転炉は製鉄所における製鋼工程の中核設備で、銑鉄から炭素や不純物を除去して鋼に転換する役割を担っています。転炉という名称は「回転できる炉」を意味するのではなく、銑鉄を鋼に「転換する炉」という意味から名付けられました。この装置は1856年にイギリスの技術者ヘンリー・ベッセマーによって発明され、革命的な製鋼技術として世界中に広がりました。
転炉の形状は樽型またはセイヨウナシ型で、軸が装備されており、注入・排出時には傾斜させることができる可動構造となっています。外部は鋼鉄製で、内部は高熱と衝撃に耐える耐火レンガで内張りされています。転炉内の温度は1600~1800℃に達し、この高温環境下で酸化反応が効率的に進行します。転炉の基本構造は現在でもベッセマーが発明した当初とほぼ同じです。
転炉の最大の特徴は、高圧の酸素を吹き込むだけで酸化熱が発生し、追加の熱供給が不要という点です。溶銑中の炭素やケイ素などが酸素と反応する際に放出される熱によって反応が自己維持されます。
転炉での最も重要な役割は、溶銑に含まれる炭素を除去する「脱炭」です。高炉で製造された銑鉄には約4%の炭素が含まれており、この状態ではもろく割れやすいため、加工不可能です。転炉では上部から水冷ランスを挿入し、高圧(約1 MPa)の純酸素を噴き込むことで、溶銑中の炭素と酸素を反応させます。
脱炭プロセスでは、主に以下の化学反応が起こります。酸素が溶銑中の炭素と直接反応して一酸化炭素(CO)を生成する反応、および酸化鉄(FeO)が炭素と反応して鉄を再生する反応です。これらの反応により、炭素は一酸化炭素ガスとして除去されます。
転炉の上部から吹き込まれた酸素ジェットは、溶銑の表面に達すると液面にキャビティ(凹み)を形成します。このキャビティの底部で高温の酸素が溶銑と激しく接触し、反応が促進されます。一酸化炭素ガスはスラグ層内で泡状になって膨張し、この現象を「フォーミング」と呼びます。
転炉内では、ランスからの高圧酸素ジェット流とスラグの泡立ちにより、スラグと溶銑が激しく攪拌されます。この激しい攪拌により、炭素除去反応の速度が大幅に加速されます。
炭素除去の次に重要な役割は、銑鉄に含まれるリン、ケイ素、マンガンなどの不純物を除去することです。これらの元素は鋼の強度や耐久性を低下させるため、確実に除去する必要があります。
脱燐プロセスでは、転炉に投入された生石灰がスラグを塩基性にし、酸化されたリンがこのスラグに溶け込みやすくなります。アルカリ性環境では、リンはリン酸イオン(PO₄³⁻)に酸化され、スラグ内に保持されます。これは歴史的に重要な技術で、1878年に開発されたトーマス転炉の大きな革新でした。ベッセマー転炉が失敗した理由は、酸性耐火材を使用していたため、リンを含むスラグが炉壁と反応してしまったからです。
脱珪素プロセスでは、ケイ素が酸化されて二酸化ケイ素(SiO₂)に変わり、塩基性スラグに溶け込みます。ケイ素は比較的早く酸化されるため、精錬の初期段階で除去されます。スラグの比重はメタル(溶銑)より小さいため、酸化物はスラグ層に浮上し、最終的に炉を傾けてスラグを排出することで不純物を除去できます。
現代の転炉操業では、MURC法(Multi Refining Converter法)という高度な技術が採用されています。この方法では、溶銑装入後に「ブロー1」で脱燐・脱珪素を集中的に行い、不純物濃度が高くなったスラグを一度排出します。その後「ブロー2」で新たなスラグを追加し、脱燐・脱珪素をさらに継続する二段階方式です。この方法により、スラグの排出量を削減し、資源効率を向上させることができます。
転炉には複数の種類があり、酸素の吹き込み方法によって分類されます。1950年代に開発されたLD転炉は、上部から酸素を吹き込む方式で、現在でも広く使用されています。その後、1970年代には炉底部から酸素を吹き込む純酸素底吹転炉が開発されました。底部からの吹き込みは攪拌力が強く反応速度が速いという利点がありますが、炉底部の損傷が激しくなるという問題がありました。
1980年代に開発された純酸素上底吹転炉(上底複合吹転炉)は、両方式の利点を統合した現代の主流炉型です。上部から高圧の純酸素を吹き込みながら、同時に底部からアルゴンなどの不活性ガスを吹き込み、攪拌効率と反応速度を最適化します。底部パイプの冷却には、メタンやプロパンなどの炭化水素ガスを流し、熱分解時の吸熱作用で温度上昇を抑えます。この上底吹複合方式により、処理時間が短縮され、炉の寿命も大幅に延びました。
初期のLD転炉の処理能力は約30トン程度でしたが、現代の純酸素上底吹転炉は200~300トンの大規模な溶銑を処理できるようになり、製鋼効率が飛躍的に向上しています。
転炉の耐火レンガは高温、酸化性雰囲気、スラグとメタルからの化学的侵食にさらされるため、適切な保護技術が必須です。転炉内壁は酸化シリコンと黒鉛を含む材料で構成されており、黒鉛成分は高温で空気に触れると酸化によって失われやすいという弱点があります。
転炉の寿命延伸には、残スラグを利用した巧妙なコーティング戦略が採用されています。溶銑排出後、転炉を大きく傾けて残ったスラグで内壁を覆う作業が行われます。幸いにも、転炉用スラグは炉壁に付着しやすい性質を持つため、この方法で効果的に内壁を保護できます。このコーティングにより、黒鉛成分の酸化を最小限に抑え、炉の耐久性を大幅に向上させることが可能になります。
酸化反応中は溶銑がスラグで覆われているため、内壁は高温の還元性環境で保護されます。転炉内の温度が1600~1800℃に達する中で、この炉壁保護技術なしには、現代の大規模転炉操業は成り立ちません。
転炉による1回の精錬プロセスは、通常約30分で完了します。この時間は、脱燐、脱珪素、脱炭という複数の精錬段階を含み、最終的に目標炭素濃度と目標温度に到達するまでの時間です。
操業の効率性のため、あらかじめ計算した総酸素量の95%を吹き込むと、自動的に酸素の供給が停止されます。その後、転炉内に埋め込まれたセンサーが炭素濃度と温度をリアルタイムで測定し、コンピュータがこの測定値に基づいて酸素吹き込み量を再計算し、微調整します。
この二段階制御方式により、転炉内の状態に対する誤差を最小限に抑えることができます。ただし、実際には転炉内の反応は複雑で、温度や炭素濃度の完全なリアルタイム情報を取得することは困難です。そのため、最終的には経験豊富なオペレーターのスキルとカンが重要な役割を果たします。
転炉内での酸化反応により、反応熱が自動的に発生するため、外部からの加熱は不要ですが、反応の進行状況によって温度を調整する必要が生じます。特に、反応が予定以上に進み、炉内温度が目標値を超えるリスクがあります。
こうした場合の対策として、転炉に鉄スクラップを少量投入することで温度を低下させます。鉄スクラップの融解には大量の熱を消費するため、吸熱作用により炉内温度の上昇を抑制できます。通常、転炉には総投入重量の5~10%程度の鉄スクラップが含まれていますが、温度調整が必要な場合はこの量が増加します。
この温度管理技術により、転炉内の条件を最適範囲に保ち、製造される鋼の品質バラツキを最小化することができます。
転炉で生成されるガス(転炉ガス)も有効に活用されています。排ガスボイラーで熱エネルギーを回収して発電を行ったり、その熱を圧延工程などに供給するなど、エネルギーの再利用が徹底されています。
転炉による精錬技術は、19世紀の発明以来、継続的に改良されており、現代の上底吹複合吹転炉は極めて高い効率と信頼性を備えています。銑鉄から高品質な鋼への転換を実現するこの装置は、鉄鋼産業の基盤であり、あらゆる産業インフラの物質的基礎を支える存在です。
Wikipediaの転炉記事では、転炉の詳細な構造、歴史的発展、および各種転炉の仕組みについて、化学反応式を含む包括的な情報が記載されています。
JFEスチールの技術資料では、転炉の実際の操業方法、設備詳細、および品質管理技術に関する専門的な情報を確認できます。