イソプロピルアルコール用途と洗浄・脱脂・消毒効果

イソプロピルアルコールは工業用から医療用まで幅広い分野で活躍する多用途溶剤です。洗浄、脱脂、消毒、電子機器のクリーニングなど、その特徴と具体的な使い方を詳しく解説しますが、あなたはIPAの正しい用途と注意点をご存知ですか?

イソプロピルアルコール用途と特徴

この記事で分かること
🧪
工業用途での活用法

脱脂・洗浄・電子機器クリーニングなど工業分野での使い方

💊
医療・消毒用途

消毒効果のメカニズムと適切な濃度、使用上の注意点

⚠️
安全な取り扱い方

引火性・毒性への対策と保管方法、エタノールとの違い

イソプロピルアルコール用途における基本特性

イソプロピルアルコール(IPA)は、化学式C3H8Oで表される無色透明の液体で、別名イソプロパノールとも呼ばれています。水やエタノールとよく混ざり合う性質を持ち、揮発性が高く蒸発しやすいという特徴があります。この溶剤は工業用原料、医薬品、消毒剤、燃料など多岐にわたる分野で使用されており、脂を取り去る作用に優れているため洗浄や脱脂の用途で重宝されています。IPAの純度は用途によって異なり、工業用では99%以上、電子工業用では99.99%以上の高純度品も存在します。

 

参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%94%E3%83%AB%20%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB/

揮発性成分で構成されているため、使用後に残留しないという利点があり、製造現場の部品やライン、機器類の洗浄・拭き取りに適しています。また、メタノールより気化しやすく、プラスチック面を痛めにくいため、FRPやプラスチック面の脱脂及び洗浄にも最適です。ただし、アクリル樹脂やゴム類を侵す場合があるため、使用前に目立たない場所で確認することが推奨されます。

 

参考)https://item.rakuten.co.jp/ohhashi/ipa18/

IPAは不凍液や塗料の希釈剤、インクの基材、ガソリン等の水抜き剤としても活躍しており、その多用途性から産業界で欠かせない溶剤となっています。消毒用としても広く利用されていますが、工業用と医療用では製造基準が異なるため、用途に応じた製品選択が重要です。

 

参考)IPA(イソプロピルアルコール、イソプロパノール)とは?成分…

イソプロピルアルコール用途での洗浄・脱脂効果

イソプロピルアルコールは工業分野において洗浄・脱脂用途で非常に高い効果を発揮します。塗装前のシリコン・オイル・ワックスなどの脱脂や汚れ取り、金属部品や金型などのグリス汚れの除去に最適で、塗装や加工直前の皮脂汚れやホコリなどの脱脂洗浄にも使用されます。自動車部品の脱脂、メッキ前洗浄、家電製品出荷前洗浄、プリント基板の洗浄、切削加工後の機械部品洗浄など、幅広い製造現場で活躍しています。

 

参考)https://www.monotaro.com/k/store/%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%94%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%20IPA/

光学機器やガラス製品の清掃にも効果的で、皮脂汚れの除去に優れた性能を示します。IPAを清水で5~10倍に希釈して使用するのが標準的で、落ちにくい脱脂には原液から5倍希釈で使用します。泡立たないので拭き掃除に便利で、洗浄と同時に高い除菌消臭力を発揮することから、医療や介護の現場でも活躍しています。

塗料やインクの洗浄にも使用され、各種油脂類の除去に効果を発揮します。特に工業用IPAは濃度99%のものが多く、塗料の希釈、脱脂、洗浄用に使用できる汎用性の高さが特徴です。使用後は揮発性が高いため残留しにくく、各種製品の最終工程における拭き取り作業にも適しています。

イソプロピルアルコール用途の電子機器クリーニング

電子機器の洗浄において、イソプロピルアルコールは国際的に承認されたクリーナーとして主要な電子機器メーカーが要求する規格に適合しています。IPAはあらゆる電子機器を徹底的に洗浄し、ほとんどのプラスチックに安全に使用できることから、フロン系溶剤の代替品として設計されています。100%オゾン環境に優しい製品として、効率的な汎用電子洗浄溶剤としての地位を確立しています。

 

参考)【IPA】電子機器クリーニング溶剤

PCB(プリント基板)の汚染除去に優れた性能を発揮し、優れたプラスチック適合性と経済的な使用が可能です。半導体やガラス基板など電子デバイスの洗浄・乾燥には、独自技術により99.99%以上の高純度を実現した電子工業用グレードのIPAが使用されます。この高純度IPAは水や油などの有機物によく混合し、水切り乾燥用にも使用できるほか、製造過程で付着する汚れも取り除くことができます。

 

参考)電子工業用高純度IPA「IPA SE」

金属成分やパーティクルをごくわずかに抑えた高純度品は、ウエハー洗浄時に金属成分やパーティクルが配線に付着して電気回路を変えてしまう恐れを防ぎます。工作機械タッチパネル洗浄など、精密機器のメンテナンスにも幅広く使用されています。

トクヤマの電子工業用高純度IPA「IPA SE」製品情報
電子デバイス製造における高純度IPAの具体的な特性と用途について詳しく解説されています。

 

イソプロピルアルコール用途の消毒・除菌効果

イソプロピルアルコールには微生物のタンパク質を変形させ凝固させる作用や代謝障害、細菌の死滅・溶解による殺菌作用があります。手や指、皮膚などの人体の消毒から医療機器などの消毒に幅広く使用されており、手指・皮膚の消毒、手術部位(手術野)の皮膚の消毒、医療機器の消毒などの医療用医薬品としての適応があります。消毒や殺菌に使用されるIPAは、日本薬局方に沿った確認試験を行い、医薬品として製造されているものである必要があります。

 

参考)イソプロピルアルコールの消毒・殺菌効果を解説|濃度や危険性に…

手指や皮膚、医療機器などの消毒に使用する場合は、濃度50%~70%での使用が適しており、特に高い殺菌効果を期待する場合は濃度70%のIPAが推奨されています。皮膚の感染症や食中毒などの原因にもなる黄色ブドウ球菌などは、濃度が70%程度のIPAであれば15秒以内でほとんどの菌を死滅させることができ、即効性にも優れています。ただし、消毒・殺菌効果の持続性はないという特徴があります。

 

参考)器具洗浄用 アルコール濃度70% IPA 消毒用 除菌剤 5…

厚生労働省の感染症法に基づく消毒・滅菌の手引きでは、IPAに水を加え70vol%にしたものを消毒剤として使用するよう記載があります。IPAを清水30%前後で希釈すると、市販のイソプロピルアルコール消毒液と同じ成分・濃度となりますが、工業用として製造されたものは医薬品ではないため、手指の消毒には使用できません。器具の除菌・抗菌・ウイルス除去には工業用IPAでも使用可能ですが、全てのウイルスや菌に対して効果があるわけではありません。

 

参考)IPA イソプロピルアルコール 1L /脱脂 洗浄 IPA …

イソプロピルアルコール用途におけるエタノールとの違い

イソプロピルアルコールとエタノールは同じアルコール類ですが、いくつかの重要な違いがあります。最も大きな違いは毒性の有無で、エタノール(特に無水エタノール)には毒性がないのに対し、IPAには毒性があるため取り扱いに注意が必要です。無水エタノールの濃度は99.5%以上であるのに対し、IPAは99.9%以上とより高い濃度を持ちます。

 

参考)無水エタノールとIPAの比較│アルコールインクアート教室プル…

両製剤の細菌に対する消毒効果はほぼ同じですが、一部のウイルスに対してはエタノールのほうが消毒効果が優れているとの報告があります。IPAは脱脂作用が高く、消毒などで頻繁に使用した場合、乾燥や皮膚の炎症を起こすことがあります。そのため、日常的に使用するのであれば、消毒用エタノールまたは消毒用エタノールにIPAを添加したものの方が安全に使用することができます。

 

参考)イソプロピルアルコール50%P

価格面では、IPAの方が無水エタノールよりも安価で、大容量サイズでは1リットル約1,000円で購入可能です。入手しやすさについては、無水エタノールはドラッグストアや薬局で容易に購入できますが、IPAは取り扱っているお店がほとんど無く、主にネット購入で手に入ります。乾燥速度に関しては、IPAは変性エチルアルコールの代替え品として使用できますが、乾燥がやや遅いという特徴があります。

用途によって使い分けることが重要で、安全性を重視する場合や手指消毒には無水エタノール、コストパフォーマンスを重視した工業用途や大量使用にはIPAが適しています。

三協化学工業によるIPA(イソプロピルアルコール)とエタノールの詳細比較
医薬品グレードと工業用グレードの違い、混合時の注意点などが具体的に解説されています。

 

イソプロピルアルコール用途での安全な取り扱い方

イソプロピルアルコールは便利な反面、取り扱いには十分な注意が必要です。最も重要なのは引火性が非常に高いため、火気の近くでの使用は厳禁であることです。火花や静電気にも注意し、換気の良い場所で使うことが基本となります。漏れ、あふれまたは飛散しないように注意し、十分な換気を行うことが求められます。

 

参考)純度100%IPAイソプロピルアルコール18Lの使い方と注意…

直接肌に触れると乾燥や刺激を感じることがあるため、長時間の接触は避けるべきです。作業時には手袋を着用し、目に入らないように注意する必要があります。万が一目に入った場合はすぐに大量の水で洗い流し、必要に応じて医師の診察を受けてください。長時間使用する際は手袋の着用が推奨され、肌の弱い方は保湿を行うこともおすすめです。

保管時には密閉容器に入れ、直射日光や高温多湿を避け、冷暗所に保管することが重要です。子供の手の届かない場所に置き、誤飲や誤使用を防ぐ必要があります。容器は倒れにくい安定した場所を選び、他の容器に移し替える際は、専用の容器に品名・注意事項を明記することが求められます。

応急処置として、初期火災の場合は大量の水または消火器で消火し、目や粘膜などに触れた場合は大量の水で洗い流します。飲み込んだ場合は大量の水を飲ませてはかせる等の処置をし、必要に応じて医師に相談することが必要です。塗装面等に噴射された場合、塗装が剥がれる場合があるため、目立たない場所に塗布して確認の上使用することが推奨されます。

以下は安全に使用するためのチェックリストです:

  • 火気厳禁で換気を十分に行う
  • 手袋や保護メガネを着用する
  • 目や皮膚への接触を避ける
  • 密閉容器で直射日光を避けて保管
  • 子供の手の届かない場所に置く
  • 手指消毒には医薬品グレードのみ使用
  • 食品や食器への直接塗布は避ける
  • 密室で使用する場合は必ず換気を行う

イソプロピルアルコール用途の鉱石クリーニングへの応用

鉱石コレクターにとって、収集した標本を美しく保つためのメンテナンスは重要な作業です。イソプロピルアルコールは鉱石や宝石のクリーニングにも応用できますが、使用には注意が必要です。IPAは細菌、真菌、そして一部のウイルスのタンパク質を変性させ、細胞膜を溶解することで効果的に殺菌するため、宝石を含む非多孔質表面の洗浄液によく使用されています。

 

参考)イヤリングを洗浄するのにイソプロピルアルコールを使用できます…

ただし、鉱石の種類によっては注意が必要で、多孔質の石や化学的に敏感な鉱物にはダメージを与える可能性があります。例えば、トルコ石やラピスラズリなどの多孔質の宝石、真珠やサンゴなどの有機質の宝石には使用を避けるべきです。一方で、水晶、アメジスト、タイガーアイなどの硬質で非多孔質の鉱石には安全に使用できます。

鉱石クリーニングでの具体的な使用方法としては、コットンにIPAを含ませて拭くか、容器に入れて数分浸け置きし、自然乾燥させる方法があります。揮発性が高いため、クリーニング後は速やかに乾燥し、残留物を残しません。鉱石表面の指紋や皮脂汚れ、展示ケースの汚れなどを効果的に除去できます。

 

参考)【完全版】イソプロピルアルコール活用術10選!掃除・趣味・衛…

鉱石の洗浄における利点は以下の通りです:

  • 脂や皮脂汚れを効果的に除去​
  • 揮発性が高く残留しない​
  • ガラス製品の清掃にも使用可能​
  • 除菌効果で標本を清潔に保つ​

ただし、使用前には必ず目立たない部分でテストを行い、変色や表面変化がないことを確認してください。特に処理された宝石や接着された標本、繊細な結晶構造を持つ鉱物には使用を控えることをおすすめします。

 

イソプロピルアルコール用途での希釈方法と濃度調整

イソプロピルアルコールは用途によって適切な濃度に希釈することで、最大限の効果を発揮します。工業用の純度100%のIPAを使用する場合、用途に応じた希釈が必要となります。消毒・除菌用途では、IPAを清水30%前後で希釈すると、市販のイソプロピルアルコール消毒液と同じ成分・濃度(70vol%)となります。

 

参考)IPA イソプロピルアルコール14kg(約18L) / 脱脂…

洗浄・脱脂用途での希釈倍率は、標準的な使用では5~10倍希釈、落ちにくい脱脂には原液~5倍希釈が推奨されています。イソプロパノールとして50%程度に希釈し、最大10mlを使用目安量とする場合もあります。洗浄後は十分に乾燥させてから使用することが重要で、IPAは乾燥すればその成分はなくなります。

ガラスやステンレス製品のクリーニングには、水で2~3倍に薄めてスプレーボトルに入れ、吹きかけてから乾いた布で拭き上げる方法が効果的です。メイクブラシの洗浄・除菌では、容器に入れたアルコールでブラシを振り洗いし、ペーパーで拭き取ってから完全に乾かします。靴の消臭・除菌では、スプレー後も揮発性が高いため早く乾き、すぐに使えます。

以下は用途別の希釈倍率の目安です:

用途 希釈倍率 最終濃度
消毒・除菌 原液:水=7:3 70vol% ​
手指消毒 50~70vol% 50-70% ​
標準洗浄 5~10倍 10-20% ​
強力脱脂 原液~5倍 20-100% ​
ガラス清掃 2~3倍 25-33% ​


エタノール系除菌スプレーにIPAを混ぜてアルコール濃度を70%程度に上げることも可能で、IPAもエタノールもアルコールなのでどちらでも構いません。ただし、工業用IPAは医薬品として登録されていないため、手指消毒には使用できないことに注意が必要です。

希釈する際は、必ず換気の良い場所で作業し、火気から離れた場所で行うことが重要です。専用の容器に移し替える際は、品名と注意事項を明記し、誤使用を防ぐ配慮が必要です。