鉄欠乏性貧血 症状と原因、治療法について

陶器や食器に色を戻すように、体の血液も鉄分で健やかな色を取り戻せます。めまいや疲労感などの鉄欠乏性貧血の症状は日常生活に支障をきたしますが、適切な対応で改善できることをご存知ですか?

鉄欠乏性貧血 症状と原因

鉄欠乏性貧血で起こる主な症状
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体のだるさと疲労感

体内の酸素が不足するため、常に倦怠感や疲れやすさを感じます

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めまい・立ちくらみ・頭痛

脳への酸素供給が不十分になることで、ふらつきや頭の重さを感じます

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動悸と息切れ

心臓と肺が酸素不足を補おうと働きすぎ、少しの運動で息が上がります

鉄欠乏性貧血の初期症状と進行時の変化

 

鉄欠乏性貧血は、赤血球中のヘモグロビンを作るために必要な鉄分が不足することで起こる貧血です。初期段階では、朝起きるのが辛い、顔色が白くなる、めまいや立ちくらみを感じるといった症状が現れます。体内の鉄が不足すると、全身に酸素を運ぶヘモグロビンが減少し、体が慢性的な酸欠状態になるためです。進行すると、動悸や息切れ、胸の苦しさ、疲れやすさ、倦怠感、頭痛、肩こり、吐き気、耳鳴りなども加わります。これらは心臓や肺が酸素不足を補おうと懸命に働くため起こる症状です。

 

さらに貧血の程度が重度になると、転びやすくなる、冷え性、強い眠気、肌のカサカサ、抜け毛といった症状も出現します。また、爪がもろくなったり、スプーンのように反り返る「匙状爪」が見られることもあります。特徴的なのは「氷食症」で、鉄欠乏性貧血患者の約16%に見られ、無性に氷などの硬いものを食べたくなる症状です。これは鉄不足により自律神経が乱れ、体温調節機能に異常が生じるためと考えられています。

 

鉄欠乏性貧血と頭痛の関係性

鉄欠乏性貧血と頭痛には密接な関係があることが、複数の研究で明らかになっています。特に慢性的な頭痛やミグレーン(偏頭痛)との関連が指摘されており、鉄欠乏性貧血の患者では頭痛の発症率が高いことが報告されています。脳への酸素供給が不十分になることで、脳の血管が拡張し、それが頭痛を引き起こす一因となります。

 

2024年の系統的レビューでは、鉄欠乏性貧血と慢性頭痛障害の間に双方向の関係があることが示されました。つまり、鉄欠乏性貧血が頭痛を引き起こすだけでなく、慢性的な頭痛を持つ人は鉄欠乏性貧血になりやすいという相互関係があるということです。特に女性では、生理前後で頭痛が起きやすい場合、鉄欠乏性貧血の可能性があります。鉄は神経伝達物質の合成にも必要な栄養素であり、不足すると頭痛だけでなく、集中力の低下やイライラ、抑うつ症状なども現れることがあります。

 

鉄欠乏性貧血の主な原因と検査

鉄欠乏性貧血の原因として最も多いのは、過多月経や婦人科系疾患による女性の性器出血で、全体の31.6%を占めます。生理の量が多い過多月経では、毎月の出血とともに大量の鉄が失われます。また、子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮頸がん、子宮体がんなどによる不正出血も原因となります。女性の推奨鉄摂取量は20代以降で1日あたり約11mgですが、生理期間中は摂取した鉄が経血として失われるため、月経量が多い方は鉄欠乏になりやすいのです。

 

消化管出血も重要な原因で、女性では10.3%、男性では6.5%に見られます。男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血が見られる場合、消化管からの出血が主な原因となることが多く、胃がんや大腸がんが隠れている可能性もあります。痔や消化性潰瘍、消化管のポリープなども出血源となります。その他、妊娠中は胎児に鉄を供給するため通常より多くの鉄が必要となり、分娩時の出血や授乳でも鉄が失われます。また、過度なダイエットや偏食による鉄の摂取不足、胃切除後やピロリ菌感染による慢性胃炎で鉄の吸収が低下することも原因になります。

 

鉄欠乏性貧血の診断に必要な血液検査項目

鉄欠乏性貧血の診断には、複数の血液検査項目を総合的に評価します。まず基本となるのが「ヘモグロビン値」で、12g/dL未満の場合に貧血と診断されます。次に「平均赤血球容積(MCV)」を測定し、赤血球が小さくなっていないかを確認します。鉄欠乏性貧血では赤血球が正常より小さい「小球性貧血」の特徴を示します。

 

最も重要な検査項目は「血清フェリチン」で、体内に貯蔵されている鉄の量を反映します。日本鉄バイオサイエンス学会の診断基準では、血清フェリチン12ng/mL以下が鉄欠乏性貧血の指標とされています。ヘモグロビン値が正常でもフェリチン値が低下している状態を「潜在的鉄欠乏状態(隠れ貧血)」と呼び、この段階でも疲労感や氷食症などの症状が現れることがあります。その他、「血清鉄」は血液中を循環している鉄の量を、「総鉄結合能(TIBC)」は血液中で鉄を運ぶたんぱく質の能力を測定します。鉄欠乏性貧血ではTIBCは360μg/dL以上と高値を示します。

 

陶器の風合いから学ぶ、体内の鉄バランスの大切さ

陶器や食器を扱う方なら、鉄分を含む釉薬が美しい色彩を生み出すことをご存知でしょう。酸化鉄の含有量によって、赤褐色から黒色まで様々な表情を見せます。同じように、私たちの体内でも鉄のバランスが健康の「色」を左右します。陶器の釉薬に適切な鉄分が必要なように、血液にも十分な鉄が必要です。

 

興味深いことに、鉄製の調理器具を使うことで食事から摂取できる鉄分が増えることが知られています。鉄製の鍋やフライパンで調理すると、微量の鉄が溶け出し、特に酸性の食材(トマトソースや酢を使った料理など)では溶出量が増えます。これは陶器の鉄釉が酸に反応するのと似た原理です。昔ながらの鉄瓶でお湯を沸かすことも、日常的に鉄分を補給する伝統的な方法として見直されています。食器や調理器具を選ぶ際、美しさだけでなく健康への貢献も考えることで、日々の食卓がより豊かになるでしょう。

 

鉄欠乏性貧血の食事療法とレバー・ビタミンCの効果

鉄欠乏性貧血の改善には、吸収率の高い「ヘム鉄」を多く含む食品を中心に摂取することが重要です。ヘム鉄は動物性食品に含まれ、体内への吸収率が15~25%と高いのが特徴です。代表的な食材として、豚レバー(1本あたり2.7mg)、鶏レバー、牛レバー、カツオ(4切れで1.5mg)、アジ、イワシ、マグロなどの魚類、あさりの水煮(7.5mg)などの貝類が挙げられます。特にレバーは鉄分以外にも、造血作用に必要なビタミンB12や葉酸を豊富に含むため、貧血改善に非常に効果的です。豚レバーは鶏レバーの約1.5倍、牛レバーの約3.3倍の鉄分を含んでいます。

 

一方、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の吸収率は2~5%と低いですが、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収率を大幅に向上させることができます。2022年の研究では、鉄分とビタミンCを別々に摂取しても、鉄の吸収改善に効果があることが示されました。ビタミンCを多く含む食材には、ブロッコリー、ピーマン、パプリカ、レモン、キウイ、イチゴ、ジャガイモ、サツマイモなどがあります。レバー料理にレモンを添える、鉄分豊富な食事の後に果物を食べるなど、工夫して組み合わせましょう。逆に、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒーに含まれるタンニンは鉄と結合して吸収を妨げるため、食事中や食直後は避け、麦茶や薄めの緑茶を選ぶとよいでしょう。

 

鉄欠乏性貧血の治療法と鉄剤の服用期間

鉄欠乏性貧血の治療は、まず原因となる疾患の治療と並行して行われます。女性では過多月経や子宮筋腫などの婦人科的検査、男性や閉経後の女性では消化管出血の検索が必要です。治療の第一選択は経口鉄剤の服用で、代表的な薬剤にはフェロミア(クエン酸第一鉄Na錠)、フェロ・グラデュメット、フェルムカプセル、インクレミンシロップなどがあります。

 

鉄剤開始後、数日で網赤血球(未熟な赤血球)が増加し、7~10日で最高値に達します。ヘモグロビン値は1~2週間で上昇し始め、6~8週間で正常値に戻るのが一般的です。しかし、ここで治療を中止してはいけません。ヘモグロビン値が正常になっても、体内の貯蔵鉄(フェリチン)はまだ枯渇しているため、さらに3~4ヶ月間鉄剤の継続が必要です。貯蔵鉄が十分に補充され、フェリチン値が25ng/mL以上になって初めて治療が完了します。治療期間全体としては、少なくとも6~12ヶ月程度かかることが多いです。

 

経口鉄剤の副作用として、胸やけ、吐き気、腹痛、下痢、便秘などの消化器症状が服用者の1~2割に見られます。副作用が強い場合は、食後に内服する、量を調整する、吐き気止めを併用する、別の鉄剤に変更するなどの対策があります。また、鉄剤服用後は便が黒くなりますが、これは正常な反応です。どうしても内服が困難な場合は、注射で鉄剤を投与する方法もあり、効率的で副作用も少ないという利点があります。

 

済生会の鉄欠乏性貧血解説ページ - 原因、症状、診断、治療について詳しい医療情報
健康長寿ネットの貧血予防ページ - 食事療法と食品選びの具体的なアドバイス
MSDマニュアル家庭版 - 鉄欠乏性貧血の原因、症状、診断、治療の医学的解説