高取焼 鬼丸雪山窯元と伝統技法が生む茶陶の魅力

福岡県東峰村の高取焼鬼丸雪山窯元では、400年の歴史を持つ遠州七窯の伝統を守りながら、薪窯と天然釉薬にこだわった茶陶を制作しています。薄作りで優美な作品から人気の香るカップまで、この窯元ならではの魅力をご存知ですか?

高取焼 鬼丸雪山窯元の伝統と技法

鬼丸雪山窯元の魅力
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遠州七窯の伝統継承

小堀遠州の美意識「綺麗さび」を今に伝える茶陶窯元として、400年の歴史を受け継ぐ

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薪窯での焼成

約1250~1260℃で2日間焚き続ける伝統の薪窯により、炎の芸術が生み出される

天然素材へのこだわり

土づくりから釉薬の材料となる灰づくりまで、すべて窯内で手作業により行われる

高取焼 鬼丸雪山窯元の歴史と成り立ち

福岡県朝倉郡東峰村の小石原地区にある鬼丸雪山窯元は、高取焼の名工初代雪山の茶陶としての伝統を守り続ける窯元です。高取焼そのものの歴史は約400年前に遡り、文禄・慶長の役から帰国した黒田長政が朝鮮陶工八山を連れ帰り、福岡県直方市鷹取山麓に永満寺宅間窯を築窯させたことに始まります。

 

江戸時代には黒田藩の御用窯として繁栄し、寛永年間には茶人小堀遠州の指導を得て茶器の製作を本格化させました。遠州の美意識である「綺麗さび」による薄作りで優美な作品は「遠州高取」と称され、遠州七窯の一つに数えられるようになりました。小石原における高取焼は1665年(寛文5年)に二代高取八蔵親子が鼓村に移り住み窯所を開いたことから始まり、筑前藩御用窯として茶道具を専用に焼いていました。

 

現在の当主である鬼丸碧山(本名:鬼丸祐輔)さんは、2008年に大徳寺高田明浦老師より二代目「碧山」の号を襲名し、祖父雪山の苦労を礎として伝統の上に立った現代の高取焼の確立に励んでいます。

 

高取焼 鬼丸雪山窯元における製作工程の特徴

鬼丸雪山窯元では、土から全てが始まるという信念のもと、伝統的な製法にこだわった作陶が行われています。小石原で採取される土は細かくしっかりと焼き締まるのが特長で、粘土にした際には独特の粘りを持ちます。この土の特性により、しなやかなラインが描け、薄く焼き上げても水が染み出ることがないため、磁器にも負けない薄さで作ることができます。

 

窯元では土の粉砕から粘土づくり、釉薬の材料となる灰づくり、釉薬の配合、窯に使う薪の調達に至るまで、すべて窯内で行っています。成形には蹴轆轤(けろくろ)を使用し、電動轆轤とは異なる自然な流れや動きから生まれる見えない力が作品に良い形となって現れるとされています。

 

釉薬掛けの後は薪窯で焼成します。大きな登り窯と小ロット用の単窯があり、おおよそ1250~1260℃で焼成され、まる2日間寝ずに焚き続けることで完成します。薪による焼成には思わぬ窯の中での変化が見られ、炎の芸術といわれる効果が生まれます。窯の火を止めてから窯の内部が100℃以下になるまで最低3日以上冷却し、高取焼のような薄手のものは急激な温度差で割れることがあるため、ゆっくり一つ一つ丁寧に取り出していきます。

 

高取焼の七色釉薬と独特の美しさ

高取焼の最大の特徴は、独自の釉薬から生み出される美しい色合いです。高取焼には七種類の釉薬(黒釉・緑青釉・布羅志釉・黄釉・高宮釉・銅化釉・白釉)があり、その原料はすべて藁や石などの自然のものです。完全に不純物を精製できない天然素材だけが生み出す「人知を超えた美」を追い求めるため、天然素材のみを活かしています。

 

緑褐色の高宮釉、黄褐色の高取黄釉、まだら状で黄土色の道化釉などは高取焼にしか見られない釉薬といえます。窯を開けるたび、自然がどんな色を見せてくれるのか、長年の経験をもとに計算しつつも最終的には「天のみぞ知る」色であり、その色は奇跡、二度と会えないかもしれない千載一遇の色なのです。

 

複数の釉を掛分けた作風も高取焼の持ち味で、春慶釉は金属のような光沢を魅せるシャープな釉薬、飴釉は透明感のある高取焼のイメージの定番、黒釉は藍色や緑色を閉じ込めたかのような深い黒など、それぞれの釉薬が独特の表情を見せます。

 

高取焼 鬼丸雪山窯元の代表作「香るカップ」

鬼丸雪山窯元の代表作として広く知られているのが「香るカップ」です。この作品は意匠登録商品で、NHK BSプレミアム「イッピン」でも「香り高く!優美に!〜福岡 高取焼〜」のタイトルで取り上げられるなど、メディアでも注目を集めています。

 

香るカップは高取焼の特徴である薄作りを活かした形状により、飲み物の溜まった香りを口と鼻にしっかりと届け、本来の味をよりまろやかに、よりダイレクトに感じさせる器です。茶器として名高い高取焼の薄い作りと伝統の釉の色合いを日常でも使えるカップとして作った作品で、コーヒーカップ、ティーカップ、湯呑、グラス、酒器として多用途に使えます。

 

大サイズは口径約6.4cm(最大径約9.0cm)×高さ約10.0cm、重さ約270g、容量約220ccで、飴釉、白釉、赤釉、灰釉などのカラーバリエーションがあります。電子レンジ使用可能、食洗機対応、オーブン使用可能(直火不可)という実用性も備えています。

 

意外にも、高取焼の土は鉄分が多くきめの細かい絹のような特性を持つため、スピーカーなど音の世界でも高音が特に美しいという未知の可能性を秘めており、窯元では陶器スピーカーの製作にも取り組んでいます。

 

高取焼を長く愛用するためのお手入れと選び方

高取焼を含む陶器は適切なお手入れをすることで長く美しく使い続けることができます。使い始めには「目止め」という処理を行うことで、土の表面の細かい穴を埋め、汚れやにおいがつきにくくなります。大きめの鍋に米のとぎ汁(もしくは水に小麦粉か片栗粉を溶かしたもの)を入れ、器が完全に浸るくらいまで入れて弱火で15~20分ほど煮沸し、火を止めてそのまま冷まします。冷めたらぬめりを洗い流し、よく乾かします。

 

使用前には数分程度水に浸してから使うと、水を含んだ器の表面がしっとりした肌合いになり、料理が映えるようになります。使用後は出来るだけ早くスポンジに中性洗剤をつけて水洗いをし、布巾で拭いた後はすぐにしまわず、一晩ほど乾かすのが理想的です。乾燥が不十分だとカビやにおいの原因になるため、器の底面を上にして重ならない状態で乾燥させてください。

 

茶碗などを選ぶ際には、高台(底面についている脚の部分)の形状と直径に注目するとよいでしょう。高台が低めで直径が小さければ指をそっと添える感じになり、高台が高めで直径が大きいと指がしっかりかけられるので、がっしりと持つことができます。手に持って自分にしっくりくるかを確かめることが、長く愛用できる器選びのポイントです。

 

高取焼鬼丸雪山窯の詳しい製作技法と窯元の哲学について
窯元の当主が語る、土づくりから焼成までの全工程と、伝統技法へのこだわりが詳しく紹介されています。

 

高取焼鬼丸雪山窯元の公式サイト・窯元概要
高取焼の歴史、遠州七窯としての位置づけ、小石原高取の特徴など、窯元の基本情報が確認できます。

 

香るカップの詳細と特徴
人気商品「香るカップ」の形状や使い方、高取焼の特徴を活かした設計について詳しく説明されています。

 

鬼丸雪山窯元では陶芸体験も受け付けており、電話予約でろくろ、絵付け、手びねりの各コース(各3000円~)が体験できます。東峰村の小石原地区には約50を超える窯元があり、窯元めぐりガイドツアーなども開催されているため、実際に訪れて高取焼の世界に触れることができます。営業時間は9:00~17:00(年中無休)で、福岡県朝倉郡東峰村大字小石原962-1に所在し、大分自動車道「杷木IC」から車で約20~25分でアクセス可能です。