石灰釉だけで何十種類もの色釉が作れると知ったら、あなたは今まで材料費をかけすぎていたことになります。
「石灰釉にはじまって石灰釉におわる」という言葉が陶芸の世界に伝わっています。これは石灰釉が釉薬調合の出発点であり、最も汎用性が高い釉薬であることを意味します。つまり、石灰釉が基本です。
石灰釉の調合に使われる原料は大きく4種類あり、それぞれが明確な役割を担っています。
- 長石(ちょうせき):釉薬全体の骨格となる主原料。「熔かす」「素地に接着する」「ガラスになる」という3つの働きを兼ね備え、一般的に全体の50〜70%を占めます。代表的なものに福島長石があり、純度の高いインド長石などもあります。
- 石灰(せっかい/炭酸カルシウム):強力に釉薬を熔かす働きを持つ塩基性原料。木灰の代わりに石灰石を使ったものが石灰釉の名前の由来です。割合は一般的に10〜30%程度で、増やしすぎると釉流れの原因になります。
- カオリン(白色粘土):素地への接着を安定させ、釉薬に粘りを持たせる中性原料。耐火性も高く、焼成中のガラス状態を安定させる働きがあります。目安は5〜10%程度です。
- 珪石(けいせき/シリカ):ガラスの素になる酸性原料。割合を増やすと耐火度が上がり、釉薬が固まりやすくなります。一般的に15〜30%程度使用します。
この4原料の関係はちょうどカレーのルーに例えることができます。長石がカレー粉、石灰が油、カオリンがとろみ剤、珪石がベースのスパイス、といったイメージです。バランスが崩れると「とろみがなくなって水っぽくなる(=釉流れ)」や「固まりすぎてザラザラになる」という失敗が起きます。これが条件です。
なお、同じ名前の長石でも産地によって純度が大きく異なります。純度の高いインド長石は約95%以上が長石成分ですが、国産の福島長石は長石分が約70%で、残り約30%は珪石分が含まれます。このため、同じ調合式でも使用する長石の種類を変えると焼き上がりが変わることがある点は覚えておくと大丈夫です。
透明釉の調合と原料の役割を詳しく解説|touroji.com(陶磁器お役立ち情報)
石灰釉の調合において、最も広く知られる基本的な透明釉のレシピは「長石7:石灰3」です。シンプルですが、これだけで1,200〜1,300℃の高火度焼成で透明なガラス質の釉薬が得られます。
しかし実際には、釉流れや素地への接着力の安定を考えると、カオリンと珪石を加えた以下のような調合がより扱いやすいとされています。
| 調合例 | 長石 | 石灰 | カオリン | 珪石 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| シンプル透明釉 | 70% | 30% | — | — | 流れやすい、扱いに注意 |
| 基本4原料釉(A) | 50% | 20% | 10% | 20% | バランスが取れた安定型 |
| 基本4原料釉(B) | 50% | 10% | 10% | 30% | やや硬め、耐火度高め |
| 純度高原料向け | 40% | 20% | 10% | 30% | 純度の高い原料を使う場合 |
| 福島長石使用 | 60% | 20% | 5% | 15% | 福島長石の珪石分を考慮 |
焼成温度の目安は約1,250℃で、1,180℃以下ではツヤが出にくくなります。
調合の割合を読む際に重要なのは「合計100%にするのが基本」という点です。各原料の数値を合計したものを100として比率を表すため、「長石50、石灰20、カオリン10、珪石20」という表記はそのままグラム換算で使えます。たとえば100gの釉薬を作りたければ、長石50g、石灰20g、カオリン10g、珪石20gを量って混ぜればよいことになります。これだけ覚えておけばOKです。
また、石灰の量が全体の3割を超えると釉薬が溶けすぎて棚板に垂れるリスクがあります。作品の底から1〜1.5cm程度は釉薬をかけずにおくのが安全策として知られています。
ちなみに、焼成温度を約50℃下げたい場合は亜鉛華(ZnO)を1割程度加えると効果があります。また1,100℃程度で焼きたい場合は硼酸フリットを2〜3割配合するという方法もあります。
石灰透明釉の具体的な調合比率と原料の成分解説|土岐市公式ウェブサイト(焼き物研究)
石灰釉は色釉のベースとして非常に優れた釉薬です。これは使えそうです。調合済みの石灰釉の粉末(陶芸用品店で1俵=20kgで購入可能)に顔料を一定割合加えるだけで、手軽に多彩な色釉が作れます。
顔料の添加量は一般的に石灰釉100%に対して数%単位で調整します。少量の違いで色の濃度が変わるため、最初は少なめから試すのが鉄則です。以下は代表的なレシピです。
| 色 | 石灰釉 | 顔料・着色剤 | 焼成 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 黒 | 100% | 大正黒 5% | 酸化・還元どちらも可 | 還元では不透明でツヤが出る |
| 黄色 | 100% | プラセオ 3%+バナジウム 2% | 酸化 | 焼きすぎると色が飛ぶ注意 |
| ピンク | 100% | 陶試紅 8% | 酸化 | 還元では落ち着いた色調 |
| 青 | 100% | 呉須 5% | 酸化・還元どちらも可 | 還元でわずかに濁る |
| 紫 | 100% | ピーコック 3%+陶試紅 3% | 酸化のみ | 還元では発色が変わる |
| 黄緑 | 100% | ヒワ 3%+プラセオ 2% | 酸化 | 柔らかい印象の黄緑 |
| 緑(織部釉) | 100% | 酸化銅 3% | 酸化 必須 | 還元では辰砂の赤になる |
| 半マット | 100% | マグネサイト 10% | 酸化 | 強還元や炎直当は避ける |
| 天目調(茶〜黒) | 100% | 酸化第2鉄 5% | 酸化 | 鉄量で黄色〜黒まで変化 |
たとえば呉須5%の青釉は、釉薬100gに対して呉須をわずか5g加えるだけです。ティースプーン約1杯分に相当します。このくらいの感覚でイメージすると扱いやすくなります。
重要なポイントとして、酸化銅を使った緑(織部釉)を酸化焼成せずに還元焼成すると、辰砂と呼ばれる深い赤色に変わります。同じ調合でも焼成の雰囲気で全く別の色になる。これが石灰釉調合の面白さのひとつです。
また、呉須に関してはランクによって粒子の大きさや色調が異なるため、安定した発色を求めるなら合成呉須の使用が推奨されています。天然呉須は粒子が残ったり、ロットによる色のばらつきが生じることがあるためです。
石灰釉ベースの色釉レシピ一覧と顔料の添加例|やよいかめらぼ(陶芸豆知識集)
石灰釉の調合では、わずかなバランスの乱れが「釉流れ」「貫入(かんにゅう)」「ピンホール」といったトラブルにつながります。それぞれの原因と調合レベルで対処できる方法を整理します。
🔴 釉流れ(釉薬が溶けすぎて垂れる)
最も多いトラブルが釉流れです。主な原因は石灰の比率が高すぎること、または焼成温度が設定より上がってしまうことです。調合上の対処法は石灰を減らしてカオリンを増やすことです。たとえば「長石5:石灰2:カオリン1:珪石2」で流れる場合は「長石5:石灰1:カオリン2:珪石2」に変更します。また施釉の厚さも重要で、一般的に釉薬の塗り厚は1〜1.5mm程度が目安とされています。
🔴 貫入(釉薬にひびが入る)
貫入は釉薬と素地の熱膨張率の差から生じるひびです。陶器の器としての味わいとして意図的に使われることもありますが、意図せず起きる場合は問題です。調合対策としては、釉薬の熱膨張を下げるマグネシウム系原料(タルク、マグネサイトなど)を少量加える方法があります。また施釉を薄めにすることで応力を小さくし、貫入を抑えることもできます。
🔴 ピンホール(釉薬表面に小さな穴ができる)
ピンホールの主な原因は焼成中にガスが発生し、抜けた跡が残ることです。素地の表面にほこりや油分(指紋など)が残っていると釉薬が付着しにくい部分ができ、ピンホールが生じやすくなります。また有機物が含まれていると燃焼時にガスが出るため、素地をよく乾燥・素焼きしてから施釉することが重要です。
🔴 白濁・失透(透明釉が不透明になる)
カオリンの量が多すぎると白濁が起きやすくなります。対処法はカオリンを減らして珪石または長石の割合を増やすことです。「長石5:石灰1:カオリン1:珪石3」または「長石6:石灰1:カオリン1:珪石2」という調合例が参考になります。厳しいところですね。
トラブル対策を系統的に学ぶなら、焼成温度と欠陥の関係をまとめた資料があると便利です。土岐市の陶磁器欠陥防止に関する技術資料(PDFで無料公開)は、調合から焼成まで網羅されており確認する価値があります。
釉流れ・貫入・ピンホールの原因と対策|土岐市公式(陶磁器の欠陥と対策PDF)
陶芸の教室や参考書にほとんど出てこない方法として、「三角配合試験(三角試験)」があります。これは3種類の原料の配合比率を三角形の各頂点に割り当て、少しずつ比率を変えながら多数のテストピースを焼き、最適な調合を視覚的に探す手法です。
具体的には、たとえば「長石/石灰/珪石」の3原料を使い、三角形の各頂点を「長石100%」「石灰100%」「珪石100%」として、内側の各格子点に対応した数十パターンを一度に焼成します。焼き上がったテストピースを並べると、釉薬の熔け具合・透明度・色合いが視覚的に一覧できます。これが独自視点の活用方法です。
この手法の大きなメリットは、失敗を1回1回繰り返す代わりに、一度の窯詰めで最適解の候補を大幅に絞り込める点にあります。たとえば10×10の100点のテストピースを一度に焼成することで、単独試験では数年かかる情報量を一窯で得ることができます。意外ですね。
実践する際には専用のテストピース型(小さな板状の素焼き片)を使います。釉薬を均一に塗布し、テストピースごとに調合内容を記録しておくことが重要です。記録には「番号+調合比率+焼成温度・雰囲気」を必ずセットで残しましょう。
三角配合試験のもうひとつの利点は、自分の窯・素地・焼成温度の条件に合わせた「完全オリジナルのデータベース」が作れることです。市販の調合例は標準的な条件を前提にしていますが、実際の自分の窯は±30℃程度の温度ムラが生じることも珍しくありません。三角試験で取ったデータは、そのまま自分の窯の「取扱説明書」として機能します。
道具として必要なのは精密なデジタルスケール(0.1g単位で量れるもの)と、記録用のシートまたはスプレッドシートです。調合ごとに小袋に分けて管理すると、後から再現するときも手間が省けます。調合を記録する習慣が条件です。
石灰釉ベースの焼成テストピースと発色サンプル一覧|梶田絵具店(店長の部屋・釉薬ページ)

石灰釉 No.12 透明釉薬 50g 粉末 焼成温度1,200~1,250℃ うわぐすり 陶芸 透明釉 陶芸 透明 酸化 還元