釉薬掛けと陶器の技法と種類と施釉方法

陶器作りにおいて重要な工程である釉薬掛け。その基本的な技法から、さまざまな釉薬の種類、そして美しい仕上がりを実現するための施釉方法まで詳しく解説します。あなたも釉薬掛けの技を極めて、オリジナリティあふれる陶器作品を作ってみませんか?

釉薬掛けと陶器の基本技法

釉薬掛けの基本知識
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釉薬の役割

陶磁器の表面を覆うガラス質の膜で、水や汚れの浸透を防ぎ、色や質感を表現します

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施釉のタイミング

素焼き後、本焼き前に行う重要な工程です

仕上がりへの影響

釉薬の種類や掛け方によって作品の印象が大きく変わります

釉薬(ゆうやく)とは、陶磁器の表面を覆うガラス質の膜のことで、「うわぐすり」とも呼ばれています。陶器作りにおいて釉薬掛けは、単に見た目を美しくするだけでなく、実用性を高める重要な工程です。

 

釉薬の主な役割は二つあります。一つ目は、陶磁器の素地に水や汚れが染み込むことを防ぎ、丈夫で扱いやすくすること。二つ目は、さまざまな色や質感を表現し、作品に個性を与えることです。

 

陶器と磁器の違いを理解することも重要です。陶器は吸水性があり、素地が粗いため、釉薬を掛けることで実用性が格段に向上します。一方、磁器は素地自体が緻密で吸水性が低いものの、釉薬によって美しい光沢や色合いを表現できます。

 

釉薬掛けは素焼き後、本焼き前に行います。素焼きされた陶器は多孔質になっているため、釉薬をよく吸収します。この状態で釉薬を掛け、高温で本焼きすることで、釉薬がガラス質に変化し、陶器の表面に定着するのです。

 

釉薬掛けの基本的な持ち方と作品への触れ方

釉薬掛けを成功させるための第一歩は、作品の正しい持ち方です。作品の口や側面には極力触れないように持ち方を工夫することが重要です。高台や足がある場合には、それらを利用して持つのが理想的です。

 

具体的な持ち方のポイントは以下の通りです。

  • 高台や足がある場合は、そこに指を引っ掛けて持つ
  • 平たい皿などの場合は、端を指先で軽く支える
  • 大きな作品の場合は、両手で支えるか、釉掛け用の道具を使用する

作品に直接触れると、その部分に釉薬が均一に付かず、仕上がりにムラができる原因となります。また、指の油分が付着すると、釉薬がはじいてしまうこともあります。

 

釉薬掛け後に指跡が残ってしまった場合は、作品に直接触れないように釉薬の雫をゆっくりと乗せて修正します。指で直接触れると釉薬が口に乗らずに下に流れてしまうため、指を立てて、釉薬の雫を垂らすようにそっと載せるのがコツです。

 

釉薬掛けの濃度調整と浸す時間の重要性

釉薬掛けの成功は、釉薬の濃度と浸す時間に大きく左右されます。適切な濃度の釉薬は、作品にムラなく均一に付着し、美しい仕上がりをもたらします。

 

釉薬の濃度は、一般的にボーメ比重計を使って測定します。釉薬の種類によって最適な濃度は異なりますが、多くの場合、30〜45度ボーメの範囲が適切とされています。濃度が低すぎると薄く掛かりすぎ、高すぎると厚く掛かりすぎて、釉だれや剥離の原因となります。

 

釉薬を調整する際のポイント。

  • 釉薬は時間が経つと沈殿するため、使用前によくかき混ぜる
  • 水を加えて薄める場合は少しずつ加え、その都度よく混ぜる
  • 季節や湿度によって最適な濃度が変わることもあるため、小さなテストピースで確認する

作品を釉薬に浸す時間も重要です。一般的には3秒程度が目安ですが、釉薬の種類や濃度、作品の素地によって調整が必要です。浸している時間が長すぎると釉薬が厚く付きすぎ、短すぎると薄くなりすぎます。

 

また、釉薬の中に入れる際は、バケツの上澄みではなく、しっかりと全体が浸るくらいの位置まで作品を沈めることが大切です。バケツから出した後もすぐには起こさず、口に付いている釉薬が下に流れて口元が裸になってしまうのを防ぎましょう。

 

釉薬掛けの主な方法と特徴と使い分け

釉薬掛けには様々な方法があり、作品の形状や大きさ、求める仕上がりによって使い分けることが重要です。ここでは主な施釉方法とその特徴、適した作品について解説します。

 

  1. 浸し掛け(漬け掛け、ガバ漬け)
    • 特徴:釉薬の厚みが均一になり、綺麗に塗れる
    • 適した作品:小〜中サイズの碗、皿、湯呑など
    • 方法:釉薬の容器に直接作品を浸す、または容器に取った釉薬を作品の内側に入れる
    • 注意点:浸している時間は数秒(最大5秒程度)、釉薬は直ぐに沈殿するので頻繁にかき回す
  2. 流し掛け(ひしゃく掛け)
    • 特徴:大きな作品に適しており、釉薬の量が比較的少なくて済む
    • 適した作品:大皿、壷、花瓶など、大きな容器が無い場合
    • 方法:容器(ひしゃく等)に取った釉薬を、作品の内外に流しながら塗る
    • 注意点:厚みが一定にするのが難しく、まだら(流れた筋など)になりやすい
  3. 吹き掛け(コンプレサー、霧吹き)
    • 特徴:好きな範囲のみに釉薬を塗ることができ、少量の釉薬で済む
    • 適した作品:部分的に異なる釉薬を使いたい場合や特殊な効果を出したい場合
    • 方法:手回しろくろ上に載せた作品に、コンプレサーや霧吹きで釉薬を吹き掛ける
    • 注意点:飛沫が発生するため、屋外や通気性のある場所で、マスクを着用して行う
  4. 釉刷毛による塗り掛け
    • 特徴:細部まで丁寧に塗ることができ、独特の刷毛目模様を表現できる
    • 適した作品:装飾的な作品や部分的に異なる釉薬を使いたい場合
    • 方法:専用の釉刷毛に釉薬を含ませ、作品に塗る
    • 注意点:均一に塗るには技術が必要で、刷毛目が残ることを考慮する
  5. 釉バサミを使った施釉
    • 特徴:作品に触れずに施釉できるため、指跡がつきにくい
    • 適した作品:小〜中サイズの作品全般
    • 方法:施釉用のハサミで作品をつかみ、釉薬の中に浸す
    • 注意点:釉バサミの当たる部分は釉薬が付かないため、後処理が必要

それぞれの方法には長所と短所があるため、作品の形状や大きさ、求める仕上がりに応じて最適な方法を選ぶことが大切です。また、複数の方法を組み合わせることで、より複雑で美しい表現も可能になります。

 

釉薬の種類と特徴と陶器への影響

釉薬は原料の組み合わせや調合の割合により、無限のバリエーションが生まれます。同じ釉薬でも、焼き方や土との組み合わせによって色合いが大きく変化するのも魅力の一つです。ここでは、代表的な釉薬の種類とその特徴、陶器への影響について解説します。

 

1. 透明釉

  • 原料:長石と灰類など
  • 特徴:ガラスのように艶のある透明の釉薬
  • 陶器への影響:素地の色や質感をそのまま活かし、水分の浸透を防ぐ
  • 使用例:白磁や粉引(こひき)など、素地や下絵付けを活かしたい作品

2. 灰釉(はいゆう、かいゆう)

  • 原料:植物の灰をメイン
  • 特徴:使用する灰の種類によって様々な色合いに焼き上がる
  • 陶器への影響:自然な風合いと落ち着いた色調を与える
  • 使用例:藁灰釉(わらばいゆう)は白く濁った色合い、土灰釉(どばいゆう)は淡い色合い

3. 織部釉・緑釉(りょくゆう)

  • 原料:銅を加えた釉薬
  • 特徴:鮮やかな緑色が特徴、配合によっては青みがかった表情も
  • 陶器への影響:インパクトのある色彩で作品に個性を与える
  • 使用例:安土桃山時代に栄えた瀬戸の「織部焼」に多く使用

4. 飴釉

  • 原料:鉄を加えた釉薬
  • 特徴:薄く掛けると淡い黄色、濃く掛けると飴色のようなこっくりとした色合い
  • 陶器への影響:温かみのある素朴な味わいを与える
  • 使用例:民芸の陶器やスリップウェアなど

5. 青磁釉

  • 原料:鉄を加えた釉薬
  • 特徴:ひんやりと静謐な印象のある上品な青緑色
  • 陶器への影響:高級感と清涼感を与える
  • 使用例:中国で発展した青磁

6. マット釉

  • 原料:アルミナや亜鉛などを多く含む
  • 特徴:つや消しの落ち着いた質感
  • 陶器への影響:柔らかな印象と上品な風合いを与える
  • 使用例:モダンなデザインの食器や花器

7. 結晶釉

  • 原料:亜鉛や酸化チタンなどを含む
  • 特徴:釉薬中に結晶が成長し、雪の結晶のような模様が現れる
  • 陶器への影響:独特の装飾性と芸術性を与える
  • 使用例:芸術作品や高級食器

釉薬選びの際には、以下の点を考慮することが重要です。

  • 作品の用途(食器なら食品安全性の高い釉薬を選ぶ)
  • 素地の色や質感との相性
  • 焼成温度との適合性(釉薬によって最適な焼成温度が異なる)
  • 求める色彩や質感

また、複数の釉薬を組み合わせることで、より複雑で魅力的な表現も可能になります。例えば、部分的に異なる釉薬を掛け分けたり、重ね掛けしたりすることで、一つの作品の中に様々な表情を生み出すことができます。

 

釉薬掛けで生まれる景色と経年変化の魅力

釉薬掛けの醍醐味の一つは、焼成後に現れる様々な「景色」と呼ばれる表情です。これらの景色は、時には作り手の想像を超える美しさを見せることがあり、陶芸の魅力を一層深めています。さらに、使い込むことで生まれる経年変化も、釉薬掛けされた陶器ならではの楽しみです。

 

1. 貫入(かんにゅう)
貫入とは、釉薬と素地の収縮率の差により、釉薬に生じる細かいヒビのことです。欠陥ではなく、古くから釉薬の代表的な面白さとして愛されてきました。

 

貫入の特徴。

  • 使い込むと貫入に茶渋などが入り込み、独特の風合いが生まれる
  • 意図的に貫入を生じさせる釉薬もある(貫入釉)
  • 墨などで貫入を色づけして目立たせる「墨はじき」という技法もある

2. 釉だれ
釉薬が焼成中に流れ出して、上から下の方へ垂れた跡のことです。釉薬の種類によって、釉だれが起こりやすいものと起こりにくいものがあります。

 

釉だれの特徴。

  • うつわの表面に動きが生まれ、一点ものの表情を作り出す
  • 意図的に釉だれを活かした作品も多い
  • 過度の釉だれは実用性を損なうことがあるため、バランスが重要

3. 鉄粉(てっぷん)
釉薬や素地に含まれる鉄分が表面に現れる褐色の点のことです。量産品では避けられることが多いですが、手作りの風合いを出すために、あえて鉄粉が出やすいように工夫する作家もいます。

 

鉄粉の特徴。

  • 自然な風合いと素朴な味わいを与える
  • 釉薬の種類や焼成方法によって出方が変わる
  • 意図的に鉄粉を混ぜる技法もある

4. 釉掛けの指跡
うつわを指で支えて釉薬を掛けると、指の跡が残ることがあります。一般的には指の跡は馴染ませて消しますが、作家によっては景色として残すこともあります。

 

指跡の特徴。

  • 手仕事の温もりを感じさせる
  • 作家の個性や技法を表す要素になる
  • 意図的に残す場合と、技術的な課