに引き寄せられ、反磁性物質は若干反発します。この現象を利用することで、異なる鉱物成分を効率的に分離することが可能になります。特に強磁性体の磁鉄鉱は鉄鉱石の中で最も重要な鉱物で、その分離精度が選鉱全体の成果を大きく左右します。
磁選機の中では、永久磁石や電磁石によって磁界が形成され、鉱物粒子がこの磁界を通過する際に、磁気感受率の高い粒子は磁極に吸着し、感受率の低い粒子は通常の流れに沿って処理されます。この仕組みは、化学的変化を伴わずに物理的な性質のみを利用した非常にクリーンな分離方法として評価されています。
永久磁石と電磁石は、磁選機の磁力源として異なる特性を持っています。永久磁石(フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石など)は、外部からエネルギーを加えることなく磁場を発生させ、熱や衝撃を加えない限り半永久的に磁力を失いません。一方、電磁石は電流を流すことで磁力を発生させ、電流を止めることで磁力をほぼゼロにできるという利点があります。
電磁石は同程度の大きさの永久磁石と比較した場合、より大きな磁力を発生させることが可能です。しかし、コイルを連続通電すると熱を持ち、抵抗値が上昇するため磁力が小さくなるという課題があります。一方、永久磁石はエネルギー効率に優れ、ランニングコストが低く、メンテナンスが簡単です。近年のネオジウム磁石の開発により、永久磁石で創出される磁界強度は飛躍的に向上し、従来大がかりな電磁石によってしか得られなかったような高磁力・高勾配磁界が容易に得られるようになりました。
近年、磁気分離操作の分野において最も注目される技術が高勾配磁選です。従来の磁選法が磁界の強さを重視していたのに対し、高勾配磁選法(HGMS:High Gradient Magnetic Separation)は、非常に大きな磁界勾配を簡便にかつ良好な空間効率で作り出し、強磁性物質はもとより弱磁性物質をも分離することができます。
この技術の鍵となるのは、マトリックス型連続式湿式高磁力磁選機のような装置です。米国ジョージア州では、製紙用カオリンの精製に超電導磁石を用いた高勾配磁選機が稼働しており、その効果の高さが実証されています。高勾配磁選機は、有芯磁束密度16,000ガウス以上を発揮し、液体中やスラリー中のあらゆる磁性物を除去・回収します。自動洗浄装置との併用により、作業効率化と人手不足解消も実現できます。
磁選機には大きく分けてベルトコンベア式、吊り下げ式、ドラム式、湿式、高磁力式の5種類があり、それぞれ異なる特徴と用途を持っています。ベルトコンベア式は搬送ラインの上に磁気プレートを設置するシンプルな構造で、建築資材やリサイクル品、粗大ゴミ処理に適しています。吊り下げ式は、フレームや支持構造に吊り下げた磁力体によって磁性物資を分離し、既存のシステムに追加して使用でき、コンベアやパイプラインへの組み込みが容易です。
ドラム式は、回転する筒状のドラムの内部に磁石が組み込まれており、対象物がドラム表面を通過する際に金属異物だけを吸着し、分離排出します。廃棄物処理場や製鉄所、鉱業関連で広く使用されます。グリッド型(格子型)磁力選別機は、格子状に配置された複数の磁石バーにより、細かい異物までも確実にキャッチし、食品加工ラインや化学製品、医薬品製造ラインで活躍します。
湿式磁選は液中の磁性体を選別する方式で、研削油や廃油中の金属粉を選別するのに適しており、スラリー中の磁性物の回収に効果的です。高磁力式は高い磁場を発生させ、通常の磁気では反応がない弱磁性体を選別し、磁力は2.6T(26,000G)という高磁力を発揮します。
一般的に知られていない磁選の応用として、遠心磁選の組み合わせ効果があります。特に鉄鉱鉱の精錬尾鉱処理では、単一の磁気選別だけでなく、複合選鉱技術が採用されます。磁気感受率鉱滓は磁石で引き寄せられる磁性粒子に対して磁選機にかけられ、非磁性材料は廃棄されるか、さらなる処理のために送られます。
ここで重要な知見は、初期の鉱物処理後の残留物であるテーリング(尾鉱)からも貴重な鉱物を回収できるという点です。磁気選別と浮選や重力選別といった複合選鉱技術を組み合わせることで、鉄鉱石の全体的な回収率を最大化することが可能になります。特に混合鉱物が含まれるテーリングの場合、磁力選別で磁性成分を分離した後、石英や珪酸塩などの非磁性鉱物をさらに浮選で分離するという流れが効果的です。このアプローチにより、従来は捨てられていた鉱物資源の有効活用が実現できます。
鉄鉱石処理における磁選は、業界で最も成熟した応用分野です。鉱石の品質向上と効率化を実現するには、複数の要因を最適化する必要があります。設備的には、強力な永久磁石やネオジウム磁石を採用した近代的な磁選機の導入が求められます。プロセス条件の最適化では、鉱石の粒度調整、スラリー濃度の管理、磁選機のパラメータ設定が重要です。
鉱石特性に関連する最適化では、鉱物組成の分析と前処理(例:焙焼)の導入が考えられます。赤鉄鉱を多く含む鉱石の場合、還元焙焼プロセスを導入することで、赤鉄鉱を磁性の高い磁鉄鉱に変換し、その後の磁選効率を大幅に向上させることができます。実際の選別パフォーマンスに基づいて定期的なレビューと調整を行うことは、長期的な最適化にとって重要です。これらの戦略を適用することで、鉄鉱石の磁選効率を最大化し、スループットを改善し、より高品質な鉄濃縮物を得ることができます。
磁選の効率を高める方法として、化学的調整が注目されています。試薬を使用して鉱物の磁気特性を改善するか、ガング(脈石)の干渉を減少させることで、処理効率が向上します。低品位の複雑な鉱床では、特にこのアプローチが有効です。チオ硫酸ナトリウムなどの特定の試薬を活用した処理は、ラテライト鉱石などの困難な鉱石の処理において、新しい可能性を開いています。
これらの化学的手法は、物理的な磁力選別と組み合わせることで相乗効果を生み出し、従来の手法では達成できなかった高い回収率と品位を実現します。
初期選別後に生じた尾鉱(テーリング)からの有価鉱物の回収は、資源の有効活用と経済性の向上に直結します。磁気選別は尾鉱処理に非常に効果的です。なぜなら、磁鉄鉱や赤鉱などの多くの鉄鉱鉱物は磁気特性を示すからです。単一の磁選だけでなく、複合選鉱技術(磁選と浮選の組み合わせなど)を採用することで、回収率をさらに向上させることができます。
特に混合鉱物が含まれる複雑なテーリングの場合、段階的なアプローチが有効です。まず磁力選別で磁性成分を分離し、その後、残渣に対して浮選や重力選別を実施して非磁性鉱物を処理します。このプロセスにより、鉄鉱石のテーリングに関連する石英や珪酸塩などの非磁性鉱物を分離し、最終的に鉱物資源の最適回収を確保できます。
磁選の前処理としての粉砕と粒度調整は、全体的な処理効率に大きな影響を与えます。粒度が細かすぎると、磁選機への負荷が高まり処理速度が低下します。一方、粒度が大きすぎると、異なる鉱物が同じ粒子内に混在したまま分離されない「単体分離不足」が発生します。最適な粒度範囲を確立することが、磁選プロセスの成功の鍵となります。
Bayan Obo鉱山の事例では、-0.038mm(95%収率)という極めて細かい粉砕を実施することで、磁気焙焼と磁気分離によるプロセスが425℃、30分間の条件下で、鉄濃縮物で65.10%の鉄品位と88.74%の回収率を達成しています。このように、粉砕・粒度調整は単なる前処理ではなく、最終的な磁選性能を左右する重要な要素なのです。
グローバルな鉱物資源の枯渇に直面する中、磁選技術の高度化と効率化は鉱山企業の競争力を左右する重要要因です。永久磁石技術(特にネオジウム磁石)の急速な発展により、かつては採採採不可能だった低品位の鉱床も経済的に処理可能になってきました。最新の高勾配磁選機やプロセス技術により、鉱山の稼働期間の延長と資源回収率の向上が実現されています。
複雑な鉱物組成を持つ低品位鉱床の処理では、磁選と浮選、重力選別などの複合技術を活用することで、経済性を確保しながら有価鉱物を最大限に回収することができます。このような多段階プロセスの最適化は、鉱山企業にとって経営面でも環境面でも重要な課題です。
磁選機の応用は鉄鉱石だけに限りません。アルミニウムや銅といった非鉄金属の分離にも新しい技術が展開されています。特に注目されるのは、渦電流(うずでんりゅう)型磁力選別機、別名エディカレント型磁力選別機です。この装置では、回転する磁界にアルミを通過させると、渦電流が発生してアルミが反発して飛び出すという原理を利用しています。
アルミや銅などの非磁性金属も、磁界内で動かすと磁界に急激な変化が加わり、磁界の変化を妨げようとして金属内の磁束に変化が生じます。これによって生じる渦状の電流が渦電流です。この現象を活用することで、単なる鉄除去にとどまらず、より高度な金属分離が実現できるのです。
磁選技術は、環境配慮の観点からも極めて優れた選鉱法です。化学試薬の使用量が少なく、水の消費量も通常の浮選と比べて削減でき、廃棄物量も最小限に抑えられます。特に湿式磁選は、スラリー中の微細な磁性物を効率的に除去でき、処理後の排水がクリーンになるという利点があります。
資源枯渇が進む中で、低品位鉱床からの有価鉱物回収と尾鉱の有効活用が急務となっています。磁選と複合技術を組み合わせたプロセスにより、採掘効率の向上と廃棄物削減の同時達成が可能になり、持続可能な鉱業への転換を支援しています。
今後の磁選技術の発展方向として、人工知能(AI)と IoT(Internet of Things)の活用が急速に進むと予想されます。磁選機に複数のセンサーを装備し、リアルタイムで鉱物の特性、処理量、磁場の状態などを監視することで、最適な処理条件を常に自動調整することが可能になります。
機械学習アルゴリズムにより、過去のデータから最適なパラメータを予測し、さらに処理効率を高められます。特に複合選鉱プロセスでは、複数の段階の相互作用を統合的に管理することで、全体的な処理効率と経済性の大幅な向上が実現できるようになるでしょう。
従来の磁選技術では処理が困難だった弱磁性鉱物の処理が、超高勾配磁選機の開発により可能になりつつあります。これにより、希土類鉱物、タングステン鉱、モリブデン鉱など、より多くの鉱物資源が磁選による処理の対象となる可能性が開かれました。
さらに、磁界条件の最適化と鉱物の事前処理(焙焼、還元など)の組み合わせにより、従来は浮選や重力選別に頼っていた処理プロセスの一部が、より効率的で環境負荷の低い磁選へシフトしていくと考えられます。
世界的な資源枯渇と環境問題への対応が急務となる中で、磁選技術は二次資源(リサイクル資源)の処理分野でも重要性が高まっています。都市鉱山や産業廃棄物からの有価金属の回収、尾鉱からの有価鉱物の再利用、これらすべてのプロセスで磁選が活躍しています。
持続可能な社会の実現に向けて、低品位鉱床の高度な処理、廃棄物の最小化、資源回収率の向上を同時に達成する総合的なアプローチが求められています。磁選技術の継続的な改善と新しい応用の開発は、この課題解決の鍵となるのです。
<参考資料>磁力選鉱に関する権威的な情報源
粉体工学会の磁力選鉱用語定義(日本語):選鉱技術の標準的な定義と業界知識