四酸化三鉄(Fe₃O₄)は、鉄フライパンの表面に形成される黒サビの正体です。鉄を約585℃以上の高温に加熱することで生成されるこの酸化皮膜は、鉄を安定させて赤サビの発生を防ぐ重要な役割を果たします。通常の赤サビ(酸化第二鉄Fe₂O₃)が鉄を侵食するのに対し、四酸化三鉄は鉄の表面を保護する性質を持っています。
参考)鉄フライパンの酸化皮膜とは? 黒サビのための焼き入れについて…
この黒サビは青っぽいねずみ色をしており、鉄器を赤サビから守る優れた防錆効果を発揮します。表面に形成された四酸化三鉄の層には微細な凹凸が生じるため、油膜の食いつきが良くなり、油が剥がれにくくなります。ただし、黒サビには無数のピンホール(小さな穴)が開いているため、油膜がない状態では細かな赤サビが浮いてしまう可能性があります。
参考)鉄器の赤サビと黒サビ
四酸化三鉄の皮膜を形成させることで、「赤サビが出にくくなる」「油なじみが良くなり食材がくっつきにくくなる」といったメリットが得られます。この酸化皮膜の形成は、鉄フライパンを長く快適に使用するための基本的な処理といえます。
参考)なぜ鉄のフライパンはサビるのか?
窒化加工は鉄の表面に窒素を浸透させて硬化し、強靭な状態にする特殊な熱処理技術です。この加工技術は航空機の部品にも使用されるほど信頼性が高く、フライパンの表面に窒化層と呼ばれる非常に硬い層を形成します。窒化鉄であれば、すでに鉄と窒素が結びついているため酸素が結合できず、錆びづらくなります。
参考)窒化鉄フライパンの実力とは?錆びにくく育てやすい鉄の最適解 …
窒化処理によって表面に2~3μmの凹凸ができ、この微細な凹凸のおかげで食材がひっつきにくく、油なじみが良くなります。窒化加工に加えて酸化処理を施す「オキシナイト加工」を採用したフライパンでは、窒化で強度を高め、酸化で四酸化三鉄の皮膜を作ることで錆びにくさを実現しています。
参考)【調理師監修】鉄VSテフロン|鉄鍋育成&剥がれたテフロン鍋の…
窒化加工フライパンの大きな特徴は、従来の鉄フライパンで必要だった面倒な使い始めの空焼きや、使用後の油塗りが不要という点です。窒化加工は鉄分子に窒素を拡散させ、表面の酸化層によって錆の発生を防ぐため、初心者でも扱いやすい鉄フライパンとなっています。コーティング剤のように表面に塗布しているわけではないため、剥がれる心配もありません。
参考)お手入れ簡単「窒化鉄フライパン」おすすめランキング13選|安…
四酸化三鉄の皮膜を持つ鉄フライパンの基本的なお手入れは、洗剤を使わずにたわしとぬるま湯で洗うことです。調理が終わったらフライパンが温かいうちに竹ササラやたわし、キッチンブラシなどを使って洗い、せっかくなじんだ油を洗い流さないようにします。洗った後は水気を拭き取り、完全に乾燥させてから湿気の少ない場所に収納します。
参考)スーパー鉄の使い方
焦げ付いた場合は、お湯を沸かして焦げを柔らかい状態にし、たわしでこすり落とします。油汚れがひどい場合は台所用中性洗剤を使用してもかまいませんが、洗剤を使った後は再度「油ならし」を行う必要があります。油ならしとは、フライパンに油を大さじ3~4入れて弱火で約3分加熱し、火を止めて油をなじませる作業です。
参考)鉄フライパンのお手入れ方法完全版(動画あり)
万が一サビが出た場合は、たわしやクレンザーでこすり落とし、その後「油ならし」を行えば再生できます。酸やアルカリの強い食材を使うと表面の黒い色が変色することがありますが、調理後すぐに料理を別容器に移し、早めにフライパンを洗うことで対処できます。窒化加工されたフライパンは、通常の鉄フライパンと比べて錆びにくいため、保管時の油塗りは不要です。
参考)サビても再生できる!鉄フライパンのサビ取り方法解説
従来の鉄フライパンでは、使い始めに「空焼き」という作業が必須です。空焼きは鉄フライパンの表面に塗られた防錆塗装を焼き切り、同時に四酸化三鉄の酸化皮膜を形成させる重要な工程です。具体的には、フライパンを軽く洗って水気を拭き取り、強火で15~20分程度加熱します。
参考)【保存版】プロが教える鉄フライパンとスキレットの空焼きの仕方
加熱を続けると白い煙が出て、フライパンが黒色から青白い色に変色していきます。フライパン全体にムラなく火を当て、煙が出なくなり全体が変色したら火を止めて自然に冷まします。冷めたら洗剤でよく洗い、残った塗装の膜を洗い流します。この空焼きによってわざわざ「サビ(酸化物)の膜」を作り、これが四酸化三鉄と呼ばれる黒サビです。
参考)使い始めはどうする?鉄フライパンの「空焼き・油ならし」の方法…
空焼きの後は「油ならし」を行います。フライパンに多めの油を入れて弱火で3~10分程度なじませるか、くず野菜を炒めて油膜を形成させます。油ならしには乾性油や半乾性油、特にサラダ油がおすすめで、この作業により食材の焦げつきやサビを防止できます。ただし、窒化加工済みのフライパンでは、空焼きや油ならしが不要なものもあります。
参考)錆びにくく焦げ付きにくい。特殊加工の鉄フライパンおすすめ10…
四酸化三鉄の皮膜を持つ鉄フライパンは、熱伝導率が良く食材に熱がすばやく伝わるため、食材の表面をサッと焼き上げて旨みを閉じ込めることができます。火加減の調整がダイレクトに伝わるため、繊細な温度管理が必要な料理も上手に仕上がります。鉄フライパンは厚みと素材の特性により高い熱保持力を持ち、一度温まると熱が冷めにくいため、食材全体にじっくりと熱が伝わります。
参考)鉄フライパンは難しくない!黒い汚れの正体と使いこなしの極意【…
鉄フライパンでの調理中には、微量の鉄分が溶け出して食材に移行するため、効果的に鉄分を補給できます。テフロンフライパンやアルミフライパンから鉄フライパンに買い替えるだけで、日々の食事でより多くの鉄分を摂取できる点は健康志向の方におすすめです。使い込むほどに表面に油膜が形成され、自然なコーティングができるため、焦げ付きにくくなっていきます。
参考)鉄製フライパンの魅力と選び方を徹底解説|一生使える道具を選ぶ…
鉄フライパンは金属製の調理器具を気にせず使える自由さがあり、傷を気にせず調理できることで料理の楽しさが広がります。空焚きしても大丈夫で強火での調理に適しているため、高温調理が必要なステーキや炒め物にも最適です。頻繁に使うことでフライパン自体の質感も増し、愛着が湧いていく「育てる楽しさ」も鉄フライパンならではの魅力といえます。
<参考リンク>
鉄フライパンの酸化皮膜と黒サビの詳しい解説
鉄フライパンの酸化皮膜とは? 黒サビのための焼き入れ
窒化加工の仕組みと特徴について
窒化鉄フライパンの実力とは?錆びにくく育てやすい鉄の最適解
ビタクラフトの窒化鉄フライパンの使い方ガイド
スーパー鉄の使い方 | ビタクラフトオンラインショップ
鉄フライパンの空焼き方法の実践解説
【保存版】プロが教える鉄フライパンとスキレットの空焼きの仕方