掛け分け茶碗の技法と魅力を深く知る選び方

掛け分け茶碗とはどんな技法で生まれるのか、どう選び、どう扱えば茶の湯の席で恥をかかないのか。朝鮮唐津から現代作家まで、知っておくと差がつく情報をまとめました。

掛け分け茶碗の技法・産地・扱い方を完全解説

掛け分け茶碗を「正面がどっちかわからない」まま席に出すと、流派によって作法が真逆で恥をかきます。


この記事でわかること
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掛け分け技法の基本

釉薬を2色以上に分けて掛ける技法の仕組みと、唐津・織部・高取焼など代表的産地ごとの特徴を解説します。

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茶道での正しい扱い方

表千家と裏千家では掛け分け茶碗の「正面」の決め方が異なります。どちらが正しいかではなく、流派ごとの違いを把握することが大切です。

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自分でつくる際のコツ

マスキングテープや撥水剤を使った掛け分け方法、釉薬の流れすぎを防ぐポイントなど、陶芸初心者でも実践しやすいコツを紹介します。


掛け分け茶碗とは何か:釉薬技法の基本と歴史


掛け分けとは、色や質感の異なる2種類以上の釉薬を、上下・左右・斜めといった形で一つの器に塗り分ける装飾技法のことです。読み方は「かけわけ」で、「掛分け」とも表記します。通常は2種類の釉薬が使われ、半分ずつ掛ける方法と、一方の釉薬を少量だけ付加的に重ねる方法の2パターンがあります。


この技法は、日本の陶芸史のなかで桃山時代(16世紀末〜17世紀初頭)に大きく花開きました。特に古田織部が愛用した美濃焼・織部の茶碗には、透明釉と鮮やかな緑釉(銅を含む「織部釉」)を大胆に掛け分けた作品が多く残っています。緑と白の組み合わせが「青織部」と呼ばれ、桃山時代の自由な美意識を象徴するものとして現在も高い評価を受けています。


唐津焼の世界では、「朝鮮唐津」という種類が掛け分けの典型です。鉄分を多く含む黒釉(または飴釉)と、藁灰を原料とした白濁色の海鼠釉(なまこゆう)を上下または左右に掛け分け、その境界部分が高温でガラス化して黒と白が溶け合う独特の景色が生まれます。この「流れ」こそが朝鮮唐津の見どころです。


つまり掛け分けは、2色を分けることで生まれる境界の「景色」こそが命です。


福岡県の高取焼も桃山時代から掛け分けを得意とし、藁灰釉と飴釉を片身替わりに施した茶碗が多く作られてきました。片身替わりとは、左右を別々の釉薬で覆う形式のことで、茶碗を手に取った際に正面と裏面でまったく表情が異なる点が最大の魅力です。高取焼の「七色の釉薬」と呼ばれる豊かな色の幅も、掛け分けの技法と密接に結びついています。


石川県の大樋焼では、黒と素地の飴色を組み合わせた掛け分けが見られます。前掲のアメブロの記事にあった大樋焼の茶碗は、黒釉を半分にかけてもう半分は釉薬をかけずに焼いたもので、焼き締めの土肌がそのまま表れる潔さが印象的です。このように産地ごとに掛け分けの解釈は大きく異なり、釉薬の選択・掛け方・焼成方法の違いがそのまま「個性」になります。


参考:産地ごとの唐津焼釉薬と技法の詳細について、以下のページが詳しく解説しています。


唐津焼の技法と釉薬について - 古唐津


掛け分け茶碗の種類と代表的な産地:朝鮮唐津・織部・高取焼の違い

掛け分け茶碗は、産地によって釉薬の種類・組み合わせ・焼成方法がまったく異なります。大きく分けると「モノトーン系」「カラー系」「土肌活用系」の3つの方向性があると考えると整理しやすいです。


朝鮮唐津(佐賀県)は、黒釉と白釉という対照的な2色を上下に掛け分けるのが基本形です。鉄釉の黒と藁灰釉の乳白色が高温で溶け合い、境界部分に独特の流れや滲みが生まれます。ヤフーオークションの落札相場を見ると、海鼠釉茶碗は最高で5万円超の値がつくこともある一方、入門的なものは数千円台からも入手できます。朝鮮唐津の掛け分けは日本最古の部類に属し、16世紀後半に朝鮮陶工が伝えた技術が原点といわれています。


織部焼(岐阜県・美濃地方)は緑釉の鮮やかさが際立ちます。透明釉の白い部分に鉄絵で文様を描き、その上から緑釉をかけて焼く「絵唐津的アプローチ」が典型的な青織部です。古田織部の美意識を反映した大胆なデザインが特徴で、実用的な飯碗から抹茶茶碗まで幅広い形式で作られています。織部釉薬は酸化銅を含む釉薬で、酸化焼成によって発色します。


高取焼(福岡県)は比古窯の情報を参照すると、掛け分け釉の抹茶茶碗が16,500円(税込)という価格帯で販売されています。七色の釉薬を持つとされる高取焼では、飴色・灰色・黄色といった複数の色を片身替わりに組み合わせ、自然光の角度によって表情が変わる奥深さが楽しめます。これが特徴です。


大樋焼(石川県・金沢)は茶道の町・金沢を代表する焼き物で、飴釉の柔らかな色合いが有名です。掛け分け茶碗では飴色と黒のコントラストを活かした作品が多く、土の温かみが直接伝わる作風が茶人から長年愛されています。


また現代では「awabi ware」など現代陶芸ブランドも掛け分け茶碗を展開しており、淡い2色の組み合わせをご飯茶碗やカフェ使いのスタイルで提案しています。民芸の伝統技法が現代生活の食器にも取り込まれています。いいことですね。


参考:朝鮮唐津の歴史と技法の詳細は以下が参考になります。


朝鮮唐津 ちょうせんからつ | 鶴田 純久の章 お話


掛け分け茶碗の茶道における正しい扱い方:表千家・裏千家の違い

掛け分け茶碗を茶席で使う際、最も注意が必要なのが「正面の定め方」です。茶道の流派によって作法が異なり、知らないまま扱うと思わぬ失礼につながります。


表千家では、釉薬のかかっている部分を正面とするのが基本です。控えめな美意識を大切にする表千家らしく、装飾が多い側を「表」として立て、見せるべきところを見せるという考え方です。


一方、裏千家をはじめとする他の流派では、釉薬のある部分と素地(ない部分)の境目の中央を正面に定めることが多いとされています。2つの表情の「境界線」そのものを見どころとして見せる、という解釈です。


これは覚えておきたいところです。


一般的な茶碗の「正面の避け方」は、飲み口を汚さないよう正面を避けて回すという礼法ですが、掛け分け茶碗の場合は「そもそも正面がどこか」が流派によって変わるため、通常以上に知識が求められます。茶席に参加する前に、自分の流派の先生に確認しておくことが安心です。


また掛け分け茶碗の使用場面としては、七夕などの季節のお茶会に「天の川」に見立てた掛け分け茶碗を使う例が、表千家のサイトにも記録されています。黒と白の境界線が流れる様子を天の川に見立てるという発想は、日本の茶の湯文化ならではの季節感の表現といえます。


📌 表千家北山会館のYouTubeチャンネルでも、掛け分け茶碗が使われている茶会の映像が公開されています。実際の扱い方を目で確認したい方は参照してみてください。


参考:茶道における掛け分け茶碗の扱いについては、以下の記事に実例が紹介されています。


掛け分け茶碗の扱い | 茶の湯覚書歳時記


掛け分け茶碗が生む「景色」の美学:釉薬の流れと窯変

掛け分け茶碗の最大の魅力は、2種類の釉薬が境界部分で混ざり合い、窯の中で偶然に生まれる「景色(けしき)」にあります。景色とは、焼成中に起きる窯変や釉薬の流れ、器形のゆがみなどによって生じる一期一会の表情のことで、茶碗を愛玩する際の重要な見どころとされています。


掛け分けの境界部分では、高温になると2種類の釉薬が少しずつ溶け合い、流れます。朝鮮唐津であれば黒釉が白釉に染み込むように流れ、その形がそのまま固まって景色になります。この「流れ」は作陶者がある程度コントロールしますが、最終的には窯の温度や雰囲気によって決まるため、まったく同じ景色の茶碗は二つと存在しません。


一期一会の景色が手の中にあるということですね。


釉薬の色の組み合わせだけでなく、「どこに流れるか」「どのくらい混ざるか」という偶発性こそが、掛け分け茶碗の収集家を惹きつける理由の一つです。骨董市やオークションで見かける古い朝鮮唐津や高取焼の掛け分け茶碗には、現代の作品では再現できない独特の流れや発色があり、それが価値を生み出しています。


また、同じ「黒と白」の組み合わせでも、鉄釉と藁灰釉の種類・配合・厚み・焼成温度が変われば、出来上がる景色はまったく異なります。白釉が青みがかったり、境界線が鮮明だったりぼかしたようだったりと、バリエーションは無限といっても過言ではありません。


陶芸作家の中には、茶碗を火にくぐらせた後に意図的に窯から引き出す「引き出し黒」の技法を掛け分けと組み合わせる例もあり、より複雑な景色を追求する動きもあります。このように、掛け分けは単なる「2色塗り」ではなく、釉薬・土・炎・偶然性が絡み合う複合的な表現技法です。


参考:釉薬の景色と唐津焼の美についての詳細は以下の解説が参考になります。


素朴で飾らない美しさ「唐津焼」の魅力 / 茶陶の世界⑤ - note


陶芸で掛け分け茶碗を自作する:撥水剤・マスキングテープを使ったコツ

陶芸を楽しむ方にとって、掛け分けは「一段上」の施釉技法として人気があります。ただし、やり方を間違えると釉薬が流れすぎて窯板にくっついたり、境界線がぼやけすぎたりといった失敗につながります。ここでは実践的な方法を整理します。


基本の手順は、①素焼きした作品の表面の埃を拭き取る、②高台に釉薬が付かないよう釉抜き剤(撥水剤)を塗る、③内側に1種類目の釉薬を注ぐ、④外側を分けたい境界部分にマスキングテープを貼る、⑤1色目の釉薬を掛ける、⑥テープを剥がし、境界部分に撥水剤を塗る、⑦2色目の釉薬を掛ける、という流れです。


撥水剤が大事です。


撥水剤(はっすいざい)は釉薬を弾く性質があり、境界線をきれいに保つために欠かせません。境界部分に塗っておくことで2色目の釉薬が第1色目に重なるのを防ぎ、くっきりとした掛け分けラインを作れます。ただし撥水剤は有機溶剤を含むため換気を忘れずに行うことが必須です。


マスキングテープ単体でも境界を作れますが、テープを剥がした後の端の部分が毛羽立ったり、テープの厚みで段差ができたりすることがあります。この場合は撥水剤と併用することで、より整った仕上がりになります。


一方で、あえてぼんやりとした境界にしたい場合は、水をたっぷり含ませた筆で境界部分を湿らせてから2色目を掛ける方法が効果的です。釉薬が少し滲んで自然なグラデーションのような境界線になります。


釉薬の流れすぎを防ぐには、釉薬の濃度管理が重要です。一般的に釉薬は比重1.4〜1.6程度が標準とされますが、流れやすい釉薬(例:海鼠釉や灰釉)を外側に使う場合は、少し薄めに調整して底から2〜3cm分は釉薬をつけないか、薄くするのが安心です。アイスクリームのコーン1本分くらいの高さ(約10cm)を想像してもらうと、「底3cmは無塗布」のイメージが掴みやすいです。


掛け分けの施釉は、段取りを紙に書いてから始めるのが鉄則です。途中で迷うと素焼き面に余計な水分が染み込み、後の釉薬のノリが悪くなります。


参考:2種類の釉薬の掛け分け手順を詳しく解説したページは以下をご覧ください。


釉薬をきれいに掛け分ける方法 - 器・UTSUWA&陶芸blog




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