直接還元鉄 電炉で製造する脱炭素鋼

直接還元鉄と電炉技術がどのように脱炭素製鋼を実現するのか、従来の高炉との違いやコスト削減効果、さらに水素活用による革新的なプロセスまで、次世代製鉄技術の全貌を徹底解説します。直接還元鉄電炉による鋼の製造方法について理解できますか?

直接還元鉄 電炉による製造プロセス

直接還元鉄電炉プロセスの概要
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従来法との違い

高炉法では石炭を熱分解してコークスを製造し、この炭素で鉄鉱石を還元します。一方、直接還元法では天然ガスや水素を改質した還元ガスを使用して、鉄鉱石を固体のまま還元し、金属鉄を多く含む直接還元鉄(DRI)を製造します。その後、このDRIを電炉で溶解して高品質な鋼を製造する方法です。

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シャフト炉での還元プロセス

直接還元炉はシャフト炉型で、900℃程度の温度で鉄鉱石またはペレットを還元ガスで還元します。この温度ではDRIは溶融していない固体状態で、還元率は95%程度、炭素含有量は通常2.5%程度に達します。

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CO2排出削減のメカニズム

水素による還元では酸素が水素と反応して水蒸気が生成され、酸素と炭素の直結合を防ぎます。この仕組みにより、従来の高炉法(1トンあたり1.5~2トンのCO2排出)と比べて、直接還元法と電炉の組み合わせで0.5~1.5トン程度までCO2排出量を削減できます。

直接還元鉄の定義と特性

 

直接還元鉄(DRI:Direct Reduced Iron)は、鉄鉱石を高温で固体のまま還元して得られる製品です。鉱石中の酸化鉄還元剤によって属鉄に変換されますが、溶融することなく個別の粒子として存在します。DRIは高炉製銑法で得られる銑鉄と異なり、不純物が少なく、ダイレクトに電炉で溶解できる特性を持っています。

 

DRIの主な特性は、金属鉄含有量が90%以上と高く、炭素・イオウ・リンなどの不純物が少ないことです。これにより電炉での品質管理が容易になり、特殊鋼や高品位鋼の製造に適しています。また、再酸化を防ぐため、DRI内に一定量の炭素を含ませる「High C DRI」の製造技術も開発されており、このタイプは電炉でのエネルギー効率が向上します。

 

電炉での直接還元鉄の溶解技術

電炉による直接還元鉄の溶解は、従来のスクラップ溶解とは異なる特性があります。DRIは固体の粉末状であるため、均一な溶解と効率的な熱伝達が課題となります。最新の研究では、電炉内の流動状態や化学反応、熱伝達を数値解析によって最適化する技術が開発されており、この分析により電力原単位の削減が可能になっています。

 

直接還元鉄の溶解に要する時間は、スクラップに比べて長くなる傾向があります。しかし、DRIに含まれるCarbon分は電炉内でエネルギー源となるため、総電力消費量は必ずしも増加しません。むしろ、適切に配合されたHigh C DRIを使用することで、電力原単位を従来のスクラップ電炉並みまで低減させることが可能です。

 

電炉の生産性向上には、予熱技術が重要な役割を果たします。直接還元鉄と鉄スクラップを混合使用する際、適切な温度管理と投入順序の最適化により、溶解時間を短縮できます。

 

直接還元鉄が電炉にもたらすメリット

直接還元鉄を電炉で利用する最大のメリットは、高炉に依存しない独立した製鋼が可能になることです。特に天然ガスが豊富な地域では、高炉建設投資なしに新たな製鋼拠点を構築できます。

 

電炉でのDRI使用による具体的メリットは以下の通りです。

  • CO2排出削減:DRI製造から電炉溶解までのプロセス全体で、従来の高炉法に比べて大幅なCO2削減が実現。DRIを溶銑トンあたり100kg使用する場合、50~100kg程度のCO2削減効果が期待できます
  • スクラップ依存度の低下:鉄スクラップの供給量に左右されない安定した鋼製造が可能になり、循環経済への対応力が向上します
  • 高品位鋼の製造:DRIの低不純物特性により、特殊鋼や高機能鋼の製造が容易化され、製品品質が向上します
  • エネルギー効率の改善:High C DRIのCarbon分がエネルギー源となり、電力原単位が削減される可能性があります

電炉設備の建設費削減も重要な経済効果です。新規製鋼拠点において、高炉と比較して投資額が大幅に少なくなるため、事業化の障壁が低くなります。

 

水素直接還元による次世代プロセス

従来の直接還元法は天然ガスを改質したCO/H2混合ガスを還元剤としていますが、脱炭素化に向けて水素を単独の還元剤として使用する「水素直接還元法」が注目されています。このプロセスでは、水電解で製造された再生可能エネルギー由来の水素を用いるため、理論上CO2排出を完全にゼロにできます。

 

水素還元には大きな技術課題があります。炭素による還元は発熱反応であり、従来の高炉では最高温度2,300℃の熱が確保できます。しかし、水素による還元反応は吸熱反応であり、反応が進むにつれて炉内温度が低下し、鉄が溶解しなくなるという問題が生じます。この課題を克服するため、シャフト炉での温度管理技術や、外部から熱供給する仕組みの開発が進められています。

 

日本では天然ガスを輸入に頼っているため、従来のDRI法はコストが高かったですが、グリーン水素の利用で経済性が改善される見通しがあります。政府支援による技術開発により、2050年には世界で約13億トン/年のCO2削減が可能になると想定されており、経済波及効果も年間3,200億円程度まで拡大する見込みです。

 

直接還元鉄製造と高炉活用の組み合わせ戦略

完全な脱炭素化を目指しつつも、既存の高炉設備を活用する過渡的戦略として、直接還元鉄を高炉原料として使用する方法があります。DRIを高炉に装入することで、コークス使用量を削減し、省エネルギー化を実現できます。

 

DRIを溶銑トンあたり100kg使用する場合、溶銑生産量が10~15%増加するという優れた効果が報告されています。この増産効果により、既存の高炉の生産能力を向上させながら同時にCO2排出量を削減できます。

 

また、High C DRIの特性を活用した戦略も注目されています。DRIに含まれるCarbon分は、高炉内での残留FeOの還元を促進するため、反応性が高くなります。この特性により、コークス削減効果がさらに向上し、設備改修費用の削減にもつながります。

 

製鉄所内で発生する水素や未利用排熱を有効活用することで、DRI製造から高炉・電炉での使用まで、統合的なエネルギー管理が可能になります。製鋼プロセス内で発生したガスをリサイクルして活用する技術開発により、さらに効率的な製鉄プロセスの実現が期待されています。

 

業界の独自視点:直接還元ペレット技術の最適化

直接還元鉄の品質と処理効率を大きく左右する要因が、原料となる鉱石ペレットの特性です。鉄鉱石をペレット化する際の粒度分布、焼結強度、多孔性などの物理特性が、シャフト炉での還元速度と還元率に直接影響します。

 

最近の研究では、ペレットの多孔性を制御することで、還元ガスの拡散性を向上させ、還元時間を短縮する技術が開発されています。これまで見落とされていた点として、ペレット焼結温度と最終的なDRIの再酸化耐性の関連性が明らかになり、適切な焼結条件選択により、DRIの保管安定性を大幅に向上させることができるようになりました。

 

さらに、低品位鉱石の活用という課題があります。従来は高品位の赤鉄鉱が直接還元の主原料でしたが、ペレット化技術の進化により、低品位の褐鉄鉱やマンガン鉱を含む複雑な鉱石組成でも安定した還元が可能になりつつあります。このような原料多様化により、資源の有効利用と供給の安定性が同時に実現できる可能性があります。

 

直接還元炉での不完全還元粒子の再循環技術も重要な改善領域です。シャフト炉から排出されるDRIの中には、一定の割合で完全に還元されていない粒子が混在しており、これらを分離して再度還元炉に投入する技術により、資源効率がさらに向上します。

 

ペレット製造段階での添加剤選択も最適化されています。例えば、特定のフラックス成分を事前に添加することで、還元時の化学反応を加速させ、従来よりも低温でも高い還元率を達成する研究が進められています。このアプローチは、シャフト炉での温度管理の容易性を向上させ、エネルギー消費を削減する可能性があります。

 

直接還元鉄の物流・ハンドリングにおいても、ペレット形状の最適化が重要です。High C DRIの再酸化耐性に加えて、粒度分布を統制することで、電炉投入時の装入効率と溶解均一性が向上し、最終的な鋼品質の安定性につながります。

 

省エネルギーセンターのDRI製造設備に関する技術資料では、直接還元鉄の製造方法、用途別の使い分け、高炉・電炉での具体的な活用方法と経済効果が詳細に記載されています
神戸製鋼所のMIDREXプロセス技術ページでは、天然ガスを改質した水素リッチな還元ガスの生成方法、シャフト炉での最適な還元条件、DRI品質管理の実例が紹介されています
GREINSプロジェクトでは、直接還元法で製造された還元鉄を電気炉で溶解して高級鋼を製造する技術開発の進捗状況、電炉での生産性向上の具体的な課題と解決策が公開されています
経済産業省エネルギー庁の水素活用技術ページでは、直接還元法の基本原理から、従来の高炉との環境影響比較、日本での導入可能性の技術・経済的評価が整理されています
Climate Tech News の記事では、DRI(直接還元鉄)の定義から、世界での採用状況、日本の脱炭素製鋼戦略における直接還元法と電炉の役割が分かりやすく解説されています
Sustechの水素還元製鉄解説記事では、高炉法・直接還元法・電気炉法の3つのプロセスの比較、各方法のCO2排出量削減効果、技術課題が具体的データとともに記載されています
Franksの記事では、革新電気炉の仕組み、従来の電炉との違い、直接還元鉄と鉄スクラップの混合使用による相乗効果が図解付きで説明されています

 

 


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