釉薬(ゆうやく)とは、陶磁器の表面を覆うガラス質の膜のことで、「うわぐすり」とも呼ばれています。陶器作りにおいて釉薬掛けは、単に見た目を美しくするだけでなく、実用性を高める重要な工程です。
釉薬の主な役割は二つあります。一つ目は、陶磁器の素地に水や汚れが染み込むことを防ぎ、丈夫で扱いやすくすること。二つ目は、さまざまな色や質感を表現し、作品に個性を与えることです。
陶器と磁器の違いを理解することも重要です。陶器は吸水性があり、素地が粗いため、釉薬を掛けることで実用性が格段に向上します。一方、磁器は素地自体が緻密で吸水性が低いものの、釉薬によって美しい光沢や色合いを表現できます。
釉薬掛けは素焼き後、本焼き前に行います。素焼きされた陶器は多孔質になっているため、釉薬をよく吸収します。この状態で釉薬を掛け、高温で本焼きすることで、釉薬がガラス質に変化し、陶器の表面に定着するのです。
釉薬掛けを成功させるための第一歩は、作品の正しい持ち方です。作品の口や側面には極力触れないように持ち方を工夫することが重要です。高台や足がある場合には、それらを利用して持つのが理想的です。
具体的な持ち方のポイントは以下の通りです。
作品に直接触れると、その部分に釉薬が均一に付かず、仕上がりにムラができる原因となります。また、指の油分が付着すると、釉薬がはじいてしまうこともあります。
釉薬掛け後に指跡が残ってしまった場合は、作品に直接触れないように釉薬の雫をゆっくりと乗せて修正します。指で直接触れると釉薬が口に乗らずに下に流れてしまうため、指を立てて、釉薬の雫を垂らすようにそっと載せるのがコツです。
釉薬掛けの成功は、釉薬の濃度と浸す時間に大きく左右されます。適切な濃度の釉薬は、作品にムラなく均一に付着し、美しい仕上がりをもたらします。
釉薬の濃度は、一般的にボーメ比重計を使って測定します。釉薬の種類によって最適な濃度は異なりますが、多くの場合、30〜45度ボーメの範囲が適切とされています。濃度が低すぎると薄く掛かりすぎ、高すぎると厚く掛かりすぎて、釉だれや剥離の原因となります。
釉薬を調整する際のポイント。
作品を釉薬に浸す時間も重要です。一般的には3秒程度が目安ですが、釉薬の種類や濃度、作品の素地によって調整が必要です。浸している時間が長すぎると釉薬が厚く付きすぎ、短すぎると薄くなりすぎます。
また、釉薬の中に入れる際は、バケツの上澄みではなく、しっかりと全体が浸るくらいの位置まで作品を沈めることが大切です。バケツから出した後もすぐには起こさず、口に付いている釉薬が下に流れて口元が裸になってしまうのを防ぎましょう。
釉薬掛けには様々な方法があり、作品の形状や大きさ、求める仕上がりによって使い分けることが重要です。ここでは主な施釉方法とその特徴、適した作品について解説します。
それぞれの方法には長所と短所があるため、作品の形状や大きさ、求める仕上がりに応じて最適な方法を選ぶことが大切です。また、複数の方法を組み合わせることで、より複雑で美しい表現も可能になります。
釉薬は原料の組み合わせや調合の割合により、無限のバリエーションが生まれます。同じ釉薬でも、焼き方や土との組み合わせによって色合いが大きく変化するのも魅力の一つです。ここでは、代表的な釉薬の種類とその特徴、陶器への影響について解説します。
1. 透明釉
2. 灰釉(はいゆう、かいゆう)
3. 織部釉・緑釉(りょくゆう)
4. 飴釉
5. 青磁釉
6. マット釉
7. 結晶釉
釉薬選びの際には、以下の点を考慮することが重要です。
また、複数の釉薬を組み合わせることで、より複雑で魅力的な表現も可能になります。例えば、部分的に異なる釉薬を掛け分けたり、重ね掛けしたりすることで、一つの作品の中に様々な表情を生み出すことができます。
釉薬掛けの醍醐味の一つは、焼成後に現れる様々な「景色」と呼ばれる表情です。これらの景色は、時には作り手の想像を超える美しさを見せることがあり、陶芸の魅力を一層深めています。さらに、使い込むことで生まれる経年変化も、釉薬掛けされた陶器ならではの楽しみです。
1. 貫入(かんにゅう)
貫入とは、釉薬と素地の収縮率の差により、釉薬に生じる細かいヒビのことです。欠陥ではなく、古くから釉薬の代表的な面白さとして愛されてきました。
貫入の特徴。
2. 釉だれ
釉薬が焼成中に流れ出して、上から下の方へ垂れた跡のことです。釉薬の種類によって、釉だれが起こりやすいものと起こりにくいものがあります。
釉だれの特徴。
3. 鉄粉(てっぷん)
釉薬や素地に含まれる鉄分が表面に現れる褐色の点のことです。量産品では避けられることが多いですが、手作りの風合いを出すために、あえて鉄粉が出やすいように工夫する作家もいます。
鉄粉の特徴。
4. 釉掛けの指跡
うつわを指で支えて釉薬を掛けると、指の跡が残ることがあります。一般的には指の跡は馴染ませて消しますが、作家によっては景色として残すこともあります。
指跡の特徴。