フラックスはんだ除去の方法と洗浄剤の選び方

はんだ付けに欠かせないフラックスですが、残渣を適切に除去しないと基板の腐食や絶縁不良を招きます。洗浄剤の種類や除去方法を知らないままでは、製品の信頼性を損なう可能性があることをご存じですか?

フラックスはんだ除去

フラックスはんだ除去の重要ポイント
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洗浄の必要性

フラックス残渣は腐食性を持ち、基板の絶縁抵抗劣化や電気的トラブルを引き起こす原因となります

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洗浄方法の選択

水系・溶剤系・準水系の洗浄剤があり、スプレー洗浄・超音波洗浄・噴流洗浄など用途に応じた方式を選択できます

鉛フリー対応

鉛フリーはんだは高温ではんだ付けするためフラックスが焼き付きやすく、専用の強力な洗浄剤が必要です

フラックス残渣が引き起こすトラブルと対策

 

フラックスははんだ付けの際に属表面の酸化膜を除去し、はんだの濡れ性を向上させる重要な補助剤です。しかし、はんだ付け後に残るフラックス残渣には、ロジン、未反応の活性剤、チクソ剤、金属塩などが含まれており、これらが製品の信頼性に深刻な影響を及ぼします。

 

参考)半導体や電子機器のはんだ付けに必要なフラックスと残渣洗浄

フラックス残渣の主なトラブルとして、まず金属の腐食があります。大気中の湿気が存在する環境下では、フラックス中の活性剤がイオン化し、銅やはんだを腐食させます。特に鉛や亜鉛は錫よりも耐食性が低く、腐食が進行しやすい傾向があります。

 

参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0080020130

絶縁抵抗の劣化も重大な問題です。フラックス残渣が基板表面に付着すると、導体間の絶縁性能が低下し、リーク電流の発生や短絡のリスクが高まります。近年のファインピッチ実装では導体間隔が狭くなっており、同一電圧下での電界強度が高まるため、電気化学的マイグレーションが発生しやすい状況にあります。

マイグレーションとは、電圧が印加された状態で金属イオン成分が移動し、導体間にショートが発生する現象です。鉛、銀、銅などが特に感受性の高い金属とされており、フラックス残渣中に活性成分が残存していると、このリスクがさらに高まります。

外観検査への影響も見逃せません。はんだ付け部分がフラックス残渣に覆われていると、光が反射してしまい、はんだの表面状態や形状を目視で確認することが困難になります。さらに、ワイヤボンディングの接続不良や封止樹脂の硬化不良・充填不良といった後工程でのトラブルも引き起こす可能性があります。

 

参考)フラックス残渣とは - 化研テック株式会社

これらのトラブルを防止する対策としては、フラックス残渣の洗浄除去、腐食性の低いフラックスの使用、洗浄後の耐湿性樹脂コーティングなどが有効です。特に無洗浄タイプのフラックスは、はんだ付け後の活性力が極端に低下する設計になっており、信頼性の高い製品開発において重要な選択肢となります。

フラックスはんだの洗浄剤の種類と特性

フラックス洗浄剤は、大きく「水系」「準水系」「溶剤系」の3つに分類されます。それぞれの特性を理解し、用途に応じて適切に選択することが、効率的なフラックス除去の鍵となります。

 

参考)フラックス洗浄剤の種類と選定方法 - ZESTRON

水系洗浄剤は、水が主成分を占める洗浄剤で、界面活性剤やアルカリ性添加剤を添加して使用します。水系洗浄剤は樹脂成分を鹸化反応により水に可溶化させ、極性汚染物の除去性に優れています。安全性が高く環境負荷が少ないというメリットがある一方で、乾燥工程が必要であり、金属への影響に注意が必要です。代表的な製品として、花王の「クリンスルー」シリーズや荒川化学の「パインアルファ」などがあります。
参考)フラックス洗浄とは |技術情報|インテクノス・ジャパン

準水系洗浄剤は、アルコールと水の混合物や、グリコールエーテルと水の組み合わせなどで構成されます。水系洗浄よりも樹脂類、油分、脂分の除去性に優れ、溶剤系洗浄よりも極性汚染物の除去性が高いという特徴があります。荒川化学の「パインアルファST-180」は、鉛フリーはんだフラックスの反応生成物に対する除去性と、リンス時の再付着防止性を向上させた準水系洗浄剤として知られています。
参考)https://www.arakawachem.co.jp/jp/technology/document/200707.pdf

溶剤系洗浄剤は、有機溶剤が主体の洗浄剤で、アルコール系、炭化水素系、ハロゲン系に細分化されます。炭化水素系は油脂の溶解力が大きく、ハロゲン系は速乾性と不燃性を持ち、アルコール系は浸透性がよく細部洗浄に適しています。イソプロピルアルコール(IPA)は、ロジン系フラックスの洗浄に広く使用されており、揮発性が高いため乾燥時間が短縮できます。
参考)PCB ボードをはんだ付けした後、フラックスをどうやって除去…

各洗浄剤の選定においては、洗浄の目的と要求される清浄度レベルを明確にすることが重要です。鉛フリーはんだは高温でのはんだ付けが必要なため、フラックスが焼き付きやすくなっており、従来のフラックス洗浄剤では除去しきれない問題が多発していました。このため、鉛フリーはんだに対応した強力な洗浄剤の開発が進められており、化研テックは世界初の鉛フリーはんだフラックス対応洗浄剤を商品化し、多くの導入実績を持っています。

 

参考)フラックス洗浄とは?電子部品などの残渣を除去する工程

洗浄剤タイプ 主成分 メリット デメリット
水系 水+界面活性剤 安全性が高い、環境負荷 乾燥工程必要、金属への影響 ​
準水系 アルコール+水 樹脂・極性物除去性良好 可燃性、コスト高 ​
溶剤系 有機溶剤 速乾性、油脂溶解力大 毒性・環境問題 ​

フラックスはんだ除去の洗浄方法と工程

フラックス洗浄において、代表的な洗浄方式はスプレー(シャワー)洗浄、超音波洗浄、噴流洗浄の3つです。それぞれの方式には独自の特性があり、洗浄対象や求められる清浄度に応じて最適な方法を選択することが重要です。

 

参考)フラックス洗浄方法の種類と選び方

スプレー洗浄は、洗浄液自体が物理力(運動エネルギー)を持ち、洗浄剤に常時浸漬させない唯一の方式です。洗浄液を噴射するエネルギーでフラックス残渣を除去するため、洗浄後にワークを取り出す際の汚れの再付着リスクが低く、微細部分の洗浄にも効果的です。温度を上げることで洗浄効率がさらに向上します。比較的低濃度の洗浄液(15%程度)でも高い洗浄効果が得られるため、ランニングコストの削減が可能です。
参考)フラックス洗浄(基板洗浄)の方法 洗浄システムの種類と特徴を…

超音波洗浄は、日本市場において微細洗浄が必要な場合の第一候補となる洗浄方式です。超音波のキャビテーション、振動加速度、直進流などの物理的作用により汚れを剥離・分散・乳化させ、洗浄液の成分による化学的作用と超音波による化学反応促進作用が汚れを溶解・分解させます。ただし、洗浄剤に浸漬させる方式であるため、ワーク取り出し時の再付着に注意が必要です。​
噴流洗浄は、洗浄液の流動による物理力を利用した洗浄方式で、スプレー洗浄と超音波洗浄の中間的な特性を持ちます。洗浄槽内で洗浄液を循環させることで汚れを除去しますが、超音波洗浄ほどの微細洗浄力はありません。​
洗浄工程は一般的に、洗浄→すすぎ→乾燥の3段階で構成されます。水系洗浄の場合、洗浄工程で界面活性剤やアルカリ剤を含む洗浄液を使用し、すすぎ工程で脱イオン水により残留洗浄剤を除去します。炭化水素系洗浄剤を使用する場合は、すすぎ工程で清浄な洗浄剤や洗浄剤蒸気を用い、乾燥工程では減圧・真空を併用します。

手動洗浄の手順としては、まずフラックス残渣がある部分にイソプロピルアルコールを塗布またはスプレーします。次に柔らかいブラシやスポンジを使って優しくこすり、残渣を物理的に除去します。最後に清潔な布やペーパータオルで拭き取り、必要に応じて脱イオン水ですすぎます。揮発しにくい洗浄剤を使用すると、その間にブラシでしっかりと除去できるため効果的です。

 

参考)301 Moved Permanently

蒸気削減法という方法もあり、溶剤蒸気を使用して基板表面に溶剤を凝縮させることでフラックスを溶解し、簡単に除去できるようにします。この方法は自動化された洗浄システムに適しており、大量生産において効率的です。

無洗浄タイプフラックスの活用とメリット

無洗浄タイプのフラックスは、電子部品実装の効率化とコスト削減において重要な役割を果たしています。これは低活性なフラックスをベースとして構成され、製品組み立て後もフラックス残渣が安定化し、洗浄を必要としない設計になっています。

 

参考)無洗浄はんだを使用しているのに、なぜ洗浄する必要性があるのか

無洗浄フラックスの最大の特徴は、フラックス残渣が非腐食性で信頼性に優れており、はんだ付け後の洗浄処理が不要である点です。これにより、洗浄工程を省略できるため、製造時間の短縮、洗浄剤や水の使用量削減、設備投資の抑制といった多くのメリットが得られます。低固形分でベトツキが少なく取扱いが容易であることも、作業性向上につながります。

 

参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E7%84%A1%E6%B4%97%E6%B5%84%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/

フラックスの区分には、古くから用いられているR(非活性ロジン系)、RMA(弱活性ロジン系)、RA(活性ロジン系)の3タイプがあります。Rタイプは活性材を含まず、洗浄しなくてもよいとされ、はんだ付け後の腐食性や絶縁性に優れています。RMAタイプは塩素分0.14w%未満で、洗浄した方がよいとされます。RAタイプは最も活性度が高く、必ず洗浄が必要です。普段使用する場合は、活性度は劣るものの、はんだ付け後の腐食性や絶縁性が有利なRタイプの使用が推奨されます。

 

参考)https://toragi.cqpub.co.jp/tabid/713/Default.html

無洗浄タイプのフラックスは、はんだ付け性が良好なため、はんだブリッジや未はんだを低減させる効果があります。特に鉛フリーはんだを使用したプリント基板に最適で、はんだ付け後の残渣信頼性が優れています。ハロゲンフリータイプも開発されており、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素がそれぞれ1000ppm以下に抑えられています。

ただし、無洗浄はんだにも洗浄が必要となる場合があります。洗浄を前提としていないため、溶剤や水への溶解性が乏しい原料も含まれており、通常の洗浄剤では除去が困難です。そのため、無洗浄タイプでも外観検査や後工程の要求により洗浄が必要になる場合は、洗浄対応の特殊なフラックスを選択することが推奨されます。高研化学工業の「JS-15CAT」は、無洗浄での高い電気的信頼性を持ちながら、洗浄にも対応したユニークなポストフラックスとして知られています。

 

参考)洗浄対応ポストフラックス

サンハヤトの無洗浄タイプフラックス(HB-1000F)
サンハヤトの公式サイトでは、ロジン系無洗浄タイプフラックスの詳細仕様と、マイグレーション試験や絶縁抵抗の具体的な数値データが掲載されています。

 

フラックスはんだ除去に必要な道具と実践テクニック

フラックスのはんだ除去を効率的に行うためには、適切な道具の選択と実践的なテクニックが不可欠です。特に手作業でのはんだ付けや修理作業において、これらの知識は作業品質を大きく左右します。

 

参考)仕事道具紹介(フラックス編) - 修理実績

フラックスの塗布道具として、最も基本的なのはハケ付きキャップタイプです。容器に直接ハケが付いており、手軽に使用できます。しかし、より精密な作業にはディスペンサータイプのフラックスペンやシリンジタイプが適しています。レバータイプのツールは、軽い力でフラックスを押し出すことができ、ネジで棒の長さを調整することで適量のコントロールが可能です。ネジを回して棒を押し出すタイプなど、さまざまなツールが存在し、作業内容に応じて選択できます。​
フラックスを使用する最大のメリットは、はんだがこて先にも流れ、必要な量だけ部品側に残ることです。特に多足のICなどでは、フラックスをしっかり使うことによって、引きながらのはんだ付けを効率的に行うことができます。この技法により、各ピンに均一にはんだを供給し、ブリッジやコールドジョイントを防止できます。

洗浄道具としては、イソプロピルアルコール(IPA)が最も広く使用されています。IPAは無水エタノールと違って毒性が低く、Amazonなどで手頃な価格で入手できます。洗浄には、柔らかいブラシ、スポンジ、清潔な布、ペーパータオルなどが必要です。多足の間などにフラックスが残る場合は、歯ブラシや筆を使って足の下から掻き出すようにして清掃します。​
スプレータイプのフラックス洗浄剤も便利です。サンハヤトのFL-300などは揮発しにくいため、対象をブラシでゴシゴシと擦る時間を確保でき、よく落とすことができます。ただし、中身が少なくなってくるとノズルを水平にしないと出てこないという欠点があります。

フラックスリムーバーは、はんだ付け後のフラックス残渣や基板・部品に付着した油汚れを強力な洗浄力で除去します。洗浄力に優れ、鉛フリー対応フラックスもきれいに洗浄でき、ほとんどの樹脂を侵しません。刺激臭が無く、低臭気なので作業環境も良好で、有機溶剤中毒予防規則に非該当という安全性の高さも特徴です。

 

参考)はんだ・フラックス | 製品カテゴリ | 製品情報 | HA…

洗浄の実践テクニックとして重要なのは、フラックスの種類に応じた洗浄剤の選択です。ロジン系フラックスにはイソプロピルアルコール、水溶性フラックスには脱イオン水、無洗浄タイプのフラックスを洗浄する場合は専用の強力な洗浄剤が必要です。洗浄時の温度管理も重要で、水系洗浄剤の場合は65℃程度に加温することで洗浄効率が向上します。

白光(HAKKO)のフラックスリムーバー製品ページ
白光の公式サイトでは、各種はんだ・フラックス・フラックスリムーバーの製品ラインナップと使用方法が詳しく紹介されており、プロの現場で使用される道ンナップと使用方法が詳しく紹介されており、プロの現場で使用される道具の情報が得られます。

 

 


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