赤鉄鉱の用途と工業利用における製鉄から顔料まで幅広い役割

鉄鉱石として知られる赤鉄鉱はどのような工業分野で活用されているのでしょうか。製鉄工程での還元反応から建築材料の着色、さらには先端技術まで、その多彩な用途を詳しく解説します。あなたの身近にも赤鉄鉱が使われているかもしれません。

赤鉄鉱の工業用途

赤鉄鉱の主要工業用途
⚙️
製鉄原料

高炉法による鉄の大量生産に不可欠な主要鉄鉱石

🎨
顔料・着色剤

建築材料や塗料に使用される赤色酸化鉄顔料

🏗️
建設・化学工業

コンクリート着色、ゴム・プラスチック添加材など多用途

赤鉄鉱の製鉄における主要用途と高炉法での役割

 

赤鉄鉱は鉄鉱石として最も一般的に使用される鉱物であり、主成分は酸化第二鉄(Fe₂O₃)です。現代の高炉製鉄法では、赤鉄鉱が被還元性の高さと不純物含有率の低さから製鉄原料として最適とされています。オーストラリアやブラジルなどから採掘される赤鉄鉱は、露天掘りで大量に採掘でき、高品位な鉄源として世界中の製鉄所に供給されています。

 

参考)赤鉄鉱 - Wikipedia

高炉内では、赤鉄鉱とコークスを投入し、コークスの炭素(C)から発生した一酸化炭素(CO)によって赤鉄鉱を還元します。この還元反応は「Fe₂O₃ + 3CO → 2Fe + 3CO₂」という化学式で表され、酸化鉄から酸素を追い出して純粋な鉄(Fe)を取り出します。高炉の温度は最高で約2,300℃に達し、溶融した鉄が炉底に沈殿して回収されます。

 

参考)https://www.og-cel.jp/column/1317166_15959.html

近年では、水素を用いた直接還元法による環境負荷の低い製鉄技術も開発されており、赤鉄鉱を水素で還元することでCO₂排出を大幅に削減できる可能性が示されています。水素還元では「Fe₂O₃ + 3H₂ → 2Fe + 3H₂O」という反応が進行し、850℃程度の温度で15分程度で還元が完了するという高い反応性が確認されています。この技術は、製鉄業界における脱炭素化の鍵として期待されています。

 

参考)https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2021-pp-13.pdf

赤鉄鉱由来の酸化鉄顔料と建築・塗料分野での利用

赤鉄鉱は顔料としても古くから利用されており、酸化第二鉄を主成分とする赤色顔料「ベンガラ(弁柄)」の原料となります。天然の赤鉄鉱を粉砕して得られるこの顔料は、赤褐色を呈し、耐候性と不透明度に優れているため、建築材料の着色に広く使われています。

 

参考)酸化鉄顔料市場 : 世界の市場規模と需要、シェア、トップ傾向…

建築分野では、モルタル、コンクリート、レンガ、屋根材、床材タイル、舗装ブロックなどに酸化鉄顔料が配合され、美観と耐久性を両立させています。酸化鉄顔料は均一な色分布と高い安定性を持ち、紫外線や気候変化に対して色褪せしにくい特性があります。また、日本の伝統的な木造建造物の外観塗装材料としても使用されてきた歴史があり、文化財保護の観点からも重要な素材です。

 

参考)包括的な赤鉄鉱市場規模レポート 2025 - 2032:用途…

塗料・コーティング分野では、赤鉄鉱由来の顔料が防錆効果も兼ね備えており、鉄骨構造物や属製品の保護塗装にも利用されています。さらに、ゴムやプラスチックの着色剤としても需要があり、製紙業界や化粧品業界でも酸化鉄顔料が使用されています。最近では、環境に優しい顔料として天然鉱物由来の製品が見直されており、合成顔料に代わる持続可能な選択肢として注目されています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2079-4991/8/11/925/pdf

石川県工業試験場の研究では、珪藻土残渣と酸化鉄を組み合わせた赤色顔料の開発事例が報告されており、工業廃棄物の有効活用と新規顔料開発の両立が図られています

赤鉄鉱の世界的生産と主要産地における採掘状況

世界の鉄鉱石生産量は2023年時点で約15億6,000万トンに達しており、その大部分を赤鉄鉱が占めています。主要産出国はオーストラリア(5億8,903万トン)とブラジル(2億7,998万トン)で、この2カ国だけで世界全体の約56%を生産しています。オーストラリアの鉄鉱山地帯では、高品位の赤鉄鉱が露天掘りで大規模に採掘されており、日本を含む東アジア諸国への主要供給源となっています。

 

参考)http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~shin/paper/3rd-paper.html

ブラジルのミナスジェライス州カドリラテラル鉄鉱山やカラジャス鉱山は、被還元性が高く不純物が少ない良質な赤鉄鉱を産出することで知られています。これらの鉱山から採掘される鉄鉱石は、鉄含有量が60%以上と高く、製鉄効率の向上に貢献しています。中国(1億7,369万トン)とインド(1億7,200万トン)も主要生産国ですが、両国では鉱石品位の低下が課題となっており、選鉱技術の改善が進められています。

 

参考)世界の鉄鉱石生産量 国別ランキング・推移 - GLOBAL …

日本国内でも、かつては岡山県金生山や岩手県などで赤鉄鉱が採掘されていましたが、現在では海外からの輸入に依存しています。世界の鉄鉱石埋蔵量は約1,800億トンとされ、上位5カ国(ロシア、オーストラリア、ウクライナ、中国、ブラジル)で約73%を占めています。鉄資源の安定供給は製造業の基盤であり、鉄鉱石市場の動向は世界経済に大きな影響を与えています。

 

参考)鉄鉱石 - Wikipedia

赤鉄鉱と磁鉄鉱の工業的特性比較と使い分け

赤鉄鉱(Fe₂O₃)と磁鉄鉱(Fe₃O₄)は、どちらも重要な鉄鉱石ですが、化学組成と物理的特性が異なります。赤鉄鉱は酸化第二鉄(Fe³⁺)のみで構成され、赤褐色を呈するのに対し、磁鉄鉱は酸化第二鉄と酸化第一鉄(Fe²⁺とFe³⁺)が混在し、黒色で強い磁性を持ちます。この磁性の違いにより、磁鉄鉱は磁選による選鉱が容易であるという利点があります。

 

参考)鉄(Fe)とは?万能材料としての特性と加工性を徹底解説|株式…

製鉄工程では、赤鉄鉱が主流ですが、磁鉄鉱は焼結プロセスにおいて酸化反応による発熱を利用できるため、燃料削減効果が期待できます。近年、低品位鉄鉱石の活用が課題となる中、磁鉄鉱精鉱の利用拡大が検討されています。磁鉄鉱は選鉱が容易で鉄含有量を高められるため、環境負荷低減とコスト削減の観点から注目されています。

 

参考)ミルスケール多量使用時における予備造粒による焼結生産性の改善

磁気特性の面では、磁鉄鉱由来の酸化鉄は磁気録音テープや磁性材料の原料としても利用されます。また、磁赤鉄鉱(マグヘマイト)は磁鉄鉱の風化生成物として産出し、磁鉄鉱よりも強い磁力を持つことから、特殊な工業用途に使われています。このように、鉄鉱石の種類によって最適な用途が異なるため、産業界では鉱石の特性を理解した使い分けが重要です。

 

参考)赤鉄鉱と磁鉄鉱の違いは?入試に出る酸化鉄をまとめてみた

赤鉄鉱の先端技術応用と産業廃棄物からの回収利用

赤鉄鉱や酸化鉄は、先端材料分野でも新たな用途が開拓されています。アルミニウム精錬の副産物である赤泥(レッドマッド)には酸化鉄が高濃度で含まれており、これを鉄資源として回収する技術開発が進められています。赤泥は世界で年間約1億5,000万トン発生し、環境問題となっていますが、水素プラズマ還元法などの革新的技術により、赤泥から高純度の鉄を回収できることが実証されています。​
この技術では、赤泥を水素プラズマで還元することで、化石燃料を使わずに鉄を製造でき、CO₂排出を大幅に削減できます。また、赤泥から回収した鉄は耐熱鋳物などの特殊用途にも適しており、廃棄物の資源化と環境保全を両立させる循環型産業モデルとして期待されています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2075-4701/10/1/32/pdf

環境浄化分野では、酸化鉄鉱物が重金属や有害物質の吸着剤として利用されています。特にシュベルトマン鉄鉱(酸化鉄水酸化物)は、ヒ素、クロム、アンチモン、フッ素などの汚染物質除去に効果的で、鉱山排水処理や土壌浄化に応用されています。さらに、鉄鋼スラグや製鉄ダストに含まれる酸化鉄の再利用技術も開発されており、ミルスケール(鉄のスケール)を焼結原料として高配合する技術が実用化されています。

 

参考)https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2018/ra/c8ra06025h

熱エネルギー貯蔵材料としても、酸化鉄を添加したセラミックスが蓄熱性能向上に寄与することが確認されています。このように、赤鉄鉱や酸化鉄は従来の製鉄・顔料用途を超えて、環境技術や先端材料分野での活用が広がっています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11243398/

ネイチャー誌に掲載された研究では、赤泥から水素プラズマ還元により環境負荷の少ない「グリーンスチール」を製造する画期的な技術が報告されています

 


ヘマタイト 6mm 丸玉 赤鉄鉱 ビーズ 天然石 1連 約38cm アクセサリー パーツ 材料 素材 6ミリ