楢灰釉薬の特徴と美しい発色を生む焼成のコツ

楢灰釉薬は独特の青白色が魅力ですが、温度管理や灰の処理を誤ると期待した色が出ません。美しい発色を実現するための焼成温度や調合方法、失敗しやすいポイントをご存知ですか?

楢灰釉薬の基本と発色の仕組み

楢灰釉薬は1250℃以上で焼くと青みが消えます。


この記事の3ポイント
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楢灰釉薬の特徴

楢の木灰を使った伝統的な釉薬で、青白色の独特な発色が魅力

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焼成温度の重要性

1230~1250℃が最適温度帯で、温度管理が発色を左右する

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調合と処理方法

灰のアク抜きや長石との配合比率が美しい仕上がりの鍵

楢灰釉薬とは何か


灰釉薬は、楢(なら)の木を燃やした灰を主原料とする伝統的な釉薬です。古くから日本の陶芸で使われており、青白色から乳白色の美しい発色が特徴となっています。


楢の木灰には、カルシウムやカリウムなどのアルカリ成分が豊富に含まれています。これらの成分が高温で溶けることで、ガラス質の釉層を形成します。一般的な配合では、楢灰60~70%、長石20~30%、粘土10%程度の比率が用いられます。


釉薬の原料となる楢灰は、薪ストーブや焼き畑で採取される場合が多いです。灰1kgを得るには、約10~15kgの楢材が必要になります。これは一般的な薪の束(約30cm)で3~4束分に相当する量です。


つまり、楢灰釉薬は天然素材ならではの風合いを持つ釉薬ということですね。


楢灰釉薬の発色メカニズム

楢灰釉薬の青白色は、灰に含まれる鉄分とカルシウムの相互作用によって生まれます。焼成時の還元雰囲気で鉄分が青色を発色し、カルシウムが乳白色のベースを作り出すのです。


発色には焼成温度が大きく影響します。1200~1230℃では淡い青白色、1230~1250℃では濃い青白色が現れやすくなります。温度が低すぎると釉薬が溶けきらず、表面がざらついた仕上がりになります。


一方、1250℃を超えると青みが薄れて透明感が増します。


これは鉄分の発色状態が変化するためです。


温度計で±5℃の精度で管理する必要があるため、電気窯よりも灯油窯ガス窯での焼成が推奨されます。


還元焼成酸化焼成かでも発色が変わります。還元焼成では青みが強く出て、酸化焼成では茶色がかった色合いになります。


1230~1250℃が最適温度帯です。


楢灰釉薬の歴史的背景

楢灰釉薬の使用は、平安時代の灰釉陶器にまで遡ることができます。当時は山林で採取した各種の木灰が釉薬として利用されており、楢灰もその一つでした。


江戸時代には、各地の窯場で地域の木材を活用した釉薬開発が進みました。特に東北地方では楢の木が豊富だったため、楢灰釉薬が広く使われるようになります。会津本郷焼や相馬焼などの伝統的な窯元で、楢灰を使った作品が多く作られました。


現代でも、人工釉薬では再現できない自然な風合いを求める陶芸家が楢灰釉薬を使用しています。ただし、楢材の入手が年々難しくなっており、代替として他の広葉樹灰を混ぜる工夫も見られます。


つまり、楢灰釉薬は日本の陶芸文化と密接に結びついた釉薬です。


楢灰釉薬の色のバリエーション

基本の青白色以外にも、焼成条件や添加物によって様々な色を出すことができます。鉄分を意図的に加えると、青みがより強調された「青楢灰」と呼ばれる釉薬になります。


添加する鉄の量は、釉薬全体の0.5~2%程度です。わずか小さじ1杯程度(約2g)で、500gの釉薬の色合いが変わります。添加量が多すぎると黒っぽくなるため、慎重な調整が必要です。


銅を微量添加すると、緑がかった色調になります。この技法は「緑楢灰」と呼ばれ、茶道具などで珍重されています。また、チタンを加えると結晶が析出して、雪の結晶のような模様が現れることもあります。


焼成温度を1200℃以下に抑えると、マットな質感の白色釉薬になります。


色のバリエーションが豊富ですね。


楢灰釉薬を使った代表的な作品

楢灰釉薬は、茶碗や花瓶、皿など幅広い器で使用されています。特に茶道具では、その落ち着いた色合いが侘び寂びの美意識と調和するとして人気があります。


会津本郷焼の「青白磁」は、楢灰釉薬を使った代表的な作品です。透明感のある青白色の釉薬が、白磁の素地に美しく映えます。現在でも会津地方の窯元で制作されており、1個あたり5,000円~30,000円程度で販売されています。


人間国宝の陶芸家・島岡達三氏も、楢灰を含む灰釉を多用していました。彼の作品は、自然の素材を活かした温かみのある風合いが特徴です。美術館や個人コレクターによって大切に保管されています。


現代作家でも、楢灰釉薬の特性を活かした独創的な作品が生まれ続けています。


伝統と現代が融合した表現が可能です。


他の灰釉薬との違い

灰釉薬には楢灰以外にも、藁灰、竹灰、柞灰など様々な種類があります。それぞれの灰に含まれる成分が異なるため、発色や質感も変わります。


藁灰釉薬は黄色がかった色合いになりやすく、竹灰釉薬は緑色の発色が特徴です。柞(いす)灰釉薬は楢灰と似た青白色を発色しますが、より透明感が強い傾向があります。楢灰は中間的な性質を持ち、扱いやすい釉薬です。


灰の種類によって融点も異なります。楢灰の融点は約1230℃ですが、藁灰は1200℃、竹灰は1250℃と若干の差があります。この差がわずか20~30℃でも、焼成結果に大きく影響します。


混合灰を使う陶芸家も増えています。楢灰50%、藁灰30%、竹灰20%といった配合で、独自の色合いを作り出すことができます。


灰の種類で表情が変わるということですね。


楢灰の入手方法と保管

楢灰を入手するには、自分で燃やす方法と購入する方法があります。自分で燃やす場合は、薪ストーブや野焼きで楢材を完全燃焼させます。ただし、野焼きは地域によって規制があるため、事前確認が必要です。


購入する場合は、陶芸材料店やオンラインショップで入手できます。価格は500gあたり800円~1,500円程度です。ただし、天然の楢灰は年々入手しにくくなっており、在庫切れの店舗も少なくありません。


灰の保管には湿気対策が重要です。灰は湿気を吸いやすく、固まってしまうことがあります。密閉容器に乾燥剤と一緒に入れて、冷暗所で保管するのが基本です。


使用前には灰をふるいにかけて、炭の欠片や不純物を取り除きます。目の細かさは100メッシュ程度が適しています。丁寧な下処理が美しい仕上がりにつながります。


楢灰釉薬の調合方法

楢灰釉薬の基本的な調合は、楢灰60~70%、長石20~30%、粘土10%です。ただし、使用する灰の性質によって微調整が必要になります。


まず楢灰のアク抜きを行います。灰を水に浸けて24時間以上放置し、上澄み液を捨てる作業を3~5回繰り返します。この工程を省略すると、焼成時に釉薬が泡立ったり、剥離したりする原因になります。


アク抜き後の灰は乾燥させてから、長石粘土を混ぜます。各材料を正確に計量し、乳鉢で丁寧にすり混ぜるのがポイントです。


混ぜ方が不十分だと、発色にムラが出ます。


水を加えて釉薬の濃度を調整します。


目安はヨーグルト程度の濃さです。


比重計を使う場合は、比重1.4~1.5が適正範囲となります。


調合には30分~1時間程度かかります。


楢灰釉薬の施釉テクニック

施釉方法には、浸し掛け、流し掛け、吹き付けなどがあります。作品の形状や求める効果によって使い分けます。


浸し掛けは最も一般的な方法です。


素焼きした作品を釉薬に3~5秒間浸けます。


浸ける時間が長すぎると釉薬が厚くなりすぎて、焼成時に垂れる原因になります。薄すぎると発色が弱くなるため、適切な厚みの調整が重要です。


流し掛けは、大きな作品や複雑な形状に適しています。ひしゃくで釉薬をすくい、作品の表面に均一に流します。一度に厚く掛けるのではなく、2~3回に分けて重ね掛けするのがコツです。


吹き付けは、スプレーガンを使って釉薬を吹き付ける方法です。


グラデーションを作りたい場合に有効ですね。


施釉前に素地の汚れや油分を拭き取っておくと、釉薬の定着が良くなります。


楢灰釉薬の焼成条件

楢灰釉薬の焼成には、温度管理と雰囲気制御が最も重要です。目標温度は1230~1250℃で、この範囲を維持することで理想的な青白色が得られます。


昇温速度は1時間あたり100℃程度が適正です。急激に温度を上げると、素地と釉薬の膨張率の違いによってヒビが入ることがあります。800℃から1000℃の間は特にゆっくり昇温します。


還元焼成を行う場合は、1000℃付近から窯内の酸素量を減らします。還元が強すぎると釉薬が黒ずみ、弱すぎると青みが出ません。窯の煙突から出る煙の色を見ながら、ダンパーで空気量を調整します。


最高温度に達したら、30分~1時間キープします。


その後は自然冷却で徐々に温度を下げます。


急冷すると貫入ひび)が入りやすくなるため注意が必要です。


焼成には12~18時間程度かかります。


楢灰釉薬でよくある失敗と対策

釉薬が剥離する失敗は、アク抜き不足が主な原因です。灰に含まれるアルカリ成分が強すぎると、素地との接着が悪くなります。対策としては、アク抜きの回数を増やすことが基本です。


発色が期待と違う場合は、焼成温度や雰囲気の問題が考えられます。温度が10℃違うだけで色が変わるため、温度計の校正を定期的に行うことが重要です。また、還元と酸化の切り替えタイミングを記録しておくと、再現性が高まります。


釉薬が垂れる失敗は、施釉が厚すぎることが原因です。特に縦長の作品では重力の影響を受けやすいため、下半分は薄めに掛けるのがコツです。底部から2~3cmは釉薬を掛けないようにして、窯の棚板への付着を防ぎます。


ピンホール(小さな穴)が開く場合は、釉薬の混ぜ方が不十分か、焼成時の脱気が足りない可能性があります。


ピンホールは見た目を損ないますね。


楢灰釉薬作品の手入れと保管

楢灰釉薬の器は、使い始める前に「目止め」を行うと汚れが付きにくくなります。米のとぎ汁や小麦粉を溶かした水で30分ほど煮沸すると、釉薬の細かい隙間が埋まります。


日常の手入れは、中性洗剤とスポンジで優しく洗うだけで十分です。研磨剤入りのスポンジは釉薬表面を傷つけるため避けます。食洗機の使用は、温度変化による貫入の拡大リスクがあるため、手洗いが推奨されます。


長期保管する場合は、完全に乾燥させてから新聞紙などで包みます。器同士が直接触れないようにすることで、欠けや傷を防げます。湿気の少ない場所に保管すれば、カビの発生も抑えられます。


使い込むほどに貫入に茶渋などが染み込み、独特の味わいが出てきます。これを「景色」と呼び、愛好家に好まれる変化です。


適切な手入れで長く使えますね。


楢灰釉薬の環境面での意義

楢灰釉薬は、木材の燃焼灰を再利用する持続可能な材料です。薪ストーブや森林管理で出る廃材を活用できるため、環境負荷の低い釉薬といえます。


化学合成された釉薬と比べて、製造時のエネルギー消費が少ないのも利点です。ただし、天然素材ゆえにロット間の品質差があり、安定した発色を得るには経験が必要になります。


近年は森林保全の観点から、間伐材の有効活用が推進されています。間伐された楢材を釉薬原料として使うことで、林業と陶芸の連携が生まれています。一部の地域では、林業組合と窯元が協力して灰の供給体制を構築しています。


このような取り組みは、地域資源の循環利用モデルとして注目されています。


環境に配慮した陶芸が広がるといいですね。


楢灰釉薬を学べる場所

楢灰釉薬の技術を本格的に学ぶなら、伝統的な窯元での研修や陶芸教室への参加が効果的です。会津本郷焼の窯元では、体験教室や短期研修を実施しているところがあります。


陶芸学校や美術大学の陶芸科でも、灰釉薬の授業が組まれています。特に東北芸術工科大学や多摩美術大学の工芸学科では、伝統的な釉薬技法を深く学べます。入学は難関ですが、公開講座や聴講生制度を利用する方法もあります。


地域の陶芸教室でも、灰釉薬を扱っているところが増えています。月謝は5,000円~15,000円程度で、材料費は別途必要です。まずは体験コースで雰囲気を確かめるのがおすすめです。


会津本郷焼協同組合の公式サイトでは、各窯元の情報や体験教室の案内が掲載されています。
オンライン動画でも基礎知識は学べますが、実際の色や質感は体験しないと理解しにくいです。


実践的な学びが大切ですね。




灰ふるい 日々の灰のお手入れに、飛び散らない灰ふるい